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第93夜 1人になってはダメ

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私は大学生の時、4階建ての寮の301号室に住んでいました。
その寮は4人部屋で、基本的に各学年が1人ずつの部屋割りでした。
入寮した日に同じ部屋の先輩達から
「絶対この部屋で1人になっちゃダメだよ」
と言われました。
理由を聞くと、昔301号室に住んでいた生徒が亡くなってしまい、それから301号室に1人でいると心霊現象が起きるからとのことでした。
先輩達は気を使ってくれ、私が部屋で1人になることがないようにスケジュールを調整してくれました。
しかし、私はあまり霊や怪奇現象などを信じていなかったこともあり、先輩と常に一緒にいる生活にとてもストレスを感じていました。

大学に入学してしばらく経ったある日、私は部屋に忘れ物をしたことに気付き、取りに帰ったことがありました。
そうです。
初めて部屋で1人になることになったのです。

部屋のドアを開けると、誰もいない自分の部屋をとても新鮮に感じました。
忘れ物を見つけ、すぐに部屋を出ようとしたのですが、少し髪を整えようと洗面所の鏡の前に立ちました。
手櫛で前髪を整えていると、部屋のドアが開くガチャという音が聞こえてきました。
先輩が帰ってきたのかなと思って、洗面所から顔を出してドア付近を見ましたが、ドアは開いておらず、誰もいませんでした。
おかしいなと思ったその時、
「ガシャン!!!」
と大きな音がしました。
見ると、洗面所の鏡が粉々に割れていました。
私は驚きのあまり、その場にへたり込んでしまいました。
私がそのまま呆然としていると、部屋のドアをノックされ、
「すごい音したけど大丈夫ー?」
と外から声をかけられました。
私は這うようにして洗面所から逃げ、助けを求めようとドアを開けました。
そこには誰もいませんでした。
後で聞いて回りましたが、寮生はみんな授業に出ていたりバイトに行っていたりしていて、その時間帯は誰も寮内にいなかったのです。

同じ部屋の先輩には
「だから言ったでしょ?この部屋ではうまく1人にならずにやっていくしかないのよ」
と言われました。
それから4年間その部屋に住みましたが、入ってくる後輩には毎年、
「この部屋で1人になっちゃダメ」
と伝え続けました。
でもやっぱりみんな1人になっちゃうんですよね。
その度に後輩を慰めさせられました。
卒業して10年以上経つので、今でもあの部屋が使われているかどうかは分かりません。
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