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アズール遠征
87:側妃? イアン
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「どうにも話が進みませんわね…ロイド先生、単刀直入にお聞きしますわ。リディア先生はいかがかしら?」
「「………は?」」
リディア先生とは?ロイド教員は分かるが、何故ネイトがそこで驚く?
それにしても、とんでもない時に来てしまったな…あの日酔い潰れた自分が恨めしい、最早あの日にナシェル殿を処した陛下まで恨めしくなってきた。
「あの、ヨランダ嬢、リディア先生とは…?」
「はあぁっ…再び天上の呼び声がっ…」
ネイトの問いかけに、お紅茶の染み着いた制服の胸元を押さえて喘いでいるが…せめて顔だけも拭いた方がいいんじゃないか?
「ヨランダ…しっかりしてちょうだい」
「失礼しましたわ…リディア・ファン・オスロー、魔術科の臨時教員です。お姉様のエリス様がスナイデル公爵家後継のコーエン様の元にお輿入れされてますから、フラン殿下とは姻族関係になりますわね」
「あの…ヨランダ様、そのお話はーー」
「オレリア、貴女、かの方の事もですが、殿下とリディア先生の事でも心を傷めていらっしゃるのでしょう?」
「それはっ…」
ますます話が見えない…身分違いの恋は何処へ?俺もそうだが、ロイド教員もカップを持ったまま固まっている。
騎士科の教員は、おそらく令嬢と関わる事などないのだろう…気の毒過ぎる。
「正妃となる者が、側妃を受け入れられないなんて、4年もの間どの様な教育を受けてきたのかと少々呆れはしましたが?ですが、復学してからの貴女はとても人間らしくなっていた。かの方の婚約者だった時は手応えもなくて、つまらない人形の様でしたのに…斯様な事も差し出がましいと重々承知しているわ。けれど…私は楽しかったの…貴女とエレノアと、こうしてお話をしたり、お茶会をしたり、ネイト様を愛でたり…」
「ヨランダ様…」
「その様というのも、やめて頂けないかしら?姻族だというのに余所余所しい」
「ヨ…ヨランダ…?」
「何故、疑問形?まあ、いいわ…で?何を話していたのかしら?」
ええ~…?と声を出さなかった俺を褒めてやりたい。
学園の教員棟で、お紅茶に塗れた令嬢方の二転三転する話に付き合うのは、魔物と戦うより神経を使う。
「…リディア先生のお話よ…殿下はリディア先生にお心を寄せている様ですが、リディア先生に殿下と同じ想いはございません。殿下がリディア先生を側妃に望まれる事は、オレリアとリディア先生を傷付ける事にーー」
「ちょ、ちょっとっ…待て…落ち着いて、君達は一体何の話をしているんだ?」
「殿下の側妃のお話ですが?イアン団長様はご存知ないのですか?」
「側妃?!候補の話も出ていないのに?!」
本当に一体何の話だ…フランが側妃?あの女嫌いで、狭量な男にそんな器用な真似が出来るわけないだろうっ!
繊細な話題は、王家の醜聞にも繋がるんだぞ。
ナシェル殿で、もう、充分だ…
「そうですわね…では側妃候補としておきますわ」
「いやいや、候補も何も、殿下はオレリア嬢に骨抜きにされてるぞ?」
「…オレリア様、あの夜会の日の事は誤解です」
「夜会?…ネイト、何の話だ?」
ここで何故夜会?報告書に書かれていない事があったのか?事によっては処分も検討しなくてはならないが…
俺の様子が変わった事に気付いたオレリア嬢が、やはりお紅茶に塗れたまま身を乗り出す。本当に、頼むから顔だけでも拭いて欲しい、公侯爵家の令嬢方のこんな姿、見ているこちらが居た堪れない…
「ネイト様は何も悪くございませんっ。私が…殿下とリディア先生が一緒にいらっしゃるところを…邪魔してしまったのです…」
「…一緒にいた?……まさか…あ、逢引きしてたとでも?」
まさか、あのフランが逢引きだと?だから報告書に書かなかったのか?!
「イアン団長は黙ってて下さいよっ!オレリア様、聞いて下さい。殿下がリディア嬢に特別な想いを持っていた事は否定しません。ですが、その想いには打算もあったと…それにもう過去の話です。その証拠に、オレリア様の誤解を解く案を出せなんて言い出して、あの夜会の後、カイン殿と3人で執務室で一晩を明かしたんですから」
「…一晩?カイン様は幾晩でも付き合わせて構いませんが、ネイト様を巻き込むのは許せないわね…横暴だわ」
「全くだわ…羨ましい…」
「この先、殿下が側妃を迎えるかどうかは分かりません…ですが、殿下は博愛主義でもないし、器用な男でもありません。オレリア様もご存知ですよね?」
「……はい」
「では、この話は終わりです。後は殿下とオレリア様、2人で話し合って下さい」
「スッキリしましたわね」
「本当に…よかったわね、オレリア」
「………うん…よかった」
ロイド教員の身分違いの恋から、何故、フランの側妃の話になった?それも解決したと?色々と納得出来ないが、ここで横槍を入れるのは悪手だろう。
夜会の事はフランとネイトから、きっちり聞き出すとして、話が終わったのであれば、令嬢方を一刻も早く帰さなければ。いや、お紅茶塗れの名簿を持ち帰って本部でゆっくり見た方がいいかもしれない。
「それじゃあ、私達はそろそろー」
「イアン団長様」
「……な、何かな?」
「話はまだ終わっておりませんが?」
「いや…今スッキリしたって言ったよね…?」
ーーー
「散々だったな…」
「早くエルデに会いたい…」
お茶会は午前中いっぱい続き、昼の鐘で解放された。
身分違いの恋とやらは、リディア教員とロイド教員の事だったらしいが、話が目まぐるしく変わり、結果、進展はないまま。まあ、当人同士に任せておけばいいだろう。
「それにしても、フランにも初恋があったのか…」
「最初から相手にされてたいなかったみたいですけどね」
「何故、報告書に書かなかった?」
「書きましたよ、『テラスで旧知と歓談』とね…」
「あれか…騎士時代の旧知だと思ってたが、令嬢だから名前を伏せたのか?」
「リディア嬢は未婚で縁談相手を探してるのに、フランと一緒にいたなんて話しが回ったら後々響くでしょう?テラスでの事なので誰にも見られてはいませんが、フランも障害になりたくないと言っていたんで、念の為、名前を伏せました」
「何処に目があるか分からないからな…そういう事情なら仕方ないか……ん?仕方ないか?いや、もういい…今日は何も考えたくない」
「今日付き合った分と相殺してくれれば済む話です」
「こんな時間に帰って…ジークに叱られるな」
何とも珍妙な時間だったが、顔を合わせて微笑む3人は、お紅茶に塗れていても、その美しさは損なわれなかった…
「「………は?」」
リディア先生とは?ロイド教員は分かるが、何故ネイトがそこで驚く?
それにしても、とんでもない時に来てしまったな…あの日酔い潰れた自分が恨めしい、最早あの日にナシェル殿を処した陛下まで恨めしくなってきた。
「あの、ヨランダ嬢、リディア先生とは…?」
「はあぁっ…再び天上の呼び声がっ…」
ネイトの問いかけに、お紅茶の染み着いた制服の胸元を押さえて喘いでいるが…せめて顔だけも拭いた方がいいんじゃないか?
「ヨランダ…しっかりしてちょうだい」
「失礼しましたわ…リディア・ファン・オスロー、魔術科の臨時教員です。お姉様のエリス様がスナイデル公爵家後継のコーエン様の元にお輿入れされてますから、フラン殿下とは姻族関係になりますわね」
「あの…ヨランダ様、そのお話はーー」
「オレリア、貴女、かの方の事もですが、殿下とリディア先生の事でも心を傷めていらっしゃるのでしょう?」
「それはっ…」
ますます話が見えない…身分違いの恋は何処へ?俺もそうだが、ロイド教員もカップを持ったまま固まっている。
騎士科の教員は、おそらく令嬢と関わる事などないのだろう…気の毒過ぎる。
「正妃となる者が、側妃を受け入れられないなんて、4年もの間どの様な教育を受けてきたのかと少々呆れはしましたが?ですが、復学してからの貴女はとても人間らしくなっていた。かの方の婚約者だった時は手応えもなくて、つまらない人形の様でしたのに…斯様な事も差し出がましいと重々承知しているわ。けれど…私は楽しかったの…貴女とエレノアと、こうしてお話をしたり、お茶会をしたり、ネイト様を愛でたり…」
「ヨランダ様…」
「その様というのも、やめて頂けないかしら?姻族だというのに余所余所しい」
「ヨ…ヨランダ…?」
「何故、疑問形?まあ、いいわ…で?何を話していたのかしら?」
ええ~…?と声を出さなかった俺を褒めてやりたい。
学園の教員棟で、お紅茶に塗れた令嬢方の二転三転する話に付き合うのは、魔物と戦うより神経を使う。
「…リディア先生のお話よ…殿下はリディア先生にお心を寄せている様ですが、リディア先生に殿下と同じ想いはございません。殿下がリディア先生を側妃に望まれる事は、オレリアとリディア先生を傷付ける事にーー」
「ちょ、ちょっとっ…待て…落ち着いて、君達は一体何の話をしているんだ?」
「殿下の側妃のお話ですが?イアン団長様はご存知ないのですか?」
「側妃?!候補の話も出ていないのに?!」
本当に一体何の話だ…フランが側妃?あの女嫌いで、狭量な男にそんな器用な真似が出来るわけないだろうっ!
繊細な話題は、王家の醜聞にも繋がるんだぞ。
ナシェル殿で、もう、充分だ…
「そうですわね…では側妃候補としておきますわ」
「いやいや、候補も何も、殿下はオレリア嬢に骨抜きにされてるぞ?」
「…オレリア様、あの夜会の日の事は誤解です」
「夜会?…ネイト、何の話だ?」
ここで何故夜会?報告書に書かれていない事があったのか?事によっては処分も検討しなくてはならないが…
俺の様子が変わった事に気付いたオレリア嬢が、やはりお紅茶に塗れたまま身を乗り出す。本当に、頼むから顔だけでも拭いて欲しい、公侯爵家の令嬢方のこんな姿、見ているこちらが居た堪れない…
「ネイト様は何も悪くございませんっ。私が…殿下とリディア先生が一緒にいらっしゃるところを…邪魔してしまったのです…」
「…一緒にいた?……まさか…あ、逢引きしてたとでも?」
まさか、あのフランが逢引きだと?だから報告書に書かなかったのか?!
「イアン団長は黙ってて下さいよっ!オレリア様、聞いて下さい。殿下がリディア嬢に特別な想いを持っていた事は否定しません。ですが、その想いには打算もあったと…それにもう過去の話です。その証拠に、オレリア様の誤解を解く案を出せなんて言い出して、あの夜会の後、カイン殿と3人で執務室で一晩を明かしたんですから」
「…一晩?カイン様は幾晩でも付き合わせて構いませんが、ネイト様を巻き込むのは許せないわね…横暴だわ」
「全くだわ…羨ましい…」
「この先、殿下が側妃を迎えるかどうかは分かりません…ですが、殿下は博愛主義でもないし、器用な男でもありません。オレリア様もご存知ですよね?」
「……はい」
「では、この話は終わりです。後は殿下とオレリア様、2人で話し合って下さい」
「スッキリしましたわね」
「本当に…よかったわね、オレリア」
「………うん…よかった」
ロイド教員の身分違いの恋から、何故、フランの側妃の話になった?それも解決したと?色々と納得出来ないが、ここで横槍を入れるのは悪手だろう。
夜会の事はフランとネイトから、きっちり聞き出すとして、話が終わったのであれば、令嬢方を一刻も早く帰さなければ。いや、お紅茶塗れの名簿を持ち帰って本部でゆっくり見た方がいいかもしれない。
「それじゃあ、私達はそろそろー」
「イアン団長様」
「……な、何かな?」
「話はまだ終わっておりませんが?」
「いや…今スッキリしたって言ったよね…?」
ーーー
「散々だったな…」
「早くエルデに会いたい…」
お茶会は午前中いっぱい続き、昼の鐘で解放された。
身分違いの恋とやらは、リディア教員とロイド教員の事だったらしいが、話が目まぐるしく変わり、結果、進展はないまま。まあ、当人同士に任せておけばいいだろう。
「それにしても、フランにも初恋があったのか…」
「最初から相手にされてたいなかったみたいですけどね」
「何故、報告書に書かなかった?」
「書きましたよ、『テラスで旧知と歓談』とね…」
「あれか…騎士時代の旧知だと思ってたが、令嬢だから名前を伏せたのか?」
「リディア嬢は未婚で縁談相手を探してるのに、フランと一緒にいたなんて話しが回ったら後々響くでしょう?テラスでの事なので誰にも見られてはいませんが、フランも障害になりたくないと言っていたんで、念の為、名前を伏せました」
「何処に目があるか分からないからな…そういう事情なら仕方ないか……ん?仕方ないか?いや、もういい…今日は何も考えたくない」
「今日付き合った分と相殺してくれれば済む話です」
「こんな時間に帰って…ジークに叱られるな」
何とも珍妙な時間だったが、顔を合わせて微笑む3人は、お紅茶に塗れていても、その美しさは損なわれなかった…
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