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どうやら俺は男色らしい
12:面会の行末は
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令嬢という言葉の響きを、こんなに美しく感じる日がくるなんて……心なしか甘い香りまでしてきた。
「殿下!!お前は男色に破廉恥の噂まで加えるつもりかっ!」
ネイトに肩を掴まれ我に帰る。
甘い香りの正体は己の腕の中で気絶しているオレリア嬢のものだった。
「す、すまない。嬉しさの余り我を忘れた」
「全く…エルデ殿、ガゼボで待機している侍女に面会の中止と、宮医を呼ぶよう、伝えてきて下さい。殿下にはオレリア様を客間へ運んで頂きます。緑道なので人目はありませんが念の為、少し回り道をします…オレリア様を落とすなよ、フラン」
慌てる俺とエルデに的確な指示を出す。
ネイトは優秀な騎士だ。専属に付いてからの言動は散々だったが、切替えが早く冷静で、迷いのない判断で事を収めていく。俺の尊敬する友人。貶めに来たなどと一時でも思った自分が恥ずかしい。
ネイトは俺が放置した噂に巻き込まれた哀れな男なのに…
ーーー
「エルデ。オレリア嬢は私の男色の噂を信じていないんだな?」
オレリア嬢は心労と貧血と診断され、今は隣室で眠っている。
男色の噂に焦り、オレリア嬢の心の整理も出来ていない内に、面会を求めるなど非常識極まりない。もう少し日を空けるべきだったと、無理を強いてしまった事が今更ながらに悔やまれる。
それでも、己の安寧の為、確認せずにはいられない。
「はい。旦那様から他に望む相手が在ると聞かされ、殿下とお相手のご令嬢に申し訳ないと話されておりました」
「あの遠慮が過ぎる態度はそのせいか…」
「オレリア様が起きたら、そんな相手はいないって、ちゃんと伝えてやれよ」
「解ってる。さっきは男色と疑われてない事が分かって、少々舞い上がっただけだ」
「少々じゃないだろ…破廉恥の噂まで立つところだったんだぞ」
「…今後は気を付ける」
「頼みますよ、殿下」
「………」
「殿下。不敬も無礼も承知の上で、オレリア様の事でお願いしたい事がございます」
俺とネイトの会話が途切れると、エルデが思い詰めた表情で話しかけてきた。
一介の侍女が、許可なく王族に話しかけるのは不敬に当たり、下手をすれば処罰の対象となる。
だが、先程の後ろめたさも多分に有り、更にオレリア嬢の話とあれば、些細な事でも聞いておきたい。
「ここには、私とネイトしか居ない。何でも話してくれ」
「ありがとうございます……オレリア様は……ナシェル様との婚約で、深く傷付いておられるのです。身に付ける物から言動まで細かく指示され、逆らう事は許されませんでした…交流は殆どなく、お会いしても小言や叱咤ばかり受けてきた為、オレリア様はご自身に対しての自己評価が低いのです。ですが、オレリア様はとても優秀で、美しく優しい方なのです…どうか、我が主を宜しくお願い致します」
2人の関係が良好でない事は知っていたが、ナシェルが一方的にオレリア嬢を責めていたというのは思ってもみなかった。
ナシェルの隣で立つオレリア嬢は凛とした佇まいに表情のない美しい容貌も相まって、周りに冷たい印象を与えていた為、互いに歩み寄る事をしていないのだとばかり思っていた。
ナシェルに傷付けられたオレリア嬢は気の毒だと思うし、エルデのオレリア嬢を思う気持ちも十分に理解する。
この地位に着いてしまった以上は、望まない婚約だからとナシェルの様に駄々を捏ねて拒絶することはしないが、宜しく出来ない事情もある。
オレリア嬢との婚約、その先の結婚に求めることは、適度な歩み寄りと、互いに干渉し合う事なく過ごせる関係。
その適度な歩み寄りが問題ではあるが…
「私は女性と関わる事を避け、必要最低限の交流しかしてこなかった。正直なところ、オレリア嬢ともどう接すればいいのか、考えあぐねているのだが…」
「全く…前途多難な2人だな。先ずは、他人行儀な態度を改めたらどうだ?」
「改めるとは?」
「愛称で呼んでみるとか?」
「ほぼ初対面の令嬢だぞ」
「その、ほぼ初対面の令嬢に抱きついただろ」
「ん゛っ………分かった。愛称呼びからだな。オレリア嬢が目を覚ましたら話してみる」
「あの…お2人はいつもこの様な感じなのですか?」
俺とネイトの主従とは程遠いやり取りに、エルデが困惑した表情で話しかけてきた。
「俺が頼んだんだ。常に気を張っていては疲れるし、敬語を使われるのは違和感しかないからね」
「さっきも言いましたが、殿下が騎士だった頃からの付き合いなので、人が居ない時はこんな感じです」
「……とても良い関係なのですね」
「エルデ殿…その言葉は外で言わないで下さいね」
「フフッ…そうですね、気を付けます」
「俺とオレリア嬢より、2人の方が婚約者同士に見えるな。とても自然だ」
「感心してる場合か…下らない事を言ってないで、オレリア様の様子を見てこい」
2人から、呆れた様な視線と言葉を浴びながら、客間の扉を開いた。
「殿下!!お前は男色に破廉恥の噂まで加えるつもりかっ!」
ネイトに肩を掴まれ我に帰る。
甘い香りの正体は己の腕の中で気絶しているオレリア嬢のものだった。
「す、すまない。嬉しさの余り我を忘れた」
「全く…エルデ殿、ガゼボで待機している侍女に面会の中止と、宮医を呼ぶよう、伝えてきて下さい。殿下にはオレリア様を客間へ運んで頂きます。緑道なので人目はありませんが念の為、少し回り道をします…オレリア様を落とすなよ、フラン」
慌てる俺とエルデに的確な指示を出す。
ネイトは優秀な騎士だ。専属に付いてからの言動は散々だったが、切替えが早く冷静で、迷いのない判断で事を収めていく。俺の尊敬する友人。貶めに来たなどと一時でも思った自分が恥ずかしい。
ネイトは俺が放置した噂に巻き込まれた哀れな男なのに…
ーーー
「エルデ。オレリア嬢は私の男色の噂を信じていないんだな?」
オレリア嬢は心労と貧血と診断され、今は隣室で眠っている。
男色の噂に焦り、オレリア嬢の心の整理も出来ていない内に、面会を求めるなど非常識極まりない。もう少し日を空けるべきだったと、無理を強いてしまった事が今更ながらに悔やまれる。
それでも、己の安寧の為、確認せずにはいられない。
「はい。旦那様から他に望む相手が在ると聞かされ、殿下とお相手のご令嬢に申し訳ないと話されておりました」
「あの遠慮が過ぎる態度はそのせいか…」
「オレリア様が起きたら、そんな相手はいないって、ちゃんと伝えてやれよ」
「解ってる。さっきは男色と疑われてない事が分かって、少々舞い上がっただけだ」
「少々じゃないだろ…破廉恥の噂まで立つところだったんだぞ」
「…今後は気を付ける」
「頼みますよ、殿下」
「………」
「殿下。不敬も無礼も承知の上で、オレリア様の事でお願いしたい事がございます」
俺とネイトの会話が途切れると、エルデが思い詰めた表情で話しかけてきた。
一介の侍女が、許可なく王族に話しかけるのは不敬に当たり、下手をすれば処罰の対象となる。
だが、先程の後ろめたさも多分に有り、更にオレリア嬢の話とあれば、些細な事でも聞いておきたい。
「ここには、私とネイトしか居ない。何でも話してくれ」
「ありがとうございます……オレリア様は……ナシェル様との婚約で、深く傷付いておられるのです。身に付ける物から言動まで細かく指示され、逆らう事は許されませんでした…交流は殆どなく、お会いしても小言や叱咤ばかり受けてきた為、オレリア様はご自身に対しての自己評価が低いのです。ですが、オレリア様はとても優秀で、美しく優しい方なのです…どうか、我が主を宜しくお願い致します」
2人の関係が良好でない事は知っていたが、ナシェルが一方的にオレリア嬢を責めていたというのは思ってもみなかった。
ナシェルの隣で立つオレリア嬢は凛とした佇まいに表情のない美しい容貌も相まって、周りに冷たい印象を与えていた為、互いに歩み寄る事をしていないのだとばかり思っていた。
ナシェルに傷付けられたオレリア嬢は気の毒だと思うし、エルデのオレリア嬢を思う気持ちも十分に理解する。
この地位に着いてしまった以上は、望まない婚約だからとナシェルの様に駄々を捏ねて拒絶することはしないが、宜しく出来ない事情もある。
オレリア嬢との婚約、その先の結婚に求めることは、適度な歩み寄りと、互いに干渉し合う事なく過ごせる関係。
その適度な歩み寄りが問題ではあるが…
「私は女性と関わる事を避け、必要最低限の交流しかしてこなかった。正直なところ、オレリア嬢ともどう接すればいいのか、考えあぐねているのだが…」
「全く…前途多難な2人だな。先ずは、他人行儀な態度を改めたらどうだ?」
「改めるとは?」
「愛称で呼んでみるとか?」
「ほぼ初対面の令嬢だぞ」
「その、ほぼ初対面の令嬢に抱きついただろ」
「ん゛っ………分かった。愛称呼びからだな。オレリア嬢が目を覚ましたら話してみる」
「あの…お2人はいつもこの様な感じなのですか?」
俺とネイトの主従とは程遠いやり取りに、エルデが困惑した表情で話しかけてきた。
「俺が頼んだんだ。常に気を張っていては疲れるし、敬語を使われるのは違和感しかないからね」
「さっきも言いましたが、殿下が騎士だった頃からの付き合いなので、人が居ない時はこんな感じです」
「……とても良い関係なのですね」
「エルデ殿…その言葉は外で言わないで下さいね」
「フフッ…そうですね、気を付けます」
「俺とオレリア嬢より、2人の方が婚約者同士に見えるな。とても自然だ」
「感心してる場合か…下らない事を言ってないで、オレリア様の様子を見てこい」
2人から、呆れた様な視線と言葉を浴びながら、客間の扉を開いた。
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