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毎朝新聞・・その金融界での評判

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「もしもし、西都銀行の東郷です」
「あ、東郷さん。どう最近?忙しい?」

西尾と東郷は同じ慶東大学の同期で、偶然だがそれぞれ別の銀行でこの時期に同じような仕事をしていた。二人は夜の部では
「俺」そして「おまえ」
と呼び合うのだが、仕事中の会話は、それぞれが他銀行の人間でもあるために、敬意を表し、やや丁寧な言葉で話をした。

「いや、ほかでもないんですけどね、毎朝新聞の、ほら例の原田記者がついさっき取材に来たんですよ」
「ああ、あの原田さんね。けっこう、的を外した取材やっているでしょうハハ・・・」
「そうそう」
「それで、今回、彼の要件はどのような内容でした?」
彰司は先ほどの件の詳細を話した。西尾に話をすることで、彰司のイライラ感は次第に晴れてきた。
「それはお疲れ様でした。記者様に対しては、我々はある意味『お客様』扱いをしなくてはいけませんからね。東郷さんもムッと来ることがあっても押さえて、押さえて」
そう西尾が言うと、彰司は、ハハハそうだねと笑った。

 そういう西尾は、様々な報道各社の動きについての情報を時々東郷にくれるのである。
「東郷さん、わが社の場合を言うとね、原田記者の二か月前の取材の次には、間髪を入れず、あそこの社からウチに営業部長が来ましたよ」
「どういった用件で?」
「毎朝新聞を支店で取ってくれと。北九州地区では、まだ毎朝新聞を取っていない支店が十二店舗あるらしい。やっこさん達、ちゃんと調べているんだ・・・ハハハ」
「ふ~ん」彰司は呟いた。

「しかしだ、それからまた五日たって、今度は同じ毎朝新聞の広告部長が来て
『今度、地元で間もなく行われる大相撲九州場所の大特集を紙上でやるので、その紙面の下の方、四分の一の広さで、“福富銀行は大相撲を応援しています!”という広告を出してくれませんか。安くしておきますよ、五百万円です』と」
そして西尾は続けて、
「もうその話を聞いて、私は椅子から転げ落ちそうになったよ。『なんだぁこの新聞社は!』ってね。相撲の話にひっかけて言わせてもらうと・・・」
そこで彰司は突っ込んだ
「西尾さんの気持ちもわかるよ。『記事のために取材をさせろー』次に『新聞を取ってくれ!』そして最後には『うちの新聞に広告を載せてくれないか』と、何から何まで他人の褌(ふんどし)で相撲を取るなよ!って訳だ」
「わっはっは、そういう事。不思議な業界さんだね、あの方々は。そして市民から通報めいたことがあったら、訳が分からずとも取材に飛んで行かなければならないっていうのが彼らの悲しい性(さが)ってことだ・・・」そう言って二人の電話は終わった。

「さて」と、彰司は目の前の書類を、机とキャビネットに放り込み、やおら施錠をして次の用事に行く準備をした。用事と言っても、それは時々やっている西村佳奈子との勉強会の約束だった。
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