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第42夜 透けている

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僕には、隣の家に住む同い年のS君という幼馴染がいました。
家族ぐるみで仲が良かったので、僕の親が仕事で遅くなる日は、S君の家で夕飯をご馳走になることもありました。
ある日、S君の家で夕飯を食べていると、S君がテレビに出ていた俳優さんを指差して言いました。
「ねぇ、あの人の身体、透けてない?」
僕はテレビ画面に近づいて確認してみましたが、透けているようには見えませんでした。
S君の両親も透けているようには見えないと言っていました。
S君は不思議そうな顔をして、テレビをじっと見つめていました。
次の日の朝、その俳優さんが亡くなったことをニュース速報で知りました。
僕は昨日のこともあり、
「S君は死ぬ人が分かるんだ!すごいんだ!」
と興奮気味に学年中に言いふらしました。
それが思いの外盛り上がってしまい、S君は
「また透けている人がいたら教えて」
とみんなから言われていました。

S君はそれから何人もの人の死を予言しました。
有名人だけでなく、学区内にある駄菓子屋のおばあちゃんの死も見事に言い当て、S君はちょっとした人気者になっていました。
すると、それが面白くない人も出てきます。
クラスの委員長が帰りの集会で
「S君の行為は不謹慎だ」
と糾弾したのです。
S君は先生に
「もう二度と人の死で盛り上がらないように」
と言われ、それからは死の予言を一切しなくなりました。

S君は僕と同じ中学、高校に進みましたが、大学は僕は地元、S君は県外と別れてしまいました。
S君はお盆とお正月以外は帰ってこなくなり、僕たちはだんだんと疎遠になっていきました。

しかし、大学4年の6月のある日、S君が突然帰ってきたのです。
僕はS君に会えたのが嬉しくて、
「久しぶりに遊ばないか」
とS君を誘いました。
すると、S君は悲しそうな顔で言いました。
「今日は家族と過ごしたいんだ。ごめん」
僕が
「何かあったの?」
と聞くと、S君は言いました。

「僕の身体が透けてるんだ」

翌日の朝、救急車のサイレンの音で目を覚ましました。
僕は
「あぁ、S君だな……」
と思って、涙が止まらなくなりました。
S君は、寝室で眠るように亡くなっていたそうです。

あれからずっと独りで人の死を見続けていたんだなぁと思うと、S君が気の毒に思えてなりません。
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