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双葉澪
夢の中 再アップ
しおりを挟む昔書いていたものを再アップします。
完結はしていないので丁度いいところで終わらせます。
ちょっとファンタジーめ。
ーーー
俺は、ある夢を見た。
(ここは………)
見渡す限りの綺麗な花畑、こんな場所には清楚で華麗な白いワンピースを着た美人が似合いそう、そんな下らないことを考えながら、花を踏まないように気をつけながら自分の思う「前」へ進んでいく。
―――この先に、何かあるかもしれない、そういう期待があったからだ。
しばらく歩き続けて、俺はようやく遠くに人影を見つけた。
……しかしそれは、清楚でも華麗でもない、普通の、小さな子だった。
身長はとても小さく、黒髪の柔らかそうな髪に、タレ目よりのジト目、それは、清楚で華麗な女性よりも、断然俺の好みだった。
(可愛い……女の子みたいに小さい、けど、あの子………)
不思議に思って近くへ寄ってみる
………やっぱり。この子は、男だ。
遠くからじゃ目を凝らさないと分からないけど、近くにこれば意外とわかりやすいものだった。
「……君、名前は?」
気がついたら、そう聞いていた。
男の子は、少しおどついて、
「双葉……澪。」
そう、呟くように答えた。
双葉 澪、名前まで女の子っぽい、これで男なんだから、世の中ってわからない。
「俺、早苗 優馬、えっと……澪さん、って呼べばいい?」
なんとなく笑いかけて、こんな所であったのも何かの縁だと握手を誘うように手を差し伸べた。
澪さんは、まだ少しおどおどしながら、
「触って、いいの……?」
と、上目遣いで聞いてくる。
(可愛い……)
本人はきっと無自覚でやってるのかな、なんて。
「うん!」
「ぁ……じゃ、じゃあ………」
警戒がとけない中、澪さんは頑張って手を出した。
しかし、手と手が触れ合った次の瞬間、
「っ……!」
ものすごい速さで、澪さんは手を引いた。
「!」
思わず驚き、澪さんを見た。
彼の顔は、何かを恐れたように汗だくで、青白くなっていった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ひっ…あ、ごめんなさい、人に触れるなって、言われてて………」
えっ?
「なにかの、病気なの……?」
「……違います、けど、その、先輩に言われてて………」
先輩?
先輩に、束縛されてるってことか……?
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい………」
恐怖に怯えるその姿は、まるでうさぎのようにも思えたけど、顔色を見ると全然そんな可愛いものではなかった。
「現実で……何かあったんですか?」
……まぁ、この人が現実にいるのかなんて、知らないけど。
すると、彼はまだ少し怯えながら
「……それ、は………」
と、視線を逸らした。
「教えてください、初対面ですけど、助けられるなら助けたいです!」
初対面にしてはとても失礼で図々しいけど、この子は、かなり困っている、青くて今にも倒れそうな顔が、そう言ってる。
しつこく問いただすと、彼はやっと諦めたのか、小さく、喋り出した。
「………先輩に、監禁、されてて。」
は……?
かん、きん………?
平和に生きているうちで、全く無縁なその言葉に、俺はかなり混乱した。
「監禁されて、毎日、殴られたり、蹴られたりしてて…………」
混乱している俺に気付かず、彼はどんどん話していった。
「逃げようとは、しないんですか……」
やっとつむぎ出た言葉は、それだけだった。
すると、彼は少し困ったように
「逃げ出そうとはしました、けど、体力もなくて、すぐに捕まって、足の骨を、折られました。」
と言って、俯く。
そこから察するに、誘拐犯である「先輩」は、かなりのサイコパスだということが分かった。
………この子は、夢から覚めてしまえばまた、殴られるのだろうか。
その綺麗な肌も、整った顔も、血だらけになるんだろうか。
(………そんなの、可哀想すぎる。)
…………どうにかして、救えないかな。
ーーー
「………ん、ぅ…………」
厚い布団の下で、目を覚ます。
最近になってようやく見慣れたと思える壁、ここは、先輩の家か。
目が覚めて突然、トントンとノック音が聞こえた。
「……!」
急いで体を起こして、ドアが開くのを待つ。
ドアはゆっくりと開き、そこから見慣れかけた男が入ってくる。
………高野先輩。
顔は比較的イケメンだけど、とにかくサイコパスで、僕を監禁した張本人。
この人とは何の接点もなかったけど、ある日友達の郁人という人が懐いている先輩ということで、少し自己紹介をした程度ではあった。
彼いわく、その時に僕に惚れたらしいんだけど、やる事が、最低すぎて………
僕が1人で帰る日を見計らって、後ろからバッドで殴って誘拐し、今は監禁されている。
逆らっても殴られるだけだし、大人しく従っているしか、ない。
「おはよ、澪。」
「お、はよ……ございます。」
出来るだけ笑顔で、挨拶を返す。
ここで反抗的な態度や無視は駄目、絶対気絶するまで殴られる。
ここでは、大人しく従うしか、ない………。
もし、失敗なんてしたら………
「澪、はい、ご飯、食べるでしょ?」
「い、いえ……今は、お腹すいてなくて………」
「は?」
……バキッ!!
「ぐ、ぁ……!」
思いっきりお腹を殴られる。
それは、血を吐くまで。
「そっかー、じゃあ、吐血しよ?そうすれば少しはお腹空くんじゃない?!!!」
「あ"っ…!ぅ、や……だ、やめてください、せんぱ………ん"…ッ……!」
やめてって言うけど、やめてなんてくれない。
こんなことが毎日あって、僕は完全に壊れていた。
「ぐぅ……がはっ、ごめん、なさい………お腹、すきました、食べたいです…………」
「ほんと?もー、手間かけさせないでよ、はい、今日は卵焼きだけど、大丈夫?」
「はい、嬉、しいです……、!けほ、けほ……!!」
思わず、咳をしてしまう。
すると
「あ"??」
と、今度は頬を叩かれた。
ビンタとか、そんなんじゃない、グーで、殴るように。
「っ……!!ごめんなさい、高野さんの作るご飯、美味しくて好きです、高野さんも、僕、大好きです………」
必死に弁解する。
すると、高野さんは舌打ちをした。
それにまた、ビクッと肩が震えた。
「好きなら、早く食えよ」
「は……い………」
怖くて今にも泣きそうだったけど、ぎゅっと堪えて箸を手に持とうとする、けど………
「ん"っ……!!」
「ほら、俺が食べさせてあげるよ、口開けて?」
今度は、高野さんが卵焼きを手掴みして、口に無理矢理押し込んできた。
苦しくて、涙があふれる。
「は?何?なんで泣いてんだよ、おい!!」
「……ん"、ごめ、ごめんなさ、ごめんなさい!!」
無意識に、謝ってしまう。
でも、これは、僕が悪いんだ。
僕が悪いから、これは、その罰。
だから、ちゃんと、反省しなくちゃ。
「ごめんなさい」
ただ、謝った。
ごめんなさいって、泣きながら。
泣いたら殴られちゃうから、泣きたくなんてなかった。
なのに、勝手に流れてくるから、結局どんなに謝っても怒られる、殴られる。
悪いことをしたから、これは罰。
この人は何も悪くない、悪いのは、全部僕。
辛くなんて、ない。
ーーー
「ぅ、あ"あ"あ"っ!!」
あれは、確か1年くらい前。
あまりにもこの生活が辛くて、窓から逃げようとした。
……けど、窓には釘が刺さってて、ただ逃げたくて必死に釘を外した。
でも、とれるものなんてないから、手でとった。
指は血まみれだし、痛いし、でも、殴られるよりずっとマシ。
まだ、希望があるから、こっちの方が。
でも、足音が聞こえたから、枕の下に取り外せた釘を隠して、ベッドの上でうずくまっているふりをした。
手も、隠して、バレないように。
………でも。
「ねぇ、手、見せてよ。」
「……!どうして、ですか………?」
「見せろっつってんだよ!!」
パリンッッ!!
「ひっ……!」
高野さんは花瓶を割って、僕がそれに驚いた隙を見て、手首を掴みあげた。
「っ……!」
「……逃げようとしたの?」
血まみれの手を見て、ただ怯える僕を睨む。
「逃げようとしたのか聞いてんだよ!!何?喋れないわけ!!?」
高野さんは、僕が怯えていると、イライラするのかよく怒鳴る。
僕は、怖くなってただ、
「ごめん、なさい………」
としか、言えなかった。
そんな僕を見て、高野さんは
「謝ればいいってもんじゃないんだよ……?ねぇ、逃げようとしたの?してないの?ねぇ……!!!」
手首を、強く握られる。
「あ"、あ"あ"あ"……」
くい込んだ爪が、痛い。
自然と、涙が出た。
すると、
「なんで泣いてんだよ!!」
と、高野さんはまた怒鳴った。
ただ、怖くて泣きながら
「逃げようと、しました………お願いします、ここから、出してください……お願いします、お願いします……!」
と、言うことしかできなかった。
まぁ、この後、当然高野さんは切れた。
そして、もう気力だけで窓を割ろうとする僕の髪を掴んで壁に投げつけて、それから僕にまたがって、胸ぐらを掴んだ。
「二度と動けないようにしてあげるよ……?」
「え、なに…なに、いやだ!!やめて、やめ……あ、や、あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
両足の骨を、折った。
それから僕が高野さんから逃げようとすることはなくなった。というか、足が動かないから逃げられないしね。
治療もしてもらってないから、今はベッドの上での生活。
ちなみにあの日から、両手首に鎖もつけられた。
あの窓には、釘だけじゃなくて、木の板もはりつけられたから、もう逃げることは出来ない、それどころが、外も見れないし光も入ってこないから、もう、本当に何もわからない。
外がどうなっているのか、今、友達は何をしているのか。
妹はどうしているかとか、なんとなく、わかるけど。
ねぇ……今、一体何月何日なの?
何時何分なの?
誰か……ここから連れ出して。
(……なんて、思ってもないけど。)
ーーー
「はぁ、はぁ………」
気持ち、悪い…………
気持ちはあっても、体はそうは動いてくれないもので。
ご飯を食べさせてもらっているうちに、気がつけば気絶してた。
「……あれ、ここ、は………」
目が覚めるとそこは、見渡す限りのお花畑。
「……ここ、もしかして、昨日優馬さんに会った……」
昨日かどうかはわからないけど、多分、前見た夢の続きだ………
優馬さん、いるかな………
キョロキョロと周りを見渡す。
……でも、少しして気付いた。
「あ……学校、かな。」
優馬さんはきっと、現実では学校に行っているはずだ。
それだったら、夢なんか見ているはずがない。
(……ちょっと、寂しいな。)
不覚にも、昨日あったばかりの人に、なんともいえない感情が溢れた。
すると、
「あっ、澪さん!」
「……!ゆ、優馬さん!?」
花畑の向こうから、優馬さんが走ってくるのが見えた。
僕の前に立つと、優馬さんは息を切らして、落ち着いてから、にこっと笑った。
「良かった、また会えた!」
……!
「僕なんかに会えて、そんなに嬉しかったの……?」
はぁ……自分、素直じゃないなぁ。
でも、優馬さんは
「僕なんか、なんて言うなよ!澪さん可愛いし優しいし、こんな天使みたいな人見た事ないよ!結婚したいくらい!」
そう、言ってくれた。
「結婚って……、そういうのってまずは付き合ってから、じゃないの?」
クスッと笑ってしまった。
「あっ、それを忘れてた!」
優馬さんは、ガーンとして、それからすぐに開き直って。
「じゃあ、付き合お!」
「友達からね?」
……ほんと、この人、面白いなぁ。
警戒は、とっくにとけていた。
どうしてこの時間に彼に会えたんだろう、それも、この時はそんなことどうでもいいと、思えた。
「俺、澪さんのこと好きかも、昨日夢から覚めてからずっと澪さんのこと考えててさ!澪さんは?」
……
「僕、も………優馬さんのこと考えてた。」
優しげに微笑む。
「ほんと!?すごい!これやっぱ運命だよ!どこに住んでるの?」
「わかんないー」
…………そんなの、嘘だ。
僕は起きてから、なにも考えなかった。
ただ、変な夢を見た、それくらいしか。
だって僕には、高野さんっていう、優しい人がいるから。
駄目な僕をちゃんとしつけてくれる高野さん、それでいて、毎日美味しいご飯も食べさせてくれる。
こんな優しい人、他にはいない…………きっと。
ーーー
つづきます
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