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07 竜王のもう一つの姿②
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「リコ、申し訳ないですが、私はこれから騎士団の様子を見に行かなくてはなりません。寮の食堂へはリディアと一緒に行ってもらえますか?」
「わかりました! リディアさんお願いしていいですか?」
「もちろんです」
今日のところはとりあえず、挨拶だけでいいらしい。様子を見て働くのが無理だったら止めていいと言われたが、そんな我儘を言うわけがない。むしろ働けるなら、今日からでも働かせてもらいたい。
「リコ、無理しなくていいぞ」
そう言うと竜王様は部屋を出て行った。横でシリルさんが「私はこれから騎士団の後始末がありますからね!」と嫌みを言っているけど、知らんぷりだ。
(とりあえず仕事は決まったわ! あとは平民として暮らせるよう頑張らなきゃ!)
私は「よし!」と言って気合を入れると、仕事着に着替えるため衣装部屋に入って行った。
◇
「ここが騎士団の食堂……!」
食堂と言っていたので、こぢんまりとしたイメージだったけど、百人は座れそうなほど広かった。しかもリディアさんから聞いたところによると、今は食堂の主人一人で切り盛りしているらしい。
(こんな広さを一人で? それなら私でも歓迎されるかも!)
それなのに食堂の主人は、私がここで働くのを戸惑っているようだ。チラチラとリディアさんを見ては「彼女は迷い子様なんだろう? 本当にこんなとこで、働かせて大丈夫?」とつぶやいている。どうやら私が迷い子だということまで聞いていたようで、面倒なヤツがきたと思われているみたいだ。
(そんな……! ここで採用されなかったら困る! しっかりアピールしないと!)
いわば今はアルバイトの面接だ。私は食堂の主人の前に立ち、自分をアピールすることにした。
「私は元いた場所で、同じ仕事をしていましたから、今からでも手伝えます! 役に立ちますので、ぜひここで働かせてください!」
「えぇ? で、でもあなたは迷い子様でいらっしゃるし……」
するとリディアさんが間に入って、説明してくれた。
「大丈夫です。リコの言うとおりにしてください。竜王様もご存知ですし、それが迷い子様の望みですから。口調も砕けて良いですよ」
「そ、そうなのかい?」
「はい! よろしくお願いします! 私に特別扱いはいりませんので、ビシバシ鍛えてください!」
履歴書でも作ってくれば良かっただろうか。私は信じてもらえるよう、こちらに来る前のファミレスの仕事内容を話し始めた。
時々「ハ、ハンディってなんだい?」「ドリンクバーの清掃……いや、ドリンクバーって?」と疑問がわいたようだけど、私の仕事への熱量は十分伝わったようだ。食堂のご主人も「よくわかんないけど、働きたいのは伝わったよ」と言って、ようやく納得してくれた。
「なら、ホールで食べ終わってるお皿を片付けてくれる?」
「わかりました!」
今は昼時を過ぎているせいか、食事をしている人はいない。食べ終わった食器だけがテーブルに残っていたので、早速片付けることにした。ふと横を見るとリディアさんも手伝ってくれている。
「リディアさん、私の仕事なのにすみません!」
「大丈夫です。私もしばらくは一緒にここで働きますから」
(う、嬉しい! リディアさんと働けるなんて、なんて心強いんだろう!)
慣れた仕事とはいえ、一人でするのは心細かったのだ。それにしてもリディアさんは侍女なんだから、もともとは誰かのお世話をしていたんじゃないのかな? その人のところに戻らなくてもいいのだろうか?
そんなことを考えながら食器を片付けていると、お皿の横にキラリと光るものを見つけた。
「ん? ネックレス……?」
白い石がついているネックレスだ。革紐で作られたもので、使い込んである。きっと忘れ物だろう。リディアさんがちょうどキッチンのほうに行ってしまったので、私はそのネックレスを手に、ご主人に話しかけようとした、その時だった。
「おい、おまえ! また無断で入ってきたのか! ここは騎士団の寮内だぞ!」
突然の怒鳴り声にぴょんと体が跳ねた。その聞き覚えのある声に一瞬で心臓がバクバクと動き出し、逃げたいのに体がすくんで動けない。
(この声! もしかして……)
恐る恐る振り返ると、そこには私をにらみつける騎士が一人。私を憎々しげに指差し近づいてくるその人は、昨日私を捕縛し、髪の毛を引っ張った男だった。
「わかりました! リディアさんお願いしていいですか?」
「もちろんです」
今日のところはとりあえず、挨拶だけでいいらしい。様子を見て働くのが無理だったら止めていいと言われたが、そんな我儘を言うわけがない。むしろ働けるなら、今日からでも働かせてもらいたい。
「リコ、無理しなくていいぞ」
そう言うと竜王様は部屋を出て行った。横でシリルさんが「私はこれから騎士団の後始末がありますからね!」と嫌みを言っているけど、知らんぷりだ。
(とりあえず仕事は決まったわ! あとは平民として暮らせるよう頑張らなきゃ!)
私は「よし!」と言って気合を入れると、仕事着に着替えるため衣装部屋に入って行った。
◇
「ここが騎士団の食堂……!」
食堂と言っていたので、こぢんまりとしたイメージだったけど、百人は座れそうなほど広かった。しかもリディアさんから聞いたところによると、今は食堂の主人一人で切り盛りしているらしい。
(こんな広さを一人で? それなら私でも歓迎されるかも!)
それなのに食堂の主人は、私がここで働くのを戸惑っているようだ。チラチラとリディアさんを見ては「彼女は迷い子様なんだろう? 本当にこんなとこで、働かせて大丈夫?」とつぶやいている。どうやら私が迷い子だということまで聞いていたようで、面倒なヤツがきたと思われているみたいだ。
(そんな……! ここで採用されなかったら困る! しっかりアピールしないと!)
いわば今はアルバイトの面接だ。私は食堂の主人の前に立ち、自分をアピールすることにした。
「私は元いた場所で、同じ仕事をしていましたから、今からでも手伝えます! 役に立ちますので、ぜひここで働かせてください!」
「えぇ? で、でもあなたは迷い子様でいらっしゃるし……」
するとリディアさんが間に入って、説明してくれた。
「大丈夫です。リコの言うとおりにしてください。竜王様もご存知ですし、それが迷い子様の望みですから。口調も砕けて良いですよ」
「そ、そうなのかい?」
「はい! よろしくお願いします! 私に特別扱いはいりませんので、ビシバシ鍛えてください!」
履歴書でも作ってくれば良かっただろうか。私は信じてもらえるよう、こちらに来る前のファミレスの仕事内容を話し始めた。
時々「ハ、ハンディってなんだい?」「ドリンクバーの清掃……いや、ドリンクバーって?」と疑問がわいたようだけど、私の仕事への熱量は十分伝わったようだ。食堂のご主人も「よくわかんないけど、働きたいのは伝わったよ」と言って、ようやく納得してくれた。
「なら、ホールで食べ終わってるお皿を片付けてくれる?」
「わかりました!」
今は昼時を過ぎているせいか、食事をしている人はいない。食べ終わった食器だけがテーブルに残っていたので、早速片付けることにした。ふと横を見るとリディアさんも手伝ってくれている。
「リディアさん、私の仕事なのにすみません!」
「大丈夫です。私もしばらくは一緒にここで働きますから」
(う、嬉しい! リディアさんと働けるなんて、なんて心強いんだろう!)
慣れた仕事とはいえ、一人でするのは心細かったのだ。それにしてもリディアさんは侍女なんだから、もともとは誰かのお世話をしていたんじゃないのかな? その人のところに戻らなくてもいいのだろうか?
そんなことを考えながら食器を片付けていると、お皿の横にキラリと光るものを見つけた。
「ん? ネックレス……?」
白い石がついているネックレスだ。革紐で作られたもので、使い込んである。きっと忘れ物だろう。リディアさんがちょうどキッチンのほうに行ってしまったので、私はそのネックレスを手に、ご主人に話しかけようとした、その時だった。
「おい、おまえ! また無断で入ってきたのか! ここは騎士団の寮内だぞ!」
突然の怒鳴り声にぴょんと体が跳ねた。その聞き覚えのある声に一瞬で心臓がバクバクと動き出し、逃げたいのに体がすくんで動けない。
(この声! もしかして……)
恐る恐る振り返ると、そこには私をにらみつける騎士が一人。私を憎々しげに指差し近づいてくるその人は、昨日私を捕縛し、髪の毛を引っ張った男だった。
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