10 / 12
始まりの6歳
8:秘密兵器 アレン&グレン
しおりを挟む
「………」
「………」
「あうっ…だぁ~ん~…ん~…まっ…」
「だぁ…あうっ?…ん~…っぱ!」
「………」
「………」
「あ~あうっ…?」
「ん~…まっ?」
カインとコーエンが見たら、可愛いを連発するだろうな…
俺の膝の上に座る銀と、アリーシャ嬢の膝の上に座る金が、手を振り、足をバタつかせて、会話にならない会話を楽しんでいる。
俺も、こんな風にアリーシャ嬢と話したいのに…
俺も、アリーシャ嬢も俯いたまま…
互いの腕に抱えた小さな頭を、見るともなしに見ながら、妹達の会話を聞き流している。
「っだあっ!あ~…んまっ…」
「あ~あ~!…んんん~…っまっ!」
ーーベシンッ……トサッ…
「?!っ痛った……い…」
「アレン様?!オレリア様もっ!大丈夫ですか?!」
何に興奮したのか、声と共に大きくなった妹の動きは、力任せの裏拳となって俺の顔面に直撃した。
「……だ、大丈夫……オーリアは?大丈夫?」
「あぅっ…う?」
ソファに仰向けに倒れた俺のお腹の上で、ひっくり返った虫の様に手足をパタパタ動かす妹の拳は、無事だったらしい…
「……油断した…」
「フフッ…私も、よく髪を引っ張られました。すごい力で急に引っ張るから、頭がカクンて…一度、首を痛めてしまって…それからは、髪を結い上げる様にしているんです」
「だから、今日は結んでいるんですね。初めて見たけれど、とても可愛いから…余計に、緊張しました」
「あ…ありがとう、ございます…」
高い位置で結んだ髪型は、小さくて丸い可愛い顔がよく見える。
このままずっと見ていたいけど、その前に言わなくちゃいけない言葉があるのだと、気持ちを切り替えて大きく深呼吸をした俺は、チャンスをくれた妹を抱え直して、起き上がった。
「……顔は痛かったけど、アリーシャ嬢と話すきっかけが出来てよかったです。領地に帰るまでに、謝りたかったから……アリーシャ嬢、ごめんなさい。あんな風に、君を傷付けるつもりはなかったんです。僕は、家の事も、親の事情も関係なく、アリーシャ嬢が好きです。だから、僕と結婚して下さいっ!」
「だぁっ…ば~ぶっ!」
「けっ、結婚?!」
「あうっ…?」
「?婚約の次は結婚ですよね?」
「あ~…んまっ…?」
「…そ、そうですが…そこまで、考えていませんでした」
「ん~…ぶぅっ…」
「僕と結婚するのは嫌ですか?絶対に幸せにします。君を泣かせる様な事はしないから、毎日、好きって言うから、君を守れるくらい強くなるからっ!」
「だあっ!あぶぅっ!」
「……ア、アレン様…」
「何?アリーシャ嬢」
「……フッ…フフフッ…アハッ…ックッ…」
「アリーシャ…嬢?」
「ご、ごめんなさいっ…フハッ……でもっ…オレリア様と…ヨランダが…ックク…」
気付いていた…小さな2人が割り込んできていたのは、ずっと気付いていた。
「オーリア…ヨランダ嬢……ちょっと、静かに…」
「あう…?」
「んま…?」
うん…無理だよね…
ーーー
もどかしい空気に、頭を掻き毟りたくなるのを堪え、小さな主の頼りない背中を眺めながら小さく息を吐く。
聞こえてくるのは意味不明な喃語ばかりだが、本人達は通じ合っているのだろう、会話が弾んで止まらない。
『きっかけを作る、秘密兵器よ』
空気を読まない存在というのは、時に大きな救いとなる…という様な説明を受けながら、奥様から秘密兵器を手渡された主は、同じ様に秘密兵器を抱えて来たアリーシャ嬢を出迎えた。
社交界の女王の片鱗を見せる、今は可愛い2人のご令嬢は、与えられた使命を全う出来るのか……
先に動いたのは、我がデュバルの姫様。
鳩尾に喰らう蹴りも痛いが、あの裏拳は本気で痛い…
後ろに倒れ込んだ主が、鼻を押さえて痛みに耐える姿を眺めながら、痛いきっかけを逃すなよと念を送る。
結果は、半分成功…
「……グレン、2人をお願い…」
「……御意に」
涙を流して笑うアリーシャ嬢と、少々不貞腐れ気味の主から、役目を終えた天使達を受け取って暫く…
「アリーシャ嬢、僕はここで待ってるから」
「いえ、待って頂く必要は…すぐに追い付きますから…」
「そう言いながら、どんどん離れて行きますよね?もしかして…これが、プロポーズの返事ですか?」
「違います!だって!この賽の目、同じ数しか出ないんだもの!」
宰相閣下に頂いたボードゲームの前で、賽の目を一緒に振ろうと微笑む主に、頬を膨らませてたアリーシャ嬢が勝負にならないと横を向く。
ボードゲームで喧嘩は勘弁してくれよ…その為の犠牲なんだから…
溜め息を飲み込んで、腹の上に乗っかる金と銀に視線を戻すと、期待に満ちた瞳で見つめ返された。
「……坊っちゃまは、舌好調ですね…」
「あ~ぶぅっ!」
「んばっ…あ~だぁっ…」
「そうですね。今日はお嬢様方のおかげです……ところで、お嬢様方…そろそろ終わりにしても、よろしいでしょうか…」
ーーぺチッ…パチンッ…
「……御意に」
「ほぅ~…」
「ふぉっ…ふ~…」
仰向けから起き上がる度に動く腹筋の上で、満足気な溜め息を吐く天使達。
きっかけは、胡座の上に乗せたオレリア様に、鳩尾への蹴りを喰らって倒れた事だった。
最近やたらと足を突っ張るので、そろそろ掴まり立ちかもしれないと、奥様と宰相夫人が嬉しそうに話していたが、可愛い踵の被害者は多数。
それにしても、妙な遊びを覚えさせてしまったな…
ーーパシパシッ…ペシンッ…
「申し訳ありません、お嬢様方……考え事をしておりました」
「ほふぅ~…」
「ふぉっ…ふぉ~…」
こんな遊びに満足して頂けるのは、いつまでだろうか…
「……プハッ…ハハハッ…ック……ハハッ…」
世界広しと言えど、騎士の腹筋運動に喜ぶ公爵令嬢などいないだろう。
そう思ったら、笑いが吹き出してしまったのだが…
「ああああぅっ…?」
「ううううっ…だっ…」
ーーパチッ…ペシペシッ…
「……お嬢様方…笑い続けるのは、無理です……そんな顔をしても無理です」
俺の腹筋も、限界です。
「………」
「あうっ…だぁ~ん~…ん~…まっ…」
「だぁ…あうっ?…ん~…っぱ!」
「………」
「………」
「あ~あうっ…?」
「ん~…まっ?」
カインとコーエンが見たら、可愛いを連発するだろうな…
俺の膝の上に座る銀と、アリーシャ嬢の膝の上に座る金が、手を振り、足をバタつかせて、会話にならない会話を楽しんでいる。
俺も、こんな風にアリーシャ嬢と話したいのに…
俺も、アリーシャ嬢も俯いたまま…
互いの腕に抱えた小さな頭を、見るともなしに見ながら、妹達の会話を聞き流している。
「っだあっ!あ~…んまっ…」
「あ~あ~!…んんん~…っまっ!」
ーーベシンッ……トサッ…
「?!っ痛った……い…」
「アレン様?!オレリア様もっ!大丈夫ですか?!」
何に興奮したのか、声と共に大きくなった妹の動きは、力任せの裏拳となって俺の顔面に直撃した。
「……だ、大丈夫……オーリアは?大丈夫?」
「あぅっ…う?」
ソファに仰向けに倒れた俺のお腹の上で、ひっくり返った虫の様に手足をパタパタ動かす妹の拳は、無事だったらしい…
「……油断した…」
「フフッ…私も、よく髪を引っ張られました。すごい力で急に引っ張るから、頭がカクンて…一度、首を痛めてしまって…それからは、髪を結い上げる様にしているんです」
「だから、今日は結んでいるんですね。初めて見たけれど、とても可愛いから…余計に、緊張しました」
「あ…ありがとう、ございます…」
高い位置で結んだ髪型は、小さくて丸い可愛い顔がよく見える。
このままずっと見ていたいけど、その前に言わなくちゃいけない言葉があるのだと、気持ちを切り替えて大きく深呼吸をした俺は、チャンスをくれた妹を抱え直して、起き上がった。
「……顔は痛かったけど、アリーシャ嬢と話すきっかけが出来てよかったです。領地に帰るまでに、謝りたかったから……アリーシャ嬢、ごめんなさい。あんな風に、君を傷付けるつもりはなかったんです。僕は、家の事も、親の事情も関係なく、アリーシャ嬢が好きです。だから、僕と結婚して下さいっ!」
「だぁっ…ば~ぶっ!」
「けっ、結婚?!」
「あうっ…?」
「?婚約の次は結婚ですよね?」
「あ~…んまっ…?」
「…そ、そうですが…そこまで、考えていませんでした」
「ん~…ぶぅっ…」
「僕と結婚するのは嫌ですか?絶対に幸せにします。君を泣かせる様な事はしないから、毎日、好きって言うから、君を守れるくらい強くなるからっ!」
「だあっ!あぶぅっ!」
「……ア、アレン様…」
「何?アリーシャ嬢」
「……フッ…フフフッ…アハッ…ックッ…」
「アリーシャ…嬢?」
「ご、ごめんなさいっ…フハッ……でもっ…オレリア様と…ヨランダが…ックク…」
気付いていた…小さな2人が割り込んできていたのは、ずっと気付いていた。
「オーリア…ヨランダ嬢……ちょっと、静かに…」
「あう…?」
「んま…?」
うん…無理だよね…
ーーー
もどかしい空気に、頭を掻き毟りたくなるのを堪え、小さな主の頼りない背中を眺めながら小さく息を吐く。
聞こえてくるのは意味不明な喃語ばかりだが、本人達は通じ合っているのだろう、会話が弾んで止まらない。
『きっかけを作る、秘密兵器よ』
空気を読まない存在というのは、時に大きな救いとなる…という様な説明を受けながら、奥様から秘密兵器を手渡された主は、同じ様に秘密兵器を抱えて来たアリーシャ嬢を出迎えた。
社交界の女王の片鱗を見せる、今は可愛い2人のご令嬢は、与えられた使命を全う出来るのか……
先に動いたのは、我がデュバルの姫様。
鳩尾に喰らう蹴りも痛いが、あの裏拳は本気で痛い…
後ろに倒れ込んだ主が、鼻を押さえて痛みに耐える姿を眺めながら、痛いきっかけを逃すなよと念を送る。
結果は、半分成功…
「……グレン、2人をお願い…」
「……御意に」
涙を流して笑うアリーシャ嬢と、少々不貞腐れ気味の主から、役目を終えた天使達を受け取って暫く…
「アリーシャ嬢、僕はここで待ってるから」
「いえ、待って頂く必要は…すぐに追い付きますから…」
「そう言いながら、どんどん離れて行きますよね?もしかして…これが、プロポーズの返事ですか?」
「違います!だって!この賽の目、同じ数しか出ないんだもの!」
宰相閣下に頂いたボードゲームの前で、賽の目を一緒に振ろうと微笑む主に、頬を膨らませてたアリーシャ嬢が勝負にならないと横を向く。
ボードゲームで喧嘩は勘弁してくれよ…その為の犠牲なんだから…
溜め息を飲み込んで、腹の上に乗っかる金と銀に視線を戻すと、期待に満ちた瞳で見つめ返された。
「……坊っちゃまは、舌好調ですね…」
「あ~ぶぅっ!」
「んばっ…あ~だぁっ…」
「そうですね。今日はお嬢様方のおかげです……ところで、お嬢様方…そろそろ終わりにしても、よろしいでしょうか…」
ーーぺチッ…パチンッ…
「……御意に」
「ほぅ~…」
「ふぉっ…ふ~…」
仰向けから起き上がる度に動く腹筋の上で、満足気な溜め息を吐く天使達。
きっかけは、胡座の上に乗せたオレリア様に、鳩尾への蹴りを喰らって倒れた事だった。
最近やたらと足を突っ張るので、そろそろ掴まり立ちかもしれないと、奥様と宰相夫人が嬉しそうに話していたが、可愛い踵の被害者は多数。
それにしても、妙な遊びを覚えさせてしまったな…
ーーパシパシッ…ペシンッ…
「申し訳ありません、お嬢様方……考え事をしておりました」
「ほふぅ~…」
「ふぉっ…ふぉ~…」
こんな遊びに満足して頂けるのは、いつまでだろうか…
「……プハッ…ハハハッ…ック……ハハッ…」
世界広しと言えど、騎士の腹筋運動に喜ぶ公爵令嬢などいないだろう。
そう思ったら、笑いが吹き出してしまったのだが…
「ああああぅっ…?」
「ううううっ…だっ…」
ーーパチッ…ペシペシッ…
「……お嬢様方…笑い続けるのは、無理です……そんな顔をしても無理です」
俺の腹筋も、限界です。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる