201 / 206
剣術大会
199:剣術大会3日前〜通し稽古
しおりを挟む
『幻影魔法の視覚と触覚が与える、観客の女性達への刺激の度合いを最終確認させて欲しい』
魔術科の生徒達からの連絡で集まった学園の演習場には、騎士科の生徒に、魔術科の生徒、そして貴族科からはマリーとアネットだけでなく、オレリアとエレノアの侍女のエイラとマリーの姿もある。
魔術科の生徒が5人ずつ、右と左に分かれてデュバルの海と、セイドの山の幻影魔法を繰り出す。
「これが…幻影魔法…」
「砦のないセイドの山脈…違う山を見ている様だな」
「砦が建造されたのは、領土戦後だと記録にあったからね」
「遠雷と風雨も迫力ある。嵐の海と燃える山…すごい再現度じゃないか?」
「まあね!」
「雨に湿る感覚や、火に乾く感覚もある…本当に凄いな」
エイデンが目を丸くする横では、ジャンとソーマも手を伸ばしたり、制服に触れたりして肌で感じる感覚に戸惑いを隠せないでいる。
その様子に、魔術科の生徒は得意顔で胸を反らした。
遠雷の光る海は波が高くうねり、海面に打ち付ける雨が制服を不快のない程度に湿らす。
山を燃やす炎も迫力はあるが、立ち昇る黒煙は最小限で、上に広がる蒼穹が緊迫感を和らげている。
感覚も熱いより暑いといった感じで怖さは感じられない。
「エイラ、マリー、気分は悪くないかしら?」
視覚と触覚に与える影響を調べる為とは言え、少々刺激が強かったかもしれないと、オレリアが侍女2人を心配そうに見遣る。
大丈夫ですと微笑む2人を見たエレノアが、令嬢2人に声をかけた。
「マリリンとアネットはどうかしら?」
「?!エレノア様!マリリンとはなんですの?!」
「私の侍女もマリーなのよ、だからマリリン」
「我が主人が申し訳ありません…マリー様」
「くっ…確かに、その綺麗な顔にはマリリンは似合わないわね…」
眉を下げて謝る侍女のマリーは、テラコッタの髪に切長の翠緑の瞳が知的な大人を思わせる美人顔。
「可愛いじゃない?マリリン」
「私も可愛らしいと思います、マリリン様」
「…ヨランダ様に、アネットまで……もう、どうでもいいわ…」
言葉は投げやりでも、可愛く頬を染めるマリーにはマリリンという愛称がよく似合うと、その場に居る全員が心の中で感想を述べた。
「忖度は無しで。率直な感想をお願いね」
「この程度の感覚であれば、不快感はございません。ですが、この光景は少し恐ろしくも感じます」
エレノアの言葉を聞いて、年長者のエイラが先陣を切って感想を述べると、同意見とばかりにマリーとアネット頷いた。
その横からマリーが片手を軽く挙げる。
「剣舞と剣技が合わさると雰囲気が変わるのではなくて?観客の視線も分散されるでしょう?」
「確かに…この後の通し稽古も見てもらう方がいいわね」
「そうね。騎士生と魔術科よ衣装も用意も出来たましたし…海のチームと山のチーム、其々の衣装に袖を通して頂ける?」
演習場の隅に置かれた2つの木箱入った、紺青と深緑のローブと軍服は、身分に関係なく、選ばれた者しか袖を通す事が出来ない、其々の軍から借りてきた本物。
「エレノア達の衣装は?間に合いそうなの?」
目を輝かせて軍服やローブを手に取る生徒達を眺めながら、ヨランダが海の衣装の進捗を確認する。
「裁縫師さん達が頑張ってくれているわ。今日もこの後、お店で動作確認なの」
期日通りに仕上がった衣装は、裾の広がりと、カラーが思った以上に舞の動作を妨げる事が判明。動作確認をしながら、裁縫師達が徹夜で手直しをしている。
賄賂以上の仕事となってしまったが、当日を楽しみにしていると、隈の目立つ顔で笑ってくれた。
「エレノア様の衣装は当日のお楽しみなのね…ところで、今回の変更は、観客には知らせていないのよね?」
マリーの質問にヨランダが扇を広げて目を細めた。
「ええ、愚民どもが…度肝を抜くといいわ」
「ヨランダ…口が悪いですよ」
「全く…悪女にしか見えませんね…」
ジャンとソーマの呆れ声に、五月蝿いと言い返すヨランダ達に、通し稽古を始めようと声がかけられた。
剣舞の周りで騎士生達が剣技を披露し、魔術科の生徒達は、幻影魔法で景色と攻撃を模した魔法を繰り広げる。
実際の領土戦でも、戦場に立っていた魔術師だが、攻撃魔法を繰り出すわけにはいかない為、今回は幻影魔法で水や、火、氷等の攻撃を再現したのだ。
嵐の海、戦火の山、其々の戦場で幻影の攻撃魔法が飛び交う中、剣技を披露する騎士生の間を、オレリア達が剣舞で華麗に舞っていく。
肌に感じる風雨と炎の暑さも加わった、圧倒的な臨場感に包まれた5分強の剣舞に、瞬きもするのも忘れてマリー達は見入った。
「いかがだったかしら?」
額に汗を滲ませたヨランダが、扇で扇ぎながら4人に声をかけると、マリーとアネットが興奮した様に身を乗り出した。
「凄いわ!劇を観ていた様よ!」
「皆さんの演技から戦争の悲哀や、国を守ろうという気迫が感じられて…本当に!感動しました!」
「本番が楽しみでございますね」
「決勝戦が霞んでしまわないかと、心配になるほどですね」
「…そうならない様、我々も全力で挑みます…」
苦笑いで答えるエイデンに笑いが起こる。
「実に見事だったよ」
「「「「「「「学園長?!」」」」」」」
「…に、先生方まで…?」
いつの間に来たのか、学園の教師陣が拍手をしながら中央に歩いて来た。
「ロイド先生とリディア先生から話を聞いてから、教員棟でも話題なっていてね、今日は通し稽古と聞いて、先生方と見学させてもらいに来たんだよ」
「ありがとうございます。あの…ご気分が悪くなったりはしていませんか?」
騎士科や魔術科の教師であれば、問題はないだろう。だが、貴族科や文官科、奨学科は戦闘とは無縁。
幻影魔法まで使った剣舞に恐怖や不快感を感じると言われたら、演出を再考しなければならない。
「心配は無用よ、オレリアさん。皆さんの剣舞と剣技に夢中になりましたから」
「この様な疑似体験は初めてで、興奮しましたよ。実に見事な幻影魔法だ」
教師陣から太鼓判をもらえただけでなく、折角なら、闘技場全体を幻影魔法で包もうと、魔術科の教師達が、当日の幻影魔法の手伝いまで買って出てくれた。
「剣術大会なのか、剣舞大会なのか分からなくなってきたな…」
「どちらにも出るんだから、いいんじゃないか?」
「決勝に進む奴が気の毒だな…」
皆んなが盛り上がる横で、騎士生達はそっと溜め息を零した。
魔術科の生徒達からの連絡で集まった学園の演習場には、騎士科の生徒に、魔術科の生徒、そして貴族科からはマリーとアネットだけでなく、オレリアとエレノアの侍女のエイラとマリーの姿もある。
魔術科の生徒が5人ずつ、右と左に分かれてデュバルの海と、セイドの山の幻影魔法を繰り出す。
「これが…幻影魔法…」
「砦のないセイドの山脈…違う山を見ている様だな」
「砦が建造されたのは、領土戦後だと記録にあったからね」
「遠雷と風雨も迫力ある。嵐の海と燃える山…すごい再現度じゃないか?」
「まあね!」
「雨に湿る感覚や、火に乾く感覚もある…本当に凄いな」
エイデンが目を丸くする横では、ジャンとソーマも手を伸ばしたり、制服に触れたりして肌で感じる感覚に戸惑いを隠せないでいる。
その様子に、魔術科の生徒は得意顔で胸を反らした。
遠雷の光る海は波が高くうねり、海面に打ち付ける雨が制服を不快のない程度に湿らす。
山を燃やす炎も迫力はあるが、立ち昇る黒煙は最小限で、上に広がる蒼穹が緊迫感を和らげている。
感覚も熱いより暑いといった感じで怖さは感じられない。
「エイラ、マリー、気分は悪くないかしら?」
視覚と触覚に与える影響を調べる為とは言え、少々刺激が強かったかもしれないと、オレリアが侍女2人を心配そうに見遣る。
大丈夫ですと微笑む2人を見たエレノアが、令嬢2人に声をかけた。
「マリリンとアネットはどうかしら?」
「?!エレノア様!マリリンとはなんですの?!」
「私の侍女もマリーなのよ、だからマリリン」
「我が主人が申し訳ありません…マリー様」
「くっ…確かに、その綺麗な顔にはマリリンは似合わないわね…」
眉を下げて謝る侍女のマリーは、テラコッタの髪に切長の翠緑の瞳が知的な大人を思わせる美人顔。
「可愛いじゃない?マリリン」
「私も可愛らしいと思います、マリリン様」
「…ヨランダ様に、アネットまで……もう、どうでもいいわ…」
言葉は投げやりでも、可愛く頬を染めるマリーにはマリリンという愛称がよく似合うと、その場に居る全員が心の中で感想を述べた。
「忖度は無しで。率直な感想をお願いね」
「この程度の感覚であれば、不快感はございません。ですが、この光景は少し恐ろしくも感じます」
エレノアの言葉を聞いて、年長者のエイラが先陣を切って感想を述べると、同意見とばかりにマリーとアネット頷いた。
その横からマリーが片手を軽く挙げる。
「剣舞と剣技が合わさると雰囲気が変わるのではなくて?観客の視線も分散されるでしょう?」
「確かに…この後の通し稽古も見てもらう方がいいわね」
「そうね。騎士生と魔術科よ衣装も用意も出来たましたし…海のチームと山のチーム、其々の衣装に袖を通して頂ける?」
演習場の隅に置かれた2つの木箱入った、紺青と深緑のローブと軍服は、身分に関係なく、選ばれた者しか袖を通す事が出来ない、其々の軍から借りてきた本物。
「エレノア達の衣装は?間に合いそうなの?」
目を輝かせて軍服やローブを手に取る生徒達を眺めながら、ヨランダが海の衣装の進捗を確認する。
「裁縫師さん達が頑張ってくれているわ。今日もこの後、お店で動作確認なの」
期日通りに仕上がった衣装は、裾の広がりと、カラーが思った以上に舞の動作を妨げる事が判明。動作確認をしながら、裁縫師達が徹夜で手直しをしている。
賄賂以上の仕事となってしまったが、当日を楽しみにしていると、隈の目立つ顔で笑ってくれた。
「エレノア様の衣装は当日のお楽しみなのね…ところで、今回の変更は、観客には知らせていないのよね?」
マリーの質問にヨランダが扇を広げて目を細めた。
「ええ、愚民どもが…度肝を抜くといいわ」
「ヨランダ…口が悪いですよ」
「全く…悪女にしか見えませんね…」
ジャンとソーマの呆れ声に、五月蝿いと言い返すヨランダ達に、通し稽古を始めようと声がかけられた。
剣舞の周りで騎士生達が剣技を披露し、魔術科の生徒達は、幻影魔法で景色と攻撃を模した魔法を繰り広げる。
実際の領土戦でも、戦場に立っていた魔術師だが、攻撃魔法を繰り出すわけにはいかない為、今回は幻影魔法で水や、火、氷等の攻撃を再現したのだ。
嵐の海、戦火の山、其々の戦場で幻影の攻撃魔法が飛び交う中、剣技を披露する騎士生の間を、オレリア達が剣舞で華麗に舞っていく。
肌に感じる風雨と炎の暑さも加わった、圧倒的な臨場感に包まれた5分強の剣舞に、瞬きもするのも忘れてマリー達は見入った。
「いかがだったかしら?」
額に汗を滲ませたヨランダが、扇で扇ぎながら4人に声をかけると、マリーとアネットが興奮した様に身を乗り出した。
「凄いわ!劇を観ていた様よ!」
「皆さんの演技から戦争の悲哀や、国を守ろうという気迫が感じられて…本当に!感動しました!」
「本番が楽しみでございますね」
「決勝戦が霞んでしまわないかと、心配になるほどですね」
「…そうならない様、我々も全力で挑みます…」
苦笑いで答えるエイデンに笑いが起こる。
「実に見事だったよ」
「「「「「「「学園長?!」」」」」」」
「…に、先生方まで…?」
いつの間に来たのか、学園の教師陣が拍手をしながら中央に歩いて来た。
「ロイド先生とリディア先生から話を聞いてから、教員棟でも話題なっていてね、今日は通し稽古と聞いて、先生方と見学させてもらいに来たんだよ」
「ありがとうございます。あの…ご気分が悪くなったりはしていませんか?」
騎士科や魔術科の教師であれば、問題はないだろう。だが、貴族科や文官科、奨学科は戦闘とは無縁。
幻影魔法まで使った剣舞に恐怖や不快感を感じると言われたら、演出を再考しなければならない。
「心配は無用よ、オレリアさん。皆さんの剣舞と剣技に夢中になりましたから」
「この様な疑似体験は初めてで、興奮しましたよ。実に見事な幻影魔法だ」
教師陣から太鼓判をもらえただけでなく、折角なら、闘技場全体を幻影魔法で包もうと、魔術科の教師達が、当日の幻影魔法の手伝いまで買って出てくれた。
「剣術大会なのか、剣舞大会なのか分からなくなってきたな…」
「どちらにも出るんだから、いいんじゃないか?」
「決勝に進む奴が気の毒だな…」
皆んなが盛り上がる横で、騎士生達はそっと溜め息を零した。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる