20 / 32
なんか、プロテインが流行ってるらしい
しおりを挟むアクティとコウセイが自領に帰ってからの数日間、セクシャルは魔力の訓練を中心的に行っていた。すっかりハマっちゃってるねぇ~。
レベルアップというファンタジー要素はあるものの、筋肉、筋力の強化だけを突き詰めていたらいずれ限界が来るかもしれない。
それを考慮すると、魔力による身体強化など別の要素を鍛えるのもいい考えだと思うね。
筋トレ以外にも手を出すなら、そろそろ武術とかやってみてもいいんじゃないかと思うが、セクシャルが追い求める強さはそういうんじゃないんだろうなぁ。
でもさぁ、大きな魔物相手にまともな武器も使わず、鉄の棒で無茶苦茶に殴っている姿を見ていると、こいついつか死ぬんじゃないかって思うんだよねwww。
我々を安心させるためにも、是非棒術くらいは習得してみて欲しいものである。
「ふぅ……。今日もやるかー」
例に漏れず今日も魔力トレーニングを行おうとしているようで、セクシャルは訓練室にてウォーミングアップを始める。
鍛えるのは魔力だが、訓練には体も使うのでストレッチは大切だ。筋トレ前ほどしっかりは行わないが、体が温まる程度には行う。
ウォーミングアップは進み、仰向けに寝っ転がり、開脚して股関節のストレッチをしていた時。タイミング悪く、セクシャルの母親であるジェンダー・ハラスメントが訓練室を訪れた。
「あっ……ごめんね、運動中だったかしら」
訓練室に入った瞬間、床に寝そべって股を開いているセクシャルを目撃し、まるで息子の自慰行為を見てしまったかのような気まずそうな反応をするジェンダー。
セクシャルの訓練室は割と開放的な設計になっている。ドアなどはないので、ノックしてから入れというのは酷だろう。
ただ、入る前に声くらいはかけてやって欲しいものだ。もし本当に自慰行為をしていたら、大惨事である。
「何の用だ?」
突然訪ねてきたジェンダーに対し、冷たく言い放つセクシャル。
普段、ジェンダーがセクシャルを尋ねることなど滅多にないので、何事かと怪しんでいるようだ。
「その……プロテインを貰えないかしら」
言い淀んだので何を言うのかと思えば、まさかのプロテインが欲しいときたか。謎すぎる展開である。
確かにプロテインは美容にもいいが、そんなことをこの世界の住人が知るはずもない。もっとも、セクシャルがそのことを教えていたら話は別だが。
「やらん。何に使う気かしらないが、今、俺の魔力は貴重なんだ」
勇気を振り絞って発言したジェンダーの要求を、セクシャルはバッサリと切り捨てた。
確かに、前までは魔力を多少使い切らずに眠る日もあったが、最近は訓練やら日課やらをこなすうちに全て消費しきってしまう日々が続いている。
ドンマイジェンダー。タイミングが悪かったとしか言えないな。
「ねえ、セクシャル。領民を助けてくれてありがとう。本当は、私たちがやるべきことだったのに」
「!?」
諦めて帰るかと思いきや、セクシャルに感謝を述べるジェンダー。しかも、領民を助けたことに対する感謝。前までのジェンダーには、考えられない行動だった。
「でももう、あなたが危険を犯すのは見てられないの……。毎日毎日魔境に行って、血塗れになって帰ってきて……。あなたはお母さん達のことを嫌いになったかもしれないけど、私たちからすれば、あなたは本当に私たちの宝物なの。」
ジェンダーは、悲痛そうな表情を浮かべてそう言った。握り締められた拳には、後悔の念がこもっているように感じる。
どうやらジェンダー達を変えたのは、セクシャルの行動が原因らしい。
確かに、6歳の息子が命を危険に晒して自分たちの尻拭いをしているのだ。まともな親だったら、そんな状況耐え切れないだろう。
だがまさか、このジェンダーがそのまともな親の部類に入っているとは思わなかった。
「だから、私たちにチャンスをちょうだい。あなたが危険な目に遭う必要がないような、豊かな領地を作ってみせるから……!」
ジェンダーの瞳には、確かな決意が宿っていた。
「それで、その話とプロテインにどういう関係があるんだ?」
その決意に心を動かされたのか、セクシャルはプロテインの使い道を尋ねる。
確かに、今の話とプロテインはどう考えても繋がらない。一体どういう意味があるのだろうか。
「それはね……」
それからジェンダーは、プロテインの使い道について語った。
まず、領地を変えていくに当たって最初に解決すべき問題は、やはり食糧不足。
これについては、他領からのハンターの派遣とハンターギルドの設立。森の開拓。農業など第一次産業を行う人々の待遇の改善などをとりあえず考えているらしい。
そして、そのためにはやはり他領を収める貴族に協力してもらう必要があるらしく、それをお願いするためのお茶会で、セクシャルのプロテインを振る舞いたいのだとか。
どうやら、先日のアクティ公爵令嬢の誕生日パーティーに参加していた貴族達やアクティ本人の口コミにより、セクシャルのプロテインが王都の夫人、令嬢達の中で話題になっているらしい。
まさかのプロテインブーム。他人にも筋肉を付けさせたいという思想の持ち主のセクシャルならば、喜んでこの話に乗るだろう。
「情けないけど、私たちは公爵家にしてはお金ももってないし、特産物なんかもなければ、戦力も小さくて……信用もない。だから、そのお茶会を成功させるためにも、力を貸して欲しいの」
6歳の息子に話しかけるとは思えないほど真剣な表情で、ジェンダーは頭を下げた。
「いいだろう。スペシャルなプロテインをやるから、成功させてみろ」
セクシャルは実の母親に対しても態度を変えず、クッソ偉そうにそう言った。
「ありがとう! 必ず成功させてみせるから!」
セクシャルから了承の言葉とともにプロテインを貰い、パッと顔を明るくしたジェンダー。
「もし、いつかお父さんとお母さんを許してくれる日が来たら、また一緒にご飯を食べたいわ。お父さんも、そう思ってる」
最後にそう言い残し、訓練室を去っていった。
「やはり、世界はプロテインを求めている。早々に準備が必要だな」
何を思ったのか知らないが、去っていくその後ろ姿を眺めながら、セクシャルはつぶやいた。
いや、マジでこいつ何考えてるかわかんない。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。


調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる