7 / 26
6
斉藤木材
しおりを挟む佳奈子の横顔から魅せられるその思いをかき消して、彰司はさっきの話に戻した。
「栄転祝いの送別会なのに、それはちょっとひどいな」そして
「まあ、あの人は、思ったことを心にためておくことができずに、思わず何でも口に出しちゃう・・そういう性格の人だから・・」
彰司は自分のお猪口にも酒を注ぎながらそう言った。
「まったくですよ。“あの人も四十をこしたいい年して・・・いい加減、やめてくれないかな”なんてみんな思っていましたよ」
やや不満をあらわにそう言った。
そこで、瀬良は佳奈子と目が合った。
瀬良には、彼女の目が(彼からすればひとつ年下ではあるが)なにかしら、柔らかな表情で『まあまあ、おさえて瀬良さん』と・・・言っている様に見えた。
「ところで今日お聞きしたかったのは」
そう佳奈子が切り出した。
彼女は今日が単なる食事会ではなく、勉強会であることはちゃんと心得ていた。そんな、きちんとした性格であるところも東郷は気に入っていた。
「ん?最近気になった記事や案件はあるの?」
彰司からのその問いに
「ええ、先月のネットの記事でしたか、こんなのがちょっと気になって・・」
そう彼女が言うのは
『今回の事件の野際産業は、取り込み詐欺をはたらいた疑いもあり、愛知県警は余罪を追及している・・・』
と言うものだった。
「時々出てきますよね、例えば『地面師詐欺』とか『地上げ屋事件』とか・・。それと同じような、昭和の時代の遺物のようなネーミングの・・・さっき言った『取り込み詐欺』って何なのかなあって。今後もあるんでしょうかね。それとも、令和の今じゃあ、あまり起こりえない事なのかしら」
彰司は答えた。
「今後も、起きる話だよ」
「と言う事は、ウチのお取引先にも起こりうるって・・・こと?」
お酒がすすむと、時々、佳奈子は東郷に対してタメ口になった。
「もちろんだ」彰司はそう言った。
「ただ、これまでオレの担当先ではこの手のゴタゴタは無かったね」
「じゃあ・・・この種の件を実際に経験されたことは・・・瀬良さんは?」
しばらく考えて、東郷は自分の正面にいる瀬良に目をやり、そして言った。
「瀬良・・・あの時の新庄支店での斉藤木材の件って・・・こんなんじゃなかったか?」
瀬良は、しばし記憶をたどるしぐさを見せてそして言った。
「ありました。まさにそれですよ」
その事件は、瀬良が担当の、福岡市西区にある斉藤木材で数年前に起きていた。そして後始末に走り回ったのも瀬良自身だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる