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14 理想のお妃様とは②

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 あれからまた自分の部屋に戻って、ベッドに入った。二人の姿が目に焼き付いて離れない私は、毛布を頭までかぶって、これからの事を考えていた。


(お腹にいる子には、ちゃんと説明して、お別れしよう……)


 竜王の卵は、静かにしている。時折小さな鼻歌のような声が聞こえるので、起きているみたいだ。私はポンポンと軽くお腹を叩くと、卵くんに話しかけた。


「卵くん、やっぱり私に竜王様のお妃は無理だよ。さっき話していたアビゲイル様のお腹に入ったほうが良いと思うよ」


 竜王様に対してドキドキする気持ちがあったのは認める。でもお妃様になるのは違う。なってはいけないんだよ。


 だってもし自分の国の王様が、何もできないおどおどした女性をお妃様にしたら、国民はどう思うの? いつも誰かに頼らなくてはいけなくて、字も読めない。それだけじゃなく、貴婦人としてのマナーもない。なんの能力もない平民育ちが妻に決まりましたと言われても、竜王様だって困るだろう。


 子供が生まれても、そうだ。私はそれでも自分のことだからいい。このお腹にいる子は、親の私のせいで竜王と認められないかもしれない。そう思うと私は強い意思で、お腹に向かって説得を始めた。


 今までのこと、私の立場、すべてを竜王の卵に向かって話した。まだ子供だからわからないし、難しいことかもしれない。それでもこの国の未来や、この子の将来を思えば、私ではダメだ。


「……わかってくれる?」


 自分が思っていることを全て伝え終わり、そう話しかけると、今まで黙っていた竜王の卵は、拗ねた口調でぼそっと呟いた。


『でも僕、あの人がママはいやだよ』
「じゃあ、他の女性でもいいから、一度神様と選び直してみたら?」
『ママは良い匂いがするし、ここがいい……』
「私の中から出ていくことはできないの?」
『しらない! ぼく、わかんない!』


 卵くんは最後に叫ぶように言い捨てると、そのまま何を話しかけても応えてくれなくなった。う~ん。あれは完璧に知ってる態度よね。きっと出ていくことは可能なんだろうな。


「明日も来るからな」と言った竜王様も、その夜は来なかった。その代わりお菓子が届けられ、「明日の竜人競技会の準備で騒がしいから、お見舞いは止める」というメッセージが伝えられた。


 外を見ると、たしかにこの部屋からもわかるくらい、あちこちに人がいて準備に忙しそうだ。万が一私の部屋に黒い竜が入ってくるのを見られたら、噂を否定した意味がないもんね。


「これは明日の朝ごはんに食べようっと」


 明日も早いし、朝に甘いものを食べるのは好きだからちょうどいい。私はもらったパウンドケーキを戸棚にしまい、早々にベッドに潜り込んだ。


「竜王の卵くん。おやすみ」


 そう話しかけても何も反応しない。もしかして出て行ったのだろうか? そっと機嫌を伺うようにスリスリとお腹をさすると、控えめな力でポコンと反応した。


『……ママ、おやすみ』


 グスグスと鼻をすするような音がしているのを聞くと、泣いていたのかもしれない。それでもこの子の将来を思うと、適当な言葉で慰めても期待させるだけだ。


(せめて私に、何かこの国に役立つ能力があったら良かったのに……)


 そうすれば、少しはあなたを守る自信ができる。私はそんな叶えられそうにない願いを胸に眠りについた。
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