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鎖を破る時

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ふと、疑問が浮かんだ。

 それは、そもそもどうして風鬼の身に変化が起きているのか。という疑問だった。

「魔物が魔物を食べたから? いや、もしそうだったら、この世にはキメラのような魔物が蔓延っているはずだ。だとすると、雷鬼風鬼限定の特殊なスキル?それとも……」

 雷鬼を風鬼が倒すことで、雷鬼の要素を体に顕現させる。まるでそれは、俺の異形化スキルのようだった。

 じゃあ、俺のスキルってなんだ?なんのためにある?魔物にも真似できるようなモノなのか?

 そもそも、俺のスキルの能力って……

「グアァァァァァァァァァァァァァァ!」

 どれだけ長く思考していたのだろうか。

 時間の感覚も忘れた頃。咆哮が轟き、ズブズブとハマっていた思考の沼から引き上げられる。

 衝撃と共に跳ねるように顔を向けると、そこには、完成した鬼が存在した。脂肪は消え、筋肉の鎧と雷を纏う。体は黄緑色に染まり、鬼面のような刺青が走る。

 異形と化したはずなのに、それは、どこか美しくて……。

『さっきから考え込んでどうしたんだ?』
『やばい!』
『来てる!』

 雷鳴が轟くといつの間にか、腕を振り上げた風鬼が目の前に居た。そして、目にも見えぬような速さでその拳が振り下ろされる。

「カハッ!」

 咄嗟に腕でガードするも、異常な勢いで吹き飛ばされ地面に打ち付けられてしまう。

 すぐに体制を立て直すも、遅かった。顔を上げると、既に間近に迫った風鬼が映る。

「まずっ」

 攻撃を喰らうことを覚悟したその瞬間。風鬼の拳が直撃する寸前、40本近い炎のレーザーが飛来し、風鬼を阻んだ。

「これは……!」

 咄嗟に防壁へ目を向けると、激情に駆られた様子のルビーウルフたちが目に映る。

 どうやら、俺が情けない姿を見せたせいで、心配して手を出してきてしまったようだ。

「ガァァァァァァ!」

 そして、風鬼も攻撃を与えてきた者達を発見したようだった。怒りで我を忘れたかのように咆哮し、残像となる。

 雷のような速度での移動。次に俺の目が風鬼を捉えたのは、ルビーウルフを殴りつけようと拳を振り上げている瞬間だった。

「殺される? あいつらが? しかも、俺のせいで……?」

 怒り、憎悪、殺意。そんな感情達が主張する。

 あいつらも、さっき、こんな気持ちを抱いたのだろうか。だから、助けてくれたのだろうか。自分たちの身も顧みず。

 パキッ

 その瞬間、いつも俺を覆っていた鎖にヒビが入った音がした。スキルの能力を制限する、不可視の鎖。

 この鎖はいつからか、いつも俺と共にあった。ランクが上がるたびに少しずつ減っていって、いつしかなくなると思っていた。

 だけど、Sランクになった今でも、もう残すところあと2ランクなのに……まだ、多い。

 それは、何故なのだろうか。この疑問は、いつも1人で考えていたことであり、スキルの熟練度が足りないからだと決めつけていたことでもあった。

 でも、さっきの風鬼の変化を見て思ったんだ。もしかして、もしかしたら俺は、スキルの能力そのものを勘違いしていたんじゃないかって……。

 パキッ

 俺のスキルは【異形化】。異形とは、魔物であり、醜いものである。そう思って……決めつけていた。

 でも、もしこのスキルがその名の通りだったとしたら。単純に、異なる形に姿を変えるスキルだとしたら。

 こういうのはどうだろうか。

 俺は【どこにでもいける風】で【全てを守る盾】で【鬼を封じる氷】である。

 刹那、鎖の破れる音が聞こえた気がした。








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