王国の彼是

紗華

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どうやら俺は男色らしい

13:愛称

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寝室の扉をそっと開き中に入る。
続いて入ったネイトとエルデは壁に控えた。

天蓋を捲り、中を覗くと静かな寝息が聞こえてきた。
穏やかな寝顔にホッとしながらベッド脇の椅子に腰掛けると、気配を感じたのか、オレリア嬢の長い銀のまつ毛が震え、うっすらニ度、三度瞬く。

「オレリア嬢…」

声を押さえて名前を呼ぶと、焦点の定まらない瞳がこちらを向いた。

「フラン、殿下…」

「気分はどうですか?」

「あの、私はーー」

「そのままで。貧血だそうです。面会は中止にしたので、公爵家の迎えが来るまで、休んでいて下さい」

「……ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」

中止の言葉を聞いたオレリア嬢は目を見開き、その後は眉根を寄せて何かを堪える様に唇を噛んだが、数瞬間で無表情に戻り、だが、震える声で謝罪してきた。

ご迷惑をおかけしたのはこちらなんだが…
婚約者になるとはいえ、会って間もない令嬢を抱き締めて気絶させるなんて、鬼畜の所業だ。

「謝罪は不要です。とにかく無理はしないで下さい」

顔色はまだ青く、起き上がろうと身体を支える腕も力が入らず震えている。

「いいえ。殿下や皆さんに多大なご迷惑をおかけしたのです…失態だけでなく、さらに殿下の前にこのような無様な姿を晒すことはなりまーー」

「~~ッリアッ!」 

己の非だと自身を責めるばかりで、辛いであろう身体を労りもしない態度に、つい大きな声が出てしまったが、言うことに欠いて愛称…この数時間でどれだけの失態を重ねたのか。
今の自分に何もしない自信がない。

「…直に公爵家の迎えが来ます。とにかく今は回復に努めて下さい。エルデ、後は頼む」

「かしこまりました。殿下」

逃げる様に自室に戻り、カレンにオレリア嬢の帰り支度の手伝いを指示する。

「やってしまった…」

ソファにもたれ、片手で顔を覆う。ジワジワと恥ずかしさが込み上げてきた。

「お前の気持ちは解る。辛いと言えないのだろうが、オレリア嬢は自身を軽んじ過ぎる。見ていてもどかしくなるくらいだ」

「だからといって、怒鳴った上に、勝手に愛称呼びは…ダメだろ」

ポカンと口を開けて、こちらを見上げるオレリア嬢を思い出す。
いつもの貴族令嬢然りの顔ではない、素の表情は好ましく思えたが…

「確かに。抱きついて気絶させて、苛立って怒鳴った上に、許可も得ず愛称呼び。最悪だな」

「ネイト。不敬と言う言葉を知ってるか?」

がいて初めて、成り立つ言葉だ」

「お前が呼び方を変えろと言うから…」

「提案しただけで、変えろとは言ってない。で?他にどんな愛称を考えてたんだ?オーリア?レリ?それともーー」

ニヤけるネイトにクッションを投げつける。
考えていた愛称をそのままを当てられ、返す言葉もない。

ご乱心か?などと言って笑っているが、ネイトよ。
壁に控え、頬を染めて俯いているドナとエイラを見たら、その余裕もなくなるだろうよ。

ーーー

「オレリア様。もうじきに屋敷です。ご気分はいかがですか?」

公爵家の屋敷に向かう馬車の中。心ここに在らずといった表情の主に声をかける。

「ねえ、エルデ。さっき殿下が、その…って…」

「ええ。愛称で呼ばれましたね」

「やっぱり、聞き間違いではなかったのね…」

オレリア様の顔がみるみる赤色に染まる。

「嬉しそうですね、オレリア様」

「…嬉しい?そう、そうね… 私は…嬉しいのね…」

ご自身の失態に身悶えているであろう殿下に、はにかみながら、嬉しいと言うオレリア様の姿を見て頂きたかった。

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