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剣術大会
189:剣術大会10日前〜三科合作 エイデン&クロエ
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貴族科棟のダンスホール準備室の雨曝し事件の話は、騎士科にも届いた。
修繕工事と防犯強化の為、ダンスホールも当面の間使用禁止となったと聞き、衣装だけでなく、練習の場も失った令嬢達を心配していたのだが、ここ数日の令嬢達の姿に心配は杞憂であったと苦笑いが漏れる。
演習場の一画で剣舞の練習する事になったと聞いた友人達が、不謹慎ながらも令嬢との交流が持てるとひっそりと喜んだのもほんの束の間…ヨランダ嬢とエレノア嬢に振り回される俺達の姿に、胸に抱いた期待と喜びは引き波の如く、今は飛び火に遭わない様、緊張の日々を送っている。
「剣舞の趣向を変えるわよっ!!」
「デュバルとセイドの双璧無しに、国の平和はないのだと分からせてやりますわっ!」
始まった…
溜め息を殺して視線を向けた先には、演習場に響き渡る程の声量で仁王立ちするヨランダ嬢とエレノア嬢。
自主練をしている友人達は驚きに身体を揺らして振り返り、剣舞の練習に集まった令嬢達も、戸惑った様に顔を見合わせ、次いで、2人に訝しげな視線を向けた。
「ヨランダ、エレノア?本番は10日後よ?趣向を変えるってどういう事?」
決勝戦を盛り上げる為の余興として披露される剣舞は、あくまでも前座であって主演目ではないと、魔道具のサウンドボックスに手をかけていたオレリア嬢が、マナを流す手を止めて珍しく語気を強めに問いかけた。
「冬支度に忙しい羽虫が煩わし過ぎて、一匹ずつ払うのは手間でしょう?」
「真綿の脳味噌では、言葉を理解出来ないみたいだから?一見で染み込ませて差し上げようと思って」
辛辣な物言いに友人達が一歩後退さる。
溜め息を吐くオレリア嬢の横で、クロエ嬢は待ってましたとばかりに、両手を胸の前で組んで瞳を輝かせた。
確かに、最近の貴族科棟は少々騒がしいと聞いている。
中央貴族の令嬢達は、海や山の田舎者には中央の水は合わないだろうとオレリア嬢達を揶揄したり、側妃名簿の存在を知った新興貴族の令嬢達は、これ見よがしに盛大な茶会を開いて噂話に興じていると、貴族科棟に兄弟、姉妹が通っている友人達が話していた。
オレリア嬢達は元より、クロエ嬢達も相手にする程でもないと流していたらしいが、先日の度を超えた行為にヨランダ嬢とエレノア嬢の怒りが沸点に達してしまったらしい。
「と、言う事で?貴方達、剣技を見せてちょうだい」
「海の型と山の型、どちらも習っていますでしょう?」
「2人共…?何を言っているの?」
「衣装の件のお返しをするのよ」
「今年の剣舞は騎士科と魔術科の合作にしますわよ」
このまま黙って引き下がる2人ではないと思っていたが、騎士科と魔術科の生徒達も巻き込む気か?!
「……話が、見えないのですが…?」
呆けた顔も美しいわね…
目を丸くして言葉を失うオレリア様と、互いに目を合わせながら不安げな表情を浮かべている騎士生達に代わって、ヨランダ様とエレノア様に声をかける。
「ヨランダ…血迷いましたか?」
「とうとう乱心ですか?」
私に続いて声を上げたのは、剣を下ろして立ち尽くす騎士生達の中から現れた、呆れ顔のジャン様とソーマ様。
「…ジャン、ソーマ…遠慮がなくなってきたな…」
「…ッフッ…フフッ……」
2人と一緒に前へ出て来た、苦笑いのエイデンの言葉に思わず吹き出す。
「乱心とは聞き捨てなりませんけれど?貴方達の協力無しに剣舞の成功はありませんから?不問にして差し上げるわ」
「…私達は剣舞は出来ませんよ」
「第一、男が舞ったところで誰も喜ばないでしょうよ」
「剣舞ではなく、剣技と申しましたでしょう?」
「私達の剣舞の周りで、剣技を披露していただきたいんです」
「学園長と、先生方には許可を得たわ」
「「……は?」」
何が琴線に触れるか分からないと怯えていたジャン様とソーマ様は、幼馴染のヨランダ様の扱いを思い出してきたのか、最近は怯え以外の表情も見せる様になり、今の様に突っ込みを入れる余裕も出てきているが、突飛な発想にはついて行けないのだろう、間の抜けた声を出して固まってしまった。
「また、突拍子もない事を…」
「…根回しまで完璧ね…」
剣舞どころか、剣術大会の趣向自体が変わってきている…不敵な笑みを浮かべる2人を頼もしく感じながら、騎士生の皆さんに心の中で謝罪する。
騎士生達とっては、将来が決まると言っても過言ではない程に重要な大会なのだけど、士気を保てない、調整に支障が出ると訴えたところで、不測の事態にも対応出来る余裕を持てと返されるのが落ちだと分かっているのだろう。
諦め半分、ヤケ半分といった表情の騎士生達は、見事な剣技を披露してくれた。
飛び散る汗、鋭い剣筋、均整の取れた筋肉…
「女生徒達が騒ぐのも頷けるわね…」
「あら?クロエも騎士派に転向かしら?」
「客観的な感想を言っただけでしょう?クロエは私と同じ、文官派よ!」
「剣技をちゃんと見てちょうだい……でも、2人共…ありがとう。皆んなも心配かけてごめんなさい。私も精一杯頑張るわ」
この後で剣技と合わせてみましょうかと微笑むオレリア様を見て、涙が出そうになる…
心無い言葉や、家名を貶す様な噂には表情を崩す事のなかったオレリア様も、衣装の事では、私達を巻き込んでしまったと酷く落ち込んでしまわれた。
あの日、泣く事しか出来なかった自分に腹立ち、何も出来ない事に悔しさを募らせてきた。
ヨランダ様とエレノア様の思い付きは想像以上で、騎士科や魔術科も巻き込んでの名誉挽回となったけれど、私達も騎士科も、勿論魔術科も、オレリア様の幸せを願っている。
私は騎士派か文官派かって…?オレリア様派に決まってるわ!
修繕工事と防犯強化の為、ダンスホールも当面の間使用禁止となったと聞き、衣装だけでなく、練習の場も失った令嬢達を心配していたのだが、ここ数日の令嬢達の姿に心配は杞憂であったと苦笑いが漏れる。
演習場の一画で剣舞の練習する事になったと聞いた友人達が、不謹慎ながらも令嬢との交流が持てるとひっそりと喜んだのもほんの束の間…ヨランダ嬢とエレノア嬢に振り回される俺達の姿に、胸に抱いた期待と喜びは引き波の如く、今は飛び火に遭わない様、緊張の日々を送っている。
「剣舞の趣向を変えるわよっ!!」
「デュバルとセイドの双璧無しに、国の平和はないのだと分からせてやりますわっ!」
始まった…
溜め息を殺して視線を向けた先には、演習場に響き渡る程の声量で仁王立ちするヨランダ嬢とエレノア嬢。
自主練をしている友人達は驚きに身体を揺らして振り返り、剣舞の練習に集まった令嬢達も、戸惑った様に顔を見合わせ、次いで、2人に訝しげな視線を向けた。
「ヨランダ、エレノア?本番は10日後よ?趣向を変えるってどういう事?」
決勝戦を盛り上げる為の余興として披露される剣舞は、あくまでも前座であって主演目ではないと、魔道具のサウンドボックスに手をかけていたオレリア嬢が、マナを流す手を止めて珍しく語気を強めに問いかけた。
「冬支度に忙しい羽虫が煩わし過ぎて、一匹ずつ払うのは手間でしょう?」
「真綿の脳味噌では、言葉を理解出来ないみたいだから?一見で染み込ませて差し上げようと思って」
辛辣な物言いに友人達が一歩後退さる。
溜め息を吐くオレリア嬢の横で、クロエ嬢は待ってましたとばかりに、両手を胸の前で組んで瞳を輝かせた。
確かに、最近の貴族科棟は少々騒がしいと聞いている。
中央貴族の令嬢達は、海や山の田舎者には中央の水は合わないだろうとオレリア嬢達を揶揄したり、側妃名簿の存在を知った新興貴族の令嬢達は、これ見よがしに盛大な茶会を開いて噂話に興じていると、貴族科棟に兄弟、姉妹が通っている友人達が話していた。
オレリア嬢達は元より、クロエ嬢達も相手にする程でもないと流していたらしいが、先日の度を超えた行為にヨランダ嬢とエレノア嬢の怒りが沸点に達してしまったらしい。
「と、言う事で?貴方達、剣技を見せてちょうだい」
「海の型と山の型、どちらも習っていますでしょう?」
「2人共…?何を言っているの?」
「衣装の件のお返しをするのよ」
「今年の剣舞は騎士科と魔術科の合作にしますわよ」
このまま黙って引き下がる2人ではないと思っていたが、騎士科と魔術科の生徒達も巻き込む気か?!
「……話が、見えないのですが…?」
呆けた顔も美しいわね…
目を丸くして言葉を失うオレリア様と、互いに目を合わせながら不安げな表情を浮かべている騎士生達に代わって、ヨランダ様とエレノア様に声をかける。
「ヨランダ…血迷いましたか?」
「とうとう乱心ですか?」
私に続いて声を上げたのは、剣を下ろして立ち尽くす騎士生達の中から現れた、呆れ顔のジャン様とソーマ様。
「…ジャン、ソーマ…遠慮がなくなってきたな…」
「…ッフッ…フフッ……」
2人と一緒に前へ出て来た、苦笑いのエイデンの言葉に思わず吹き出す。
「乱心とは聞き捨てなりませんけれど?貴方達の協力無しに剣舞の成功はありませんから?不問にして差し上げるわ」
「…私達は剣舞は出来ませんよ」
「第一、男が舞ったところで誰も喜ばないでしょうよ」
「剣舞ではなく、剣技と申しましたでしょう?」
「私達の剣舞の周りで、剣技を披露していただきたいんです」
「学園長と、先生方には許可を得たわ」
「「……は?」」
何が琴線に触れるか分からないと怯えていたジャン様とソーマ様は、幼馴染のヨランダ様の扱いを思い出してきたのか、最近は怯え以外の表情も見せる様になり、今の様に突っ込みを入れる余裕も出てきているが、突飛な発想にはついて行けないのだろう、間の抜けた声を出して固まってしまった。
「また、突拍子もない事を…」
「…根回しまで完璧ね…」
剣舞どころか、剣術大会の趣向自体が変わってきている…不敵な笑みを浮かべる2人を頼もしく感じながら、騎士生の皆さんに心の中で謝罪する。
騎士生達とっては、将来が決まると言っても過言ではない程に重要な大会なのだけど、士気を保てない、調整に支障が出ると訴えたところで、不測の事態にも対応出来る余裕を持てと返されるのが落ちだと分かっているのだろう。
諦め半分、ヤケ半分といった表情の騎士生達は、見事な剣技を披露してくれた。
飛び散る汗、鋭い剣筋、均整の取れた筋肉…
「女生徒達が騒ぐのも頷けるわね…」
「あら?クロエも騎士派に転向かしら?」
「客観的な感想を言っただけでしょう?クロエは私と同じ、文官派よ!」
「剣技をちゃんと見てちょうだい……でも、2人共…ありがとう。皆んなも心配かけてごめんなさい。私も精一杯頑張るわ」
この後で剣技と合わせてみましょうかと微笑むオレリア様を見て、涙が出そうになる…
心無い言葉や、家名を貶す様な噂には表情を崩す事のなかったオレリア様も、衣装の事では、私達を巻き込んでしまったと酷く落ち込んでしまわれた。
あの日、泣く事しか出来なかった自分に腹立ち、何も出来ない事に悔しさを募らせてきた。
ヨランダ様とエレノア様の思い付きは想像以上で、騎士科や魔術科も巻き込んでの名誉挽回となったけれど、私達も騎士科も、勿論魔術科も、オレリア様の幸せを願っている。
私は騎士派か文官派かって…?オレリア様派に決まってるわ!
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