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覚悟
22:自爆
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アレン殿を見送った足で執務室に向かい、“ジュノー“に関する資料がないか探したが、それらしいものはなく、カインとネイト共に王城の図書館に向かう。
「フラン様、オレリア様の傍にいらっしゃらなくてよろしいのですか?」
「居住区に移したから危険はないだろう。ウィルも付けている。傍に居てもしてやれる事はないし、あの声の事も調べなくてはな」
「ジュノーですね。私の知る限りでは、ジュノーという名の女神はこれまで聞いた事もありませんが…」
「俺も聞いた事はない。ネイト、お前はどうだ、聞いた事はないか?いや…やっぱりお前は喋るな」
「おいおい、まだ拗ねてるのか?折角助けてやったのに」
「助けた?貶めたの間違いだろうが!」
同齢の兄とアレン殿は良好な友人関係を築いているが、冷たく美しい相貌と、デュバル公爵家後継者にして海軍将軍という、揺るぎない地位に畏れ多いと感じていた俺は、兄と違って挨拶を交わす程度の仲だった。
ネイトとも友人だと聞いた時は、氷の貴公子とチャランポランな騎士が?と耳を疑ったが、近寄り難い印象とは裏腹に、オレリアを見つめる眼差しは優しく、ネイトと気安く話す姿は好青年。
加えてシスコンの一面も持っていた。
「なら聞くが、アレンの問いになんて答えるつもりだったんだ?」
ネイトの言うアレン殿の問いとは、オレリアを受け入れられるか…
「勿論、是だ」
「それは王太子としての答えだろ?アレンは1人の男として聞いたんだ」
「王族の結婚に個人の感情は必要ないだろう」
「確かに、王侯貴族はノブレスオブリージュの精神を常に持ち、その義務を果たさなければならない。この結婚も義務だ。お前に拒否権はない。」
「だったらーー」
「だから、アレンは聞いたんだ。男色の噂が立つ程、女性を忌避するお前が、義務感だけでオレリア様に接するのは想像に難くないからな。ナシェル殿と同じ轍を踏まないか心配なんだよ」
「ネイト殿、それは言い過ぎーー」
雲行きの怪しくなってきた会話にカインが止めに入ったが、今の言葉は捨て置けない。
ネイトの胸ぐらを掴み壁に追い立てる。壁に当たった背中がゴツッと鈍い音を立て、ネイトは顔を歪ませた。
「何もかも知った様な口をきくな。同じ轍だと?俺は彼女を傷つけたりしない。」
「傷つける、つけないの問題じゃない。義務感に縛られるなと言ってるんだ。王太子じゃないフラン自身の目で、オレリア・ファン・デュバルという人間を見ろ!」
「何度も言わせるな。個人の感情は不要。私を持ち込む事は許されない」
「オレリア様は、お前に惚れてるってのに、お前はそれを許されない事と切り捨てるのか?」
「………………は?」
「フラン様…まさか、お気付きでないとか?」
カインの呆れた様な問いかけに羞恥が湧き上がり、胸ぐらを掴む拳に力が入る。拳に額を当て、真っ赤であろう己の顔を隠すと、暑苦しいとネイトが耳元でボヤいた。
「…とりあえずお2人共。続きは部屋に戻ってからにしーー」
バサバサッーー
「つ、つづき…?」
この声は、まさかの…?
「さ、宰相、閣下…これは違いますから。これはあれではなく、ちょっとした喧嘩ですから」
「ちょっした…痴話喧嘩…」
カインの言葉が盛大に歪曲されているが、痴話ではないと全力で否定したところで、ネイトの胸に赤い顔を押し付けるこの状況は、別れ話に駄々を捏ねる男色王太子にしか見えないだろう。
「ウオッッホン…失礼しました。オレリア嬢の件で伺う所でしたが出直します。ああっ、カイン殿、書類は自分で拾えますからお構いなく」
床に落とした書類を乱雑に掻き集め、踵を返して戻って行く。
「これは…自爆ですね。フラン様」
「フラン様、オレリア様の傍にいらっしゃらなくてよろしいのですか?」
「居住区に移したから危険はないだろう。ウィルも付けている。傍に居てもしてやれる事はないし、あの声の事も調べなくてはな」
「ジュノーですね。私の知る限りでは、ジュノーという名の女神はこれまで聞いた事もありませんが…」
「俺も聞いた事はない。ネイト、お前はどうだ、聞いた事はないか?いや…やっぱりお前は喋るな」
「おいおい、まだ拗ねてるのか?折角助けてやったのに」
「助けた?貶めたの間違いだろうが!」
同齢の兄とアレン殿は良好な友人関係を築いているが、冷たく美しい相貌と、デュバル公爵家後継者にして海軍将軍という、揺るぎない地位に畏れ多いと感じていた俺は、兄と違って挨拶を交わす程度の仲だった。
ネイトとも友人だと聞いた時は、氷の貴公子とチャランポランな騎士が?と耳を疑ったが、近寄り難い印象とは裏腹に、オレリアを見つめる眼差しは優しく、ネイトと気安く話す姿は好青年。
加えてシスコンの一面も持っていた。
「なら聞くが、アレンの問いになんて答えるつもりだったんだ?」
ネイトの言うアレン殿の問いとは、オレリアを受け入れられるか…
「勿論、是だ」
「それは王太子としての答えだろ?アレンは1人の男として聞いたんだ」
「王族の結婚に個人の感情は必要ないだろう」
「確かに、王侯貴族はノブレスオブリージュの精神を常に持ち、その義務を果たさなければならない。この結婚も義務だ。お前に拒否権はない。」
「だったらーー」
「だから、アレンは聞いたんだ。男色の噂が立つ程、女性を忌避するお前が、義務感だけでオレリア様に接するのは想像に難くないからな。ナシェル殿と同じ轍を踏まないか心配なんだよ」
「ネイト殿、それは言い過ぎーー」
雲行きの怪しくなってきた会話にカインが止めに入ったが、今の言葉は捨て置けない。
ネイトの胸ぐらを掴み壁に追い立てる。壁に当たった背中がゴツッと鈍い音を立て、ネイトは顔を歪ませた。
「何もかも知った様な口をきくな。同じ轍だと?俺は彼女を傷つけたりしない。」
「傷つける、つけないの問題じゃない。義務感に縛られるなと言ってるんだ。王太子じゃないフラン自身の目で、オレリア・ファン・デュバルという人間を見ろ!」
「何度も言わせるな。個人の感情は不要。私を持ち込む事は許されない」
「オレリア様は、お前に惚れてるってのに、お前はそれを許されない事と切り捨てるのか?」
「………………は?」
「フラン様…まさか、お気付きでないとか?」
カインの呆れた様な問いかけに羞恥が湧き上がり、胸ぐらを掴む拳に力が入る。拳に額を当て、真っ赤であろう己の顔を隠すと、暑苦しいとネイトが耳元でボヤいた。
「…とりあえずお2人共。続きは部屋に戻ってからにしーー」
バサバサッーー
「つ、つづき…?」
この声は、まさかの…?
「さ、宰相、閣下…これは違いますから。これはあれではなく、ちょっとした喧嘩ですから」
「ちょっした…痴話喧嘩…」
カインの言葉が盛大に歪曲されているが、痴話ではないと全力で否定したところで、ネイトの胸に赤い顔を押し付けるこの状況は、別れ話に駄々を捏ねる男色王太子にしか見えないだろう。
「ウオッッホン…失礼しました。オレリア嬢の件で伺う所でしたが出直します。ああっ、カイン殿、書類は自分で拾えますからお構いなく」
床に落とした書類を乱雑に掻き集め、踵を返して戻って行く。
「これは…自爆ですね。フラン様」
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