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オオカミはチョコレートを食べられない
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『放課後に体育館裏で待つ。』
折り畳まれたノートの切れ端を開くとそこに踊る、いや暴れ狂う文字。アニメやゲームでも使い古されて出涸らしになったこの文句を目の当たりにするとは思いもしなかった。
まあ、今週末はバレンタインデーというのもあって一部の女子は先生の目を忍んでチョコレートを男女問わず配っていた訳なのだが。いずれにせよ、このまま下駄箱の前で突っ立っていて誰かに見つかったら厄介なことになる。僕はその紙切れをポケットにくしゃりと仕舞い込むと、どこか陰鬱な気持ちのまま次の授業へと向かうのであった。
本当ならその手紙の差出人を想像しながらスキップでもしたいところなのだが……なんせ汚いのだ。字が。色恋の匂いなんて微塵も感じられない果たし状のような乱暴な殴り書き。いや本物の果たし状なのかもしれないな。こんな日に流血沙汰なんてたまったもんじゃないぞ。そもそも、誰かの恨みを買ったり喧嘩を売られたりする心当たりはどこにも無い位に人畜無害を自負しているのになんで僕が。
「お、おお、おう、よく来たな!」
起き抜けに勇者の来訪をうけた魔王みたいな台詞。え、ちょっと待って。これどういう状況なの。
魔王という表現は我ながら的を得た表現かもしれない。なんせ目の前に立ちはだかっているオオカミは僕よりも一回りも二回りも大きくて、ただそこに存在しているだけで放たれる威圧感。彼が特別発育が良いという訳ではなく、オオカミという種族によってもたらされる恩恵が大きいのだが。
「えーっと。入間……くん、だよね?」
交友関係も無いしクラスも違うし、僕が知り得る情報はその苗字と種族くらいなものだ。名前を呼ばれた彼は照れ臭げに鼻を掻いてみせる。ううん、ますます不可解な状況だ。少なくとも今から殴り合いの喧嘩をおっ始めようって空気では無いのが救いではあるが。
「コレ、やる!」
何かを後ろ手にモジモジとしていたオオカミが、僕に食いかからんばかりの勢いで何かを差し出した。反射的に目を瞑り、身体と縮こめて防御体勢をとったものの、予想したような衝撃は一向に訪れる気配がない。意を決して恐る恐る薄目を開けて見ると……
うわあ、マジか。僕のての中にあるのは丁寧にラッピングされたハート型の容器。それも真っ赤にキラキラ輝いていて、反射した夕日が目に染みる。これってつまりはそういうことだよな。心の中で戸惑いと葛藤が渦巻きながらも、反射的に手を伸ばして受け取ってしまう。
「いっ、いいのか各務原っ!?」
己の迂闊さを呪う暇もなく、向けられたその顔に胸の内がざわめいた。
言いたいことも、聞きたいことも山ほどある。男同士だとか異種族だというのももちろんのことながら、そもそもなんで僕なんだ。今まで全然接点なかったよな。これが幼馴染だとか、親友だとかで普段から交友があったのであれば、実は内に秘めた思いがあってというのも理解できる。けれどもそう言った繋がりはとんと無くて、僕は本当にこのオオカミについて何も知らないのだ。
「あの、入間くん」
てっきり僕が告白を受け入れたものだと信じてやまないキラッキラの目。ううん、これはまいったな。向こうが勝手に自分の感情を一方的に押し付けてきただけなのだから、こっちだって冷酷に突き放すことだってできるだろう。何も罵声を浴びせようという訳ではないにしろ、ごめん興味が無いから、と返すぐらいの権利は僕にだってある筈だ。けれど、彼の表情を見る限りこれは罰ゲームやお遊びの類ではないことは想像に難くない。僕の返答次第では心に大きな傷を残してしまうかもしれない。
「あの」
もう一度口を開きかけたところで誰かが近づいてくる気配。まずいな、こんなところを誰かに見られたら非常に厄介だ。慌てて手に持っていたチョコレートを鞄の中に仕舞い込んでから、
「とりあえず、ウチに寄ってってよ」
だって、他に落ち着いて話ができる場所なんてないんだもん。
オオカミの背後にある、感情の隠し立てが出来ない器官が始動した。ああ、これ絶対勘違いしてるよな。違う違う、そういう意味じゃないって。速度を増してプロペラのようにブンブンと風を切る音を感じながら、できるだけ人目につかないように帰宅を……って。土台無理な話だった。まあ目立つ目立つ。だってデカいんだもん。ほらまた見られた。脳裏に犬を従える桃太郎の絵が浮かんだ。
「なあっ、ホントにいいのか? いきなり家に行ったりして」
喜びと緊張の入り混じった声。まずい、早くこの誤解を解かないとまずいぞ。
「入間くん、その……なんていうか言いにくいんだけど」
人通りの少ない路地に差し掛かったところで声をかけた。なんせセンシティブな話題なのだから、誰かに聞かれたりしないように本当は家でゆっくり話をしたかったのだが、このまま下手に期待を持たせてしまうは残酷すぎるだろう。気が重いけど、言うなら今だ。
「うん? あ……なっ、ななっ!?」
僕が何かを言う前に、何かに気がついた様子。あれ、何だ?
「そ、そそ、そういうのは、あの、いきなり」
酷く慌てた様子で目を白黒させている。
「でも、あったほうがいいよな、やっぱりエチケットだしな、うん」
いまいち噛み合わない歯車に混乱している僕をよそに、彼はズボンのポケットから財布を取り出すや小銭をジャラジャラとかき集め始めた。なんだ、急にジュースでも買う気か?
「あの……何を……って、ええっ!?」
今度は僕が驚く番だった。ロボットのようなぎこちない動きで僕の脇を通り過ぎるオオカミを振り返ると、そこにあったのは自動販売機。けど、そこに陳列されているのはジュースでは無かった。郵便ポスト程の大きさの箱の中に陳列されているのは、一見するとタバコのように見える箱。制服でタバコなんて買っているのを誰かに見られたりしたら退学は免れないだろう。だが今オオカミが震える手で小銭を投入するそれは、ある意味ではタバコよりも見られちゃマズいものだった。そこにデカデカと書かれていたのは『明るい家族計画』。
「は? え? いや、ちょっ」
よくよく辺りを見渡すと、薬局の前。なんでよりにもよって。バカバカ、俺のバカ!
しばらく彷徨っていた指が、フリーサイズ(人獣共通)と書かれたボタンを押下するとゴトリと何かが落下した。へえ、フリーサイズだなんて流石国産のゴム製品は凄いよな、世界に誇る技術だよね。
「あー……」
出てきた箱をそそくさと胸ポケットに仕舞い込んでから、耳をピコピコ動かしてはにかむオオカミに掛ける言葉が見つからない。もうこれ以上何か行動を起こすと墓穴を掘るだけになりそう。
「……とりあえず、早くウチにいこっか……」
「かっ、各務原って意外と積極的なんだなっ」
早速地雷を踏み抜いた僕は、耳打ちするオオカミの手を半ばやけくそになって引っ張り、小走りで自宅へと足を進めるのだった。
「ただいま……」
つっかれた。なんで僕がこんな思いしなきゃならないんだよ……すれ違う人からはジロジロ見られるし、このオオカミはデカい図体の割には恥じらう乙女みたいになってるし。
「おかえりなさい。あら、お友達?」
出迎えた母親が僕の背後で棒立ちになっているオオカミに気がついた。
「ああ、ともだ「お付き合いさせて頂くことになった入間です!」」
割り込んだ声にかき消される僕の声。
「お付き合い?」
「ともだち!」
そうそう、友達付き合いとも言うからね。
「あらあら、まあ……そうね、もうバレンタインだったわね」
「と・も・だ・ち!!」
まてまて、二人とも深々と頭を下げ合わないで。違うんだって、そういうのじゃないんだって。僕を蚊帳の外に追いやって、何やらわかり合ったような感じださないで。
「この子、ウチじゃ学校のこと全然話さないものだから心配してたけど……仲良くしてやってね?」
そういうのいいから、マジで。
「しっ、真剣に交際する、します!」
もうなんなの……ちょっと泣きたくなってきた。
「……部屋、いくから」
「お、おじゃましますっ!」
色々と課題は山積している。
天井に頭をぶつけないようにか、そろりそろりと身をかがめながら僕に続いて階段を登る姿に奇妙な感覚を覚える。こうして誰かを家に呼んだのっていつ振りだったろうか。
それからオオカミは部屋に入るなり、意識しているのか無意識なのか、鼻をヒクヒクと鳴らして匂いを嗅いだ。まあ、他人の家って独特の生活臭みたいなものがするから気持ちはわかるけれど。
「そこ、座って」
借りてきた猫のようにクッションの上にちょこんと座るオオカミを尻目に鞄を置くと、どうしたものかと考えをめぐらせる。不可抗力によって僕たちが付き合っているかのような既成事実が作られようとしているが、それは否定しなければいけない。母親にもあとでちゃんと事情を説明しておかないと面倒なことになりそうだし、場合によってはクラスメイトにも根回しが必要かもしれない。
「はあ……ようやく落ち着けたね」
ここなら人目を気にせず、邪魔されることもなくしっかりとした話し合いができる。
「そうだな、へへ……」
その笑顔を見ると胸がズキンと痛んだ。
前々日とはいえバレンタインに告白して、願いが成就して、相手の家に呼ばれてあわよくばエッチなこともできるかもしれない。そんな何もかもが上手く行きすぎている恋愛漫画みたいな都合の良すぎる展開。そんな幸せの絶頂にいる彼をこれから奈落の底に叩き落とさなければならないのだから。でもこのまま誤解をさせたままの方が残酷だ。だから、ハッキリと言うしかない。どう切り出したものか……慎重に言葉を選ばなければ。
「まずは、さ。チョコレート、ありがとう」
大きなハートを鞄から取り出してそれを眺めた。彼がこれを買うのに、一体どれだけの勇気が必要だったのだろうか。レジに並ぶ間に後ろ指を刺されて笑われたかもしれない。それに確かオオカミは……
「ひとつ聞いてもいい?」
とっとと「ごめん君とは付き合えない」そう言ってしまえればどんなにか楽なことだろうか。けれども死刑宣告のかわりに口から出てきたのは別の言葉。
「なんで僕なの?」
ずっと気になっていた疑問。だって、自分で言うのもなんだけどゲームでいったら村人Cみたいな当たり障りのない目立たない存在なのだから。それに彼と別段接点だってなかったし。
「そ、そりゃなんつうか、ひひ、一目惚れ、みたいな?」
いやいやいやいや、それは無い。僕が容姿端麗で超イケメンだったり、凄く運動ができるとか頭が良いとかだったらともかくとして、村人Cだぞ? しかも、みたいな? ってなんだよ。なんでそこ疑問系なの。
「ホントに?」
ほら。目が泳いでいる。はぐらかされたことに少し苛立ちを覚えて、思わず詰問するような口調になってしまう。
「もしかして、コイツなら簡単にヤれそうとか思った?」
自分でもちょっと意地悪すぎる言い方だとは思う。
「ちがっ、違うっ!!」
一瞬見せた牙が剥き出しの迫力満点な顔に背筋がゾッとする。そんなことは無いと思うが、思いたいが、もし彼を本気で怒らせて掴みかかられでもしたら簡単にひねり殺されてしまうだろう。
「あー……、あー」
もちろんそんなことはされるはずもなく、このオオカミは至って紳士的だった。悪戯を告白する子供のように言いづらそうに口をモゴモゴと動かし、鼻を掻いている。
「うう、ぜってぇ引かれるから言いたくなかったんだけど……」
そうして語られた顛末はこうだ。なんでも、入学式の日にボールペンを忘れて困っていたところ僕が貸してあげたと。
「え? それだけ?」
ぜんっぜん記憶にもない。そう言われればそうだったかなって気もしなくもないけど。てかなに、それだけで好きになるとかあるの?
「声、かけてくれたのが嬉しくて、さ」
それはそれはどういたしまして。だけどさ。
「やっぱ引くよな……キモいよなあ」
心の中に浮かんだけれどとても言い出せず、オブラートでぐるぐる巻きにしても口に出すのが憚られた言葉。イヌ科は一宿一飯の恩義って言葉を体現しているくらいに忠義に厚く義理堅い、そう聞いたことはあるけど、そんなの星座占いとか血液型性格診断と同じくらいの眉唾モノだと思っていた。
そして正直なところ、僕の心はかなり揺れ動き始めていた。それは目の前でヒゲまでへにょへにょに萎えさせて落ち込んでいるオオカミに対する同情だけではない。
「ごめん。付き合うとか今はちょっと考えられない」
悲壮に顔を歪ませるオオカミ。
「だからさ、もっとお互いのこと、ちゃんと知ろうよ?」
白黒つけずに思わせぶりなことを言ってどうするんだ。そう思いつつも、僕は彼に対して拒絶するどころか興味の方が強くなってきたのだから仕方がない。
そう、まずは友達から……そう言葉を続けようとしたところで身体に衝撃が走る。地震!? 一瞬にして天地がぐるりとひっくり返って、目の前にはオオカミの顔。視覚から得られる情報と、三半規管から送られた情報をもとにどうやら自分が押し倒されているのだということを理解した。オオカミの鼓動が僕のそれとリンクしているような錯覚。
「お茶とお菓子、置いとくわよ」
戦国時代だったら、くの一として名を馳せたかもしれないな母さん。階段を登る音はおろか扉を開ける音すら気づかなかった。
「それとあなたたち、学生の本文は勉強なんだから程々にしておきなさいよ」
そう言い残すとまた音もなく出ていった。残されたのは固まった二人分の石膏像。
「ね、ねえ、いつまでこうしてるの?」
僕を抱き抱えるように押し倒したまま動かないオオカミに声をかけても、一向に動こうとする気配がない。
「お、おお、俺、各務原のこともっと知りたい……」
「いや、あれはそういう意味じゃ……んむっ!?」
口の中にヌルリとした感触。長い舌が僕の口内を蹂躙する。
「ぷはっ、ちょ、ちょっと!」
そんな抗議の声も虚しく、一通り僕の口内に不審物が無いかの探索が行われる。
「はあっ……す、好きだっ……」
バカ。順番がメチャクチャだろ。
不思議と嫌悪感は無かった。男同士でキスをするなんて想像したこともなかったし、きっと想像したならば「オエー」なんて冗談めかして言ったかもしれない。けれども、入間くんの真剣で切なげな目を見ると胸がざわついて……いや、嘘だな。そんな綺麗なもんじゃない。ぶっちゃけて言うと、もう僕の頭は性欲に支配されていた。きっとそれは彼も同じだろう。毎日オナニーしても授業中はムラムラするし、国語辞典でエッチな単語を見つけただけで勃起してしまうくらいに性欲オバケなんだ、このぐらいの歳ならみんなそうに決まっている。
いいじゃないか別に。お互いに合意のもとだし、不特定多数とヤろうって訳じゃない。運動部の連中だってノリで連れオナぐらいはしているだろう。彼が生涯の伴侶になるかどうかはわからないけれど、そうじゃなかったとしても、きっと大人になったら同窓会でそんなこともあったよねなんて笑い飛ばせるぐらいの些細な問題に違いない。
僕がそう自分自身に言い訳を続けている間も、オオカミの鼻先は麻薬探知犬のように僕の身体中を嗅ぎ回り、マーキングでもしようというのか頭をあちこちに擦り付けている。
「服、脱ごうぜ」
踏み込まれたアクセルは元には戻らない。
狂いそうな興奮に押されて互いにいそいそと服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で勃起したちんぽをさらけ出す。ごくりと唾を飲み、どちらのものともつかない鼻息が部屋に響き渡る。
「じゃ、じゃあ俺から……」
そう言うなり彼は仁王立ちとなった僕の前に跪くと、クンクンと匂いを確かめる。その度に真っ赤に腫れ上がったオオカミのちんぽがしゃくりあげ、僕もこの異様な光景に頭の中でバチバチと火花が飛んだ。これってつまり、その、口で……フェラするんだよな。先ほど味わったあの舌がちんぽにまとわりつくのだと思うと、それだけで射精をしてしまったのかと錯覚するほどの先走りが垂れた。
「あ、そうだ」
早く、このオオカミの長細い口吻でちんぽを咥えて欲しい。そんな焦りを知ってか知らずか、何かを思い出したようにつぶやく。それから脱ぎ散らかした服の中を何やら漁り始めた。なんだって言うんだ! 早く、早く! エロ動画でしか見たことのない未知の、極上の快楽をお預けされて思わず叫び出してしまいそうだ。
「い、一応……つけといた方がいいよな?」
手に持っているのはあの薬局で買ったコンドーム。まあ、男同士だから別に避妊する必要も無いし、わざわざ使わなくたって。でも衛生的にはつけておいた方がいいのか? フェラだけでも危険だと保健の授業で習った気もする。
「じゃあ……」
ここで彼の機嫌を損ねて、やっぱりやめたなんてことになったらたまったもんじゃない。本当はその、こんなの無しでして欲しかったのだが。コンドームを受け取ると、二人して自らのモノへ装着を試みる。
「んっ、ムズイなこれ……」
ヌルヌルして滑るし、ゴムが窮屈でつけにくい。亀頭に帽子をするように被せてから、巻かれたものをゆっくりと引き下ろして……っと、油断するとこれだけで射精してしまいそうだ。毛を巻き込まないようにゆっくり、ゆっくり。
「……なんか笑えるな、コレ」
「だね」
これから性行為をしようというのに、そんな雰囲気もぶっ飛んでしまうような滑稽さ。お互いのちんぽが真空パックされたかのようで、思わず苦笑いしてしまう。それでも一向に萎える気配が無いのは若さゆえの特典というやつだろうか。
「ま、まあ、続き、な?」
なにはともあれ。半開きの口がちんぽに覆い被さり、ゆっくりと侵攻を開始する。このマズルの中にちんぽが入る、いよいよフェラされるんだ。
じゅぶ……
「おえ、ゴムくせぇ」
しかめっ面でそんな悪態をつきながらも、やめる気配はない。薄い皮膜越しに感じる体温。想像していたのよりも随分と弱い刺激だった。いつもの手で強く握る刺激でなく、柔らかい肉壁によるものだからこんなものかもしれない。
くぷっ……つぷ、じゅぷっ
「うあっ!? あっ、気持ちいいっ」
所詮はこの程度か、と舐めかかったところで本格的なピストン運動が始まり思わず声を出してしまう。こそばゆいような、ジンジンとした痺れが亀頭から竿にかけて伝播していく。
ぐぶっ、じゅっぽ……じゅぷっ
決して上手とは言えないぎこちない動き。牙が当たらないように探り探りで往復する経路を計算している。
ぶぷっ……にゅぶ……ぐぷぷっ
「はあっ……あっ、あ、ああっ」
右手とは異なる種別の感覚に、気持ち良くてすぐにイってしまいそうなのに後一歩のところで絶頂には至らないという拷問。もどかしい。今すぐこの唾液に塗れたちんぽを扱き上げて射精したい。でもそれと同時にもっとこの甘い攻め苦を楽しみたい。
れるっ……れろちゅっ
ソフトクリームを舐め上げるように裏筋を這い回る触手。軽い絶頂と共に先走りが吹き出したのか、ピッチリと貼り付いていたゴムとちんぽの間が自家製のローションで埋められる。それがまた先ほどまでとは違う刺激となって、キンタマが射精に向けて縮こまり始めた。
「いっ、入間くんっ、も、もうっ、あっあっ」
あとほんの一押し。射精に至らしめる刺激を懇願して腰を振ると、それに呼応してちんぽへの吸い付きが強くなり、根本まで全部飲み込まれた、そのとき。
ぶりゅっ
「はあっ!? あっ、ああああっ!」
「んむぐっ!?」
何かがブツリと千切れたような感触と共に、これまでとは比べ物にならない熱量がちんぽを襲う。
ぐぶちゅっ、びゅ! びゅーっ! びゅっ!
吐精の快楽で頭が真っ白になって、オオカミの頭を掴んで引き寄せて、腰を思い切り押し付けて小刻みに動かして口内を満喫する。明らかに生々しく柔らかい舌と、ぬるついた唾液と、牙の硬質の感触。
ぴゅっ……ごくっ……びゅるっ……ごく
口内射精された精液を飲み下す音と共に、少しずつ冷静さを取り戻していく。そうして一体何が起こっているのか徐々に把握ができてきた。無理矢理に動かしたものだから、おそらくは牙でコンドームに穴が空いてそこからちんぽが飛び出したのだ。それまで散々に吐き出された我慢汁と共に。ゴムの匂いのしていた中で、突如として溢れたちんぽの匂いに驚いて声をあげたという訳だ。
まだ、これが初めからコンドームをつけずに徐々に慣らしていけばそうでもなかったのかもしれないが、ダムが決壊するかのごとく先走りが押し寄せたのだ。人間の数万倍ともいわれる嗅覚をもつ繊細なオオカミの鼻腔に怒涛の如くちんぽの匂いが充満し……その結果、入間くんのちんぽはコンドームの中で射精をして、ぶっくりと膨れた白い風船が出来上がっていた。射精を終えたとは言え、未だに二本のちんぽは萎える素振りが見られない。次は攻守交代して続きを
――ガチャッ
「隆一、お友達も晩御飯……」
僕と、入間くんと、母と、帰宅した父。
人生最悪の日。そんな言葉をこの歳で使うとは思わなかった。
「ほ、ほら、遠慮せずいっぱい食べて精をつけなさい」
別の意味に聞こえてしまうのは僕だけですかお父さん。
「明日休みだし、お家に連絡して今日は泊まっていったら?」
お母さん、変な気はまわさなくていいんです。
「い、いいんですかっ!? じゃあ、一緒に寝ような? へへ……」
頼むからもうこれ以上しゃべらないで。まったくなんでこんなことになっちゃったんだ。
「あー……、父さん、母さん」
僕をよそに勝手に盛り上がっていた六つの瞳がこちらを眺めた。
「改めて紹介するね、こちら入間くん。僕の恋人」
まだ二月だっていうのにとんでもなく暑苦しい。
折り畳まれたノートの切れ端を開くとそこに踊る、いや暴れ狂う文字。アニメやゲームでも使い古されて出涸らしになったこの文句を目の当たりにするとは思いもしなかった。
まあ、今週末はバレンタインデーというのもあって一部の女子は先生の目を忍んでチョコレートを男女問わず配っていた訳なのだが。いずれにせよ、このまま下駄箱の前で突っ立っていて誰かに見つかったら厄介なことになる。僕はその紙切れをポケットにくしゃりと仕舞い込むと、どこか陰鬱な気持ちのまま次の授業へと向かうのであった。
本当ならその手紙の差出人を想像しながらスキップでもしたいところなのだが……なんせ汚いのだ。字が。色恋の匂いなんて微塵も感じられない果たし状のような乱暴な殴り書き。いや本物の果たし状なのかもしれないな。こんな日に流血沙汰なんてたまったもんじゃないぞ。そもそも、誰かの恨みを買ったり喧嘩を売られたりする心当たりはどこにも無い位に人畜無害を自負しているのになんで僕が。
「お、おお、おう、よく来たな!」
起き抜けに勇者の来訪をうけた魔王みたいな台詞。え、ちょっと待って。これどういう状況なの。
魔王という表現は我ながら的を得た表現かもしれない。なんせ目の前に立ちはだかっているオオカミは僕よりも一回りも二回りも大きくて、ただそこに存在しているだけで放たれる威圧感。彼が特別発育が良いという訳ではなく、オオカミという種族によってもたらされる恩恵が大きいのだが。
「えーっと。入間……くん、だよね?」
交友関係も無いしクラスも違うし、僕が知り得る情報はその苗字と種族くらいなものだ。名前を呼ばれた彼は照れ臭げに鼻を掻いてみせる。ううん、ますます不可解な状況だ。少なくとも今から殴り合いの喧嘩をおっ始めようって空気では無いのが救いではあるが。
「コレ、やる!」
何かを後ろ手にモジモジとしていたオオカミが、僕に食いかからんばかりの勢いで何かを差し出した。反射的に目を瞑り、身体と縮こめて防御体勢をとったものの、予想したような衝撃は一向に訪れる気配がない。意を決して恐る恐る薄目を開けて見ると……
うわあ、マジか。僕のての中にあるのは丁寧にラッピングされたハート型の容器。それも真っ赤にキラキラ輝いていて、反射した夕日が目に染みる。これってつまりはそういうことだよな。心の中で戸惑いと葛藤が渦巻きながらも、反射的に手を伸ばして受け取ってしまう。
「いっ、いいのか各務原っ!?」
己の迂闊さを呪う暇もなく、向けられたその顔に胸の内がざわめいた。
言いたいことも、聞きたいことも山ほどある。男同士だとか異種族だというのももちろんのことながら、そもそもなんで僕なんだ。今まで全然接点なかったよな。これが幼馴染だとか、親友だとかで普段から交友があったのであれば、実は内に秘めた思いがあってというのも理解できる。けれどもそう言った繋がりはとんと無くて、僕は本当にこのオオカミについて何も知らないのだ。
「あの、入間くん」
てっきり僕が告白を受け入れたものだと信じてやまないキラッキラの目。ううん、これはまいったな。向こうが勝手に自分の感情を一方的に押し付けてきただけなのだから、こっちだって冷酷に突き放すことだってできるだろう。何も罵声を浴びせようという訳ではないにしろ、ごめん興味が無いから、と返すぐらいの権利は僕にだってある筈だ。けれど、彼の表情を見る限りこれは罰ゲームやお遊びの類ではないことは想像に難くない。僕の返答次第では心に大きな傷を残してしまうかもしれない。
「あの」
もう一度口を開きかけたところで誰かが近づいてくる気配。まずいな、こんなところを誰かに見られたら非常に厄介だ。慌てて手に持っていたチョコレートを鞄の中に仕舞い込んでから、
「とりあえず、ウチに寄ってってよ」
だって、他に落ち着いて話ができる場所なんてないんだもん。
オオカミの背後にある、感情の隠し立てが出来ない器官が始動した。ああ、これ絶対勘違いしてるよな。違う違う、そういう意味じゃないって。速度を増してプロペラのようにブンブンと風を切る音を感じながら、できるだけ人目につかないように帰宅を……って。土台無理な話だった。まあ目立つ目立つ。だってデカいんだもん。ほらまた見られた。脳裏に犬を従える桃太郎の絵が浮かんだ。
「なあっ、ホントにいいのか? いきなり家に行ったりして」
喜びと緊張の入り混じった声。まずい、早くこの誤解を解かないとまずいぞ。
「入間くん、その……なんていうか言いにくいんだけど」
人通りの少ない路地に差し掛かったところで声をかけた。なんせセンシティブな話題なのだから、誰かに聞かれたりしないように本当は家でゆっくり話をしたかったのだが、このまま下手に期待を持たせてしまうは残酷すぎるだろう。気が重いけど、言うなら今だ。
「うん? あ……なっ、ななっ!?」
僕が何かを言う前に、何かに気がついた様子。あれ、何だ?
「そ、そそ、そういうのは、あの、いきなり」
酷く慌てた様子で目を白黒させている。
「でも、あったほうがいいよな、やっぱりエチケットだしな、うん」
いまいち噛み合わない歯車に混乱している僕をよそに、彼はズボンのポケットから財布を取り出すや小銭をジャラジャラとかき集め始めた。なんだ、急にジュースでも買う気か?
「あの……何を……って、ええっ!?」
今度は僕が驚く番だった。ロボットのようなぎこちない動きで僕の脇を通り過ぎるオオカミを振り返ると、そこにあったのは自動販売機。けど、そこに陳列されているのはジュースでは無かった。郵便ポスト程の大きさの箱の中に陳列されているのは、一見するとタバコのように見える箱。制服でタバコなんて買っているのを誰かに見られたりしたら退学は免れないだろう。だが今オオカミが震える手で小銭を投入するそれは、ある意味ではタバコよりも見られちゃマズいものだった。そこにデカデカと書かれていたのは『明るい家族計画』。
「は? え? いや、ちょっ」
よくよく辺りを見渡すと、薬局の前。なんでよりにもよって。バカバカ、俺のバカ!
しばらく彷徨っていた指が、フリーサイズ(人獣共通)と書かれたボタンを押下するとゴトリと何かが落下した。へえ、フリーサイズだなんて流石国産のゴム製品は凄いよな、世界に誇る技術だよね。
「あー……」
出てきた箱をそそくさと胸ポケットに仕舞い込んでから、耳をピコピコ動かしてはにかむオオカミに掛ける言葉が見つからない。もうこれ以上何か行動を起こすと墓穴を掘るだけになりそう。
「……とりあえず、早くウチにいこっか……」
「かっ、各務原って意外と積極的なんだなっ」
早速地雷を踏み抜いた僕は、耳打ちするオオカミの手を半ばやけくそになって引っ張り、小走りで自宅へと足を進めるのだった。
「ただいま……」
つっかれた。なんで僕がこんな思いしなきゃならないんだよ……すれ違う人からはジロジロ見られるし、このオオカミはデカい図体の割には恥じらう乙女みたいになってるし。
「おかえりなさい。あら、お友達?」
出迎えた母親が僕の背後で棒立ちになっているオオカミに気がついた。
「ああ、ともだ「お付き合いさせて頂くことになった入間です!」」
割り込んだ声にかき消される僕の声。
「お付き合い?」
「ともだち!」
そうそう、友達付き合いとも言うからね。
「あらあら、まあ……そうね、もうバレンタインだったわね」
「と・も・だ・ち!!」
まてまて、二人とも深々と頭を下げ合わないで。違うんだって、そういうのじゃないんだって。僕を蚊帳の外に追いやって、何やらわかり合ったような感じださないで。
「この子、ウチじゃ学校のこと全然話さないものだから心配してたけど……仲良くしてやってね?」
そういうのいいから、マジで。
「しっ、真剣に交際する、します!」
もうなんなの……ちょっと泣きたくなってきた。
「……部屋、いくから」
「お、おじゃましますっ!」
色々と課題は山積している。
天井に頭をぶつけないようにか、そろりそろりと身をかがめながら僕に続いて階段を登る姿に奇妙な感覚を覚える。こうして誰かを家に呼んだのっていつ振りだったろうか。
それからオオカミは部屋に入るなり、意識しているのか無意識なのか、鼻をヒクヒクと鳴らして匂いを嗅いだ。まあ、他人の家って独特の生活臭みたいなものがするから気持ちはわかるけれど。
「そこ、座って」
借りてきた猫のようにクッションの上にちょこんと座るオオカミを尻目に鞄を置くと、どうしたものかと考えをめぐらせる。不可抗力によって僕たちが付き合っているかのような既成事実が作られようとしているが、それは否定しなければいけない。母親にもあとでちゃんと事情を説明しておかないと面倒なことになりそうだし、場合によってはクラスメイトにも根回しが必要かもしれない。
「はあ……ようやく落ち着けたね」
ここなら人目を気にせず、邪魔されることもなくしっかりとした話し合いができる。
「そうだな、へへ……」
その笑顔を見ると胸がズキンと痛んだ。
前々日とはいえバレンタインに告白して、願いが成就して、相手の家に呼ばれてあわよくばエッチなこともできるかもしれない。そんな何もかもが上手く行きすぎている恋愛漫画みたいな都合の良すぎる展開。そんな幸せの絶頂にいる彼をこれから奈落の底に叩き落とさなければならないのだから。でもこのまま誤解をさせたままの方が残酷だ。だから、ハッキリと言うしかない。どう切り出したものか……慎重に言葉を選ばなければ。
「まずは、さ。チョコレート、ありがとう」
大きなハートを鞄から取り出してそれを眺めた。彼がこれを買うのに、一体どれだけの勇気が必要だったのだろうか。レジに並ぶ間に後ろ指を刺されて笑われたかもしれない。それに確かオオカミは……
「ひとつ聞いてもいい?」
とっとと「ごめん君とは付き合えない」そう言ってしまえればどんなにか楽なことだろうか。けれども死刑宣告のかわりに口から出てきたのは別の言葉。
「なんで僕なの?」
ずっと気になっていた疑問。だって、自分で言うのもなんだけどゲームでいったら村人Cみたいな当たり障りのない目立たない存在なのだから。それに彼と別段接点だってなかったし。
「そ、そりゃなんつうか、ひひ、一目惚れ、みたいな?」
いやいやいやいや、それは無い。僕が容姿端麗で超イケメンだったり、凄く運動ができるとか頭が良いとかだったらともかくとして、村人Cだぞ? しかも、みたいな? ってなんだよ。なんでそこ疑問系なの。
「ホントに?」
ほら。目が泳いでいる。はぐらかされたことに少し苛立ちを覚えて、思わず詰問するような口調になってしまう。
「もしかして、コイツなら簡単にヤれそうとか思った?」
自分でもちょっと意地悪すぎる言い方だとは思う。
「ちがっ、違うっ!!」
一瞬見せた牙が剥き出しの迫力満点な顔に背筋がゾッとする。そんなことは無いと思うが、思いたいが、もし彼を本気で怒らせて掴みかかられでもしたら簡単にひねり殺されてしまうだろう。
「あー……、あー」
もちろんそんなことはされるはずもなく、このオオカミは至って紳士的だった。悪戯を告白する子供のように言いづらそうに口をモゴモゴと動かし、鼻を掻いている。
「うう、ぜってぇ引かれるから言いたくなかったんだけど……」
そうして語られた顛末はこうだ。なんでも、入学式の日にボールペンを忘れて困っていたところ僕が貸してあげたと。
「え? それだけ?」
ぜんっぜん記憶にもない。そう言われればそうだったかなって気もしなくもないけど。てかなに、それだけで好きになるとかあるの?
「声、かけてくれたのが嬉しくて、さ」
それはそれはどういたしまして。だけどさ。
「やっぱ引くよな……キモいよなあ」
心の中に浮かんだけれどとても言い出せず、オブラートでぐるぐる巻きにしても口に出すのが憚られた言葉。イヌ科は一宿一飯の恩義って言葉を体現しているくらいに忠義に厚く義理堅い、そう聞いたことはあるけど、そんなの星座占いとか血液型性格診断と同じくらいの眉唾モノだと思っていた。
そして正直なところ、僕の心はかなり揺れ動き始めていた。それは目の前でヒゲまでへにょへにょに萎えさせて落ち込んでいるオオカミに対する同情だけではない。
「ごめん。付き合うとか今はちょっと考えられない」
悲壮に顔を歪ませるオオカミ。
「だからさ、もっとお互いのこと、ちゃんと知ろうよ?」
白黒つけずに思わせぶりなことを言ってどうするんだ。そう思いつつも、僕は彼に対して拒絶するどころか興味の方が強くなってきたのだから仕方がない。
そう、まずは友達から……そう言葉を続けようとしたところで身体に衝撃が走る。地震!? 一瞬にして天地がぐるりとひっくり返って、目の前にはオオカミの顔。視覚から得られる情報と、三半規管から送られた情報をもとにどうやら自分が押し倒されているのだということを理解した。オオカミの鼓動が僕のそれとリンクしているような錯覚。
「お茶とお菓子、置いとくわよ」
戦国時代だったら、くの一として名を馳せたかもしれないな母さん。階段を登る音はおろか扉を開ける音すら気づかなかった。
「それとあなたたち、学生の本文は勉強なんだから程々にしておきなさいよ」
そう言い残すとまた音もなく出ていった。残されたのは固まった二人分の石膏像。
「ね、ねえ、いつまでこうしてるの?」
僕を抱き抱えるように押し倒したまま動かないオオカミに声をかけても、一向に動こうとする気配がない。
「お、おお、俺、各務原のこともっと知りたい……」
「いや、あれはそういう意味じゃ……んむっ!?」
口の中にヌルリとした感触。長い舌が僕の口内を蹂躙する。
「ぷはっ、ちょ、ちょっと!」
そんな抗議の声も虚しく、一通り僕の口内に不審物が無いかの探索が行われる。
「はあっ……す、好きだっ……」
バカ。順番がメチャクチャだろ。
不思議と嫌悪感は無かった。男同士でキスをするなんて想像したこともなかったし、きっと想像したならば「オエー」なんて冗談めかして言ったかもしれない。けれども、入間くんの真剣で切なげな目を見ると胸がざわついて……いや、嘘だな。そんな綺麗なもんじゃない。ぶっちゃけて言うと、もう僕の頭は性欲に支配されていた。きっとそれは彼も同じだろう。毎日オナニーしても授業中はムラムラするし、国語辞典でエッチな単語を見つけただけで勃起してしまうくらいに性欲オバケなんだ、このぐらいの歳ならみんなそうに決まっている。
いいじゃないか別に。お互いに合意のもとだし、不特定多数とヤろうって訳じゃない。運動部の連中だってノリで連れオナぐらいはしているだろう。彼が生涯の伴侶になるかどうかはわからないけれど、そうじゃなかったとしても、きっと大人になったら同窓会でそんなこともあったよねなんて笑い飛ばせるぐらいの些細な問題に違いない。
僕がそう自分自身に言い訳を続けている間も、オオカミの鼻先は麻薬探知犬のように僕の身体中を嗅ぎ回り、マーキングでもしようというのか頭をあちこちに擦り付けている。
「服、脱ごうぜ」
踏み込まれたアクセルは元には戻らない。
狂いそうな興奮に押されて互いにいそいそと服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で勃起したちんぽをさらけ出す。ごくりと唾を飲み、どちらのものともつかない鼻息が部屋に響き渡る。
「じゃ、じゃあ俺から……」
そう言うなり彼は仁王立ちとなった僕の前に跪くと、クンクンと匂いを確かめる。その度に真っ赤に腫れ上がったオオカミのちんぽがしゃくりあげ、僕もこの異様な光景に頭の中でバチバチと火花が飛んだ。これってつまり、その、口で……フェラするんだよな。先ほど味わったあの舌がちんぽにまとわりつくのだと思うと、それだけで射精をしてしまったのかと錯覚するほどの先走りが垂れた。
「あ、そうだ」
早く、このオオカミの長細い口吻でちんぽを咥えて欲しい。そんな焦りを知ってか知らずか、何かを思い出したようにつぶやく。それから脱ぎ散らかした服の中を何やら漁り始めた。なんだって言うんだ! 早く、早く! エロ動画でしか見たことのない未知の、極上の快楽をお預けされて思わず叫び出してしまいそうだ。
「い、一応……つけといた方がいいよな?」
手に持っているのはあの薬局で買ったコンドーム。まあ、男同士だから別に避妊する必要も無いし、わざわざ使わなくたって。でも衛生的にはつけておいた方がいいのか? フェラだけでも危険だと保健の授業で習った気もする。
「じゃあ……」
ここで彼の機嫌を損ねて、やっぱりやめたなんてことになったらたまったもんじゃない。本当はその、こんなの無しでして欲しかったのだが。コンドームを受け取ると、二人して自らのモノへ装着を試みる。
「んっ、ムズイなこれ……」
ヌルヌルして滑るし、ゴムが窮屈でつけにくい。亀頭に帽子をするように被せてから、巻かれたものをゆっくりと引き下ろして……っと、油断するとこれだけで射精してしまいそうだ。毛を巻き込まないようにゆっくり、ゆっくり。
「……なんか笑えるな、コレ」
「だね」
これから性行為をしようというのに、そんな雰囲気もぶっ飛んでしまうような滑稽さ。お互いのちんぽが真空パックされたかのようで、思わず苦笑いしてしまう。それでも一向に萎える気配が無いのは若さゆえの特典というやつだろうか。
「ま、まあ、続き、な?」
なにはともあれ。半開きの口がちんぽに覆い被さり、ゆっくりと侵攻を開始する。このマズルの中にちんぽが入る、いよいよフェラされるんだ。
じゅぶ……
「おえ、ゴムくせぇ」
しかめっ面でそんな悪態をつきながらも、やめる気配はない。薄い皮膜越しに感じる体温。想像していたのよりも随分と弱い刺激だった。いつもの手で強く握る刺激でなく、柔らかい肉壁によるものだからこんなものかもしれない。
くぷっ……つぷ、じゅぷっ
「うあっ!? あっ、気持ちいいっ」
所詮はこの程度か、と舐めかかったところで本格的なピストン運動が始まり思わず声を出してしまう。こそばゆいような、ジンジンとした痺れが亀頭から竿にかけて伝播していく。
ぐぶっ、じゅっぽ……じゅぷっ
決して上手とは言えないぎこちない動き。牙が当たらないように探り探りで往復する経路を計算している。
ぶぷっ……にゅぶ……ぐぷぷっ
「はあっ……あっ、あ、ああっ」
右手とは異なる種別の感覚に、気持ち良くてすぐにイってしまいそうなのに後一歩のところで絶頂には至らないという拷問。もどかしい。今すぐこの唾液に塗れたちんぽを扱き上げて射精したい。でもそれと同時にもっとこの甘い攻め苦を楽しみたい。
れるっ……れろちゅっ
ソフトクリームを舐め上げるように裏筋を這い回る触手。軽い絶頂と共に先走りが吹き出したのか、ピッチリと貼り付いていたゴムとちんぽの間が自家製のローションで埋められる。それがまた先ほどまでとは違う刺激となって、キンタマが射精に向けて縮こまり始めた。
「いっ、入間くんっ、も、もうっ、あっあっ」
あとほんの一押し。射精に至らしめる刺激を懇願して腰を振ると、それに呼応してちんぽへの吸い付きが強くなり、根本まで全部飲み込まれた、そのとき。
ぶりゅっ
「はあっ!? あっ、ああああっ!」
「んむぐっ!?」
何かがブツリと千切れたような感触と共に、これまでとは比べ物にならない熱量がちんぽを襲う。
ぐぶちゅっ、びゅ! びゅーっ! びゅっ!
吐精の快楽で頭が真っ白になって、オオカミの頭を掴んで引き寄せて、腰を思い切り押し付けて小刻みに動かして口内を満喫する。明らかに生々しく柔らかい舌と、ぬるついた唾液と、牙の硬質の感触。
ぴゅっ……ごくっ……びゅるっ……ごく
口内射精された精液を飲み下す音と共に、少しずつ冷静さを取り戻していく。そうして一体何が起こっているのか徐々に把握ができてきた。無理矢理に動かしたものだから、おそらくは牙でコンドームに穴が空いてそこからちんぽが飛び出したのだ。それまで散々に吐き出された我慢汁と共に。ゴムの匂いのしていた中で、突如として溢れたちんぽの匂いに驚いて声をあげたという訳だ。
まだ、これが初めからコンドームをつけずに徐々に慣らしていけばそうでもなかったのかもしれないが、ダムが決壊するかのごとく先走りが押し寄せたのだ。人間の数万倍ともいわれる嗅覚をもつ繊細なオオカミの鼻腔に怒涛の如くちんぽの匂いが充満し……その結果、入間くんのちんぽはコンドームの中で射精をして、ぶっくりと膨れた白い風船が出来上がっていた。射精を終えたとは言え、未だに二本のちんぽは萎える素振りが見られない。次は攻守交代して続きを
――ガチャッ
「隆一、お友達も晩御飯……」
僕と、入間くんと、母と、帰宅した父。
人生最悪の日。そんな言葉をこの歳で使うとは思わなかった。
「ほ、ほら、遠慮せずいっぱい食べて精をつけなさい」
別の意味に聞こえてしまうのは僕だけですかお父さん。
「明日休みだし、お家に連絡して今日は泊まっていったら?」
お母さん、変な気はまわさなくていいんです。
「い、いいんですかっ!? じゃあ、一緒に寝ような? へへ……」
頼むからもうこれ以上しゃべらないで。まったくなんでこんなことになっちゃったんだ。
「あー……、父さん、母さん」
僕をよそに勝手に盛り上がっていた六つの瞳がこちらを眺めた。
「改めて紹介するね、こちら入間くん。僕の恋人」
まだ二月だっていうのにとんでもなく暑苦しい。
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