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君の笑顔が見たいから

オオカミと蛍光灯

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 尾上くんに馬乗りになって、もどかしさに苛まれながらシャツのボタンを外していく。アルコールでコントロールの精度を失った指が体表を擦る度に、尾上くんは小さく声を上げる。なんとか全てのボタンを外し終えると、脱ごうとして身体を起こそうとする尾上くんの動きを待たずに一気にシャツをたくしあげて腹を露わにさせる。白っぽい産毛に被われた腹が蛍光灯に照らされた。
「はっ、恥ずかしい……」
 羞恥に身体をよじる姿があまりに扇情的で芸術的にすら見える。動物の頃の本能からか、この手の獣人種にとっては腹を見せる行為は服従であったり絶対的な信頼であったりと、特別な意味を持つらしい。腹見せを強要することは相当な侮辱行為であるらしく、先日も戦地で捕虜に対してそれをさせた写真が流出したとかで国際問題になっているとニュースで大騒ぎになっていた。そんな禁忌的行為すら興奮材料となって、吸い寄せられるようにしてそこに顔を埋めた。
 すうーっ……はぁ……
 大きく深呼吸をすると鼻腔をくすぐるオオカミの毛にくしゃみが出そうになる。この匂いは癖になりそうだ。天日干しした布団に顔を埋めたときの感じを何十倍にも増幅したような優しさが顔中を包む。尾上くんは恨みがましく声をあげるが、僕は毛が付こうがお構いなしに腹の感触と匂いを堪能する。
「あっ、んっ……もうっ……」
 されるがままの尾上くんの声に段々と艶が入る。マズルからだらりと舌をはみ出させて浅い呼吸を繰り返し、大きな手が犬掻きでもするように空を切る。正直なところこのまま何時間でも楽しめそうなのだが、何かを言いたげな視線に我に返る。
「あぁ、ごめん、つい夢中になって」
 尾上くんは返事のかわりに少し不満げに鼻を鳴らした。身体を起こして尾上くんに向き直る。鼻同士を擦り合わせて冷たさを味わっていると、遠慮気味に舌が伸ばされる。その舌をはみながら、胸の奥が急速に満たされていくのを感じていた。
「あの、ベッド……いきましょ?」
 それもそうだ。いくらなんでもフローリングの上でコトを始めるのは良くないな。尾上くんと、その、初めてのエッチなんだから後悔の無いようにしなくては。
「そうだね、シャワーも浴びないとね」
 それに同意しかけた尾上くんだったが、幾ばくかの間唸った後にこう答えた。
「その、匂いを覚えたいというか……」
 今度は僕が恥ずかしがる番だった。
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