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始まりの6歳
7:妹の成長
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「うっ……あぅっ……う、ぅっ……」
「頑張れ!オレリアッ!」
「もう少しだ…もうっ…少しっ…オレリアッ…」
屋敷の温室に敷かれた大きなシートの上で、仰向けの妹が寝返りを打とうとするのを、カインとコーエンが見守っている。
コーエンは声が大きいし、カインはどんどん前のめりになっていって、シートに顔が着きそうになっているのに全然気付かない。
「懐かしいわね…フランも、寝返りを打っては、うつ伏せから戻れなくなって…よく泣いてたわ…」
「そういえば、今日はフラン様は?お留守番ですか?」
「王族教育で、フーガと王城へ行ってるわ」
「まだ、幼いのに…」
コーエンとフランの父君…スナイデル公爵は、今の国王陛下の弟で、植物が好きな事から、森とダリア農園のあるスナイデルを拝領したそうだ。
ナシェル殿下が誕生して間もなく、公爵とコーエンは王位継承権を放棄したけど、次男のフランは継承権を放棄せずに王族教育を受けているのだと母が教えてくれた。
「あの子は王家のスペアだから…あの子がどんな将来を選んだとしても、王位継承権を持つ王族である事に変わりはない。今のうちから、その意識を埋め込んでおかないとね………カイン、コーエン、近い」
フランの話をしながら目を向けてきた夫人が、低い声でカインとコーエンの名前を呼んだ。
「近くありません!」
「言われた通り、五歩分の距離を保っています!」
抗議しながらも、ジリジリ膝を動かして下がって行く…五歩より詰めていた事に、夫人に言われて気付いたらしい。
「大人の足の五歩分以上よ。貴方達の足のサイズじゃないわ……あらっ!寝返りを打ったわ!」
可愛い!と拍手をして喜ぶ夫人の言葉に、カインとコーエンが妹に振り返って目線を下げる。
そこには、手と足を震わせて頑張っていた妹が、丸い背中を上にして、プハッと息を吐き出したところだった。
「義母上が話しかけるからっ!」
「叔母上!謀りましたね!卑怯です!」
「ちょっと?私の所為なの?」
この2人…勇気があり過ぎる。
拳骨されるスレスレの抗議は、こっちが緊張するからやめて欲しい。
「アレン?レリを起こして上げて、カインとコーエンにお座りを見せて上げたら?」
母上…とても良い解決策です。
こんな事に妹を使うのは気が引けるけど、シートの上にこの2人が転がっても、妹の様に可愛いくない。
「オーリア?お座りしようか」
「あ~…うっ?」
お座りといっても、頭の重たい赤ちゃんは、グラグラ揺れる頭を支える様に両手を床に着いて座らないといけない。
プルプル震えながら懸命に支えているけど、頭はどんどん下がってくる。
「うっ…あ~、う~…」
歯は生えてないけど、食いしばって頭を上げたり下げたり…
「何これ…可愛い…」
「…フランと取り替えたい…」
「うっ…うあっ、う~…」
ーーゴッ…
「「あっ?!」」
「大丈夫だから…見てて」
頭の重みに耐えられなくなって、ペシャリと伏せた妹に、カインとコーエンの視線が、俺と妹の間を行ったり来たりしてる。
でも、うちの子は強いんだ…デュバルだからね。
「うっ…うぐっ…あ~うっ…」
可愛い唸り声を上げながら、持ち上がってきた頭の下から、小さな握り拳が見えてくる。
「すごいわ…フランは直ぐに泣いてたのに…」
いつの間に来たのか、シートの脇に立つ夫人が、感心しながらを妹を見下ろしている。
その後ろから来た母が、妹に手を差し伸べる…それを見た妹は、フイッと顔を逸らして助けを拒んだ。
「アレンも泣いてました…ですが、この子は手を貸そうとすると……フフッ…顔を逸らして嫌がるんです」
そこで、俺と比べるのはやめてほしい…
「我慢強くて、頑張り屋さんなのね…貴方達も見習わないとね?」
「「「………」」」
赤ちゃんを見習うって、最高に情けない男じゃないか…
「ここまで成長すれば、領地へ戻る道中も大丈夫そうね?」
「ええ。なので、来週にも戻ろうと思います」
王都から領地の屋敷までは、馬車で2日以上の距離になる。
母の体調は勿論、妹が馬車の旅に耐えられるだけの体力が着くのを待って、王都で半年以上を過ごした。
「可愛いオレリアに会えなくなるのは、淋しいわね…暫くは領地なんでしょう?」
「そうですね…アレンが中央に顔を出したのが4歳だったので、この子も同じ位になると思います」
「そんな…」
「長過ぎる…オレリアは、2人の子育てに疲れる私の癒やしなのに…」
「カイン……それは、私の台詞だわ…」
俺も、そう思う…
「フランにも、よろしく伝えて!またね!」
「「元気でな!」」
淋しい別れは、友人だけじゃない。
「…陛下のお守りで疲弊する私から、癒やしを奪うのかっ!そんな惨い事を…涼しい顔でしれっと吐きおって……っぐっ…」
似たような台詞を、さっきも聞いたな…
「陛下のお守りだなんて…不敬よ?お兄様」
「何が不敬だ!私からオーリアを遠ざけるお前達の方が、重罪だぞ!ダリアを傾国の危機に晒す気か?!」
「傾国ですって…レリも歴史に名を残す悪女になちゃうわね?」
「私の姪を、悪女にするな!」
「お兄様こそ、可愛い姪を悪女したくないのなら、しっかり陛下を支えて、国を盛り立てて下さい?」
「ノエル…」
「あ~…だっ、う…?」
「……っ…オーリア…お前まで…っ…」
伯父が、妹の言葉を正しく理解しているのかは不明だが、それ以上わがままを言う事はなかった。
「頑張れ!オレリアッ!」
「もう少しだ…もうっ…少しっ…オレリアッ…」
屋敷の温室に敷かれた大きなシートの上で、仰向けの妹が寝返りを打とうとするのを、カインとコーエンが見守っている。
コーエンは声が大きいし、カインはどんどん前のめりになっていって、シートに顔が着きそうになっているのに全然気付かない。
「懐かしいわね…フランも、寝返りを打っては、うつ伏せから戻れなくなって…よく泣いてたわ…」
「そういえば、今日はフラン様は?お留守番ですか?」
「王族教育で、フーガと王城へ行ってるわ」
「まだ、幼いのに…」
コーエンとフランの父君…スナイデル公爵は、今の国王陛下の弟で、植物が好きな事から、森とダリア農園のあるスナイデルを拝領したそうだ。
ナシェル殿下が誕生して間もなく、公爵とコーエンは王位継承権を放棄したけど、次男のフランは継承権を放棄せずに王族教育を受けているのだと母が教えてくれた。
「あの子は王家のスペアだから…あの子がどんな将来を選んだとしても、王位継承権を持つ王族である事に変わりはない。今のうちから、その意識を埋め込んでおかないとね………カイン、コーエン、近い」
フランの話をしながら目を向けてきた夫人が、低い声でカインとコーエンの名前を呼んだ。
「近くありません!」
「言われた通り、五歩分の距離を保っています!」
抗議しながらも、ジリジリ膝を動かして下がって行く…五歩より詰めていた事に、夫人に言われて気付いたらしい。
「大人の足の五歩分以上よ。貴方達の足のサイズじゃないわ……あらっ!寝返りを打ったわ!」
可愛い!と拍手をして喜ぶ夫人の言葉に、カインとコーエンが妹に振り返って目線を下げる。
そこには、手と足を震わせて頑張っていた妹が、丸い背中を上にして、プハッと息を吐き出したところだった。
「義母上が話しかけるからっ!」
「叔母上!謀りましたね!卑怯です!」
「ちょっと?私の所為なの?」
この2人…勇気があり過ぎる。
拳骨されるスレスレの抗議は、こっちが緊張するからやめて欲しい。
「アレン?レリを起こして上げて、カインとコーエンにお座りを見せて上げたら?」
母上…とても良い解決策です。
こんな事に妹を使うのは気が引けるけど、シートの上にこの2人が転がっても、妹の様に可愛いくない。
「オーリア?お座りしようか」
「あ~…うっ?」
お座りといっても、頭の重たい赤ちゃんは、グラグラ揺れる頭を支える様に両手を床に着いて座らないといけない。
プルプル震えながら懸命に支えているけど、頭はどんどん下がってくる。
「うっ…あ~、う~…」
歯は生えてないけど、食いしばって頭を上げたり下げたり…
「何これ…可愛い…」
「…フランと取り替えたい…」
「うっ…うあっ、う~…」
ーーゴッ…
「「あっ?!」」
「大丈夫だから…見てて」
頭の重みに耐えられなくなって、ペシャリと伏せた妹に、カインとコーエンの視線が、俺と妹の間を行ったり来たりしてる。
でも、うちの子は強いんだ…デュバルだからね。
「うっ…うぐっ…あ~うっ…」
可愛い唸り声を上げながら、持ち上がってきた頭の下から、小さな握り拳が見えてくる。
「すごいわ…フランは直ぐに泣いてたのに…」
いつの間に来たのか、シートの脇に立つ夫人が、感心しながらを妹を見下ろしている。
その後ろから来た母が、妹に手を差し伸べる…それを見た妹は、フイッと顔を逸らして助けを拒んだ。
「アレンも泣いてました…ですが、この子は手を貸そうとすると……フフッ…顔を逸らして嫌がるんです」
そこで、俺と比べるのはやめてほしい…
「我慢強くて、頑張り屋さんなのね…貴方達も見習わないとね?」
「「「………」」」
赤ちゃんを見習うって、最高に情けない男じゃないか…
「ここまで成長すれば、領地へ戻る道中も大丈夫そうね?」
「ええ。なので、来週にも戻ろうと思います」
王都から領地の屋敷までは、馬車で2日以上の距離になる。
母の体調は勿論、妹が馬車の旅に耐えられるだけの体力が着くのを待って、王都で半年以上を過ごした。
「可愛いオレリアに会えなくなるのは、淋しいわね…暫くは領地なんでしょう?」
「そうですね…アレンが中央に顔を出したのが4歳だったので、この子も同じ位になると思います」
「そんな…」
「長過ぎる…オレリアは、2人の子育てに疲れる私の癒やしなのに…」
「カイン……それは、私の台詞だわ…」
俺も、そう思う…
「フランにも、よろしく伝えて!またね!」
「「元気でな!」」
淋しい別れは、友人だけじゃない。
「…陛下のお守りで疲弊する私から、癒やしを奪うのかっ!そんな惨い事を…涼しい顔でしれっと吐きおって……っぐっ…」
似たような台詞を、さっきも聞いたな…
「陛下のお守りだなんて…不敬よ?お兄様」
「何が不敬だ!私からオーリアを遠ざけるお前達の方が、重罪だぞ!ダリアを傾国の危機に晒す気か?!」
「傾国ですって…レリも歴史に名を残す悪女になちゃうわね?」
「私の姪を、悪女にするな!」
「お兄様こそ、可愛い姪を悪女したくないのなら、しっかり陛下を支えて、国を盛り立てて下さい?」
「ノエル…」
「あ~…だっ、う…?」
「……っ…オーリア…お前まで…っ…」
伯父が、妹の言葉を正しく理解しているのかは不明だが、それ以上わがままを言う事はなかった。
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