上 下
9 / 15
精霊の祝福

6 遺跡の探索

しおりを挟む

すっかり日が高くなる頃、遺跡の入り口に着いた。
鬱蒼とした森の中に佇む遺跡は雑草や蔦にまみれていて、入り口から奥は真っ暗で何も見えない。
遠くから聞こえる鳥の声が不気味でいかにもな雰囲気がある。

ごくり、と生唾を飲み込むリリーをよそに探索だ!とラーニッシュはずかずかと遠慮なく入って行った。

「ここには何度も来た事がある。危ないものはないし、魔物の出入りも少ないから問題ない」

そう言うとヴィントはすっと指を動かした。
壁に沿って外灯が設置されているらしく、指先から放たれた魔法で火が入る。
内部が照らし出された遺跡は少し埃っぽいが綺麗に積み上げられた石壁と、どこかに通気口があるのか冷たい風が入りこみ歩きやすい。

「何度も来た事があるのにまた行くんですか?」
「まだ探索してない所があるかもしれないだろ」

とラーニッシュ。
……本当だろうか?

「そんな所はない」

言い切ったヴィントは小声で付け加えた。

「満足したら帰るだろうから子守りと思えば良い」
「子守り言うな!」

聞こえてるぞ!と叫ぶラーニッシュの声が石壁に反射してこだました。
リリーはうわついた心を落ち着かせようと大きく息を吸って吐く。

故郷の惑星ティースではほとんど外に出ず過ごした為こんなに長く出歩くのは初めてだし、本で見たような遺跡に入れるなんてまるで夢のようだ。
……失敗したり足手まといになったりしないようにしなければ。
自分を落ち着かせるために話を振った。

「私、魔物って……本でしか見たことないです」
「人より大型で攻撃的な動物のようなものだ」

答えるヴィントに、

「大人しくて攻撃してこないタイプもいますよ。火を怖がるので人の住処を襲ってくるのは稀です」

トルカが付け加える。

「このあたりはあらかた大型の魔物は倒してしまったからなぁ。退屈だ」

先頭を歩くラーニッシュが言った。
……退屈しのぎに魔物と戦わないでほしい。

「魔獣……も出ますか?」

先頭のラーニッシュが歩みを止めて言う。

「やつらは……もういない。魔王を封印した時にな。一緒に封印した」

魔王の話。
すっかりどこまで真実なのか聞き出しそびれてしまったが、やっぱり雲に封印されているという話は大筋合っているらしい。
聞いても良いのだろうか?隣を歩くヴィントを見た。
外灯の炎を映し出して橙色に揺らめく金の瞳と目が合った。

「王が魔王を封印した時の話か?」
「ええと……」

聞いても?と問いかけると再び歩き出したラーニッシュが答えた。

「聞くも何も……とんでもねぇ野郎だったからあのピンクのゆめかわふわふわ雲に押し込めて封印しただけの話だぞ」
「ピンクのゆめかわふわふわ雲……」

ぐふっと笑いが漏れてリリーは口を覆った。
確かにゆめかわなふわふわ雲で表現は的確だが何であんな事になったのだ。
何とも度し難いという顔をしたヴィントが、

「奴は人の恐怖や不安……嫉妬などという負の感情で強くなるからな。あれを見ても恐怖心など抱かないようにということらしい」

と言った。
何だか気の抜けるゆめかわにはきちんと理由があるらしい。

「確かに……あれを見ても怖いとは思わないかも……」 
「あの雲はですねえ、大魔術師クルカン様が魔法で作ったんですよ!」

前を歩くトルカが振り向きざまに目を輝かせて言った。

大魔術師クルカン。初めて聞く名前だ。

「王様とヴィント様が魔王を追い詰めてクルカン様の雲に閉じ込めて、世界は平和になったんですよー」

とトルカは続けて言う。
クルカンには会った事がない。エライユのどこかにいるのだろうか?

「すごい大魔術師様なんですね……」
「奴の大魔術師は自称だからな」

ラーニッシュが振り返らずにひらひらと手を振る。

「自称……」
「面白い大魔術師様でしたよねー!虫が大嫌いで、初めてここに来た時も落ちてきた蜘蛛にびっくりして入り口ふっとばしちゃったんです」
「えぇ……」
「その後に補修したからここの入り口は綺麗なんだ」

ヴィントの説明にはは……とリリーは乾いた笑いをこぼした。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こちら救世の魔女です。成長した弟子が私のウェディングドレスをつくっているなんて聞いていません。

雨宮羽那
恋愛
 私、リラは国一番の魔女。  世界を救って15年振りに目が覚めたら、6歳だった私の可愛い弟子が、ミシンをカタカタさせながら私のウェディングドレスを作っていました。  挙句、「師匠が目覚めるのを待っていました」「僕と結婚してください」と迫ってくる始末。  無理。無理だから!  たとえ21歳の美青年で私の好みに成長していようと、私にとっては可愛い愛弟子。あなたの想いには応えられないので溺愛してこないでください!  15年ぶりの弟子との生活(アプローチ付き)に慣れたと思ったのもつかの間、今度は元婚約者の王太子(現国王)が現れて……? ◇◇◇◇ ※カクヨム様に同タイトルで中編版がありますが、微妙に異なる部分があります。 ※こちらのver.は10万字前後予定の長編です。 ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」様にも掲載予定です。(アルファポリス先行)

【完結】婚約破棄し損ねてしまったので白い結婚を目指します

金峯蓮華
恋愛
5歳の時からの婚約者はひとりの女性の出現で変わってしまった。 その女性、ザラ嬢は学園中の男子生徒を虜にした。そして王太子、その側近も。 私の婚約者は王太子の側近。ザラに夢中だ。 卒園パーティーの時、王太子や側近は婚約者をザラを虐めた罪で断罪し婚約を破棄した。もちろん冤罪。 私はザラに階段から突き落とされ骨折してしまい卒園パーティーには出ていなかった。私だけ婚約破棄されなかった。  しがらみで仕方なく結婚するけど、白い結婚で時が来たら無効にし自由になるわ〜。その日が楽しみ……のはずだったのだけど。 作者独自の異世界のお話です。 緩い設定。ご都合主義です。

【R18】嫌いで仕方のない相手なのに惚れ薬をかぶりました

AMふとん
恋愛
犬猿の中であるミエルとイース。互いに嫌いで仕方がないのに、頭から惚れ薬をかぶってしまった。 「おい、お前! あっちにいけ、可愛い顔してんじゃねえ!」 「しているわけがない、この頭でっかち! あなたを好きだなんて嫌過ぎる!」 互いを罵り合うのに、顔を合わせれば手をつないだり、キスをしたくなる。 嫌がりつつも、彼らの行為はどんどんエスカレートして……?

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...