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新興 横鷹ホーム

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「その新社長がけっこうな量の部材を突っ込んで行った・・・ってことか。例の横鷹ホームに」
彰司が瀬良に言った。

当時を思い出すようなしぐさを見せながら、瀬良は手元のお猪口に残っていた冷酒をすっと飲み干し、
「そうなんだよなあぁ、困ったことに・・・まったく・・」と、
彼らの話に聞き耳を立てていた佳奈子に、小さくそう言った。


 バブル経済崩壊の影響をまだ引きずりつつ、平成のなかば以降も、日本の戸建て住宅メーカーを取り巻く環境は難しい状況にあった。
当然のことだが、こんな状況下では、多くの木材をそこに販売する斉藤のような加工材木の納入業者の不振は連鎖的に深刻化した。

 大手と呼ばれる建設会社も必死に、あの手この手で、営業強化に取り組んだ。
しかし、少子化の進行と、景気の長期低迷や、行政が行う「区画整理事業」などで住宅需要がスポット的に湧き上がっても、そのパイを各会社が取り合い、また一方で、土壇場で「やっぱりマンションにしようかなぁ」とのお客心理の変化で、どうしても住宅需要は上向かなかった。

他社との差別化のために、いくら、その(大手・中堅)ハウスメーカーが、今はやりの
「太陽光発電」「蓄電池」「売電によるお得感」また「頑丈な軽量鉄骨住宅」
などをうたっても、決定打につながらない、もみ合いの状況が続いていた。

 そうしたなかで、平成二十年ころ、大分県に本社を置く横鷹ホームという新興の会社が売上げを急拡大させていた。
 
そこの住宅は確かに安い。もちろん、他の大手ハウスメーカーに負けないくらいの、
「太陽光発電とその売電収益で現金をゲット!」
「家庭用燃料電池エネファームによる省エネ実現!」
なども普通に提供していた。

成長著しいこの社に対する世間の評価は、「安くて満足」という事で、経済界の見方も「まずまずの企業」だった。

      ◇

「あ、西村さんそれ取ってくれる」
「これですか、はいどうぞ」
瀬良は、続けて店から出された手羽先に、佳奈子から手渡しの七味唐辛子を、人差し指でポンポンと付けながら続けた。
「業績向上に躍起になっていた斉藤の新社長は、複数の新規取引候補先のなかでも、この横鷹ホームを筆頭にしていたわけですよ」

「でも瀬良さん?その横鷹の社長って、ポッと大分という地盤に入って来て、なぜ業績を伸ばせたのかしら・・・」
佳奈子は聞いた。

一呼吸おいて、瀬良は
「そもそも横鷹ホームの中枢の社員は、あの有名な、大阪が本社の住井林業をスピンアウトした連中なんだよ。社長も専務も、加えて営業マン十数名もそうらしいんだ」
「・・・!」佳奈子は驚きの表情をした。
「それは初めて聞いたな」彰司もえっという表情で言った。

「でね東郷さん、どうも社長・専務は住井時代に、本社の事業方針と対立していたらしんです。だから、
(もうやってられない!)
と、堪忍袋の緒が切れて、この二人が有能な営業マンたちをゾロッと引き抜き、新会社を作ったってことです」

そこで東郷が付け加えた。
「つまり、住井林業に弓を引いて、割って出たってことだな」

「そうだったんですか・・・(銀行じゃあ考えられないわ)」
運ばれてきた車エビの磯辺焼きに、レモン塩を一振りしながら佳奈子がそうつぶやいた。

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