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第20話 グラビアアイドル再び

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「……ということで、番組に届いた映像の方、ご覧にいただけましたでしょうか」

 薄暗い廃ビルのエントランスで、いつか見たグラビアアイドル、平井 るあ氏が、カメラに向かって真剣な表情を見せている。

 おそらく、抜き足差し足で声を潜めるような演出しているのだろう。
 そのあどけなさの残る顔で頑張って神妙な表情を作っている姿も可愛らしいが、夏らしい薄着で、少し屈んだその姿を正面から捉えているカメラの向こう側で、番組放送時にこの映像を見る男性陣は、顔よりも少し下に視線が行ってしまっていること間違いなしだ。

 前回、心霊番組か何かの撮影で、胡散臭い霊媒師と一緒にこの場所を訪れていた彼女は、今回はどうやら一人でやってきたらしい。
 もちろん、カメラマン含め、スタッフは何人かついてきているが、彼女が一人でも番組を進行できる力があると認められたのか、単に番組が経費を削っているだけなのか、前回一緒にいた胡散臭い霊媒師に何か問題があったのかは知らないが、キャストとしては彼女一人だけだ。

 ……しかし、なんでこんな場所にまた撮影しに来たんだ?

 確かに、有名な心霊スポットに、同じ番組が何度か訪れることはあるが、視聴者の飽きをさけるために、余程のことがない限りは年を跨いで撮影・放送されるのが普通じゃないか?
 カメラに向かって話している彼女の口ぶり的に、何やら番組に興味深い映像が届いたのを受けて、こんな短期間でまたやってきたということらしいが……。

「先日、私がリポートしたこの場所に、たまたま迷い込んでしまったという、一般の方からの映像によりますと、何もない空間から、突然、中身の入った缶ビールが現れたとのことで……」

 あいつのせいかぁああぁぁぁ!!

 うわぁ……あの時、スマホのライトで周りを照らしながら歩いているのかと思ってたけど、あれ、撮影してたのか……?
 ってか、たまたま迷い込んでしまった一般の方ってなんだよ、ここが撮影現場だって分かった上で自らの意思で肝試しに来た学生だろうが!
 まぁ、廃ビルだとしても許可も取らずに入り込むのは住居不法侵入だろし、学生がそんな遅い時間にうろうろしてたって公表するのも印象が悪いだろうから、番組としては当然の処置なんだろうが……。

 あー、それにしても、錬のやつ、本当にもう何やってくれてんだよ……。
 思い返してみれば、あの時あいつは既に顔が赤かったからな……後先のことを考えないで、酔った勢いであんな行動に走ったんだろうな……あのバカ。

 くそっ、これでこの場所が有名心霊スポットにでも昇格したら、俺の睡眠時間が本気でピンチだぞ……? どうする……どうする、俺……!?

 と、そんな風に頭を抱えている間にも撮影は進んでいたのだが……。

「……そして今回はスペシャル企画! 密着!心霊スポット48時間!! ということで、何と! この私、平井 るあ が! 一人で! 明後日の同じ時間までこの廃ビルに泊まり込みます!!」

 ……。

 ええぇぇええええええええ!?!?

 いやいや、なんで? そんなことある? 心霊スポットにグラビアアイドルが一人で泊まりこむとか、聞いたこと無いよ? るあちゃん、仕事選びな?

「では皆さん、泊っている間の映像は私がハンディカメラでバッチリ撮っておきますので、また明後日お会いいたしましょう! さようならー」

 いや、さようならー、じゃなくてね?
 うん、笑顔でカメラに手を振る姿も可愛いねぇ……って、そうじゃなくて!

 あ、いや、でも待てよ? そんなこと言って、実際には近くのホテルとかに泊まって、実はたまに来てちょっと撮影して帰るだけってパターンだったり……。

「はい、じゃあ、るなちゃん、これ、テントに寝袋と保存食、あと、携帯トイレね」

 うぅぅうーん! 思った以上に過酷ぅぅううぅぅう!!

「はいっ、了解ですっ!」

 そして了解しちゃったぁぁー! 元気な笑顔で!

 いやいや、寝る場所をホテルにするのを無しにしたとしても、せめて食事とかトイレの時くらい近くのコンビニとかファミレスとか使わせてあげなよスタッフさん、いくら密着48時間みたいなタイトルだからってさー。

 そもそも、その企画の意図は何? タイトルから決めてない? 何考えてるの? この番組のスタッフ……いやまぁ、グラビアアイドルが心霊スポットの廃ビルに48時間ずっと密着するとか番組欄に載ってたら、間違いなく見るけどね?

 と、そうこう、俺がそんな考えをモヤモヤを頭の中で巡らせているうちに、本当にるあちゃん以外の番組スタッフたちが撤収して行ってるし……「るあちゃんばいばいーい」じゃないよ、るあちゃんも可愛く手を振り返してるんじゃないよ、何だこの可愛い生き物、ファンになるぞこのやろう。

 そうして、とうとう、番組スタッフ連中は、笑顔で可愛く手を振るるあちゃんに見送られながら、よく見るワンボックス数台に荷物と一緒に乗り込んで、さっさとどこかに行ってしまった……。

 ぽつん、と、廃ビルに一人残された、るあちゃん……まぁ、実際には俺もいるから二人だけど。

 そんな彼女が、スタッフが去っていった方をいつまでも眺めて……そのワンボックスが完全に見えなくなってからしばらく経った時……。

 ぽつん、と、一つのしずくが、地面に落ちた……。

 もちろん、雨なんか振っていない……。

「うぇぇええーん、怖いよぉぉー!」

 スタッフが見えなくなったとたん、先ほどまで笑顔だった彼女の目から、大粒の涙がポタリポタリと落ちている。

 彼女はどうやら、カメラの向こうからこちらを見ている視聴者に対してだけでなく、番組スタッフに対しても、立派にグラビアアイドルをやっていたらしい。

 ファンになるぞこのやろぉぉおおおおお!!!!

 子供のように泣きじゃくるその姿は、とてもさっきまで明るく気丈に振舞っていた彼女と同一人物だとは思えない……なんというか、さっきの笑顔とのギャップもあって、全力で守ってあげたくなる感じの女の子だ……。

 本当は怖くて不安で仕方なかったけど、今までずっとそれを隠してスタッフにもカメラの向こうにも笑顔を振りまいていたんだろう。

 いやまぁ、だけど、それにしたって……泣くほど怖いなら、お仕事断ろうよ、るあちゃん……頑張り過ぎは、心にも身体にもよくないよ?

 俺は、少女の鳴き声が響く廃ビルで、彼女を抱きしめて頭を撫でてやりたい気持ちを抑えながら、静かに、彼女が泣き止むのを見守り続けた……。
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