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04 私の人生終了のお知らせ①
しおりを挟む「舌の傷が治っただろう? 私の体液には傷を治す力があるからな。感謝しろ」
「は、はひ……」
終わった。私の人生終わったわ。絶対に殺される。私は全身の力が抜け、ずるずると床に座り込んだ。背後からは女性達の阿鼻叫喚な悲鳴が飛び交い、私の背中にまでビリビリと振動が伝わってくる。バタバタと人が倒れた音もして、後ろは絶対に振り返れないし、振り返りたくもない。
しかしそんな自分が起こした修羅場は全く気にならない様子で、竜王は私に背を向け歩き始めた。なにやら上機嫌のようで、鼻歌まで漏れ聞こえてくる。
「シリル、今日はもういいだろう。こんな状況では交流もなにもない。私は疲れたから帰るぞ」
「はあ……まだ顔合わせは始まったばかりだったのですが。また日を改めるしかないようですね」
先程私が迷い子である根拠を話してくれたシリルさんは、すごく面倒そうな顔でため息をついている。そんな彼を見て竜王はニヤリと笑い、また私のほうを振り返った。
「ああ、それと、そこの放心状態のリコに部屋を与えてやれ。あとリディアを付けろ」
「リディアですか。……かしこまりました」
そこからのことは、あまり覚えていない。私は女性達から身を隠すように騎士に囲まれ部屋を出た。そして気づけばどこかの部屋に入れられ、ベッドの上にぽいっと乗せられた。
「今日は疲れたでしょう。とにかく眠るといいですよ。詳しいことはまた明日から話しましょう」
シリルさんの言葉をきっかけに、私はあっという間に眠りについた。いつ眠ったのかすらわからない。きっと気絶だ。気づけば次の日のお昼になっていて、私は起きるとまた混乱して叫び声をあげた。
「こ、ここ、どこ?」
「キリル王国の王宮ですよ、迷い人様」
「えっ! ど、どなたですか?」
勢いよく起き上がりキョロキョロと辺りを見回すと、ドアの近くで立っている女性がいた。私より少し年齢は上くらいだろうか。落ち着いた雰囲気の人で、ブラウンの髪を綺麗に結い上げ、ワンピースにエプロンを着けている。私を見てもニコニコと優しくほほ笑んでいて、一向に睨む気配はない。ここに来てから初めて好意的な態度の人だ。嬉しすぎる。
「リディアと申します。わたくしはリコ様付きの侍女ですので、なんなりと仰せ付けください」
「わ、私に侍女……!」
なんだかお姫様になったみたいで一瞬ときめいたが、すぐに自分の立場を思い出し、頭を振ってその緩んだ思考を追い出した。
(調子に乗って上げ膳据え膳なんてしてたら、迷い子じゃなかった時が怖い!)
私は急いでベッドから降りると、お茶の準備を始めたリディアさんのもとに駆け寄った。この人なら私の話を聞いてくれるかもしれない。とにかく生きて日本に帰るためにも、しっかりと「私はワガママなんて言いません!」ということをアピールしておかないと!
「リディアさん! 私迷い子じゃないかもしれないんです。それにたとえ迷い子だとしても、何もこの国に貢献できる能力はないと思います!」
リディアさんは突然話し始めた私を見て、目をパチパチさせて戸惑っている。しかしひるんではいられない。私は彼女の手をぎゅっと握ると、再び話し始めた。
「私に侍女を付けるのは贅沢すぎます。むしろ私がこの王宮で働くことはできませんか?」
「ま、迷い子様が働く……ですか?」
リディアさんにとってこの提案は予想もしてなかったのだろう。目を大きく見開き、どう答えていいか迷っているようだ。
「はい! 王宮で無理なら、どこか別の場所でも良いのですが。でもこの世界の常識などを知らないので、できれば平穏に働けるよう指導してもらえると助かります!」
これが絶対に無難だ。まずは元の世界に帰る手段があるかどうかを確かめる。もし帰るのに時間がかかるにしても、その間に竜王の世話になっていたら絶対に反感を買ってしまう。科学捜査とかもなさそうだから、私が人知れず殺されても事故死扱いになりそうだわ。むしろバレないだろうから殺してやるという人が出てきてもおかしくない!
私が鬼気迫る表情で話したからか、リディアさんは先程までの戸惑いの表情から、何か決心したような顔でうなずいた。
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