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覚悟
23:目覚め
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『オレリア嬢は、お前に惚れてる』
ーーッパアアアッンッッ
「フランッ!模擬剣を何本壊すつもりだ!」
訓練場にイアン団長の怒号が響く。
視界不良を想定した春霞の中の早朝訓練。
煙に見立てた霧の中で剣を振るうのは、いつも以上に集中力が必要なのだが、昨日のネイトの言葉が頭から離れない俺は、ケガこそしないが、マナの制御が上手くいかず模擬剣を壊し続けている。
「す、すまない…」
「そんな集中力を欠いた状態で剣を振るな!考え事をするなら走ってこい!!」
己の苦手なものが閨教育ではなく、女性そのものと気付いたのは中等学園の頃。
義務を大義名分に、笑顔で本音を隠し、自在に涙を操りながら、己の利益を求める令嬢達に忌避感を抱いた俺は、我儘気随に義務を放棄し、騎士の道を選んだ。
だが、道を変えても己の身に流れる血は変えられない。
放棄することは許されない王族の義務。
俺は王太子としてオレリアを受け入れるだけ。
オレリアという人間に忌避はないが、己の忌避する存在。
呆けた時の年相応な表情も、見惚れる様な笑顔も、恥じらいながら名前を呼ぶ声も、キスした時の唇の柔らかさも…
「フラン様!まだ走られるのですかっ?もう誰もいませんよっ!」
カインの大声で我に帰る。
訓練場に居るのは、汗だくの俺と、拭い布と水を持って木陰に佇むカインの2人きり。
「イアン団長に思う存分走らせろと言われましたが、一日中走るおつもりですか?」
「考えがまとまらなくてな」
「そんなに難しい事ですか?オレリア様はフラン様に惹かれている。フラン様もオレリア様に惹かれている。それだけでしょう。何を拗らせる必要があるんです?」
「ちょっ、ちょっと待て。今、何と言った?」
「拗らせるな」
「違うっ!!その!前だっ!」
「オレリア様への独占欲全開で、見てるこっちが恥ずかしい」
「おいっ、さっきと言ってる事が違うだろ!」
ネイトがもう1人増えた様に感じるのは気のせいか?
「全く、面倒くさい男だな。まだ気付かないのか?きっかけがどうあれ、お前がダリアの王太子になったのは、王族の義務を果たす為だけが理由か?ダリアの民を慈しむ、お前自身の思いもある筈だ。オレリア様の事も義務だけじゃない、オレリア様に対するお前自身の想いがあるだろう?」
「だとしても、俺は女性苦手で…」
「そうやって十把一絡げにするな。オレリア様は他の令嬢達と違う。お前も本当は解ってるのに、義務に縛られて、女性が苦手なのを理由にして、自分の想いに気付かない様に蓋してるんだ」
『義務感に縛られるな』
「ネイトは、俺自身が気付いてない気持ちに気付いてたというのか…?」
「ネイト殿だけじゃない、アレン殿も気付いてるよ。アレン殿はお前自身の答えを聞きたかったようだが、自分の気持ちに気付いてないお前が義務感で答え様としたのをネイト殿が阻止したんだ」
お前達は千里眼を持っているのか…?
「…もう少し走る」
「何を言ってるんだ!却下だ。仕事に行くぞ」
ーーー
一心不乱に書類を捌き、平時より早く執務を終えた俺は、オレリアの部屋で王族の居住区に居るはずのない、公爵家侍女のエルデに迎えられた。
「そうか、宰相の話というのはエルデの事だったのか」
「はい。オレリア様のお傍に付く事を、旦那様が陛下にお願いして下さり、許可を頂きました」
侍女の事まで頭が回らなかったが、デュバル公爵が気を利かせてくれて助かった。
「エルデが居れば、リアも安心するだろう。分からない事があればカレン達に聞くといい」
「ありがとうございます」
「エルデも昨日から寝ていないんだろ?俺が付いているから、休んできたらどうだ?」
「先程仮眠を取らせて頂きましたので大丈夫です。ですが、公爵家から届いたオレリア様の荷物を解く間、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「構わない」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
昨日のアレン殿を真似てベッドに腰掛け、オレリアの髪を梳く。
「リア」
名前を呼んでも反応はない。それを残念に思うと同時にホッとした。
ネイトとカインに気付かされた己の気持ち。
「俺は…オレリアに、惹かれている…」
己の声に触発され、身体中の血が心臓に集まる。目頭が熱くなって息が苦しい。
気付きたくなかった…気付かなければ、こんなに苦しさを覚えることなどなかったのに、己の無力さにこんなに打ちのめされることはなかったのに、失うことをこんなにも恐れることはなかったのに。それなのに、それさえも凌駕する共に生きたいという欲。
「リア」
祈りを込めて白磁の額にキスをする
「フラン…さ、ま…?」
『フラン、護りたい者はいるか?』
あの日のオランドが俺に問いかけた
ーーッパアアアッンッッ
「フランッ!模擬剣を何本壊すつもりだ!」
訓練場にイアン団長の怒号が響く。
視界不良を想定した春霞の中の早朝訓練。
煙に見立てた霧の中で剣を振るうのは、いつも以上に集中力が必要なのだが、昨日のネイトの言葉が頭から離れない俺は、ケガこそしないが、マナの制御が上手くいかず模擬剣を壊し続けている。
「す、すまない…」
「そんな集中力を欠いた状態で剣を振るな!考え事をするなら走ってこい!!」
己の苦手なものが閨教育ではなく、女性そのものと気付いたのは中等学園の頃。
義務を大義名分に、笑顔で本音を隠し、自在に涙を操りながら、己の利益を求める令嬢達に忌避感を抱いた俺は、我儘気随に義務を放棄し、騎士の道を選んだ。
だが、道を変えても己の身に流れる血は変えられない。
放棄することは許されない王族の義務。
俺は王太子としてオレリアを受け入れるだけ。
オレリアという人間に忌避はないが、己の忌避する存在。
呆けた時の年相応な表情も、見惚れる様な笑顔も、恥じらいながら名前を呼ぶ声も、キスした時の唇の柔らかさも…
「フラン様!まだ走られるのですかっ?もう誰もいませんよっ!」
カインの大声で我に帰る。
訓練場に居るのは、汗だくの俺と、拭い布と水を持って木陰に佇むカインの2人きり。
「イアン団長に思う存分走らせろと言われましたが、一日中走るおつもりですか?」
「考えがまとまらなくてな」
「そんなに難しい事ですか?オレリア様はフラン様に惹かれている。フラン様もオレリア様に惹かれている。それだけでしょう。何を拗らせる必要があるんです?」
「ちょっ、ちょっと待て。今、何と言った?」
「拗らせるな」
「違うっ!!その!前だっ!」
「オレリア様への独占欲全開で、見てるこっちが恥ずかしい」
「おいっ、さっきと言ってる事が違うだろ!」
ネイトがもう1人増えた様に感じるのは気のせいか?
「全く、面倒くさい男だな。まだ気付かないのか?きっかけがどうあれ、お前がダリアの王太子になったのは、王族の義務を果たす為だけが理由か?ダリアの民を慈しむ、お前自身の思いもある筈だ。オレリア様の事も義務だけじゃない、オレリア様に対するお前自身の想いがあるだろう?」
「だとしても、俺は女性苦手で…」
「そうやって十把一絡げにするな。オレリア様は他の令嬢達と違う。お前も本当は解ってるのに、義務に縛られて、女性が苦手なのを理由にして、自分の想いに気付かない様に蓋してるんだ」
『義務感に縛られるな』
「ネイトは、俺自身が気付いてない気持ちに気付いてたというのか…?」
「ネイト殿だけじゃない、アレン殿も気付いてるよ。アレン殿はお前自身の答えを聞きたかったようだが、自分の気持ちに気付いてないお前が義務感で答え様としたのをネイト殿が阻止したんだ」
お前達は千里眼を持っているのか…?
「…もう少し走る」
「何を言ってるんだ!却下だ。仕事に行くぞ」
ーーー
一心不乱に書類を捌き、平時より早く執務を終えた俺は、オレリアの部屋で王族の居住区に居るはずのない、公爵家侍女のエルデに迎えられた。
「そうか、宰相の話というのはエルデの事だったのか」
「はい。オレリア様のお傍に付く事を、旦那様が陛下にお願いして下さり、許可を頂きました」
侍女の事まで頭が回らなかったが、デュバル公爵が気を利かせてくれて助かった。
「エルデが居れば、リアも安心するだろう。分からない事があればカレン達に聞くといい」
「ありがとうございます」
「エルデも昨日から寝ていないんだろ?俺が付いているから、休んできたらどうだ?」
「先程仮眠を取らせて頂きましたので大丈夫です。ですが、公爵家から届いたオレリア様の荷物を解く間、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「構わない」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
昨日のアレン殿を真似てベッドに腰掛け、オレリアの髪を梳く。
「リア」
名前を呼んでも反応はない。それを残念に思うと同時にホッとした。
ネイトとカインに気付かされた己の気持ち。
「俺は…オレリアに、惹かれている…」
己の声に触発され、身体中の血が心臓に集まる。目頭が熱くなって息が苦しい。
気付きたくなかった…気付かなければ、こんなに苦しさを覚えることなどなかったのに、己の無力さにこんなに打ちのめされることはなかったのに、失うことをこんなにも恐れることはなかったのに。それなのに、それさえも凌駕する共に生きたいという欲。
「リア」
祈りを込めて白磁の額にキスをする
「フラン…さ、ま…?」
『フラン、護りたい者はいるか?』
あの日のオランドが俺に問いかけた
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