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始まりの6歳
2:勉強の時間
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「船首像の進捗は?」
「順調です。身体の彫刻は終えて、角取の磨きに入ってます」
「産まれたら直ぐに、顔と髪を彫れるまでにしておけ」
「はいっ!」
ソル爺様が宝石箱の作製とと共に進めているのが、造船。
俺も、誕生日毎に贈られているけど、自分の幼い姿の船首像が飾られた船は、少し迫力に欠けるところが不満。
カッコいい大人の姿の船首像を飾って貰うため為にも、ソル爺様には長生きしてもらわないといけないから、ソル爺様とたくさんの時間を過ごしている。
何故なら、俺と一緒にいる時が一番元気そうだから。
「船首像の進捗は順調だぞ~、楽しみにしてろよ~、オレリア~」
「「「…オレリア?」」」
母のお腹に手を当てながら、デレデレの顔で話しかけるソル爺様に、両親と俺の視線が集まる。
「産まれて来る子の名前だ」
「フフッ…大伯父様ったら、気が早過ぎ…でも、とても素敵な名前ですね」
「男児の名前は…考えてないですよね…」
「当たり前だろう?オレリア…元気に産まれて来るんだぞ…?!おっ!返事をしたっ!オレリア?じいじに早く会いたいのか?オレリア~、オレリアちゃん、オーリア~…」
「「「………」」」
愛称まで、決まってるんだ…
「さてと…アレン、勉強の時間だ」
母のお腹から手を離したソル爺様が、勉強の時間だと言って俺を抱き上げた。
ソル爺様は軍人だったのに、頭もいいし、絵も楽器も上手。そして、父も同じ様に何でも出来る。
俺も、ソル爺様や父の様にならないといけないのは分かってるけど…
「ええ~…やだ」
「アレン?」
母に逆らったら、休憩時間ももらえなくなるし、おやつのないティータイムになってしまう…それだけはダメだ。
「……はい。ソル爺様、今日もよろしくお願いします」
今日は地理の勉強から。
壁に貼られた王国の地図と海図を指差しながら、ソル爺様が説明してくれるけど、今日はどこで止められるかな…
「2本の川に挟まれた此処が、ケバいブロブフィッシュのいる王都。国境に沿ってセイドの山脈が伸びていて、ボーエンと共に砦を守っている。ボーエンの領地の近くにあるのがカイエン…ワインが美味い。王都右側、川向こうの平野のこの辺りがソアデンだ。武の家門で、軍馬が有名だな。王都の左側は、川向こうの湖を挟んで、ダリア農園を持つスナイデルと繊維のキリング…最近、養蚕を始めた」
「王都の周りは領地がたくさんあるんだね」
「もっと多いが、先ずは、お前の助けになってくれる家名から覚えろ。海側に戻るぞ?王都からオレンジ街道を通ってアズールだ。オレンジが美味くて、女も瑞々しい…此処はエカルト。デュバルの参謀で、頭のいい美人が多い。パリッシュは…グレンの家だな。アズールを挟んでラスター。此処はデュバルと同じく貿易港を持っている…他国から来る女は、後腐れがなくて、一夜を楽しむにはいい…」
グレンがいるから、パリッシュの事は何も言わないんだな……それより、何だか勉強に関係ない話になって来たけど、そろそろだよね?
さり気なく周りを見回すと、グレンとソル爺様の護衛騎士が、額に手を当てて首を横に振っている。
そんな俺達に気付かないソル爺様は、海図を指差して説明を続けた。
「この海域は、女海賊が多い…所謂、穴場だから覚えておけ。海賊船は、どの船も質の良い娼婦を乗せている、けしからん奴等だ。叩きのめせ。この点はアデラ島。此処にある要塞で、港で引っ掛けた女や、取り締まった海賊船に囲われていた娼婦としっぽりーー」
「…御隠居様。地理と全く違う話になっています…」
「おっと…それは失礼した。アレンには、まだ早かったな…次は算数だ。アレン、教本を出せ」
苦笑いのグレンが頷いて合図をして来たから、ソル爺様の言われた通り、算数の教本を出したけれど…慌てる騎士にソル爺様が止められるのは、直ぐだった。
「こっちの女は締まりが良くて5回。こっちの女は感度が良くて3回だ…それを二晩。アレン、お前は合計で、何回ーー」
「御隠居っ!!もう終わり!もう、終わりですっ!!」
俺の前に飛び出たソル爺様の護衛騎士が、ここにいると合図する様に大きく手を振って、ソル爺様を止めている…けど…
「16です」
「正解だ」
正解しないと勉強の時間は終わらない。
騎士の向こう側から、満足げなソル爺様の声で、正解と勉強の終わりを告げられた。
ーーー
デュバルの民は母なる海の子。だから、海が船を守ってくれるし、海で死んだ時は、母なる海の迎えが来たと言って、船の焼却炉で亡骸を焼いて魂を海に還す…らしい。
そんなデュバルの領地には、母を囲う像が色んな所に立ってある。
そして、ソル爺様は像を見るのが好きだ。
散歩してると、立ち止まってばかりで全然進まないけど、じっと見てるソル爺様の顔を見ると、声をかけづらい。
何で淋しそうな顔をするのに、像が好きなのか聞けない。
だから、違う事を聞く。
「ソル爺様…俺も、友達が出来るかな…」
「王都に行くのが、嫌なのか?」
「……うん」
家族の大人はソル爺様と父だけだから、母は王都の屋敷でカイエンの伯母に手伝ってもらって赤ちゃんを産む。
此処にも侍女は居るけど、女の家族がいる方が母も安心するからそうだ。
俺はソル爺様と待ってるって言ったんだけど、産んでも直ぐには帰れないからって、連れて行かれる事になった。
「この間、地理で勉強した、スナイデルとキリングの子と会わせるって…何か言われたら、どうしよう…」
「心配するな。お前の助けになるって、教えただろう?」
「そうだけど…」
「それよりも、婚約者との顔合わせの方が大事だろ…お前の片翼になる相手だからな」
「…かたよく?」
「翼の事だ。空を飛ぶには片方の翼だけじゃあ飛べない。だからといって、翼の動きがバラバラじゃ、飛んでも直ぐに地面に堕ちちまう…オーソンとノエリアの様に、翼の動きを合わせて空を飛べる様に、しっかり尻に敷かれろよ?」
「俺は、ソル爺様みたいに尻好きじゃないよ」
「俺は尻だけじゃない、女の身体は全部好きだ!間違えるな!」
「…御隠居様、色々違います…いい話しが台無しです」
「お前は、一々五月蝿いんだよ…母親か?」
「こんな節操のない子の親は勘弁です」
俺の護衛騎士のグレンは、暴走するソル爺様を止める役。
デュバル軍は平民が殆どだけど、屋敷を守る騎士達は貴族出身。
パリッシュは、デュバル領の騎士団を纏める家門で、グレンはそこの次男。
王都では、俺の少ない味方の1人になってくれる兄の様な存在で、色々教えてくれる。
「坊っちゃま。尻に敷かれるとは、女性を敬い、気遣いの出来る男になれという事です。女性は機微に聡く、勘も鋭い…とても賢い生き物ですからね」
「そういう事なら、分かったよ。父上みたいになればいいんだよね?」
「……非常に答え難いですが…そうです」
「お前達は…いや、何でもない…」
何かを言いかけてやめたソル爺様は、そろそろ帰るぞと言って、俺を抱き上げた。
「順調です。身体の彫刻は終えて、角取の磨きに入ってます」
「産まれたら直ぐに、顔と髪を彫れるまでにしておけ」
「はいっ!」
ソル爺様が宝石箱の作製とと共に進めているのが、造船。
俺も、誕生日毎に贈られているけど、自分の幼い姿の船首像が飾られた船は、少し迫力に欠けるところが不満。
カッコいい大人の姿の船首像を飾って貰うため為にも、ソル爺様には長生きしてもらわないといけないから、ソル爺様とたくさんの時間を過ごしている。
何故なら、俺と一緒にいる時が一番元気そうだから。
「船首像の進捗は順調だぞ~、楽しみにしてろよ~、オレリア~」
「「「…オレリア?」」」
母のお腹に手を当てながら、デレデレの顔で話しかけるソル爺様に、両親と俺の視線が集まる。
「産まれて来る子の名前だ」
「フフッ…大伯父様ったら、気が早過ぎ…でも、とても素敵な名前ですね」
「男児の名前は…考えてないですよね…」
「当たり前だろう?オレリア…元気に産まれて来るんだぞ…?!おっ!返事をしたっ!オレリア?じいじに早く会いたいのか?オレリア~、オレリアちゃん、オーリア~…」
「「「………」」」
愛称まで、決まってるんだ…
「さてと…アレン、勉強の時間だ」
母のお腹から手を離したソル爺様が、勉強の時間だと言って俺を抱き上げた。
ソル爺様は軍人だったのに、頭もいいし、絵も楽器も上手。そして、父も同じ様に何でも出来る。
俺も、ソル爺様や父の様にならないといけないのは分かってるけど…
「ええ~…やだ」
「アレン?」
母に逆らったら、休憩時間ももらえなくなるし、おやつのないティータイムになってしまう…それだけはダメだ。
「……はい。ソル爺様、今日もよろしくお願いします」
今日は地理の勉強から。
壁に貼られた王国の地図と海図を指差しながら、ソル爺様が説明してくれるけど、今日はどこで止められるかな…
「2本の川に挟まれた此処が、ケバいブロブフィッシュのいる王都。国境に沿ってセイドの山脈が伸びていて、ボーエンと共に砦を守っている。ボーエンの領地の近くにあるのがカイエン…ワインが美味い。王都右側、川向こうの平野のこの辺りがソアデンだ。武の家門で、軍馬が有名だな。王都の左側は、川向こうの湖を挟んで、ダリア農園を持つスナイデルと繊維のキリング…最近、養蚕を始めた」
「王都の周りは領地がたくさんあるんだね」
「もっと多いが、先ずは、お前の助けになってくれる家名から覚えろ。海側に戻るぞ?王都からオレンジ街道を通ってアズールだ。オレンジが美味くて、女も瑞々しい…此処はエカルト。デュバルの参謀で、頭のいい美人が多い。パリッシュは…グレンの家だな。アズールを挟んでラスター。此処はデュバルと同じく貿易港を持っている…他国から来る女は、後腐れがなくて、一夜を楽しむにはいい…」
グレンがいるから、パリッシュの事は何も言わないんだな……それより、何だか勉強に関係ない話になって来たけど、そろそろだよね?
さり気なく周りを見回すと、グレンとソル爺様の護衛騎士が、額に手を当てて首を横に振っている。
そんな俺達に気付かないソル爺様は、海図を指差して説明を続けた。
「この海域は、女海賊が多い…所謂、穴場だから覚えておけ。海賊船は、どの船も質の良い娼婦を乗せている、けしからん奴等だ。叩きのめせ。この点はアデラ島。此処にある要塞で、港で引っ掛けた女や、取り締まった海賊船に囲われていた娼婦としっぽりーー」
「…御隠居様。地理と全く違う話になっています…」
「おっと…それは失礼した。アレンには、まだ早かったな…次は算数だ。アレン、教本を出せ」
苦笑いのグレンが頷いて合図をして来たから、ソル爺様の言われた通り、算数の教本を出したけれど…慌てる騎士にソル爺様が止められるのは、直ぐだった。
「こっちの女は締まりが良くて5回。こっちの女は感度が良くて3回だ…それを二晩。アレン、お前は合計で、何回ーー」
「御隠居っ!!もう終わり!もう、終わりですっ!!」
俺の前に飛び出たソル爺様の護衛騎士が、ここにいると合図する様に大きく手を振って、ソル爺様を止めている…けど…
「16です」
「正解だ」
正解しないと勉強の時間は終わらない。
騎士の向こう側から、満足げなソル爺様の声で、正解と勉強の終わりを告げられた。
ーーー
デュバルの民は母なる海の子。だから、海が船を守ってくれるし、海で死んだ時は、母なる海の迎えが来たと言って、船の焼却炉で亡骸を焼いて魂を海に還す…らしい。
そんなデュバルの領地には、母を囲う像が色んな所に立ってある。
そして、ソル爺様は像を見るのが好きだ。
散歩してると、立ち止まってばかりで全然進まないけど、じっと見てるソル爺様の顔を見ると、声をかけづらい。
何で淋しそうな顔をするのに、像が好きなのか聞けない。
だから、違う事を聞く。
「ソル爺様…俺も、友達が出来るかな…」
「王都に行くのが、嫌なのか?」
「……うん」
家族の大人はソル爺様と父だけだから、母は王都の屋敷でカイエンの伯母に手伝ってもらって赤ちゃんを産む。
此処にも侍女は居るけど、女の家族がいる方が母も安心するからそうだ。
俺はソル爺様と待ってるって言ったんだけど、産んでも直ぐには帰れないからって、連れて行かれる事になった。
「この間、地理で勉強した、スナイデルとキリングの子と会わせるって…何か言われたら、どうしよう…」
「心配するな。お前の助けになるって、教えただろう?」
「そうだけど…」
「それよりも、婚約者との顔合わせの方が大事だろ…お前の片翼になる相手だからな」
「…かたよく?」
「翼の事だ。空を飛ぶには片方の翼だけじゃあ飛べない。だからといって、翼の動きがバラバラじゃ、飛んでも直ぐに地面に堕ちちまう…オーソンとノエリアの様に、翼の動きを合わせて空を飛べる様に、しっかり尻に敷かれろよ?」
「俺は、ソル爺様みたいに尻好きじゃないよ」
「俺は尻だけじゃない、女の身体は全部好きだ!間違えるな!」
「…御隠居様、色々違います…いい話しが台無しです」
「お前は、一々五月蝿いんだよ…母親か?」
「こんな節操のない子の親は勘弁です」
俺の護衛騎士のグレンは、暴走するソル爺様を止める役。
デュバル軍は平民が殆どだけど、屋敷を守る騎士達は貴族出身。
パリッシュは、デュバル領の騎士団を纏める家門で、グレンはそこの次男。
王都では、俺の少ない味方の1人になってくれる兄の様な存在で、色々教えてくれる。
「坊っちゃま。尻に敷かれるとは、女性を敬い、気遣いの出来る男になれという事です。女性は機微に聡く、勘も鋭い…とても賢い生き物ですからね」
「そういう事なら、分かったよ。父上みたいになればいいんだよね?」
「……非常に答え難いですが…そうです」
「お前達は…いや、何でもない…」
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