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危険な夏休み編

雷雨【後編】

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窓の外には雷鳴がとどろいた。
「カナちゃんは頭が良くて、しっかり者で、かわいい子やった。雷はいっつも、ちょっかいばっかりしてよう喧嘩してたわ。でも雷が警察学校に入学して、カナちゃんも大学進学して会うこともなくなった。その二人が再会したのが五年前のことやった」
飯塚の父親が大きく溜息をついた。
「雷が摘発した風俗店でカナちゃんが働いとった。それも薬漬けにされて」
柚子は息をのんだ。
「なんでカナさんは…」
「惚れた男が悪かった。ヤクザの下っ端でな。薬の売人もやってたらしい。一人暮らししてたから親御さんも気付かんかった」
かつての幼馴染とそんな場所で再会するなど、思ってもみなかっただろう。
「カナちゃんは捕まって男は逃げた。けど、それでよかったんや。地獄から抜け出せたんやから。カナちゃん、執行猶予がついてな。雷は社会復帰させようおもて、一生懸命支えてた」
「けど、カナちゃんは姿を消してしもた。雷は必死で探した。そして二年後にやっと見つけた時には、薬物の過剰摂取で死んだあとやった。そのヤクザと一緒に」
「どうして。何でカナさんは…」
柚子は湯呑みをぎゅっと握る。
「わからん。薬に依存してたんか、それともよっぽその男が好きやったんか」
飯塚の父親は首を振った。
「雷は心底、落ち込んだ。幼馴染も助けられへん警察官なんて価値がない、言い出すぐらいに。そんで、ある日、上司と喧嘩してそのまま辞めてしもた」
「…そんな事があったんですね」
柚子は溜息をついた。

ーだから、彰吾さんに対して強い嫌悪感を抱いていた。そして私とカナさんを重ねた。

「すまんな、こんな話して」
「いえ。雷さんのこと、よくわかりました」
「話しついでに、一つ聞いてええか」
飯塚の父親が真剣な表情になる。
「何でしょう」
「雷とは恋人同士や無いんやろ?」
「…気付いてたんですか?」
「これでも元警察官や。やっぱりそうか…」
飯塚の父親は寂しそうに笑った。
「あいつに脅されたんか?恋人のフリせえって」
「そ、そんなことは…」
「もしそうやったら、頼む、正直に言うでくれ。あいつはカナちゃんが死んでからおかしくなってしもた。せやかて罪を侵していいわけやない。あいつに罪を償わさせる。それがワシの役目や。お願いや、正直に…」
その時だった。玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「誰や、こんな夜更けに」
「雷さんかも。布団にいなかったので」
二人は立ち上がり玄関へ向かった。
その間、ずっと戸を叩く音が聞こえる。
「柚子ちゃん、離れとき」
飯塚の父親は手近にあったバッドを握り、扉に近付いた。
扉を開けると、風雨と共に、一人の男の姿が見えた。
「誰や、お前!」
「彰吾さん!」
二人は同時に叫ぶ。柚子は駆け出した。
ずぶ濡れの彰吾は、肩から何かを降ろした。それは意識のない飯塚雷だった。
「雷!!」
飯塚の父親は息子にすがりつく。
「彰吾さん!」
柚子は彰吾の顔を掴んだ。
「どうして?!」
ひどい顔をだった。顔のあちこちが膨れ上がり、血が流れている。
「迎えに来たぞ」
彰吾は柚子を抱きしめた。
「彰吾さんっ」
柚子はしっかりと彰吾の背に手を回した。
「お前、うちの息子に何してくれとるんやっ!」
飯塚の父親が彰吾に掴みかかる。
「コイツが先に仕掛けてきた。詳しい話は直接本人から聞いてくれ」
彰吾は睨んだ。
「帰るぞ」
彰吾は一歩踏み出したが、体が崩れ落ちる。
「彰吾さん!しっかりしてください!彰吾さんっ!」
柚子の叫び声が玄関に響く。
しかし、彰吾の目は閉じられたままだった。

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