上 下
168 / 174
XIX.心無い人間はいない【翻邪帰正、呑刀刮腸】

Patience et longueur de temps font plus que force ni que rage.

しおりを挟む

「ねぇ、レオ」

「なんだ?」

「なんで、アリシアが十六になったら帰ってくるって言ったの?」



 疑問その一。

まずは、彼の言動を洗うことから始めようと
キースよろしく寝転ぶ私を後ろから抱き寄せる彼へ問いかけた。


身じろいで振り返った先に見えた彼は
嫌そうに顔を歪めながら私を見ていて。



「お前のその情報源は誰だ?」

「……それは、言えないけど」



 私がどこまで知っているのか、不安になってしまったようだ。


ただ、「シャルとアリシアから聞いたの」
なんて言えたものではなく。

下手に打首にはさせたくないと言葉を濁した。



「世継ぎを作る為だ」

「え……?」 



 すると、彼がすんなりと答えたことに驚いて、
無自覚にも聞き返す。


私の阿呆みたいな声を聞いたレオは鼻で笑いながら、
少し間をおいて声を出した。



「皇帝は、キースでも代わり気取れるが、
子供は後々俺の子じゃねえってバレたら面倒だろう」

「……なるほど」

「本当はやることだけやって、
また消えるつもりだったんだよ」



 お前がいたせいで予定が狂っちまったがな、と
何故か私に責任を押し付けるレオは
言葉とは裏腹に私を抱き締めた。

この国に、素直な王子様はいないのだろうか。


 まぁ、それはおいておくとしても。

シャルもアリシアも彼が帰ってくる理由を
勘違いしていた、ってわけね。


……結局は最低なことに、変わりないかもしれないけれど。

責任を放棄して、キースに押し付けて
自分だけ逃げ出そうとしたのだから。


 煮え切らない思いを頭内で浮かべていると
なにやら厭らしく這いずり出した手の存在に気づく。

曝けた太腿を撫でるその手つきは、
まるで行為の前と同じ。



「レ、オ」

「……触るくらい、いいだろ」



 ……この男は本当に。

どうやら煩悩が振り払いきれていないようだ。


「あらそう、分かった」
 そう言って辞めようとしないレオに
ぐるんと向き直って。

わざとらしく無防備に四肢を投げ出してやった。



「どうぞお好きになさって」

「……チッ!!」



 大きく舌打ちをかましたレオは
少しばかり悔しそうにまた私を後ろから抱き締めて。

行き場の無くなった欲を愛に変えて
私の背にぐりぐりと頭を押し付けた。






【忍耐と長い時間は、力よりも怒りよりも多くのことをする】
Patience et longueur de temps font plus que force ni que rage.

(あぁもう。なんだか愛おしくなってきてしまった)
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...