俺様奴隷と美しい恋をする為に茨の道を参ります

IV.死をも畏れず愛を育む【刎頚之交、背水之陣】

Il ne sert à rien de déshabiller Pierre pour habiller Paul.

「おゆきなさい、二人とも」



　言わずもがな、目の前に立っていた母様を見据え
叔母様は私達を庇うように立ち言い放った。



「で、でも、」

「いいのよ。
この頭勝は少しお灸を据えてやらなきゃ、
分からないみたいだからね」

「……それはどういう意味かしら、姉様」

「そのままよ。
なんでもかんでも力でねじ伏せようとするのは
違うんじゃなくて？」

「なら、伺いましょう。
姉様はその男を誰か分かって彼らの肩を持っているの？」



　母様と叔母様のやり取りを見つめながら、唾を飲んだ。


まずい。

いくら慈悲深い叔母様でも、
彼が奴隷階級だと分かったら何を言われるか。


　母様の卑しさしかない表情を見て、
自分の身の振り方を必死に考え抜いていれば。


叔母様は驚くどころか、何故か妖しく笑った。



「……私の理念を貴女に教えたことは、なかったかしら」



“誰にだって人権はあって当然。
それが喩え、世に認められないものだとしても”



　強い声でそう告げた叔母様に目を見開いた。

この人、全部、知って――――



「叔母、様」

「分かったらさっさと行きなさい。
オオトリ、彼女達を連れて行って」

「……承知致しました」



　何も言わず傍に立つだけだったオオトリに
吐き捨てるよう命じた叔母様は
彼に裏門の鍵を投げ渡した。

「行きましょう」
淡々と言い放ったオオトリの腕を掴んで制止する。



「待ってオオトリ、叔母様が……！！」

「アリア様」

「！！」



　これが、貴女のしたことの、報いです。



“甘えごとを抜かすな”



そう顔に書いてあるオオトリから
色の無い、酷く冷たい瞳で言われた言葉に
気圧されて声を殺した。






【ピエールの服を脱がしてポールに着せても意味が無い】
Il ne sert à rien de déshabiller Pierre pour habiller Paul.

(そんな冷たい顔されたら、何も、言えない)