王国の彼是

紗華

文字の大きさ
上 下
6 / 206
どうやら俺は男色らしい

5:ナシェルの処分

しおりを挟む
オレリア嬢との面会を午後に控え、近衛騎士団本部へ除籍の手続きに訪れると、ナシェルとオット男爵令嬢の処分が決定したと報告された。

「臣籍降下でなく、処分ですか?」

「これだけの騒ぎを起こしたんだ。お咎め無しとはいかないだろ。ナシェル殿は王族廃籍の上でボーエン辺境騎士団入り。令嬢もオット男爵が勘当を言い渡した。貴族籍は剥奪され、下働きとしてボーエン辺境伯領へ行く事になった」

「辺境伯領へ…」

「あの令嬢。王族になれないのならナシェル殿に結婚しないと言い出したらしい。令嬢はナシェル殿ではなく、王族の地位が目当てだった様だ。真実の愛だと疑わず、廃太子まで申し出たナシェル殿には気の毒だったな。デュバル公爵令嬢と比べるまでもないが、あれは妃の器ではない。あんなのが王族に加わったら王家は失墜する」

余りにも身勝手な令嬢の話しに呆れてしまう。

「2人は今どこに?」

「ナシェル殿は廃籍の手続きが終わるまでは塔で幽閉、令嬢は明日移送される事が決まり、今は地下牢だ」

「明日?随分早いですね…」

「地下牢で出す食事も王国民の血税だ。王国を混乱に陥れた罪人に、ただ飯を食わせる義理はない」

サルビア国と反対側に位置する隣国ローザ帝国は、統治する皇帝が継承順ではなく実力で決められる為、常に争いが絶えず、内紛のどさくさに紛れてボーエン辺境伯が治める国境が攻撃を受ける事も多々あり、常に緊張状態だと聞く。
ナシェルは剣もマナも優秀だが、戦場で通用するかは別。令嬢も辺境で過酷な下働き。
オット男爵家は多額の賠償金の支払いを課せられた。貴族籍は残るが今後の社交は絶望的だろう。

「ナシェル殿は子を成せない様に処置される。令嬢も辺境でいつまで正気を保っていられるか…」

本人達は自業自得だが、伯父上達を思うとやるせない気持ちになる。

ーーー

「除籍の手続きは終了した。王族への復籍手続きは済んだのか?」

「ええ、今朝済ませてきました」

「であれば敬語は不要。暫くはやりにくいだろうが慣れろ」

「そう…ですね。気をつけま…気をつける」

昨晩まで上司だった人に、敬語を使うなと言われても、直ぐに順応出来るほど器用じゃない。
敬語だけではない、人に世話をされることも、社交に出る事も、剣をペンに持ち替え執務をする事も、いつか慣れる日が来るのだろうか。

「そういう団長は敬語を使って下さい。フラン殿下、宰相閣下から護衛の人選に助力して欲しいと要請がありましたが、ご希望はありますか?」

副団長のジークが含み笑いで聞いてきた。
急転した生活に不安を抱いてる場合ではない。昨晩の伯父上の話は、立太子以上の衝撃だった。
国のトップが男色を鵜呑みにするなんて、放置してきた事を棚に上げる訳ではないが、そんなに信憑性があったのか…

「ジーク副団長…適当でいいです。今朝も侍女を減らして侍従と従者を多く付けると言われて一悶着あって疲れてるんですよ」

伯父上と父から、笑顔で特例だと告げられた人事に、佩てもない剣を抜剣しそうになった。

「それはお疲れ様です。護衛リストはさて置き、これからどうするんです?随分と面白い事になってるみたいですけど」

脳筋のイアン団長を補佐するジーク副団長は、フランが男色でないと知っている人物の1人。癖のない長い黒髪を後ろで束ね、榛色の瞳を持つ近衛騎士団のブレイン。
キリング侯爵の弟で現在31歳。前侯爵の持つ爵位の一つ、クローゼル伯爵を継いでいる。

因みに母ディアンヌの弟で俺の叔父に当たる人物。

「…甥を揶揄って面白いですか?叔父上」

「今朝早く宰相閣下と義兄上が来てな。フランを良く知る俺に好みのタイプを聞いてきた。人事の参考にしたいとな。キツイ匂いと濃い顔が苦手だと答えといた」

「それは、女性の香水と化粧のことじゃないですか!変な煽り方をしないでください!」

とんだ腹黒だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

王命を忘れた恋

水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

処理中です...