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第28話 女子高生とアイドル

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「心霊番組の撮影に来たグラビアアイドルの方……ですか?」

平井ひらい るあ、と言います。よろしくお願いします」

「あ、あ、えっと、わたしは四条 静子しじょう せいこです……こちらこそよろしくお願いします」

 静子ちゃんの異様な登場に驚いた俺たちだが、深呼吸をして落ち着くと、そういえばまだお昼ご飯を食べていなかったなと思い、俺の部屋で一緒にお昼を食べながら自己紹介をすることになった。

 とりあえず俺が二人を順番に紹介すると、るあちゃんと静子ちゃんは、互いにペコリと頭を下げて挨拶を交わしたのだが、どうやら静子ちゃんは彼女のことを全く知らないようで、雑誌の表紙を飾るグラビアアイドルだと紹介されてもキョトンとした様子だ。

「まぁ確かに、るあちゃんが表紙になってる雑誌は、漫画雑誌でも娯楽雑誌でも、男向けのものだったからな……そういう雑誌を手に取る機会があったり、グラビアアイドル自体に興味があったりしないと、流石に知らないかもな」

「あはは……そうですね……テレビに出演させてもらう機会もあったりしますが、レギュラーにさせてもらっている番組はまだなくて、たまにゲストで招かれるくらいの新米ですから……」

「あ、あの、すみません……きっとわたしが世間に疎いだけで……学校の皆なら知ってるんだと思うんですけど、そういった話が出来るような友達もいないので……」

 うーん、挨拶が済んだと思ったら、今度は二人とも自分自身でネガティブな発言をしながら落ち込んでしまった……よく分からないが、この二人、意外と気が合うのかもしれない。

 それにしても、いつも自信なさげではあるものの普通に話していた静子ちゃんが、今日はいつも以上に自信なさげでオドオドとした様子だ。
 前から人と話すのが苦手だとは聞いていたが、今まで出会った俺以外の幽霊仲間とは普通に会話出来ていたから、言う程ではないのかもと思っていたのだが、相手が生きている人間だと何か違うんだろうか。

「……とまぁ、そんなわけで、俺は今、るあちゃんの撮影を手伝ってるんだ」

 そして俺は、静子ちゃんが作ってきてくれたお弁当に舌鼓を打ちながら、自己紹介の延長で、るあちゃんが静子ちゃんのように突然幽霊が見えるようになったことや、俺のプライバシーを守るために、撮影に協力していることを話す。

 静子ちゃんの方はぎこちないが、るあちゃんの方はむしろコミュニケーションは積極的なタイプのようで、俺が話している間、るあちゃんの方からお弁当の中身の交換を持ち掛け、二人で仲良くお弁当をつつき合ったりしたりしていた。
 お弁当と言っても、るあちゃんが食べているのは番組スタッフが置いていった、アルファ米という、いわゆる非常食の類なのだが、静子ちゃんは見るのも初めてのようで、意外と楽しんでいる。

 るあちゃん自身も、昨日の夜が初めてのアルファ米体験で、俺が作り方を教えるまで初心者だったはずだが、覚えたことを人に話したい欲が溜まっていたようで、発熱剤を使って調理するところから静子ちゃんへ自慢げに披露していた。
 わざわざ非自立式のテントが選ばれていた時も思ったんだが、アルファ米も、わざわざ発熱剤まで用意されていたところを見ると……もしかして、番組スタッフの中に、アウトドア好きの人がいたりするんだろうか。

「それで、四条さん?」

「あ、あの、静子で、いいですよ?」

「うん、分かった、静子ちゃんね……じゃあ私のことも、るあちゃんで」

「えっと、年上の方にちゃん付けは流石に……」

「2~3歳しか違わないのに? あー、でも、学生の時は私もそうだったかも」

 食事を終えて、俺は最近ネココから新しく仕入れた麦茶を二人に提供すると、自分でもそれを飲みながら、二人の会話を聞く。
 るあちゃんのコミュニケーション能力の高さのおかげか、静子ちゃんも少しずつ会話に慣れてきたようだ。

 ちなみに、この間、錬に聞いて初めて知ったんだが、霊体化しているものは、それが無機物であっても人であっても、周囲の温度を少し下げる効果があるらしい。
 だから錬が持ってくる缶ビールやチューハイはいつも少し冷えていたし、静子ちゃん曰く、俺がいるこの部屋は冷房が無くとも外よりもいくらか涼しいそうだ。

 俺はそれを聞いて以来、この効果を使って、普通の戸棚を冷蔵庫として利用していて、今日二人に提供した麦茶もその戸棚で冷やしていたものなので、キンキンではないものの、それなりに冷たい。
 何も特別なことはしておらず、霊体化させた石とかを一緒に入れておくだけなんだが、霊体化させたものと重なるようにものを置くと、経年劣化でちょっと元気が無くなってきた冷蔵庫くらいの冷却効果はある。
 電気の節約になりそうだし、生きている頃にこれを知りたかったなぁ……。

「なので、今はまだ、るあさん、という呼び方でいいですかね?」

「うん、おっけーだよ……それで、静子ちゃん」

「はい」

「静子ちゃんは、よくここに……礼二さんのところに遊びに来ているの?」

「え? はい、そうですね……今日は、ちょっと夏休みの宿題で分からないところがあって、礼二さんにお勉強を教えてもらえたらなって思ってきたんですけど……他に一緒に宿題をやるお友達も、一緒に遊ぶお友達もいませんし」

「夏休みの宿題? なつかしー。あ、じゃあ、まだちょっとだけ撮影があるから、その間は申し訳ないんだけど、ちょっと待っていて欲しくて、代わりに、それが終わったら私も宿題を手伝うよ」

「いいんですか?」

「うんっ、密着48時間!ってタイトルの割に、意外と撮影必須のスケジュールが埋まってなくて暇だし」

「ありがとうございます!」

 うんうん。仲良きことは美しきかな。たしか有名な詩人の言葉で、可愛い女の子二人が仲良くしている姿は、とても美しい。という意味だったかな。

 静子ちゃんの宿題を手伝うことに関して、俺の方は特に了承も何もしてないんだけど、まぁ、二人が楽しそうならそれでいいか。

 とりあえず、今日はこれ以上何事もなく、早く寝られますように……。
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