それでもあなたは銀行に就職しますか ~彰司と佳奈子の勉強会~ 「出資法違反『浮貸し』」

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小料理 うおはな (2)

　彰司は、九年前に新卒で銀行に入って、まずは自宅から通勤可能圏内にあった高谷支店で、融資案件を拾う外回りの営業をやっていた。
その時、新規案件として担当した先の中には、本店審査部がまともに取り合ってくれない、かなりの要注意(*)の先もあった。　　
しかし、いろいろ言っても融資が銀行業のキモとなる業務であることは間違いないわけで、『････次を見据えた西村らしい、ポイントをついた話を今日はしてきたな』と思った。

　(＊)要注意先：この時代においては「赤字が連続しており、銀行が貸出しを渋る」会社などをさす。

　いろんな貸出し案件を、東郷は身をもって体験した。
彼の持論だが、この世において、経営内容に全く問題がなく順調に行っている会社への融資などは、へたしたら「地域限定採用の一般職」の女子行員にでもできる。
例えば一定の運転資金の貸出しの書類一式は、型どおりに作り上げたのち、審査担当者の決裁を取り付けることなど造作もないことだ。

但し、問題となるのは、経営内容が厳しい先から融資の要請があった場合に、どう対処していくか････これにはエネルギーがかかり、かなりの時間も食われてしまう。


　こんな二人だけの勉強会を時々やっている彰司と西村佳奈子だが、そもそもの接点は銀行の職員組合が独身者を対象にして行った、バレーボール大会とその後の食事会だった。

もう四年も前の話になる。
「君の隣にいた西村って行員は、はっきり『将来は支店長になりたい』って組合アンケートに答えていた娘だぜ」
当時の彰司がいた部署で、職員組合の支部長をしていた松尾が耳打ちしてきた。組合の支部長となると、おおよそ行員の属性情報にもけっこう詳しい。
「かなり、前向きな性格みたいだ。酒もそこそこ強いらしいよ」と。

　その後、二人は、ちょうど同じ本店の一階と七階で仕事をしていた時期でもあったので、なにかと接点があった。
定例の人事異動に彰司が引っかかった時なども
『ご栄転おめでとうございます････』のメールを何故か打ってきていた。

しかし、先の話に続く松尾の情報では、
「でもなぁ東郷。あの娘とは間違っても、へんな問題を起こすなよ、いいな(笑)」
それは、行員の皆が周知の事実だった。