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22 夜の作戦会議①
しおりを挟む「卵くん、ねえ、寝てるの? 起きて」
ポンポンと軽く叩いたり、反対に今度は強めにしてみたりと、竜王の卵に向かって呼びかける。しかしやっぱり返事はなかった。それでも私は諦めることができず、何度も何度もお腹に向かって話しかける。
そんなことをしていると、あっという間に夜だ。今夜はやたら風が強くて、窓がカタカタと揺れている。その寂しげな音がよけいに私を不安にさせ、ため息を吐いた。
その後も、体だけでも休めようとベッドに入り横たわったけど、心はまったく休まらない。それどころか、ピクリとも動かないお腹をさすっていると、どうしても嫌な考えが浮かんできて、私はとうとうその言葉を口に出してしまった。
「もしかして、卵くん、私から出て行っちゃった……?」
以前、彼に「私の中から出ていくことはできないの?」と聞いたことがあった。あの時卵くんは『しらない! ぼく、わかんない!』と言っていたけど、あの様子は事情を知っているみたいだった。
そしてその答えはきっと、「出ていける」のだろう。
もしかしたら母体である私は、試されていたのかもしれない。母親として覚悟があるのか、竜王の卵を大切にできるのか。それならばきっと、私は不合格だ。卵くんに私を勧めた神様だって、認めてはくれないだろう。
覚悟もない。敵を作って殺されそうになる。卵くんの存在を否定するように、違う母体を勧める私なんて、見限られてもしょうがないのだ。
それでもあの時。空中から落とされそうになったあの瞬間。
私はお腹の卵くんと離れたくないって、心の奥で思っていた。
「今さら遅いよね……」
両手で顔を覆っても、勝手に涙がこぼれ落ちていく。つうっと目尻から首すじに向かって、生ぬるい滴がつたっていき、シーツを濡らしていった。その時だった。
『わああああ! ママ! ママ! どうしたの?』
「えっ! た、卵くん?』
いきなりの卵くんの大声に、ベッドから勢いよく起き上がる。
『ママ! 無事だったの? さっき何があったの?』
「さっき? もしかして、最後に叫んだ時から記憶がないの?」
『……うん。あんまりにもビックリして、眠っちゃったみたい。今おきたの』
「そ、そっかぁ……。良かったぁ~」
『よくな~い! なにがおこったの?』
てっきり卵くんや神様にあきれられ、出ていかれたと考えていたので、彼がずっとお腹にいたことに喜びが隠しきれない。それでも卵くんにしてみれば、パニックになったところで記憶が途切れているので、私が何を喜んでいるのかわからず、プリプリ怒っている。
「ごめんごめん! とりあえず私は無事だよ。怪我もない」
切り傷はあったけど、キールくんたちが舐めてくれたおかげか、もうすっかり治っていた。なので心配させないように、黙っておこう。それでも何があったか知りたがっている卵くんに、どこまで言うか迷うところだ。
(私が狙われたとか言ったら、きっとパニックになっちゃうよね。犯人がいることは、ぼかして伝えよう!)
私はギーク兄妹の名前は出さずに、ざっくりと今日あったことを卵くんに話した。
「それで誰かの興奮した竜気で吹き飛ばされちゃって、地面に落ちそうになったの。でもね、下にいた竜に助けてもらったのよ。だからもう心配しなくて大丈夫!」
すると卵くんは意外にもすんなり納得したようだ。まだ子供なので犯人がいるとかは、思いつかなかったらしい。良かった良かった。よけいな心配を増やしたくないもんね。
『はあ~それなら、よかったぁ!』
「そうでしょ? それにね、今日はとっても嬉しいことがあったの! あと、卵くんに報告したいこともあるのよ!」
『えっ! なになに? ママおしえて~』
私にとって今日嬉しかったことは、もちろん竜の言葉がわかると知ったことだ。騎士さんたちも喜んでたし、もしかしたら何かの役に立てるかもしれない。そしてなにより、この世界でやっていく希望と自信がもてた。
(だから、思い切って卵くんに報告しよう!)
私はドキドキする胸を落ち着かせるように、すうっと深呼吸をすると、一気に言葉を吐き出した。
「私、あなたのママになる覚悟を決めたわ!」
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