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20 竜石と消えた令嬢②
しおりを挟む空中に投げ出された私を見て、笑っていたあの女性。ずっと私を睨みつけていたライラという女性だ。あの時、彼女は私に向かって手を伸ばし、何かをしていた。でも私には竜気がわからないから、違うのかもしれない。それに証拠もないし……。
(皆のいる前で、不確かなことを言って、もし私の勘違いだったら大変だわ。あとで竜王様たちだけに伝えよう!)
「あ、あの竜王様、私の話は……」
「竜王様、少しよろしいでしょうか?」
オロオロと戸惑っていたからだろうか。リディアさんは私を安心させるようにうなずくと、かばうように一歩前に出た。
「実はあの時、観客席からは助けられそうにないと判断し、下に降りようとしたんです。その時、私がある令嬢にぶつかって、これが床に落ちました」
そう言って私たちの前に出されたのは、白い石がついたネックレスだった。革紐と石だけで作られたシンプルなものだったが、竜王様も騎士団長さんもすぐにそれが何かわかったようだ。
「落とした令嬢はライラ・ロイブです。リコ様に暴言を吐いたギーク・ロイブの妹で、この石は竜騎士だけが持つ竜石といいます」
リディアさんは私に向かってそう説明すると、また一歩下がった。竜王様たちはこの石の意味するところがわかっているようで、暗い顔をしている。
「リコ、この竜石というのは、竜気をためておいて、攻撃や防御などに使えるものなんだ。今日の朝の報告でわかったことだが、妹のライラ・ロイブも領地では騎士の訓練を受けていた。あの時、彼女はリコにこの石を向けていなかったか?」
たしかに彼女は私に向かって腕をのばし、その手には何かが光っていた。じゃあ、あの時はこの石の竜気で、吹き飛ばされたということか……。
「……はい。していました」
「やはり、そうか。つらいことを思い出させて悪かった」
竜王様は私を引き寄せ、慰めるように抱きしめた。いつもならこんな皆のいる前でとか、誰かに誤解されたらどうしようとか思っただろうけど、今の私はこの温もりにすがっていないと倒れそうだ。
「それで、ライラ・ロイブは今どこにいるんだ?」
竜王様のピリっとした声色に、全員がビクリと反応する。すると、リディアさんが申し訳無さそうに頭を下げ、話し始めた。
「それが私がこれを拾ったと同時に、ライラ・ロイブはあの場からいなくなったんです。ですから誰か共犯者がいるかと……」
「おそらくギークだろうな」
竜王様のその言葉に誰も反論しない。団長さんはつらそうな顔をして、一人の騎士に何か指示を出すと、竜王様の前にひざまずいた。
「竜王様、申し訳ございません。この事件、すべて私の監督不行き届きです。処分を受ける覚悟ではありますが、その前に、この事件の捜査をさせてもらえないでしょうか?」
「ああ、この件に関しては、俺の不備も多い。それにまずは王宮の警備の見直しに力を入れ、リコを守らねばならん。引き続き団長であるおまえが、指揮を取るように」
「は!」
緊迫した雰囲気で話が進み、そこにいる誰もが暗い表情になっている。するとそんなピリピリした雰囲気をものともしない、明るい声が飛び込んできた。
『思い出した!』
少しとぼけたような声の主は、竜のキールくんだ。なにやらスッキリした表情でこちらを見ては、『聞いて聞いて』と私の服を引っ張っている。
「えっ? なにを思い出したの?」
『ぼくに怪しいものを、食べさせた犯人だよ!』
「ええ! 本当に?」
自分の腕の中にいる私がいきなり大声で話し始めたので、竜王様も驚いている。
「どうした? リコ。何か竜がしゃべったか?」
「はい! キールくんが犯人を思い出したそうです!」
「よし! シリル、メモを取れ!」
そのやり取りでいっせいに皆が、キールくんを囲み始めた。すると『竜王様はちょっとこわい……!』と、無意識の威圧を出す竜王様を怖がり始めてしまった。申し訳ないけど竜王様には少し離れて見ていてもらおう。
私はさっそく団長さんと書紀係のシリルさんに挟まれるかたちで、キールという竜に何が起こったのか質問を始めた。
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