78 / 88
危険な夏休み編
Life or ...【前編】
しおりを挟む柚子が飯塚に誘拐されて三日目。
「キャーー!!」
柚子は叫び声を上げた。乗り物はスピードを上げ急流を下っていく。
少しして水しぶきが盛大に顔にかかった。
「うわあ、結構濡れるやんけ。子供向けやから大したことない、言うてたのに」
柚子の隣りに座っていた飯塚雷が手で顔を拭いながら言った。
二人の後ろでは小学生達がはしゃいでいる。
柚子はハンカチを取り出し、飯塚の濡れた頬を拭った。
「なんや、優しいな」
「恋人のフリしてるだけです」
ニヤニヤ笑う飯塚に柚子は冷たく言って乗り物から降り走っていく。その先には飯塚の父親がいた。
「お義父様、お待たせしました~」
「楽しかったか?だいぶ濡れとるやないか。おい雷!ケチケチせんと雨ガッパくらい買うたれ!」
「大丈夫ですよ。今日は暑いのですぐに乾きます。次は三人でコーヒーカップに乗りましょう!」
「いやワシは...」
「えー!なんで親父と乗らなあかんねん!」
柚子は飯塚と飯塚の父親の腕を掴み、コーヒーカップへと引っ張っていく。
『彼女らしいことしてくれへんのやったら、携帯を返せへん!』
そう飯塚が駄々をこねたのは、昨日の夜の事だった。
柚子は心外だった。彼女として一生懸命、振舞っていたのだから。
家の大掃除を手伝い、夕ご飯を作り、果ては墓参りまで一緒に行ったのだ。
そう言い返すと「それは、親父に対する『ええ彼女』のフリやんか!」とさらに飯塚は駄々をこねたのだ。
しかたなく、柚子は彼女として遊園地デートすることにした。飯塚の父親を連れて。
「昔ながらの遊園地っていいですね」
コーヒーカップに揺られながら柚子は言った。
「俺はもうちょっとスリルあるほうがええけどなあ。そうや次は一緒にお化け屋敷入ろ」
「嫌です。怖いのは」
「へえ、お化け怖いんや。可愛いなあ、柚子ちゃんは」
飯塚はまたニヤニヤ笑う。
「そう言えば、お前も子供の時、お化け屋敷でよう泣いてたなあ」
「いくつの時の話しとんねん!」
飯塚は真っ赤になって父親にかみついた。
ーまったく、二人ともずっとケンカばっかり。
柚子は苦笑した。
互いに心配してるのにもかかわらず素直になれない二人。
息子と父親の関係は、柚子にとって新鮮だった。
「次は観覧車に行こ!」
柚子の腕を飯塚が引っ張る。
柚子は飯塚の父親も誘うが、高いところ苦手やから、と断られてしまった。
しかたなく二人きりでゴンドラに乗る。
ゆっくりと上がっていき、飯塚の父親の姿がだんだん小さくなっていく。
「やっと二人っきりになれたなあ」
飯塚は柚子の手を握ったまま言った。
「彼女として振る舞いました。だから、携帯を返してください」
「そんなにあの男と連絡とりたいんか?」
「はい。無事だって伝えたいんです」
「案外、心配してへんかもしれへんで」
飯塚は皮肉な笑みを浮かべた。柚子は無視してもう一度「返してください」と言った。
「なあ柚子ちゃん。あの男とは別れたほうがエエ」
「またですか。何度言われても私の心は変わりません」
柚子は苛立ちを隠さなかった。
この三日間、二人きりになると言われてきた言葉だった。
だから、飯塚となるべく二人きりにならぬようにしていたのだ。
「ホンマに頑固やなあ。もっと賢い子やと思ってたんやけど」
飯塚はあからさまにため息をついた。
「お説教は聞き飽きました」
柚子もまたため息をつく。
「別れる、言うまで説教するで。柚子ちゃんの命にかかわる事やから」
飯塚の目が鋭く光った。柚子は思わず後ずさりする。
「あの男と別れろ。せやないと...」
飯塚は柚子の手を強く握った。
「俺は柚子ちゃんを消さなあかんねん」
0
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
クールな御曹司の溺愛ペットになりました
あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット
やばい、やばい、やばい。
非常にやばい。
片山千咲(22)
大学を卒業後、未だ就職決まらず。
「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」
親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。
なのに……。
「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」
塚本一成(27)
夏菜のお兄さんからのまさかの打診。
高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。
いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。
とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~
花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】
この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。
2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて……
そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。
両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!?
「夜のお相手は、他の女性に任せます!」
「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」
絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの?
大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ!
私は私の好きにさせてもらうわ!
狭山 聖壱 《さやま せいいち》 34歳 185㎝
江藤 香津美 《えとう かつみ》 25歳 165㎝
※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる