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弘誓編
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深更。
本堂隣りの八畳の間にて、弘誓と二人の子供は川の字となり寝ていた。
その真中。
一人前に大人用の綿の布団をあてがわれていた八つの梅丸は、重い尿意に目がふと覚めた。
膳部の汁を飲みすぎたのか、膀胱が張っている。尿意に抵抗するかのように足を大きく動かしてみると、素足に綿布団の触りが何とも心地よい。
綿の布団は、この時期より数十年を経て徐々に上流階級に浸透していくのだが、既に叡山の富と威光は、綿の布団をして満山の堂宇を漏らさず包むほどに、時代に先駆けて天下を極めている。
もっとも、次室に眠る弟子たちは綿で眠るという贅沢は許されず、皆、筵を重ねて眠っているが、これでも庶民が藁で眠っている時代、十分に贅沢なものであった。
さて、梅丸。
厠へゆきたい。
ところが、場所が分からぬ。
つと、隣のお春を揺すってはみたが、道中の疲れから解放され、泥のように眠る姉は起きそうもなく、姉を起こすのあまり、弘誓様を起こしてはならんと断念した。
梅丸は静かに身を起こすと、乱れた布団を直し、翻って障子を開けた。
開けた先の廊下は息が詰まるほどに寒く、この寒気に二人が起きてしまわぬよう、素早く障子を閉めた。
庭に出なければならない。
濡れ縁に出るために、廊下の引き戸を開いてみたが、戸は二重になっており、寺男により、重い雨戸が閉められている。
やむなく廊下沿いにぴたぴたと素足のままで歩き、外に出る通用口を探した。
庭に出れば、梅丸、矢も盾もたまらず、庭砂へ向けて大いに放尿するつもりであった。
仏罰は下るまい。
仏戒に放尿の罪などあるわけもなく、あるとすれば礼儀の上での無礼であろう。が、この時代の商家の八歳の男児にとっては尿意は自然の摂理というもの以外にはなく、人のいない庭先に放尿し、それが夜を通して寒風に洗われ、やがて朝を迎えるということに、なんら不自然も不条理もない。
ともかく、出口を探した。
次室。
しんとして、障子までが眠ったように目を閉じているようだ。
歩を進め、さらに一部屋。
同じような障子。
歩を進めた。
いや、進めようとしたのだが、やにわに梅丸の目が大きく見開いた。
、、、人の声だ。
人の声がした。
梅丸は歩を止めたまま息を呑み、今一度、耳を澄ました。
闇と静寂。
気のせいか、、。いや、確かに聞いた。
静寂。
耳を澄ました。
「怪態な声を出すな」
梅丸は総毛立ち、目を剥いた。
障子の向こう。とすれば、弘誓様のお弟子様の声ではないか。
こんな時間まで起きているのか。梅丸にはそれが不思議であった。
「ああ、また、そのような、、、」
声質は定かならぬが、先程とは違う声音の主のようだ。
弟子であろうと思った以上、梅丸に恐怖心はなかった。恐怖心と違ったものとして、好奇心が芽生えた。
障子を少し開けようかとも思ったが、隙間風と気配で、すぐにその悪戯は露見するに違いない。指先に唾を塗り、障子に穴を開けようかとも思ったが、夜が明けて詮索されるのも怖かった。
「そこは堪忍を、、、、兄様、ああ、、」
何をしているのであろうか。
梅丸は判然とはしない。しないが、何か得体の知れぬ、触れても見てもいかぬものだという直感だけはあった。
断ち切った。
梅丸は闇夜を睨みつけ、廊下を進み、やがて土間を見つけるや降り立ち、引き戸を開いて、大いに放尿をした。
本堂隣りの八畳の間にて、弘誓と二人の子供は川の字となり寝ていた。
その真中。
一人前に大人用の綿の布団をあてがわれていた八つの梅丸は、重い尿意に目がふと覚めた。
膳部の汁を飲みすぎたのか、膀胱が張っている。尿意に抵抗するかのように足を大きく動かしてみると、素足に綿布団の触りが何とも心地よい。
綿の布団は、この時期より数十年を経て徐々に上流階級に浸透していくのだが、既に叡山の富と威光は、綿の布団をして満山の堂宇を漏らさず包むほどに、時代に先駆けて天下を極めている。
もっとも、次室に眠る弟子たちは綿で眠るという贅沢は許されず、皆、筵を重ねて眠っているが、これでも庶民が藁で眠っている時代、十分に贅沢なものであった。
さて、梅丸。
厠へゆきたい。
ところが、場所が分からぬ。
つと、隣のお春を揺すってはみたが、道中の疲れから解放され、泥のように眠る姉は起きそうもなく、姉を起こすのあまり、弘誓様を起こしてはならんと断念した。
梅丸は静かに身を起こすと、乱れた布団を直し、翻って障子を開けた。
開けた先の廊下は息が詰まるほどに寒く、この寒気に二人が起きてしまわぬよう、素早く障子を閉めた。
庭に出なければならない。
濡れ縁に出るために、廊下の引き戸を開いてみたが、戸は二重になっており、寺男により、重い雨戸が閉められている。
やむなく廊下沿いにぴたぴたと素足のままで歩き、外に出る通用口を探した。
庭に出れば、梅丸、矢も盾もたまらず、庭砂へ向けて大いに放尿するつもりであった。
仏罰は下るまい。
仏戒に放尿の罪などあるわけもなく、あるとすれば礼儀の上での無礼であろう。が、この時代の商家の八歳の男児にとっては尿意は自然の摂理というもの以外にはなく、人のいない庭先に放尿し、それが夜を通して寒風に洗われ、やがて朝を迎えるということに、なんら不自然も不条理もない。
ともかく、出口を探した。
次室。
しんとして、障子までが眠ったように目を閉じているようだ。
歩を進め、さらに一部屋。
同じような障子。
歩を進めた。
いや、進めようとしたのだが、やにわに梅丸の目が大きく見開いた。
、、、人の声だ。
人の声がした。
梅丸は歩を止めたまま息を呑み、今一度、耳を澄ました。
闇と静寂。
気のせいか、、。いや、確かに聞いた。
静寂。
耳を澄ました。
「怪態な声を出すな」
梅丸は総毛立ち、目を剥いた。
障子の向こう。とすれば、弘誓様のお弟子様の声ではないか。
こんな時間まで起きているのか。梅丸にはそれが不思議であった。
「ああ、また、そのような、、、」
声質は定かならぬが、先程とは違う声音の主のようだ。
弟子であろうと思った以上、梅丸に恐怖心はなかった。恐怖心と違ったものとして、好奇心が芽生えた。
障子を少し開けようかとも思ったが、隙間風と気配で、すぐにその悪戯は露見するに違いない。指先に唾を塗り、障子に穴を開けようかとも思ったが、夜が明けて詮索されるのも怖かった。
「そこは堪忍を、、、、兄様、ああ、、」
何をしているのであろうか。
梅丸は判然とはしない。しないが、何か得体の知れぬ、触れても見てもいかぬものだという直感だけはあった。
断ち切った。
梅丸は闇夜を睨みつけ、廊下を進み、やがて土間を見つけるや降り立ち、引き戸を開いて、大いに放尿をした。
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