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もやもや

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それから、いつも通りの何週間が過ぎた。

いや、いつも通りとはちょっと違う。

少しだけ変わったことがある。

それは、わたしの彼への距離感だ。

彼は今まで通り不定期にやって来てはいたが、やっぱり、わたしの心を見抜いた店長の視線というものは、わたしの挙措を無言のうちに掣肘せいちゅうした。

店内ではドライな二人だとはいえ、知人だという。

もし、飲み友達だったとしたら、わたしの話題が出ていないとも限らない。

「あの人、君に気があるらしいスぜ」

うーん、こんな「ス」は使わないか・・・。

「あの人、君に気があるらしいぜ」

真面目な彼が、目を丸くする。

「本当に?光栄だなあ」

いやいや、そうじゃない。

「冗談でしょう?」

馬鹿にされるかも。

「・・・・・・。」

黙って困るかしら。

「店長の君から、そっと、たしなめてくれないか」

困った挙句にそんなこと言われた日にゃあ・・・・。


タコ唐や塩焼きそばと一緒に、わたしは彼らの格好の肴。

せめてプラのお皿に乗せて頂戴。

落として割ってしまわないように。


ここまで深刻に考えるということは、恋心へ向かっていたのかもしれない。

だけど、そこへ行くまでのかなり手前で自分でストップをかける、これって大人っていうやつかしら。

いや、大人というか、いつものわたしね。

それが、わたしという人間なんだ。

わたしという人間がそうなんだ。

いつもそう。

いろんな事情がある。

あると思い込んでいる。

だけど実は、変化が怖いだけ。

進んでしまって、日々の色が変わってしまって、後戻りできなくなる。

しかも、その昨日とは一変した世界は、裸一身の、今ある武器のみで、わたし自身がひとりで勝負しなければならない世界。


そんな自信ないし。



そうして、自分でストップをかけ、安心したふりして、心を深い穴の奥にしまい、上には漬物石ずどん。

変化のない今を、やっぱり歩いている。


ときどき、漬物石で、心の入れ物がきしむ。

軋みすぎるとギシギシ音がうるさくて、心が揺さぶられて、そして眠れない夜が来る。

そんな夜のために、心に幻想を見せて誤魔化すだけのモノが増えていった。


彼の存在は、そんな無機質のモノたちとは違って、わたしの心に、脈打つ体温のある日常を送ってくれていた。

だけど、違ったのかもしれない。

得られない以上は、無機質なモノだったんじゃないだろうか。

まあ。

でも。

それでもよかったんだけどね。

なんというか、健康的でね。


さらに数日が過ぎ、朝夕、めっきり気温の下がるようになった頃。


「あら」


出勤すると、事務所に珍しくマネージャーがいた。


「まいった」

「え?」



「店長が倒れたよ」
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