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土砂降りの日
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「おや……人の子?」
その日は土砂降りの雨だった。里に降りる気はなく、雨の中の散歩を楽しんでいた。そんな時、何処からか赤子の鳴き声が聞こえてきたのだ。さては烏天狗の奴らが捨てていったな、と思い声の主を探してみると、それは山の中でも浅い場所に捨てられていた目の開かない人の子であった。
「どうした、捨てられてしまったのかい?かわいそうに……」
生憎私も今はお腹が空いていない。このまま雨に打たれて寒さに震えるか、はたまた森の奴らが食べるか……どうなったとしても死ぬ。歩くことすらできぬ赤子が生き残ることなど不可能。分かりきったことだ。
「お主、家へ来るかい?」
どうあがいても死ぬのなら、ここで見捨てるのはもったいない。家で育てて、非常食にでもしてしまおう。もしくは、話し相手だ。人間と会話をするなんて一体何年ぶりだろうか。これから数年でそれが叶うと思うと、そこまでの労力なんて大したものではない。人間がどうかは知らないが、赤子の生命力には目を見張る物がある。きっとすくすく育ってくれることだろう。いくつくらいで言葉を話し出すのか、楽しみで仕方がない。
「私は翔華。この山に一人で暮らす妖怪だ。今すぐに取って食おうってんじゃないさ。しばらく、アタシの話し相手になっておくれ」
「あぅぅ~~~……うぇええええ」
「ああ、泣くな泣くな……!ど、どうすれば……」
やっぱり難しいかもしれない…………
その日は土砂降りの雨だった。里に降りる気はなく、雨の中の散歩を楽しんでいた。そんな時、何処からか赤子の鳴き声が聞こえてきたのだ。さては烏天狗の奴らが捨てていったな、と思い声の主を探してみると、それは山の中でも浅い場所に捨てられていた目の開かない人の子であった。
「どうした、捨てられてしまったのかい?かわいそうに……」
生憎私も今はお腹が空いていない。このまま雨に打たれて寒さに震えるか、はたまた森の奴らが食べるか……どうなったとしても死ぬ。歩くことすらできぬ赤子が生き残ることなど不可能。分かりきったことだ。
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