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情けない父と情けない冒険者

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「さ! お父様は出てって!」

「マ、マリナ……そんな言い方ないだろ? お父様はまだヴァリアンくんとお話することが」

「うるさい! どうせムダな話するだけでしょ! さっさと出てって!」

「うう……これが思春期というやつか……それではヴァリアンくん。私は失礼するよ。」

 赤髪ロングの方の王女様は、どうやらマリナという名前らしい。かわいらしい目を釣り上げ、国王を威嚇している。

 娘に威嚇された国王は、しょぼくれて部屋から退出して行った。やけに素直なのは、これがいつもの光景であるからだろう。

 娘に逆らえない王とは何とも情けないものであるが、家族としての雰囲気はかなりいいのではないかと思う。

 貴族の世界では、使用人に育児を全て任せてしまう放任主義の人や、恐怖や期待で子供の教育に悪影響を及ぼすような毒親が多いと聞く。

 それに比べて、マリナ様やもう1人の王女様も、しっかりと愛情を受けて育ったであろうことが見て取れる。

 面倒なおじさんではあるが、国王としては何だか安心感のある人だったな。

 それにしても……脱毛か。王女2人も見た目から推測すると年頃だろうし、きっと王妃だけでなくこの2人の分も脱毛させられるんだろうなぁ。

「さ、早速やってくださるかしら?」

 国王が退出し、部屋から離れて行ったのをわざわざ見送って確認した王妃は、期待を込めた視線をこちらに向けてそう言った。

「ヴィーノ伯爵夫人を脱毛したのは事実ですが……あれは毛深くて悩んでいたからであってですね」

「毛の処理に悩むのはどの女性も一緒よ?」

 くっ、それはそうだ。何とか脱毛から逃れるために思考を巡らすものの、全て言いくるめられてしまいそうな雰囲気がある。

 くそ、国王では飽き足らず、俺まで尻に敷くつもりか!

「……王妃様はまだしも、未婚の王女様のお体に触れるなど、そんな恐れ多いこと平民の私にはとても……」

 ふっ。これはどうだ。王女を外国と婚約させることで、その国との友好関係を築いたりすると聞いたことがある。

 そんな大切な未婚の王女の体。平民の冒険者に触れさせていいわけがないよなぁ! 

「そう? そんなに気にするならあなたが2人を娶ればいいじゃない。というか、王妃様はまだしもって? 失礼じゃないかしら。私の体にはこの子達のような価値はないと?」

 くそっ、あなたが娶ればいいじゃない? だと!? なんて無責任なんだ。

 もしや、王女を政略結婚させる必要がないほど、魔界の中で優れた国だったりするのだろうか。くそ……魔界歴が浅いことがここで効いてきた。

 そして、迂闊だった。まるで王妃の体には価値がないのような言い方をしてしまった。しっかりとそこをついてきたし、ここは若く見えると言って煽てておくしかないな。


「いえ! そんなことは全く! とてもお美しいですし、20代かと思えるほどにはお若く見えます!」

「私はまだ20代よ!! 」

「えっ」

 あ……終わった……。

 確かに、貴族は結婚や出産が早いと聞くし、2人の娘が15歳ほどだとしても、13.14歳で産んでしまえばまだ29歳……。

 ワンチャン処刑されてもおかしくないほど失礼なことを言った。間接的に老け顔だと言ってしまったようなものだ。ここは、素直に脱毛をして見逃してもらおう……。

「脱毛……やってくれるわね?」

「喜んでやらせていただきます」


 あぁ……俺、王様より情けねぇ……。
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