王国の彼是

紗華

文字の大きさ
上 下
31 / 206
其々の思い

30:王

しおりを挟む

の事だが、女神ユノンと双子の女神だそうだ」

「双子の女神…」

「王城の記録ですか?」

「いや、大聖堂の秘密記録保管室にあった古い書物に名前が残っていたらしい」

儀式の日から国と大聖堂は、謎の声とジュノーについて調査を始めたが、大聖堂信仰はお互い干渉しない事が不文律。
加えて緘口令も敷かれており、表立った共同調査が出来ない為、情報を共有しながら、それぞれ秘密裏に調査を進めている。

歴代の王族の中に女神と契約した者も在ると、王城の記録保管庫に記録が残されていたが、詳細までは記されておらず、進展もないまま数週間が過ぎている。

「それで?」

「…それでとは?」

「双子の女神の他に情報はないのかと聞いてるんです」

「ないな」

朝一番に呼び出されたスナイデル公爵とデュバル公爵は、新しい情報に目を輝かせたが、国王の言葉に肩透かしを喰らう。

「ないって…兄上、私もオーソンも暇じゃないんです。その程度の情報なら手紙で充分でしょう」

「そうなんだが、ナシェルの事でな…」

脈絡のない話を始める国王に、スナイデル公爵とデュバル公爵は顔を見合わせる。

「…オーソン。ナシェルがオレリア嬢に会いたいと言っているんだが、許可出来るか?」

元ダリア王国王太子、ナシェル。
廃太子宣言をした即日に王族廃籍となり、罪を犯した王族を幽閉する為の塔に入れられ、今は辺境伯領への移送を待つ身。

娘の傷はまだ深い。二会わせたくないと答えたい。だが、あれだけ拒絶した元婚約者オレリアに会いたいと言うからには何かあるに違いない。
このタイミングで陛下がナシェルの話を出した事がそれを示唆している。

「………考えさせて下さい」

沈黙の後、息を吐き出す様に一言。
国の中枢の一旦を担う公爵として、オレリアの父として、是とも否とも答えられず、デュバル公爵は考えたいと返答した。

「兄上、ナシェルは何故、オレリア嬢と面会を?」

「…

『ジュノーの加護を持つ者』

大聖堂で聞いた声を、塔に幽閉されているナシェルが聞く術はない。が、何か術を持って塔の中で聞いたのか?それとも以前からジュノーを知っていたのか?

「…何故、ナシェルがその言葉を知ってるのです?」

「声を聞いたと言っているがそれ以上語らなくてな…辺境伯領への移送は延ばす事になる」

「この事はフランには?」

「…これから話す。迎えを寄越したから、そろそろ来るだろう」

立太子、謎の声、ナシェル…
息子に次々降り掛かる困難に、父として何をしてやれるのか。
スナイデル公爵は目を閉じて思考に耽る。


ーーー

「陛下。お呼びと聞き参じました……父上に、デュバル公爵も…お揃いでしたか」

また、3

溜め息をつきたいのをぐっと堪えるが、声のトーンは下がってしまう。

「お久しぶりですね、殿下。娘は息災でしょうか?」

「ええ、学園の課題や、友人達と手紙のやり取りをして過ごしています」

「私とアレンにも手紙が届いてます。殿下に良くして頂いてると書いてありました。ありがとうございます」

デュバル公爵は、で静養しているオレリアと会う事が出来ない。オレリアとの面会の場を整える事は可能だが、デュバル公爵もアレンもジュノーの事を調べるのに忙しく、手紙でやり取りをしている。

「既に連絡が行ってるかと思いますが、来週には公爵家に戻れるでしょう。アレンにもその様に伝えて下さい」

「ええ、アレンにも伝えておきます。それと殿下。私に敬語は不要です」

「……分かった」

「結構」

臣下となったデュバル公爵に、敬語は不要と言われても直ぐには慣れない。気まずい思いで一言だけ返すと、満足気に深く頷き微笑まれた。

「オレリア嬢と上手くいってる様だな、フランよ」

「…ええ、まあ…」

「なんだ歯切れが悪いな、照れておるのか?」

「照れてはおりませんが…」

この展開は間違いない。前回は軌道修正に失敗したが、今回は何としてでもーー

「だろうな、庭園で愛を告げるくらいだからな」

「っ父上!?」

「余も聞いたぞ!昼の余暇を楽しむ者達が、逃げ出す程の熱烈な告白だったそうではないか」

「い、いえ。至って普通のーー」

「『俺の瞳は君しか映さない』だったか?」

「違います。『君の瞳には俺しか映させない』です」

「余が聞いたのは、『その瞳に映るのは俺だけでいい』だったぞ?どうだ?フラン」

「…覚えて…おりません」

「なんだ、仕方ないのう…イアン。余の執務机の上にある報告書を取ってくれ」

「御意」

「陛下がっ!!!陛下が正解です!」

「やはりな」

何がだ。これは一体、何の呼び出しだ。そもそも俺は男色と思われてるんじゃないのか?…まさか、両方いけるなどと…?

「それで?オレリア嬢とお茶を飲んだそうだが、何故?」

「…何故?…何故とは?」

お茶を飲まなかったのは何故だと聞いておるんだが?」

質問の意味が全く分からない。が、これ以上の誤解は全力で阻止しなければ己の沽券に関わる。

「その質問にお答えする前に…陛下。申し上げたい事がございます」

「なんだ?」

「私は、男色でも、両性愛者でもありません」

「「「知っておるが?(るが?)(おりますが?)」」」

「…………知ってる?」

否定を肯定された?聞き間違えたか?

「国を治める者が、噂に振り回されていては話しにならんだろう」

「お前は女性に消極的だからな、ちょっと煽っただけだ」

「義兄上もやぶさかではありませんでしたね」

あまりの衝撃に言葉が出ない。
ラヴェル騎士団長と、イアン団長も伯父上の後ろで固まっている。

「フランよ。国を治めるというのは常に孤独との闘い。人や物事を狐疑と疑念の目で見続けるのは難儀であり辛苦。だが、それ孤独を埋めてくれるのもまた、なのだ」

「まあ、お前は羽翼已成だ。問題ないだろう」

「今回の事はいいふるいになりましたね」

これが国を治めるまことの姿…侮れない


ーーー


「けしからんっ!実にけしからん!クリームを…接吻で拭うなど……けしからん…」

「兄上…羨ましいなら羨ましいと素直に言ったらどうですか…」

を持つ国王の手は震えており、先程の威厳は見る影もない。

「随分と賑やかですね。先程すれ違った殿下とは大違いだ。やはり、ナシェル殿の事がショックでしたか?」

「「「あっ……」」」

書類を片手に執務室に現れた宰相の言葉に、本来の目的を思い出したが時既に遅し。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...