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編集者さんと。
4話 秘密
しおりを挟む(杏里side)
物心ついた時から自分は人と違うんだと思い始めていた。
「それじゃあ皆、大きな声でご挨拶しよ~!」
大きな音が苦手で声が小さくて、
「「はーい!」」
「っ……!」
どんな些細な事でも驚いてしまって、怖くて、
「杏里くん、もっと大きい声出せるかな?」
「っ…ぁ、……ぇ…っと、」
幼稚園に入った頃から、既に周りに上手く馴染めなくて、
「杏里くんと遊んでくれる人~」
「えー…いや!あんりくん何言ってるかわかんないもん…!」
周りの子の言う事に振り回されて、無理に頑張ろうとして、
小学生に入る前には人と話す事が苦痛で仕方なくなった。声を出す事に恐怖を感じるようになった。
…けど、小学生になってから、
「杏里、一緒に帰ろ!」
そんな僕を受け入れてくれる友達が出来た。
…実際に打ち解けるには時間がかかったけど、それでも幸せで、
僕にはこの子がいればいいと思ってた。
……それでも、
「今日は五十嵐が風邪で休みだな」
幸せな事ばかりでは無かった。
「今日飛雅いないのか……なぁ、鈴鹿」
「………ッ、」
飛雅が居ない時、僕は決まって同じ人物に呼び出されて、
「……ッぁ"…!」
先生もいない他のクラスメイトもいない場所で何度も何度も暴力を振るわれた。
「お前本当に気持ち悪いんだよ…さっさと死ねよ根暗野郎」
その子は僕の事が大嫌いだったらしく、飛雅とは仲が良くて、
だから誰にも助けを求められなくて、
飛雅にも迷惑かけたくなかった。
友達を失ってほしくなかった。
だから我慢し続けた。
………でも、
「は…?飛雅、お前東高落ちたの?」
飛雅が僕と同じ高校の受験に失敗して、
飛雅に合わせて僕達と同じ高校を受験したあの男が受かってしまった。
あの人と僕は同じ高校で、クラスメイトになって、
「鈴鹿ー、金貸してくんね?」
「は…?何根暗のくせして反抗してんの?死ねよ」
「お前は生きてる価値無いんだよ、早く死ねってば」
…堂々とクラスメイト達の前でいじめるようになっても、誰も助けてなんてくれなかった。
「勉強のストレスこいつで発散すればいいよ」
「まじで?最高じゃん」
「こいつ何も喋んねぇもんな、じゃあいっか」
段々人数も増えて、
………それだけでも限界だったのに、
『5番線に電車が参りますー………』
…ある日の通学中、満員電車に乗っていた時。
「…………ぇ………?」
つり革を掴んで立っていたら、後ろから体に触られる感覚がして、
「静かにしててねぇ……、って声出せないか」
知らない男の湿った手の感触が忘れられなくなってしまった。
学校近くの駅に降りた頃には何も考えられなくなっていて、
「…トイレ行こっか?」
………その日から僕は、二度と電車には乗れなくなった。
学校にも行けなくなって、あの日の感触が忘れられなくて何度も夢に出てきては眠れなくなって、
………何もかもが限界で、
人と会う事自体苦痛になってしまった。
ーーー
「杏里、今日仕事終わったらまた来るけど、何か食べたいものある?」
この事は飛雅には言えずにいる。
再会したばっかりだし、暗い話も出来るだけしたくないから。
(あの人………飛雅とは仲良かったし)
なんとなく言って自分と飛雅の関係が壊れるかもしれないと思ったら怖くて、
「…シチュー食べたい………」
「分かった、じゃあ材料買ってくるから」
……それに、あの人の事はもう思い出したくもないから。
ーーー
「こんにちは!商品お届けに参りました!」
今日もお昼はmeberに頼んだ。
夜はシチューだから軽くと思って、サラダと飲み物だけにして、
「鈴鹿さん、今日は軽いですけど足りますか?」
「………だ…大丈夫……です、」
毎日同じ人が来てくれるからこの人には少しずつ人見知りも慣れてきて、
「…いつも、ありがとうございます………、……天ヶ瀬さん。」
いつも来てくれる、茶髪に金色のインナーカラーが特徴の爽やかそうな青年。
「…はいっ!俺で良かったらいつでも呼んでくださいね!」
ーーー
夜。
「…おかえり………飛雅。」
少し遅い時間に、飛雅がシチューの材料を持って来てくれた。
「ただいま……、ごめん、遅くなって」
「…ううん、野菜は切っておいたから………」
シチューの準備はしておいた。
「上着預かる……、…お風呂入る?」
「ありがと…、そうさせてもらおうかな。」
上着を預かってハンガーにかけて、シチューの素を預かって、
…………ふと、気になった。
「…………飛雅………、」
「…ん?」
「見ないうちに筋肉ついた………?」
...
「……っぇ…?」
「なんか…がっしりしたような………細いのに、」
シャツ越しだから普通に見たら分からないけど、中学の時と比べてしまった。
「そ…そうかな、」
「………うん……、…見てもいい?」
「……っえ、」
許可を得る前に見てしまった。
「………ッあ…杏里……?」
シャツを捲ってみたら思ってたより筋肉がついてて、
「…………すご……、」
…………これは、
「っ杏里、やめ」
「新しいキャラクター、思い付いた………!」
……………
「…え…………?」
「細いけど筋肉質なキャラ…性格は優しくてでも少しドS………、…あ、糸目でもいいかも…………」
………考えていたら、
「ッ……飛雅…、新キャラ、どうかな………?」
「待って頭追いつかない」
ーーー
「とりあえずそのキャラ案は後日、ストーリーとの兼ね合いも見て考えよう」
何故かソファに正座させられた。
「………?」
「…あのな、杏里はちょっと距離感おかしい」
………??
「…他の人にはやるなよ、俺ならギリいいけど」
……他の人………、
「しないよ……、…飛雅としか、話せないし………」
飛雅以外の人と話なんて出来ない。
………どうしても緊張してしまって、
「…でも、meberの人とは話せるんだろ?」
「………うん…、……少しだけど。」
「じゃあ完全に話せないなんてことは無いよ」
………なんて、
「…………」
「…ねえ、杏里。」
…………
「明日休みだから、一緒に外に出てみない?」
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