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監査部 ゴルフコンペ

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 広報部に来る前の三十一才の時、彰司は本店の監査部で仕事をしていた。

「季節もよくなってきたし、部内の懇親ゴルフコンペなんて言うのはどうですか!?」
昼食で外に出た銀行裏手の蕎麦屋の、二階の座敷で部員六人を前に若手の山田が提案した。
「いいんじゃない」
「おう。じゃあ山田が段取りをしろよ」

 彰司もあまり上手くはないが、一応、ゴルフには年に八回程度は行っていた。今年も、年明けの一月に初ラウンドをしたものの、寒さのあまりにスコアは自分の目標よりも十打も悪く、ふがいなさからモヤモヤ感が積もり、次のリベンジを期していたところだった。
場の雰囲気で一気にその開催は決まった。コースは銀行の取引先でもある近郊の羽黒カントリーという事になった。

その当日、
「全くのゴルフ日和になったなあ。幹事がよかったからだろう。山田は晴れ男かぁハハハ」
参加者はみんな、この日を『待ってました』とばかりに浮かれ気分で一番ホールのティーグラウンドに繰り出した。
西都銀行の大口融資先でもあるこのゴルフ場は、本店の各セクションのみならず、支店のコンペでも頻繁に使われていた。よく言う営業協力である。

「あれ、二つ前の組は、あれはどうやら本条支店の面々じゃないか」
ちょうど、ティーショットを打ち終えて、第二打の地点にカートをスタートさせたばかりの四人組を見て、そう切り出したのは監査部審議役の鈴木だった。
後で聞くと、本条支店はその日、ゴルフ好きの支店長以下、約十二名の大人数でプレーをしていたようだった。

鈴木は、監査部の独自のハンディキャップではハンディ九とそこそこの腕前だった。その鈴木の口癖が、
「ゴルフなんてイージー、イージー。かまえたら、あとは何も考えずにぶっ叩く。それだけさ(笑)」
「(・・・・それが難しいんだよ)」
彰司のみならず、苦笑いしながら、誰しもそう思った。

 その日は、彰司がこの日のために新しく調達し練習を重ねてきた三番ウッドが、見事に火を噴き、二百ヤード超えのナイスショットを連発、それにより、ロングホールでバーディを二つも拾うことができた。
十七番ホールでは、幹事の山田のティーショットの時に鈴木がなかば意地悪そうなアドバイスをした。
「山田く~ん、このホールのドライバーは、フェアウエイ中央からやや左方向狙いだ。間違っても、間違っても、くりかえすが間違っても右の谷に向けて打っちゃいけないよ」
それを聞いて山田は、
「(・・・・誰が右に向けてボールを打つやつがいるかっつーの!)」
と憤慨しつつ、アドレスからバックスイングに入った。

山田のドライバーショットはバチッと強く当たりはしたが、『どスライス』して右下の谷底に消えていった。それを見た鈴木が、
「右にだけは打つなよーって、あれだけアドバイスしたのに・・上司の言うことを全く聞かないやつだ、ガハハハ」と。 

当の山田は『ちっくしょー』と言いながら『トホホ』という顔をしていた。彰司は思った、
「(・・・・・鈴木審議役はさっきから、山田のドライバーショットがスライス気味に当たりだしていたのをちゃんと見ていたな・・・)」と。
そんなこんなもありながらも、五分咲きの桜を楽しみつつ、監査部の面々の愉快な時は、過ぎて行った。 


しかしその日の夜に、本条支店では思わぬ事態が起きていた。
それは、翌朝に監査部にも『緊急報告』として伝えられてきた。

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