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小料理 うおはな (3)

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西村佳奈子・・・彼女の父親はこの銀行の取締役 営業本部長を最後に、おととし定年退職し、今はグループ会社の社長をやっていた。
その昔は『鬼の営業本部長』と呼ばれ、支店長会議などではテンションが上がって来ると、ひな壇の机をこぶしでバンバン叩きながら二百数十人もの支店長を前に『やらねばならぬのだ!今期のこの数字は!支店長諸君には今までの倍の仕事をしてもらいたい!』
を連発していたとの伝説があった。

「あの娘と間違いでも起こそうものなら・・・・」 松尾は右手を空手チョップのように首にあてスライドさせながら
「これだよ・・・はい、さよなら、だ」
「(・・・確かにそうなる)」彰司はそう思った。

なお、松尾からの追加情報によると、定例の人事異動発表の時に西村が東郷に『お祝いメール』を送って来ていた件は、単にこの父親から教育を受けた銀行内での世渡り術の一つであり、他意はないようだった。
「(優秀でやる気がある女性なんだろうが、面白い娘だ・・・)」彰司はその時そう思った。

           ◇

「たとえば、私なんかもう五年も銀行員をやっているんだけど、もし、明日にでも私の昔の知り合いが、『俺さぁ、三年前にIT関連の会社を始めたんだよ。で、月々の運転資金がいるのだけど・・・・君のところの銀行で五百万円くらい貸してもらえないかな。できれば二週間後くらいに・・・』なんて言われても、どう対応したらいいかわからないんですよね・・・・。そんな時は『なにそれ・・へえ・・・で、担保はあるの?』って聞くんですかね、普通は・・・」
ビールを彰司と自分のグラスに注ぎながら佳奈子は真顔でそう切り出した。

「なるほど、今日の勉強会のテーマはそういう場面を想定しての事か・・・。但し、そういう相談を受けて、君が言う『担保は?』と問うのは・・・金融業の人間としてはド素人だな」
「えっ、そうなんですか・・・」
佳奈子は意外そうな顔をして彰司をチラッと見た。
彰司は続けた
「加えて言うと・・・、こういう話が来た場合に、スルーしたり、忘れたり、その後の対応を間違ったりすれば、自分に火の粉が降りかかって来てどうにもならなくなるってことも、重々、肝に銘じておくべきだ」

彰司はビールを軽く口に含んだ。・・・そして、昔の記憶を呼び起こした。

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