王国の彼是

紗華

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どうやら俺は男色らしい

10:オレリア・ファン・デュバル

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「王太子殿下に拝謁致します。デュバル公爵家が長女、オレリア・ファン・デュバルにございます。殿下に於かれましては、ご清栄の事とお慶び申し上げます。本日はお時間を頂きありがとうございます。お忙しい殿下の御自らのお出迎え、恐縮にございます」

片膝を着き首を垂れるオレリア嬢の肩から、銀糸のような髪がサラサラとこぼれる。

「面を上げて楽にして下さい。初めまして、フラン・ダリア=スナイデルです」

礼を解いたオレリア嬢の、心洗われる様なアイスブルーの瞳に、桃色の頬、熟れた苺の様な唇。高い鼻は主張せず、小さく真ん中に納まっている。
騎士だった頃に遠目に見かけた事はあったが、目の前に立って改めてその美しさを思い知る。

女性に対して、ここまで緊張した事があっただろうか…?

「…っ天気が、良いので…急遽、庭園のガゼボに場所を変えたんです。侍女は準備に忙しく、私が迎えに来たのですが、待たせてしまいましたね」

「いえ、私共も今しがた着いたばかりなのです。殿下がお気になさる必要はございません」

顔には出ていないが、緊張しているのだろう、お腹の前で組む手が震えている。
その姿を見て少しだけ余裕が出てきたが、面と向かってお茶を飲める余裕はまだない。

「オレリア嬢。少しだけ遠回りして行きませんか?」

「殿下の御心のままに」

心の内を読み取らせる事を拒んでいるかの様な無表情に、一歩も二歩も引いた態度。
男色と誤解されてる事を危惧していたが、こうも他人行儀だと本題男色に話を持って行けないまま面会が終わってしまう。

「紹介が遅れましたね。オレリア嬢、私の専属護衛のネイトです」

後ろに立つネイトの腕を掴み前に出す。
俺だけでは乗り切れない、ここは一連托生でネイトを巻き込む。
ネイトはギョッとした顔で振り返ったが、目は合わせない。

「お久しぶりです、ソアデン卿。オレリア・ファン・デュバルでございます」

「フラン殿下の専属護衛を勤めております。ネイト・ファン・ソアデンと申します。ネイトで構いません。オレリア様、お久しぶりですね。私を覚えておいででしたか」

「勿論です。兄の元を訪れたネイト様に絵本を読んで頂いた事。よく覚えております」

「中等学園の頃でしたね。風邪を引いたアレンに、代わりに課題を提出して欲しいと頼まれて取りに行った時でした。絵本を読み聞かせたお礼にと、オレリア様に庭園の案内をして頂きましたね」

「その節は、初対面のネイト様に随分と我儘を申しましたが、とても楽しい時間でした。本当にありがとうございました」
「私も、楽しく過ごさせて頂きました」

いい具合に空気は変わった様だが、何故か蚊帳の外に放り出された。そもそもオレリア嬢とネイトが知り合いだなんて聞いてない。
この男は報連相という言葉を知らないのか。

「フラン殿下の専属護衛になられたと兄に話したら、きっと驚きます」

「殿下が近衛の頃からの付き合いなんです。隊舎でもだったので、その縁で専属になりました」

「!?ネイトっ!それ同室は誤解を生むとっ…」

懐かしむのはいいが、何故学習しない!
口元を押さえ、潤んだ瞳で振り返るネイトのその仕草さえも腹立たしい。
専属護衛なんてとんでもない。ネイトは俺を貶めに来た刺客だ。

「申し訳ございません。殿下、ネイト様。話が過ぎました事をお許し下さい。私からもよろしいでしょうか、専属侍女のエデルです」

「初めまして、オレリア様の専属侍女を勤めております。エルデ・ファン・アズールでございます」

「オレリア嬢…謝罪は不要です。エルデも、宜しく頼む」

「ネイト・ファン・ソアデンです。エルデ殿、宜しくお願いします」

「宜しくお願いします」

俺達の動揺に顔色一つ変える事なく侍女を紹介され、侍女からも表情一つ変える事なく挨拶された俺達は最早道化。
これ以上の恥の上塗りは避けたい。

「陽射しが強いので緑道を通って行きませんか?」

「殿下の御心のままに」

仕切り直すべく左手を差し出しすと、そっと右手を乗せてきた。
白く細い指は、握っただけで折れてしまいそうで力加減が分からない。
話をしたいが、何を話したらいいのか分からない。
最早何をすればいいのか分からない…

「殿下、啓上の許可を頂けますでしょうか」

俺に許可を得る必要などないが…正式ではないとは言え、婚約者と話をするのに許可が必要なのか?
啓上の許可を得なくては話も出来ない程に王族との婚約は面倒くさいものなのか?

「ええ…許可します」

「ありがとうございます殿下……この度は誠に申し訳ございませんでした。私が、ナシェル様の婚約者として至らなかった事で、多くの方にご迷惑をお掛けしただけでなく、殿下には望まない結婚を強いる事になったと父から叱責されました。殿下には望む方がいらっしゃるのに、私はどう償えばいいのか…」

「い、いや、私には望む者などおりませんが…」

デュバル公爵、なんて事を吹き込んでくれてるんだ。

「殿下に望まない結婚を強いる私に、お気遣いは無用です。殿下には憂いなくお過ごし頂ける様、身を弁え、妃の仕事を全うし、殿下を煩わせる様な事は致しません」 

その言葉を受け入れた暁には、俺はもれなく男色下衆野郎になってしまう。

「オレリア嬢。貴女がデュバル公爵からどの様に聞かされいるかは分かりませんが、私は望む者はおりません。公爵が誤解されてるだけです」 

何が悲しくて婚約者となる令嬢に男色の弁解をしなければならないのか。
噂を信じる人間も、噂を放置してきた自身も、全部纏めて土に埋めてしまいたい。

「…本当に、いらっしゃらないのですか?」

「いません」
「気を、遣われているのでは…?」

「遣ってません」

「…それでは、想い合うは令嬢はいらっしゃらないのですね」

「ええ、想い合う令嬢なんて……え?……?」

殿方と言われるとばかり思っていた俺は、思わず歩みを止めて聞き返してしまった。
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