ゆうみお R18 お休み中

あまみや。

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宝条海斗

サプライズ

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東京にいる海斗が未来斗の為にチョコレートを作った話。
本編のみくかの後日談っぽいです。


ーーー

(海斗side)


2023年2月13日、夜。


「…よしっ!」


あと数時間で日付が変わろうという頃、俺は台所に立って意気込んでいた。


『俺から隣に居たいって言うから、ちゃんと好きだって言うから、待ってて欲しい!』


そう言ってくれた『仮』の恋人へのバレンタインチョコ。


(絶対、成功させたい…!)



ーーー


作るのはガトーショコラ。

チョコレートを砕いて溶かして、バターを加えてさらに溶かしていく。


いつもお菓子は作っているけど、バレンタインともなるとちょっと特別感がある。

今年は平日だけど講義は休みだから時間はあってまあ時間には恵まれている。


…ただ、



(ここから未来斗の家まで……遠いな)


未来斗の家は福島。俺の住んでいる東京からは遠い。


その距離が大変だけど渡してあげたい気持ちはあるから、頑張ってみたい。


「海斗、どう?ちゃんと作れそう?」
「…!兄さん、大丈夫だよ」



兄にも協力してもらってなんとか作ることが出来た。




ーーー


……当日。



「これ持って電車乗るのやだなぁ……」


いかにもというケーキの入った白い箱。


「悪い、今日は遠出しなきゃいけない仕事があるんだ」
「あ、いや…ううん、平気。仕事頑張って」


父親も頼れなければ車も無い。

という訳で電車という手段しかなかった。


朝早くの電車に乗って、福島へ向かった。


「兄さん、ありがと…俺1人だったら恥ずかしくてここまで来れなかった」
「ううん、俺で良ければ付き合うよ」

…でも、


(兄さん……運転免許とか、持ってないのかな………)


確かに大学生だけど、この人今年でにじゅうは「そういえば未来斗君には連絡したの?」


連絡、


「してない、サプライズしたいなって」
「そうなんだ…じゃあ、いない事もあるんじゃ」
「あ……どうしよ、それ考えてなかった」



………不覚。


他の身内に聞くことも出来ただろうけど、未来斗以外とは連絡先を交換していない。



「まあいなかったらかんがえよっか、渡せるといいね」
「うん……そうだな」



……未来斗、喜んでくれるといいな。





(…正直、渡せなければいいなって思うけど。…弟の恋を応援する優しいお兄さん演じるのきついなぁ)


何故か兄さんの目が遠くを見ていた。



福島について、未来斗の住んでいる三坂市の駅で降りた。


「懐かしい…少ししか離れてないのに、すごい懐かしく感じる」
「そうだね、俺もここ好きだな」


駅前から歩いて住宅街へ向かった。



しばらく歩いていたら、俺も住んでいた住宅街へ辿り着いた。


(もうすぐ未来斗と会える……緊張するなぁ)
「海斗…顔赤いけど大丈夫…?」
「っ大丈夫、だい…じょぶ」


これ、未来斗に会ったらさらに赤くなるのでは………



ーーー

帰り道、未来斗とよく寄っていたコンビニ。


曲がれば俺の住んでいた家に繋がる道の曲がり角。


遠くに見える皆で遊ぶ時に待ち合わせ場所にしていた公園。


思い出が蘇ってきて、懐かしくなった。



「……ついた」



見ているうちに、ついてしまった。



「俺あっちで待ってるね、行ってらっしゃい、…あ、もしゆっくりしてってなんて言われたら兄さんの事は気にせずお邪魔しちゃって!」
「兄さん……、…それは、断るよ」


ちょっと苦笑いしつつ、意を決して呼び鈴を押した。


この間もだけど、この家の呼び鈴を押すのは毎回緊張する。


(このドアを開ければ未来斗に会える、…あぁ、駄目だ……)


顔が赤くなっていくのを止められない。


こんなの見られたくはないけど、もう押してしまったものは仕方ない。



ドアを開けたのは女の子だった。



「…あ、妹さん」
「!海斗さん、お久しぶりです」



未来斗の妹…明日香さん。


明日香さんは少し驚いたあと、嬉しそうに笑って、でも気まずそうな表情になった。



「お兄ちゃんですか?…すみません、今出掛けていて、帰りは夕方になるって」



…どうやら、外出中だったらしい。



「夕方…夕方か……」
「…あ…えっと、良かったら待ちますか?お茶出しますよ」


出来ればそうしたいけど、未来斗もいないのにそれはちょっと気まずい。


「えっと…どこに行ったか分かりますか?」
「あ、えーっと…確か、……隣町?だったかなぁ、澪と……い、いやでも連絡すれば帰ってきますよ!!ていうかもう明日香電話しますからここで待ちましょう!!」


……なんか、明日香さんの様子がおかしい。


「…い…いえ!俺から会いに行きたいんです、…何も連絡してなかったから仕方ないです。隣町ですね?分かりました、探してみます」


どうしてか分からないけど、そうしたくなった。



「……!……、………あの、それ……バレンタインの……チョコとかですか…?」
「!!」


明日香さんは俺の持っている白い箱を見ていた。



「あ…き、気持ち悪いですよね…すみません、すみません」
「…バレンタインのチョコなんですか?」


少しむっとしてもう一度同じ質問を投げかけられた。

それにしり込みしてしまい、つい、


「そうです!!未来斗に渡したいチョコです!!!」



…外に人も歩いているというのに、入口でそう叫んでしまった。



でも、そう言ったら明日香さんは嬉しそうに微笑んでみせた。



「それなら私は協力するまでです!何も気持ち悪くなんてないですよ、兄の為にありがとうございます。」


兄の為。…未来斗の為。


恥ずかしいと思っていた気持ちが、この人の笑顔で消えていくのを感じた。


(渡してもいいんだ…良かった)



自信が少しついたような、視界が明るくなる感じ。



「それ、悪くなるといけないのでうちの冷蔵庫にいれておきます。兄がいるのは隣町の〇〇モールってところです。」


詳しい場所まで教えてくれた。



「え…知ってたんですか?」
「さあ行ってください!!あ、そちらのお兄さんはどうしますか?」


…お兄さん、



「え、あれ、俺バレてた?隠れてたのに」
「バレバレですよぉ、明日香的にはお兄さん、多分邪魔になると思うのでここで募る話でもしませんか?」


塀の後ろに隠れていた兄さんが捕まった。


ガトーショコラを明日香さんに預けて、一礼する。




「ありがとうございます…お願いします!」



ここまで来るのにすごく労力を使ったし、散々緊張や恥ずかしさで帰りたくもなった。



(だけど今は、…大丈夫な気がする)




あの人に会いたい、その一心で走り出した。





ーーー


(そういえば明日香さん、なんで最初、場所隠してたんだろ)


まあ…そのうち分かるかな。


電車で隣駅について、教えられた場所に来た。

ここに未来斗がいる、…そういえば澪もいる。


フードコート、服屋、アクセサリー店にペットショップ。


(どこだろ…見つからない)


あまり広くないからすぐに見つかると思ったのに、



もう1回回ってみようともう一度歩き出した、その時。



「お腹空いた、フードコート行こう」
「澪はそればっかりだな…付き合ってくれたのは嬉しいけ………ど」



歩いている人の流れの中に、2人の姿が見えた。


それは向こうも同じだったようで、




「…海斗!!?「見つけた!!!」えっ」



感極まって抱きついていた。




「えっ、あ、何…?!ちょっと、海斗!?」



やっと見つけた、


未来斗の匂いがする、声がする。



(落ち着く………)



永遠に感じられるくらいの時の中、そんな時間は案外すぐに終わっていた。


「離れろ…っ!」
「あ」


引き離された。



「み……、


みく"と"ぉ…なんで……?」




未来斗に嫌われた………





「え、あ、ごめん…じゃなくてなんでここに海斗が……?………澪、ほっぺたつねって」
「はい」ぐぃ
「あ痛いめっちゃ痛いほっぺた取れる、……夢じゃない」


せっかく会えたのに、引き離されるなんて思わなかった。


「俺の事嫌いになった……?」
「いや、急でびっくりしただけ。なんでいるの…?」



…なんでって、




「未来斗に、チョコ…渡したくて」




普段は言えない言葉がスラスラ出てきた。



「チョコ……?……あ、そういえば今日、」
「バレンタインだ」



すると、途端に未来斗が真っ赤になった。


「お、俺の為にチョコを…!!?嘘、うそっ、なにそれほんと?!!」
「ほんとだよ…?」グス
「っ~、……あ、あぁぅ………」


未来斗に会えたことと嫌われてはいなかった嬉しさで少し精神的に幼くなってしまった。

涙を拭いて、真っ直ぐに未来斗を見る。



「…未来斗、俺未来斗の事好きだよ、チョコレート、受け取って欲しい…!」



今は手元に無いけど、それはともかく。



「…っうん……ありがとう海斗。俺も海斗の事好きだよ!」





未来斗に、喜んでもらえた………。




それだけで一生残る思い出になった。








「公衆の面前で告白し合うのはいいけど、僕の事忘れないで」
「「あ…ごめん」」



澪が一瞬見えてなかった。




ーーー


帰りは一緒に電車で帰った。


「そういえば未来斗、何買ってたの?」
「あ、…えっと…内緒。」
「え、なんで……」
「海斗、何作ったの?」
「あ、ガトーショコラだよ。明日香さんに預かってもらってる」



家について、早速ガトーショコラの箱を開けてもらった。



「…わぁ…!すっごい美味しそう……」
「形、崩れなくてよかったね、海斗」
「うん…良かった!電車で来たからさ」
「え…そうなの?じゃあ泊まってってよ、もう遅いし今日両親いないから………」



急な泊まり……いつもなら躊躇うけど、



「あ…迷惑じゃなければ、お言葉に甘えたいな」
「決まり!あとで布団用意するな!」



今日だけは素直でいたい。



(いや……出来れば、これからも)





素直に好きだって、これからも言えたらいいのに。







ーーー


2月15日、夜。


「今日は楽しかったなぁ…未来斗も明日香さんも澪も、ガトーショコラ喜んでくれて良かった」


心残りを言うなら最後の見送りの時、未来斗が急にお腹を壊してトイレに行っている間に電車が出てしまって挨拶できなかったこと。



……でも本当に楽しかった。



(あ…日付変わる)




あと数秒で2月16日。



(…そろそろ寝るか)




勉強道具を引き出しにしまって、ベッドに移ろうと数歩歩き出した。



「あ…もう変わりますよ!義兄さん」
「ほんとだ…いい?さんにーいちだからね、さん、にー………、いち!」




…そうして日付が変わった、瞬間。



突然部屋のドアが開いた。



「「誕生日おめでとーっ、海斗!」」






...






「……え」


そこには兄さんと、…未来斗がいた。



「19歳のお誕生日だよ海斗!兄さんの弟にうまれてきてくれてありがとう!!」
「海斗…えへへ、実はあの電車、俺も乗ってた」


……あ、



「そ…そういうこと…?」
「びっくりしたよー未来斗君駅にいたから。夜まで俺の部屋に閉じ込めてたんだぁ」


そういえば今日は俺の誕生日だった。



「……あ、ありがとう………びっくりしたけど嬉しい」
「良かった…、それでなんだけど、これ」


そう言って未来斗がくれたのは、綺麗にラッピングのされた袋だった。


「一昨日の買い物、あれ海斗の誕生日プレゼント選んでたんだ。だから秘密にしたくて………」
「…!そういう事だったんだ………」


だから明日香さん、隠してたのか。

許可を得て開けてみたら、中にはマグカップが入っていた。


「可愛い…犬のマグカップだ、…もしかしてこれ、ペアになってるとか?」
「よく分かったな…もう一個は猫。なんか海斗って猫みたいだから、これなら離れてても寂しくないかなって………」

ちょっと照れくさそうに話す未来斗に自然と笑みがこぼれてしまう。


「じゃあこれは未来斗だな!離れてても寂しくないよ、これがあれば」


ずっと一緒にいるみたいで、



「ペアなんて恥ずかしいかなって思ったけど、喜んでくれたら嬉しい!」
「何言ってるんだ未来斗、ガトーショコラの箱を東京から福島まで電車で運んできた俺にそれ以上恥ずかしいことなんてないぞ!!」
「わあ強い」



何はともあれ、すごく嬉しい。



こんな短期間に最高の思い出が2つも出来てしまった。




「ありがとう……本当に大好きだよ、未来斗!」






素直に伝えたその言葉に、未来斗も同じように俺に伝えて、笑ってみせた。






…ちなみに兄さんは無言でプレゼント待機してた。


ーーー


おまけ


「ていうか未来斗、一昨日も昨日も休みだったな、澪は昨日は仕事だったけど…、そんなに長く有給使ったのか?」
「えっ、あ、うん!年中有給的な?!」
「え?」


未来斗がその年浪人していたことを知るのはもう少し先。




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