王国の彼是

紗華

文字の大きさ
上 下
13 / 206
どうやら俺は男色らしい

12:面会の行末は

しおりを挟む
令嬢という言葉の響きを、こんなに美しく感じる日がくるなんて……心なしか甘い香りまでしてきた。

「殿下!!お前は男色に破廉恥の噂まで加えるつもりかっ!」

ネイトに肩を掴まれ我に帰る。
甘い香りの正体は己の腕の中で気絶しているオレリア嬢のものだった。

「す、すまない。嬉しさの余り我を忘れた」

「全く…エルデ殿、ガゼボで待機している侍女に面会の中止と、宮医を呼ぶよう、伝えてきて下さい。殿下にはオレリア様を客間へ運んで頂きます。緑道なので人目はありませんが念の為、少し回り道をします…オレリア様を落とすなよ、フラン」

慌てる俺とエルデに的確な指示を出す。

ネイトは優秀な騎士だ。専属に付いてからの言動は散々だったが、切替えが早く冷静で、迷いのない判断で事を収めていく。俺の尊敬する友人。貶めに来たなどと一時でも思った自分が恥ずかしい。

ネイトは俺が放置した噂に巻き込まれた哀れな男なのに…

ーーー

「エルデ。オレリア嬢は私の男色の噂を信じていないんだな?」

オレリア嬢は心労と貧血と診断され、今は隣室で眠っている。

男色の噂に焦り、オレリア嬢の心の整理も出来ていない内に、面会を求めるなど非常識極まりない。もう少し日を空けるべきだったと、無理を強いてしまった事が今更ながらに悔やまれる。
それでも、己の安寧の為、確認せずにはいられない。

「はい。旦那様から他に望む相手が在ると聞かされ、殿下とお相手のご令嬢に申し訳ないと話されておりました」

「あの遠慮が過ぎる態度はそのせいか…」

「オレリア様が起きたら、そんな相手はいないって、ちゃんと伝えてやれよ」

「解ってる。さっきは男色と疑われてない事が分かって、少々舞い上がっただけだ」

「少々じゃないだろ…破廉恥の噂まで立つところだったんだぞ」

「…今後は気を付ける」

「頼みますよ、殿

「………」

「殿下。不敬も無礼も承知の上で、オレリア様の事でお願いしたい事がございます」

俺とネイトの会話が途切れると、エルデが思い詰めた表情で話しかけてきた。
一介の侍女が、許可なく王族に話しかけるのは不敬に当たり、下手をすれば処罰の対象となる。
だが、先程の後ろめたさも多分に有り、更にオレリア嬢の話とあれば、些細な事でも聞いておきたい。

「ここには、私とネイトしか居ない。何でも話してくれ」

「ありがとうございます……オレリア様は……ナシェル様との婚約で、深く傷付いておられるのです。身に付ける物から言動まで細かく指示され、逆らう事は許されませんでした…交流は殆どなく、お会いしても小言や叱咤ばかり受けてきた為、オレリア様はご自身に対しての自己評価が低いのです。ですが、オレリア様はとても優秀で、美しく優しい方なのです…どうか、我が主を宜しくお願い致します」

2人の関係が良好でない事は知っていたが、ナシェルが一方的にオレリア嬢を責めていたというのは思ってもみなかった。
ナシェルの隣で立つオレリア嬢は凛とした佇まいに表情のない美しい容貌も相まって、周りに冷たい印象を与えていた為、互いに歩み寄る事をしていないのだとばかり思っていた。

ナシェルに傷付けられたオレリア嬢は気の毒だと思うし、エルデのオレリア嬢を思う気持ちも十分に理解する。
このに着いてしまった以上は、望まない婚約だからとナシェルの様に駄々を捏ねて拒絶することはしないが、宜しく出来ない事情もある。
オレリア嬢との婚約、その先の結婚に求めることは、適度な歩み寄りと、互いに干渉し合う事なく過ごせる関係。

そのが問題ではあるが…

「私は女性と関わる事を避け、必要最低限の交流しかしてこなかった。正直なところ、オレリア嬢ともどう接すればいいのか、考えあぐねているのだが…」

「全く…前途多難な2人だな。先ずは、他人行儀な態度を改めたらどうだ?」

「改めるとは?」

「愛称で呼んでみるとか?」

「ほぼ初対面の令嬢だぞ」

「その、ほぼ初対面の令嬢に抱きついただろ」

「ん゛っ………分かった。愛称呼びからだな。オレリア嬢が目を覚ましたら話してみる」

「あの…お2人はいつもこの様な感じなのですか?」

俺とネイトの主従とは程遠いやり取りに、エルデが困惑した表情で話しかけてきた。

が頼んだんだ。常に気を張っていては疲れるし、敬語を使われるのは違和感しかないからね」

「さっきも言いましたが、殿下が騎士だった頃からの付き合いなので、人が居ない時はこんな感じです」

「……とても良い関係なのですね」

「エルデ殿…その言葉は外で言わないで下さいね」

「フフッ…そうですね、気を付けます」

「俺とオレリア嬢より、2人の方が婚約者同士に見えるな。とても自然だ」

「感心してる場合か…下らない事を言ってないで、オレリア様の様子を見てこい」

2人から、呆れた様な視線と言葉を浴びながら、客間の扉を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...