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本屋さんの話
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「うーん、入るべきか、入らざるべきか。」
ポケットに紙片を握ったまま、こうして悩むことかれこれ三十分。
国道の脇に並ぶ花屋や精肉店に並んで佇む小さな書店兼ビデオショップ。おまけに軒先には古びたアーケードゲームが二台。それも考えるとゲームセンターだって立派に兼ねていると言えるだろう。
もちろん都会にある専門店に比べれば笑ってしまうくらいに貧相なものではあるが、この片田舎の小さな集落にとっては貴重な娯楽施設なのだ。ここにはもう随分と長いことお世話になっている。それこそ僕が物心さえつくまえに初めて読み聞かせしてもらった絵本も、小学校に上がって小遣いをもらえるようになってからは毎月愛読していた漫画雑誌だってここで買っていたし、中学高校では友人と格闘ゲームに明け暮れたものだ。
大学生となった今は、通学の相棒として原付を手に入れたこともあり、行動範囲が格段に広がったので簡単に市街地にも行けるようになった。おまけに最近はわざわざ店舗まで出向かなくたって、スマホをポチポチッとするだけで何だって簡単に買えてしまう時代。
シートに跨ったまま、夕日に照らされて黄金色を反射するガラスを眺めているとそんな青臭い思い出が鼻先をツンとくすぐった。
「ジンくん、入らないの?」
店先に原付で乗りつけたはいいものの一向に入ってくる気配のない不審者に痺れを切らしたのだろうか、大柄な身体に似合わない可愛いエプロンを着けた店主が心配そうに声を掛けてくる。
「……よくわかりましたね」
少しだけ奮発して、ちょっと格好つけたい気持ちもあって買ったフルフェイスのヘルメット越しに発したくぐもった僕の声が、宇宙に向かって突き出されたレーダーアンテナのような耳をピクリと跳ねさせた。
「ま、これにかかれば、ね?」
突き出た口吻の先にある真っ黒な鼻を指先でトントンと叩いて自慢げな笑み。口元から僅かにのぞく犬歯がキラリと輝いて、歯磨き粉のコマーシャルを連想させた。
「にしても、随分でっかくなったなあ」
もう。正月に会う親戚のおじさんじゃないんだから。
「シュウ兄ぃもそんなジジ臭いこと言うようになったんだね」
悲しいかな、いや幸いなことに、天井までビッシリと本が所狭しと陳列された迷路のような店内には僕たち二人っきり。いくらか歳が離れてはいるものの、もとより人口の少ないこの町では彼は面倒見のいい近所のお兄さんといったところだった。
「おいおい、これでもまだ二十代なんだぞ」
「ギリギリ、ね」
そう軽口を叩いてみせるとやおら鼻面に深い皺が刻まれていく。獰猛な威嚇顔がこちらを睨みすえて、まん丸に見開かれた目なんかはレーザービームでも出るんじゃないかってくらいの眼力だ。けれどもそんな緊迫した絵面とは裏腹に、その喉の奥からはクツクツとした嗚咽にも似た空気の圧縮音。
やがてそれが臨界に達すると、とうとう破顔したオオカミは自らの膝を叩きながら大きな口を開けてゲラゲラと笑い出したのだった。それに釣られて僕も笑ってしまう。僕たち以外他にいないのだから、店主と客との関係を取り繕う必要なんてどこにも無いのだ。
「んで。今日はわざわざどうしたの? ただ本を買いに来たって訳じゃあないんでしょ?」
ひとしきり笑い終わってから、途端に真剣な目が向けられる。それもそのはずだ。だって、都会の大きな書店にしか置いてないような専門書だって、今は通販で簡単に手に入るんだから。
「何か悩みとかあるの?」
シュウ兄はいつも優しかった。学校で友達と喧嘩してしまった時は、どうにかして仲直りするためのアドバイスをくれたし、進路のことで悩んだ時も相談にのってくれて、オススメの参考書だって教えてくれたんだ。
僕がここまで来ながらも未だに用件を言い渋っているものだから、その金色の目はますます僕を心配げに見つめる。
「あの、なんていうか」
こんなにも純粋な善意を注がれてしまうと、ポケットに忍ばせているものがあまりにも不釣り合いで馬鹿馬鹿しくて今すぐにでも握りつぶして消し去ってしまいたくなる。
「ええっと……僕、実家から大学に通ってて」
要領を得ない回答にオオカミは首をかしげ、何か言いたげに口を半開きにしたものの我慢強く次の言葉を待っている。
「それで、通販とかでモノ買うと家に届くんですよね」
「ああ、エッチなやつ買いたいんだ?」
さすがオオカミの嗅覚は鋭い。はぐらかしはぐらかしできるだけ遠回りをしながら言葉を選んでいたところをズバリ正解を言い当てられる。
「家族に見られたら困るもんねぇ。いやあ、それにしてもジンくんもそんなお年頃かぁ……くく」
今度は僕が笑われる番。なんせまだはなたれ小僧の頃からの顔見知りなのだ。もう顔から火が出るくらいに恥ずかしい。でも、だからこそ、こんなみっともないお願いをできる相手は彼しか心当たりがなかったのだ。
だけど、なあ。でもなあ。よりによってシュウ兄だからなあ。いやいや自分でここまで来たんだろうがと頭の中で自らツッコミを入れながらも、今更ながらに後悔が押し寄せて逃げ帰ってしまいたくなる。
――うわっ、マジかよキモっ!
よりにもよって、こんな時に思い出さなくてもいいだろう。
――俺らのことずっとそういう目で見てたわけ?
もう忘れたと思っていたのにな。
――なあなあ、俺とこいつならどっちとヤりたい?
チクチクとした棘が胸の中で転がりまわるにつけて、自己防衛の本能だろうかアドレナリンが吹き出して指先が小さく震える。
「ジンくん、笑ったりしてごめん。もう笑ったりしないから。」
僕が回想のなかに溺れているのを己のせいだと勘違いしたシュウ兄が申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ、いや、ちがうくて」
「この店の店主として、お客様の秘密は絶対に厳守するから、約束する。」
そんな目でそこまで言われてしまうともう引き下がるに引き下がれないじゃないか。今更やっぱりやめたなんて言える空気じゃ無い。でも、やっぱりなあ、やっぱり流石にまずいよなあ、絶対ドン引きされるって。もう二度とこの店に来れなくなるかもしれない。けどこんな顔されてしまったら。
「あの……これ、DVD……」
差し出した紙切れには三行の文字の羅列。
おちんぽ大好き即尺わんわん VOL2
淫乱オオカミさんは今日もお口でご奉仕しちゃうの
マズルファック100連発 口内射精スペシャル編
ほら、言わんこっちゃ無い。驚きのあまり見開かれた目は嫌悪に染まるか嘲笑へと変わるのか。
「いやあ、大学の連中と賭けに負けて罰ゲーム……っ!?」
何もかも冗談にしてしまって、さっきみたいにまた二人でバカ笑いすればいいさ。そう思っていたら、突然両手にふわりとした感触。
「……これは勇気がいるよな。ありがとう、誰にも言ったりしないからな。」
そんな悪戯を告白した子供に言い聞かせるような、混じりっけなしの純粋な善意。その目をみれば、シュウ兄の言葉が決して上っ面だけではないというのは火を見るよりも明らかだ。
だけどそうして向けられた同情の言葉が、掻き乱された僕の心を更に揺さぶった。みんな初めはそうやって「自分は理解があるから」なんて言葉を吐くんだ。そしてこんな異端者にも優しくしてあげている自分という存在に酔いしれる。それから次に出てくるのは「でも俺のことは狙わないでね?」と来たもんだ。結局のところ理解しようなんてのが土台無理な話なのだ。
こんなのはただの八つ当たりだってことはわかっている。けれどもそれまでの恨みを晴らすべく、どす黒い欲望を満たすべく、僕はこのオオカミの善意を最低な方法で踏み躙ってしまったのだ。
「ちゅっ、注文、してもらえますよね?」
「お、おお、おう、もっ、もちろん。あとで発注しておくね。」
その動揺に付け込んでこう畳みかけた。
「間違いが無いか、読み上げてもらってもいいですか?」
確かに何か注文を受けた時に復唱するのはよくあることだけど、わざわざ紙に書いてあるんだから読み上げる必要性なんてどこにも無いだろう。けれど流石はシュウ兄。若くしてこの店を継いで一人で切り盛りしてきただけあって商売には誠実なのだ。淫語が書かれた紙を見つめ、固唾を飲んでからゆっくりと口を開ける。
「おっ、おち、おちんぽ……だいすき……」
噛み締めるように読み上げた言葉を頭の中で反芻し、それを強く意識してしまったのかボシュッと聞こえてきそうなくらいに湯気を出して赤面するオオカミ。天に向かって垂直に突き出していた耳も腫れぼったい熱と共にぺったりと伏せられている。早く続きをと急かすように目配せすると、目を潤ませて半べそをかきながらもその口から次々に猥語が飛び出していく。
「いんらんっ、オオカミ……お口で奉仕……っ」
その姿を、今までの人生の中で最大限の集中力をもってビデオレコーダーのように頭の中に刻み込んでいく。気のせいか、ゆったりとしたエプロンがあるにもかかわらず腰が引けているような気がする。それが尚更僕を興奮させた。
あの時の姿を、羞恥に染め上げられた顔を、震える唇を思い出して何度抜いたことだろうか。
正直なところもう注文したDVDなんてどうでもよくなってしまった。妄想の中でシュウ兄を凌辱し、その口の中に自らの欲望を……
「はい、もしもし」
今夜もまた新しい日課となった秘事を始めようとした矢先、スマホが着信に震えた。
「ジンくん? その、届いたよ、アレ。」
頭の中のシミュレーションでは、なんの件でしたっけ? なんてトボけてみせて楽しもうなんて思っていたのだが、僕はもう居ても立っても居られなくなって、慌ててパンツをずり上げ机の引き出しから原付のキーを取り出す。
法定速度ギリギリに夜道を飛ばしながら、ヘルメットの中は興奮で白く曇っていた。
「おっ、おお、おう、早かったね」
コイントレーに代金を乗せると、ギクシャクとした油の切れたロボットの動きで茶色い紙袋を取り出した。これなら中身を見られる心配も無いし、プライバシー保護も万全って訳だな。
「あり、ありがとう、ございます」
緊張は僕にまで伝染したようで、二人して角ばった動きでお互いに礼をしてみせる。
さて、これで終わった。注文の品を受け渡しその代金を受領した。一連の契約が完了したのだ。だから僕たちのこの関係ももうおしまい。次はきっともう無いだろう。不意に小さい頃シュウ兄と川にキャンプに行ったことを思い出した。甘酸っぱくて切ない大切なその思い出を、僕は自らの愚行によって汚してしまった。あれほどに沸き立っていた興奮も、それを自覚するにつけてシオシオと情けなく萎えてしまう。今僕にできる最良の手は、一刻も早くこの場から姿を消して二度と彼の前に現れないことだろう。
「あー、その」
かけられた声に振り向くと目を泳がせながら奥歯に物が挟まったような歯切れの悪い言葉。
「先代の頃から、ウチはお客様からの信頼を一番に考えてきたんだよね」
うん? 話の流れがよくわからない。そりゃまあ、なんでも通販で翌日には届く今の世の中でこんな地方の小さな店がやっていけるのは地元住民に愛されている証拠だろう。
「なんていうか、配送時に破損していたりしたらいけないし」
それは僕に対してというよりは、自分自身を説得する口ぶり。
「もうそろそろ閉店の時間だし」
支離滅裂な内容に一層頭が混乱する。なんだ、何を言おうとしている? 鳩尾の辺りに滞留した第六感がほのかな疼痛を広がらせていく。オオカミが大きく息を吸って、それから意を決して僕と目を合わせた。
「いっ、いっしょに、みていく?」
予想だにしない言葉に度肝を抜かれてポカンと口を開けたまま突っ立っていると、オオカミは顔を赤らめながら矢継ぎ早に言葉を続けた。
「万が一の破損や欠品があったりしたらいけないし、お客様一人一人のニーズを汲み取ってそれに合わせた商品を提供できるような提案型の商売こそがこのような個人商店の強みであって、つまりその、こういったジャンルの商品についても研究をすることで新たな販路の開拓にも繋がり」
ええっと。それってつまり。
「シュウ兄も見てみたいってこと?」
そう問いかけると、言い訳がましく学術的な目的だとかジェンダーがどうとか捲し立てているものだから「要するに見たいんでしょ?」って一言いうと、観念したのかコクリと頷いた。
彼が店じまいの準備をする中、案内された居住スペースの居間で正座をしながらそれが終わるのを待っていた。
ピラミッドのレンガのように整然と本が並べられた店舗部分とは違って、ちゃぶ台の上には食べかけのお菓子が置いてあるし、脱ぎ散らかした靴下や雑誌が床に転がっているし生活感が丸出しだ。見た目の清潔感とは正反対のだらしなさが溢れるこの部屋にどことなく親近感を感じる。部屋の隅で団子になっている毛の塊をつまみ上げて匂いを嗅いでみると懐かしい匂いがした。
「おっ、おまたせっ!」
ハアハアと息を吐いて肩を上下させながら入ってきたシュウ兄をみて思わず笑ってしまう。そんなに焦らなくたって別に逃げやしないのに。
「じゃあ、どれから見ます?」
紙袋から取り出した三つのパッケージ。どれもまあ、よくもここまで下品なデザインができたもんだなとある種の畏敬の念すら覚えてしまう。カメラ目線のオオカミがモザイクのかかったちんぽを咥えて恍惚の表情を浮かべている。或いはガパリと開かれた大きな口の中に溢れんばかりに注ぎ込まれた白濁の湖。それらの写真の上に所狭しと挑発するような猥語が踊り、一層の下劣な淫靡さを醸し出していた。
隣からは息を飲む音。少し怯えているようにも見える。無理もないだろう、自分と同じ男が、同じオオカミが、こうして性の捌け口として見られているなんて想像だにしていなかっただろうから。
「えっ、ええと、じゃっ、じゃあコレ……」
指差した先にあったのは。自らと同じ灰色の毛並み。同じ毛色のオオカミというだけで顔なんかは似ても似つかないけれど、眼鏡を外して薄目を開けて見たならばどことなく似ているかもしれない程度。
パッケージの薄皮をめくって開くと現れる銀の円盤。その表面のシルク印刷はコスト削減のためかはたまたカモフラージュのためか非常に簡素な文字が書かれているだけ。裏面を蛍光灯に向けて記録面を吟味する。よし、傷も無いようだ。
スロットローディング式のプレイヤーが僅かにモーターの唸りを上げながらそれを飲み込むと、続けてやかましい音楽と共に現れる制作会社のロゴ。手早くリモコンを操作してスキップするといよいよ本編が開始された。モノによってはスキップ出来なくて延々と関連作品の紹介とかを見させられるので、これは嬉しいポイントの一つだ。
始まって暫くのうちは学芸会さながらの陳腐な茶番劇。こんなの誰が得をするんだ。僕一人だったらとっととスキップをして全体をザッピングした後に抜きどころを決めて、そこにタイミングを合わせて右手でシコシコ……といった具合だが、シュウ兄は緊張の面持ちながら画面を凝視しているし、何より男同士とはいえこの場でオナニーをおっ始める訳にはいかないだろう。
「うわっ……」
そうこうしているうちに、画面の向こうではオオカミが相手の股間に鼻を埋めてクンクンと匂いを嗅ぎながらうっとりと顔を蕩けさせて、耳につく甘え声でちんぽをねだっている。それを見ながらシュウ兄は小さく驚嘆の声を漏らし、あぐらをかいた体勢で自らの股間を押さえていた。そっちの気がなくったってこんなの見たら場の空気にあてられて興奮してしまうのも仕方がないだろう。
やがて部屋の中にはグポッジュポッと水音が響きはじめ、それに合いの手を打つように「ちんぽおいしい?」なんて問いかけられたオオカミが尻尾をぶんぶん振りながら鳴いてみせる。隣のオオカミはというと、いよいよ始まった生々しい性行為に両手で顔を覆い、それでも隠し切れない好奇心からか指の隙間からチラチラと覗き見ている。
食い入るように画面を見つめるその様子を見ながら、僕は自分の置かれた奇妙な状況にますます訳がわからなくなっていた。だって、シュウ兄はこっち側じゃないはずだ。未だに独身だし、彼女が居たって話も聞いたことがない。でもだからといってそうなのだと決めつけるのは些か都合が良すぎるだろう。とはいえ……集中するあまりに、その、思いっきり見えているんだよなあ。ズボンを内側から押し上げて、時折自己主張するようにピクピクと動くモノが。ただ雰囲気に流されて勃起させているだけとはとても思えない。
もはや画面はそっちのけでそんな姿を眺めていると、己の下腹部からうずうずとまた欲望が鎌首をもたげはじめるのを感じた。もしかしたら、あわよくば。っていやいやそんな、それこそ画面の中みたいな都合の良すぎる展開ありえないって。
「あっ、あの」
心なしか上気したその顔と目があった。口元から張り出した硬質のヒゲがこれから天気予報でもしようかというのか小刻みに動いている。相変わらずスピーカーからは生々しい音がひっきりなしに発せられていたが、今はそんなものよりも自らの鼓動が聞こえてしまわないかが心配だった。互いに口をつぐんだまま永久にも似た沈黙。昔見た漫画であったように、この部屋だけが世界の理から外れてタイムスリップをしてしまったかのようだった。
「あのさ、ジンくんはさ」
黙りこくったままの僕の顔色を慎重にうかがいながらオオカミは言葉を紡いでいく。
「こういうのしてみたい?」
え? え? なにこれドッキリじゃないよな。冗談にしてもたちが悪すぎるぞ。こんなエロゲみたいな展開ってある!? 揶揄われている可能性もゼロでは無いが……このオオカミからはそんな雰囲気は微塵も感じられない。これがゲームだったらまずメニューからセーブ画面を出して記録をしてから、二つ或いは三つの選択肢の中から最適なものを選んでもしハズレだったらロードしてやり直す。けどここにはそんな便利なものはなくて、こうして狼狽えているうちにも刻一刻と時計の針が刻まれていく。いつもの調子だったら「ちょっとシュウ兄なにいってるの!」なんて言って肩を小突くと、顔を見合わせてからどちらが先か吹き出してそれでおしまい。
「はい……」
消え入るような声でそう返してみせると、彼が口を開くよりも前に尻尾がパタンと床を叩いた。
床に膝をついて四つん這いの、本物のオオカミが服を着たような格好の彼の前に仁王立ちになり、もはや隠し立てのできなくなった怒張を眼前に曝け出すとその顔が恐怖に引き攣った。
「やっぱりやめたほうが」
ここまで来てお預けなんて生殺しもいいところだ。けど、明らかにドン引きしてるよなあ。エロ本だって見るのは楽しくても実際にそれをやるとなると話は別だしね。
「べべ別にっ、ちょっとビックリしただけで、あの頃よりも随分立派になったなって」
そんなまだ毛も生えてなかった頃と比べられても。ちょっとエッチな雰囲気になっていたところにそんな昔話を持ち出されるとなんだかむず痒くなってしまう。
「ホントに大きくなったよねえ……」
そんなしみじみとした回想に浸らないで。どう反応していいやら困ってしまう。とは言っても僕のちんぽはその言葉に萎えるどころか雄としての成長を見せつけようと天井に向かってそそり立ち、先端にはうっすらと先走りが滲み始めていた。
「しゅ、シュウ兄も脱いでよ……僕だけ裸って」
一方的に辱めを受けるのはフェアじゃない。それに彼の、オオカミのちんぽを見てみたいという気持ちもあった。画面の向こうに写るそれは荒っぽいモザイクに覆われた赤い棒状の物体としか認識できなくて、この目で本物を拝んでみたい。
「それは恥ずかしいから、ダメ」
ううん。気持ちはわからなくもないけど、ちょっとズレてるんだよなあ。だけどしつこくしすぎて機嫌を損ねられても困る。せっかくのこんな大チャンスを棒に振ったら一生後悔するだろう。
「じゃっ、じゃあっ、もっと近くでみてくださいね」
そう言ってちんぽを摘んで真っ黒な鼻先に向けると、催眠術でもかけられたかのように寄り目がちになっていく。浅ましい情欲で張り詰めたちんぽを、我慢汁に濡れそぼった尿道口を、ほんの少し腰を突き出せば触れてしまいそうな距離で見つめられている。
「人間のってこんなになるんだ……」
そんな率直な感想に興奮が加速していく。突き刺さる視線がねっとりと絡み付いて亀頭に甘い痺れが走る。見られて、見せつけてこんなに興奮するなんて変態じみている。けれどもっと見せたい。隅々まで見て欲しい。
「シュウ兄っ! 見てっ! ちんぽ見て!!」
裏筋も、カリ首も、キンタマも。僕の恥ずかしいところを何もかもその目に焼き付けてほしい。3Dスキャンにかけるべく、昔トンボを捕まえる時にそうしたようにグリグリと輪をかいてみせると、金環の中の黒点がそれに追い縋ってクルクルと機敏にまわる。このままずっとこうしていると三半規管を狂わせてしまうかもしれない。
「にに、匂い、もっ!」
催眠術にとっぷりとはまったオオカミは言われるがままに、一層濃い雄のフェロモンを頼りにグライドスロープを降りていく。
「すんっ……すご、い、匂い……」
酔いしれたオオカミの吐息が陰毛を湿らせ、エアコンの風によって即座に蒸発し気化熱が体温を奪う。あまりにも上手くことが運びすぎて白昼夢なのではないかとすら思えてくるが、鼻先にまで昇ってきた獣の匂いがこれは現実なのだと知らしめた。
画面の中に居た、あのちんぽに媚を売るオオカミと、目の前の彼とがオーバーラップして僕の情欲の炎は一層燃え盛りそれは嗜虐心という結晶となって声帯の中で具現化をする。
「どこがどうすごいんですか?」
芝居がかった口調。それまでちんぽの虜となっていたオオカミが上目遣いに僕を見上げた。
「え……っと、その、アソコが……」
はあ。5点だな。
「うん? アソコじゃよくわかんないですよ?」
ほらほら、コレのことでしょう? 押し付けるように強調する。
「ちっ、ちん……」
これ以上言わせるなと恨みがましい目。けれど、そんな嬉しそうな顔をされてしまったらもっと虐めたくなってしまうじゃないか。じいっと目を見つめてテレパシーを送り続けていると、とうとう観念したようだった。
「ちんぽの……匂いが……」
あの日、商品名を読み上げた時のように羞恥で全身の毛を膨らませながら淫語を口に出していく。自ら言葉に出したことで一層の興奮が押し寄せたのか、シュウ兄のズボンに張られたテントの先端はびしょびしょに濡れていた。
「雄の匂いが、くんっ……鼻がバカになりそう……」
そういえばここにくる前にもオナニーしようと思っていたし、ここに来てからも先ほどから止めどなく先走りが垂れている。乾燥して固まった我慢汁が新たな水分を得てふやけ、はっきりと性を意識させるほどの臭気を放つ。
「そんなに匂いが好きならっ」
思う存分に、一番新鮮な匂いが嗅げるように。いつだったか、イヌ科の動物には互いの鼻先をくっ付ける所謂マズルキスという愛情表現があると聞いたことがある。緊張からかすっかり乾燥してしまったオオカミの鼻を亀頭でなぞって潤してやると、嗅細胞からもたらされる許容値を振り切った電気信号が頭の中をショートさせてしまったようだ。
「ふごっ!? んんっ、あっ……ちんぽ、お゛っ!」
半ば白目をむいて、小便を漏らしたかと見まごう程にズボンが濡れた。鼻水を啜りあげると鼻の穴に亀頭が密着し、尿道に滞留した先走りが吸い上げられる。このまま思い切りちんぽを扱き上げて、その広い鼻腔内を精液でいっぱいに満たしてしまいたい。そうしたらきっとこのオオカミの脳みその中に僕の匂いが、僕という存在がこびりついて一生取れないくらいに深く刻まれることだろう。
べろっ
邪な切望が僕の右手を半自動的に動かしかけたその時、突拍子もない刺激が亀頭を撫であげる。
それは当のオオカミすら無意識からの行動だったようで、しとどに濡れた鼻先を舐めとろうとした舌先が当初の思惑から外れて亀頭を舐めあげることとなったのだ。
「ちょっとしょっぱいね」
初めて味わうちんぽに対する率直な感想。どうせならあの役者のように「おいしい」だとか盛り上がるようなことを言って欲しかったのだが……現実はこんなもんだろうし、それにこれはこれで生々しい。
「シュウ兄っ、も、もう」
未だに口内に広がる余韻を分析しているオオカミに向かって懇願するように呼びかけた。先ほどまでマウントをとってことを優位に運ばせられていたものの、なかなか訪れない次の手にやきもきして、だからといってここで無理矢理頭を押さえつけて一方的な処理をするのは流石に憚られた。
「じゃあ……ちんぽ、その、た、食べるね?」
律儀にもロールプレイを続ける彼は、小さくいただきますと呟いてから舌を伸ばして顔を近づける。長い舌が、半開きの口が、明確な意思を持ちながらちんぽへと。
ぺろ……れろ……
「ああっ! きもちいいっ」
遠慮がちな舌づかいで裏筋を舐められただけで電撃が走る。身体中の全ての神経という神経がちんぽの先端へと集中して、僅かな刺激と音を何万倍も増幅させた。もっと、もっとと強請るように腰を動かしてみても、ぎこちなく動く舌が口内への侵入を阻み甘い拷問の中へと突き落とされる。
「食べて、ちんぽもぐもぐしてっ!」
初めての口淫に目を白黒させるシュウ兄に対して気遣いができるはずもなく、更なる刺激を、こんな甘痒い疼きではなく射精に至らしめる交尾の悦びを。
同じ男としてその辛さを十二分に理解しているのだろう。彼はかぷりと亀頭を咥えてから目を閉じ、大きく深呼吸をしてから覚悟を決めた。
ぐぶ……ぶぶっ
ゆっくりと確実にマズルの中へとちんぽが格納されていく。
口内の粘膜が腫れ上がったちんぽを溶かしてしまいそうな熱量をもって包み込む。
「はっ、あっ、あああ……」
視線を下に落とすと、僕のちんぽは跡形もなく捕食されてしまい、腹の肉に押し付けられた鼻から噴き出される荒い息遣いが二つの肉体の境界を曖昧にかき混ぜている。
オオカミの肉に抱きしめられたちんぽが脈打ち跳ねるとその微細な動きで粘膜同士が擦れ、断続的に染み出した我慢汁は溜まった唾液と共に胃の中へと押し込められる。捕らえられた僕は射精をするまで、いや射精をしてもこの監獄の中から脱出することは叶わないだろう。
「ぶはっ……ジンくんのちんぽ、おいしいよ?」
慣れないフェラチオに息継ぎをしながら、技量の及ばない部分を別のもので埋め合わせしようと懸命だった。
じゅっぷ、じゅぷ、じゅぼぼっ
まるでちんぽを納めるために設計されたかのような長い口吻が幸いしてか、ペースを掴んだオオカミは徐々に大胆に大きくストロークをはじめ、それに比例して与えられる快楽が爆発的な増加をしていく。
「ちんぽっ、ちんぽ食べられて……はあっ……っ! ちんぽもぐもぐすごいい……」
ぬぼっ、ぬりゅっ! にゅぶるっ!
「おいひいよ……ジンくんのちんぽ、どんどんエッチになってる……じゅるっ」
パンパンに腫れ上がりエラの張った亀頭が上顎の洗濯板の上を滑るたびに細やかなリズムを奏で、それは雄の子種を根こそぎ搾り取る呪いじみた調べとなっていく。
じゅぼぼっ、じゅぷるっ! ぬぼっ、ぬっこ!
「あ……あっ! ああっ、いく、いくいくっ! 射精しちゃうう」
抗いようのない暴力的な刺激がちんぽを吸い上げて、それに呼応した脳が射精の指令を下すと瞬く間に精管からそして尿道を通り外界へと精液が飛び出した。
びゅるっ! びゅーっ、びゅー!
縁日の射的のように銃口から打ち出されたそれは口蓋垂へと直撃し、オオカミを咳き込ませる。
「ゲホッ! うえ……ゴホッ、ゲフ!」
びゅっ、ぴゅ……びゅ
引き抜かれたちんぽの照準はまだオオカミの口内に定められていて、そこを目指して飛び出した精液が顔じゅうに降り注ぎ毛皮に白い軌跡を残していく。
ゼエゼエと息を吐いていたオオカミは自慢の毛皮をこれ以上汚されてはかなわないと思ったのか、もう一発打ち出そうとしていたちんぽを咥え、尿道に残る精液を音を立ててすすり上げた。
身を焼いていた興奮が醒めやりびゅうっと吹いたエアコンの風に身体を震わせると、次に沸き上がってきたのは後悔と絶望。それもそのはず、目の前にはツンとした精液の匂いを漂わせてふんわりとしていた顔の毛皮なんかはぐっしょり濡れて貼り付いている。このまま乾いてしまったらさぞかし悲惨な結果が待っているだろう。
いや、そんなことよりも。
「シュウ兄……」
放心状態であらぬところを見ていた金色が僕の方へと向けられた。
「ごめん、その」
元はと言えばこの行為は彼から誘ってきたようなものだし、まあ一応は双方合意の上ではあるのだが。裁判であれば全面的に僕が敗訴するということはないはずだ。だからと言ってこの惨状を「気持ちよかったですよ」なんて言葉で締めくくれる訳もない。彼に付け込んで、騙くらかして性の捌け口にしてしまったのは他ならぬ僕自身。
「ジンくんってさ」
それまでの様子とは打って変わって真剣な表情。精液まみれで、ズボンには大きな染みが広がっているけれど。
この次にくる言葉はわかりきっていた。そしてそれを受けて僕は彼に謝罪をして、もう二度と姿を現さないことを約束して……非難と軽蔑の視線に見送られながら立ち去るのだ。
「バイトとかしてるの?」
「はい、すみませ……え?」
え、ごめん今なんて? 聞き間違いか? この短時間であまりにも色んな出来事が起こりすぎて、ウェルニッケ中枢がおかしくなったのか?
「だから。バイト、してるの?」
「いえ、してないですけど……」
もしやシュウ兄は余りのショックで記憶が混濁しているのか?
「ちょうどさ、パソコン使える若い子が欲しいと思ってたんだ。」
「え? は? あの、それってどういう」
なんだなんだ、もう訳がわからないよ。何か冗談を言っている雰囲気でもないし。
未だに理解が追いつかずクエスチョンマークを多量に浮かべていると、突然鼻先に軽い衝撃を受けて思わず尻餅をついた。
「バカ。鈍いんだからもう。」
それから二回目の衝撃。今度は指先でなくて、鼻先から与えられるムニっとした感触。
呆気にとられている中で、僕が発した言葉は。
「とりあえず交代、しましょっか?」
そして来る三度目の衝撃。
ポケットに紙片を握ったまま、こうして悩むことかれこれ三十分。
国道の脇に並ぶ花屋や精肉店に並んで佇む小さな書店兼ビデオショップ。おまけに軒先には古びたアーケードゲームが二台。それも考えるとゲームセンターだって立派に兼ねていると言えるだろう。
もちろん都会にある専門店に比べれば笑ってしまうくらいに貧相なものではあるが、この片田舎の小さな集落にとっては貴重な娯楽施設なのだ。ここにはもう随分と長いことお世話になっている。それこそ僕が物心さえつくまえに初めて読み聞かせしてもらった絵本も、小学校に上がって小遣いをもらえるようになってからは毎月愛読していた漫画雑誌だってここで買っていたし、中学高校では友人と格闘ゲームに明け暮れたものだ。
大学生となった今は、通学の相棒として原付を手に入れたこともあり、行動範囲が格段に広がったので簡単に市街地にも行けるようになった。おまけに最近はわざわざ店舗まで出向かなくたって、スマホをポチポチッとするだけで何だって簡単に買えてしまう時代。
シートに跨ったまま、夕日に照らされて黄金色を反射するガラスを眺めているとそんな青臭い思い出が鼻先をツンとくすぐった。
「ジンくん、入らないの?」
店先に原付で乗りつけたはいいものの一向に入ってくる気配のない不審者に痺れを切らしたのだろうか、大柄な身体に似合わない可愛いエプロンを着けた店主が心配そうに声を掛けてくる。
「……よくわかりましたね」
少しだけ奮発して、ちょっと格好つけたい気持ちもあって買ったフルフェイスのヘルメット越しに発したくぐもった僕の声が、宇宙に向かって突き出されたレーダーアンテナのような耳をピクリと跳ねさせた。
「ま、これにかかれば、ね?」
突き出た口吻の先にある真っ黒な鼻を指先でトントンと叩いて自慢げな笑み。口元から僅かにのぞく犬歯がキラリと輝いて、歯磨き粉のコマーシャルを連想させた。
「にしても、随分でっかくなったなあ」
もう。正月に会う親戚のおじさんじゃないんだから。
「シュウ兄ぃもそんなジジ臭いこと言うようになったんだね」
悲しいかな、いや幸いなことに、天井までビッシリと本が所狭しと陳列された迷路のような店内には僕たち二人っきり。いくらか歳が離れてはいるものの、もとより人口の少ないこの町では彼は面倒見のいい近所のお兄さんといったところだった。
「おいおい、これでもまだ二十代なんだぞ」
「ギリギリ、ね」
そう軽口を叩いてみせるとやおら鼻面に深い皺が刻まれていく。獰猛な威嚇顔がこちらを睨みすえて、まん丸に見開かれた目なんかはレーザービームでも出るんじゃないかってくらいの眼力だ。けれどもそんな緊迫した絵面とは裏腹に、その喉の奥からはクツクツとした嗚咽にも似た空気の圧縮音。
やがてそれが臨界に達すると、とうとう破顔したオオカミは自らの膝を叩きながら大きな口を開けてゲラゲラと笑い出したのだった。それに釣られて僕も笑ってしまう。僕たち以外他にいないのだから、店主と客との関係を取り繕う必要なんてどこにも無いのだ。
「んで。今日はわざわざどうしたの? ただ本を買いに来たって訳じゃあないんでしょ?」
ひとしきり笑い終わってから、途端に真剣な目が向けられる。それもそのはずだ。だって、都会の大きな書店にしか置いてないような専門書だって、今は通販で簡単に手に入るんだから。
「何か悩みとかあるの?」
シュウ兄はいつも優しかった。学校で友達と喧嘩してしまった時は、どうにかして仲直りするためのアドバイスをくれたし、進路のことで悩んだ時も相談にのってくれて、オススメの参考書だって教えてくれたんだ。
僕がここまで来ながらも未だに用件を言い渋っているものだから、その金色の目はますます僕を心配げに見つめる。
「あの、なんていうか」
こんなにも純粋な善意を注がれてしまうと、ポケットに忍ばせているものがあまりにも不釣り合いで馬鹿馬鹿しくて今すぐにでも握りつぶして消し去ってしまいたくなる。
「ええっと……僕、実家から大学に通ってて」
要領を得ない回答にオオカミは首をかしげ、何か言いたげに口を半開きにしたものの我慢強く次の言葉を待っている。
「それで、通販とかでモノ買うと家に届くんですよね」
「ああ、エッチなやつ買いたいんだ?」
さすがオオカミの嗅覚は鋭い。はぐらかしはぐらかしできるだけ遠回りをしながら言葉を選んでいたところをズバリ正解を言い当てられる。
「家族に見られたら困るもんねぇ。いやあ、それにしてもジンくんもそんなお年頃かぁ……くく」
今度は僕が笑われる番。なんせまだはなたれ小僧の頃からの顔見知りなのだ。もう顔から火が出るくらいに恥ずかしい。でも、だからこそ、こんなみっともないお願いをできる相手は彼しか心当たりがなかったのだ。
だけど、なあ。でもなあ。よりによってシュウ兄だからなあ。いやいや自分でここまで来たんだろうがと頭の中で自らツッコミを入れながらも、今更ながらに後悔が押し寄せて逃げ帰ってしまいたくなる。
――うわっ、マジかよキモっ!
よりにもよって、こんな時に思い出さなくてもいいだろう。
――俺らのことずっとそういう目で見てたわけ?
もう忘れたと思っていたのにな。
――なあなあ、俺とこいつならどっちとヤりたい?
チクチクとした棘が胸の中で転がりまわるにつけて、自己防衛の本能だろうかアドレナリンが吹き出して指先が小さく震える。
「ジンくん、笑ったりしてごめん。もう笑ったりしないから。」
僕が回想のなかに溺れているのを己のせいだと勘違いしたシュウ兄が申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ、いや、ちがうくて」
「この店の店主として、お客様の秘密は絶対に厳守するから、約束する。」
そんな目でそこまで言われてしまうともう引き下がるに引き下がれないじゃないか。今更やっぱりやめたなんて言える空気じゃ無い。でも、やっぱりなあ、やっぱり流石にまずいよなあ、絶対ドン引きされるって。もう二度とこの店に来れなくなるかもしれない。けどこんな顔されてしまったら。
「あの……これ、DVD……」
差し出した紙切れには三行の文字の羅列。
おちんぽ大好き即尺わんわん VOL2
淫乱オオカミさんは今日もお口でご奉仕しちゃうの
マズルファック100連発 口内射精スペシャル編
ほら、言わんこっちゃ無い。驚きのあまり見開かれた目は嫌悪に染まるか嘲笑へと変わるのか。
「いやあ、大学の連中と賭けに負けて罰ゲーム……っ!?」
何もかも冗談にしてしまって、さっきみたいにまた二人でバカ笑いすればいいさ。そう思っていたら、突然両手にふわりとした感触。
「……これは勇気がいるよな。ありがとう、誰にも言ったりしないからな。」
そんな悪戯を告白した子供に言い聞かせるような、混じりっけなしの純粋な善意。その目をみれば、シュウ兄の言葉が決して上っ面だけではないというのは火を見るよりも明らかだ。
だけどそうして向けられた同情の言葉が、掻き乱された僕の心を更に揺さぶった。みんな初めはそうやって「自分は理解があるから」なんて言葉を吐くんだ。そしてこんな異端者にも優しくしてあげている自分という存在に酔いしれる。それから次に出てくるのは「でも俺のことは狙わないでね?」と来たもんだ。結局のところ理解しようなんてのが土台無理な話なのだ。
こんなのはただの八つ当たりだってことはわかっている。けれどもそれまでの恨みを晴らすべく、どす黒い欲望を満たすべく、僕はこのオオカミの善意を最低な方法で踏み躙ってしまったのだ。
「ちゅっ、注文、してもらえますよね?」
「お、おお、おう、もっ、もちろん。あとで発注しておくね。」
その動揺に付け込んでこう畳みかけた。
「間違いが無いか、読み上げてもらってもいいですか?」
確かに何か注文を受けた時に復唱するのはよくあることだけど、わざわざ紙に書いてあるんだから読み上げる必要性なんてどこにも無いだろう。けれど流石はシュウ兄。若くしてこの店を継いで一人で切り盛りしてきただけあって商売には誠実なのだ。淫語が書かれた紙を見つめ、固唾を飲んでからゆっくりと口を開ける。
「おっ、おち、おちんぽ……だいすき……」
噛み締めるように読み上げた言葉を頭の中で反芻し、それを強く意識してしまったのかボシュッと聞こえてきそうなくらいに湯気を出して赤面するオオカミ。天に向かって垂直に突き出していた耳も腫れぼったい熱と共にぺったりと伏せられている。早く続きをと急かすように目配せすると、目を潤ませて半べそをかきながらもその口から次々に猥語が飛び出していく。
「いんらんっ、オオカミ……お口で奉仕……っ」
その姿を、今までの人生の中で最大限の集中力をもってビデオレコーダーのように頭の中に刻み込んでいく。気のせいか、ゆったりとしたエプロンがあるにもかかわらず腰が引けているような気がする。それが尚更僕を興奮させた。
あの時の姿を、羞恥に染め上げられた顔を、震える唇を思い出して何度抜いたことだろうか。
正直なところもう注文したDVDなんてどうでもよくなってしまった。妄想の中でシュウ兄を凌辱し、その口の中に自らの欲望を……
「はい、もしもし」
今夜もまた新しい日課となった秘事を始めようとした矢先、スマホが着信に震えた。
「ジンくん? その、届いたよ、アレ。」
頭の中のシミュレーションでは、なんの件でしたっけ? なんてトボけてみせて楽しもうなんて思っていたのだが、僕はもう居ても立っても居られなくなって、慌ててパンツをずり上げ机の引き出しから原付のキーを取り出す。
法定速度ギリギリに夜道を飛ばしながら、ヘルメットの中は興奮で白く曇っていた。
「おっ、おお、おう、早かったね」
コイントレーに代金を乗せると、ギクシャクとした油の切れたロボットの動きで茶色い紙袋を取り出した。これなら中身を見られる心配も無いし、プライバシー保護も万全って訳だな。
「あり、ありがとう、ございます」
緊張は僕にまで伝染したようで、二人して角ばった動きでお互いに礼をしてみせる。
さて、これで終わった。注文の品を受け渡しその代金を受領した。一連の契約が完了したのだ。だから僕たちのこの関係ももうおしまい。次はきっともう無いだろう。不意に小さい頃シュウ兄と川にキャンプに行ったことを思い出した。甘酸っぱくて切ない大切なその思い出を、僕は自らの愚行によって汚してしまった。あれほどに沸き立っていた興奮も、それを自覚するにつけてシオシオと情けなく萎えてしまう。今僕にできる最良の手は、一刻も早くこの場から姿を消して二度と彼の前に現れないことだろう。
「あー、その」
かけられた声に振り向くと目を泳がせながら奥歯に物が挟まったような歯切れの悪い言葉。
「先代の頃から、ウチはお客様からの信頼を一番に考えてきたんだよね」
うん? 話の流れがよくわからない。そりゃまあ、なんでも通販で翌日には届く今の世の中でこんな地方の小さな店がやっていけるのは地元住民に愛されている証拠だろう。
「なんていうか、配送時に破損していたりしたらいけないし」
それは僕に対してというよりは、自分自身を説得する口ぶり。
「もうそろそろ閉店の時間だし」
支離滅裂な内容に一層頭が混乱する。なんだ、何を言おうとしている? 鳩尾の辺りに滞留した第六感がほのかな疼痛を広がらせていく。オオカミが大きく息を吸って、それから意を決して僕と目を合わせた。
「いっ、いっしょに、みていく?」
予想だにしない言葉に度肝を抜かれてポカンと口を開けたまま突っ立っていると、オオカミは顔を赤らめながら矢継ぎ早に言葉を続けた。
「万が一の破損や欠品があったりしたらいけないし、お客様一人一人のニーズを汲み取ってそれに合わせた商品を提供できるような提案型の商売こそがこのような個人商店の強みであって、つまりその、こういったジャンルの商品についても研究をすることで新たな販路の開拓にも繋がり」
ええっと。それってつまり。
「シュウ兄も見てみたいってこと?」
そう問いかけると、言い訳がましく学術的な目的だとかジェンダーがどうとか捲し立てているものだから「要するに見たいんでしょ?」って一言いうと、観念したのかコクリと頷いた。
彼が店じまいの準備をする中、案内された居住スペースの居間で正座をしながらそれが終わるのを待っていた。
ピラミッドのレンガのように整然と本が並べられた店舗部分とは違って、ちゃぶ台の上には食べかけのお菓子が置いてあるし、脱ぎ散らかした靴下や雑誌が床に転がっているし生活感が丸出しだ。見た目の清潔感とは正反対のだらしなさが溢れるこの部屋にどことなく親近感を感じる。部屋の隅で団子になっている毛の塊をつまみ上げて匂いを嗅いでみると懐かしい匂いがした。
「おっ、おまたせっ!」
ハアハアと息を吐いて肩を上下させながら入ってきたシュウ兄をみて思わず笑ってしまう。そんなに焦らなくたって別に逃げやしないのに。
「じゃあ、どれから見ます?」
紙袋から取り出した三つのパッケージ。どれもまあ、よくもここまで下品なデザインができたもんだなとある種の畏敬の念すら覚えてしまう。カメラ目線のオオカミがモザイクのかかったちんぽを咥えて恍惚の表情を浮かべている。或いはガパリと開かれた大きな口の中に溢れんばかりに注ぎ込まれた白濁の湖。それらの写真の上に所狭しと挑発するような猥語が踊り、一層の下劣な淫靡さを醸し出していた。
隣からは息を飲む音。少し怯えているようにも見える。無理もないだろう、自分と同じ男が、同じオオカミが、こうして性の捌け口として見られているなんて想像だにしていなかっただろうから。
「えっ、ええと、じゃっ、じゃあコレ……」
指差した先にあったのは。自らと同じ灰色の毛並み。同じ毛色のオオカミというだけで顔なんかは似ても似つかないけれど、眼鏡を外して薄目を開けて見たならばどことなく似ているかもしれない程度。
パッケージの薄皮をめくって開くと現れる銀の円盤。その表面のシルク印刷はコスト削減のためかはたまたカモフラージュのためか非常に簡素な文字が書かれているだけ。裏面を蛍光灯に向けて記録面を吟味する。よし、傷も無いようだ。
スロットローディング式のプレイヤーが僅かにモーターの唸りを上げながらそれを飲み込むと、続けてやかましい音楽と共に現れる制作会社のロゴ。手早くリモコンを操作してスキップするといよいよ本編が開始された。モノによってはスキップ出来なくて延々と関連作品の紹介とかを見させられるので、これは嬉しいポイントの一つだ。
始まって暫くのうちは学芸会さながらの陳腐な茶番劇。こんなの誰が得をするんだ。僕一人だったらとっととスキップをして全体をザッピングした後に抜きどころを決めて、そこにタイミングを合わせて右手でシコシコ……といった具合だが、シュウ兄は緊張の面持ちながら画面を凝視しているし、何より男同士とはいえこの場でオナニーをおっ始める訳にはいかないだろう。
「うわっ……」
そうこうしているうちに、画面の向こうではオオカミが相手の股間に鼻を埋めてクンクンと匂いを嗅ぎながらうっとりと顔を蕩けさせて、耳につく甘え声でちんぽをねだっている。それを見ながらシュウ兄は小さく驚嘆の声を漏らし、あぐらをかいた体勢で自らの股間を押さえていた。そっちの気がなくったってこんなの見たら場の空気にあてられて興奮してしまうのも仕方がないだろう。
やがて部屋の中にはグポッジュポッと水音が響きはじめ、それに合いの手を打つように「ちんぽおいしい?」なんて問いかけられたオオカミが尻尾をぶんぶん振りながら鳴いてみせる。隣のオオカミはというと、いよいよ始まった生々しい性行為に両手で顔を覆い、それでも隠し切れない好奇心からか指の隙間からチラチラと覗き見ている。
食い入るように画面を見つめるその様子を見ながら、僕は自分の置かれた奇妙な状況にますます訳がわからなくなっていた。だって、シュウ兄はこっち側じゃないはずだ。未だに独身だし、彼女が居たって話も聞いたことがない。でもだからといってそうなのだと決めつけるのは些か都合が良すぎるだろう。とはいえ……集中するあまりに、その、思いっきり見えているんだよなあ。ズボンを内側から押し上げて、時折自己主張するようにピクピクと動くモノが。ただ雰囲気に流されて勃起させているだけとはとても思えない。
もはや画面はそっちのけでそんな姿を眺めていると、己の下腹部からうずうずとまた欲望が鎌首をもたげはじめるのを感じた。もしかしたら、あわよくば。っていやいやそんな、それこそ画面の中みたいな都合の良すぎる展開ありえないって。
「あっ、あの」
心なしか上気したその顔と目があった。口元から張り出した硬質のヒゲがこれから天気予報でもしようかというのか小刻みに動いている。相変わらずスピーカーからは生々しい音がひっきりなしに発せられていたが、今はそんなものよりも自らの鼓動が聞こえてしまわないかが心配だった。互いに口をつぐんだまま永久にも似た沈黙。昔見た漫画であったように、この部屋だけが世界の理から外れてタイムスリップをしてしまったかのようだった。
「あのさ、ジンくんはさ」
黙りこくったままの僕の顔色を慎重にうかがいながらオオカミは言葉を紡いでいく。
「こういうのしてみたい?」
え? え? なにこれドッキリじゃないよな。冗談にしてもたちが悪すぎるぞ。こんなエロゲみたいな展開ってある!? 揶揄われている可能性もゼロでは無いが……このオオカミからはそんな雰囲気は微塵も感じられない。これがゲームだったらまずメニューからセーブ画面を出して記録をしてから、二つ或いは三つの選択肢の中から最適なものを選んでもしハズレだったらロードしてやり直す。けどここにはそんな便利なものはなくて、こうして狼狽えているうちにも刻一刻と時計の針が刻まれていく。いつもの調子だったら「ちょっとシュウ兄なにいってるの!」なんて言って肩を小突くと、顔を見合わせてからどちらが先か吹き出してそれでおしまい。
「はい……」
消え入るような声でそう返してみせると、彼が口を開くよりも前に尻尾がパタンと床を叩いた。
床に膝をついて四つん這いの、本物のオオカミが服を着たような格好の彼の前に仁王立ちになり、もはや隠し立てのできなくなった怒張を眼前に曝け出すとその顔が恐怖に引き攣った。
「やっぱりやめたほうが」
ここまで来てお預けなんて生殺しもいいところだ。けど、明らかにドン引きしてるよなあ。エロ本だって見るのは楽しくても実際にそれをやるとなると話は別だしね。
「べべ別にっ、ちょっとビックリしただけで、あの頃よりも随分立派になったなって」
そんなまだ毛も生えてなかった頃と比べられても。ちょっとエッチな雰囲気になっていたところにそんな昔話を持ち出されるとなんだかむず痒くなってしまう。
「ホントに大きくなったよねえ……」
そんなしみじみとした回想に浸らないで。どう反応していいやら困ってしまう。とは言っても僕のちんぽはその言葉に萎えるどころか雄としての成長を見せつけようと天井に向かってそそり立ち、先端にはうっすらと先走りが滲み始めていた。
「しゅ、シュウ兄も脱いでよ……僕だけ裸って」
一方的に辱めを受けるのはフェアじゃない。それに彼の、オオカミのちんぽを見てみたいという気持ちもあった。画面の向こうに写るそれは荒っぽいモザイクに覆われた赤い棒状の物体としか認識できなくて、この目で本物を拝んでみたい。
「それは恥ずかしいから、ダメ」
ううん。気持ちはわからなくもないけど、ちょっとズレてるんだよなあ。だけどしつこくしすぎて機嫌を損ねられても困る。せっかくのこんな大チャンスを棒に振ったら一生後悔するだろう。
「じゃっ、じゃあっ、もっと近くでみてくださいね」
そう言ってちんぽを摘んで真っ黒な鼻先に向けると、催眠術でもかけられたかのように寄り目がちになっていく。浅ましい情欲で張り詰めたちんぽを、我慢汁に濡れそぼった尿道口を、ほんの少し腰を突き出せば触れてしまいそうな距離で見つめられている。
「人間のってこんなになるんだ……」
そんな率直な感想に興奮が加速していく。突き刺さる視線がねっとりと絡み付いて亀頭に甘い痺れが走る。見られて、見せつけてこんなに興奮するなんて変態じみている。けれどもっと見せたい。隅々まで見て欲しい。
「シュウ兄っ! 見てっ! ちんぽ見て!!」
裏筋も、カリ首も、キンタマも。僕の恥ずかしいところを何もかもその目に焼き付けてほしい。3Dスキャンにかけるべく、昔トンボを捕まえる時にそうしたようにグリグリと輪をかいてみせると、金環の中の黒点がそれに追い縋ってクルクルと機敏にまわる。このままずっとこうしていると三半規管を狂わせてしまうかもしれない。
「にに、匂い、もっ!」
催眠術にとっぷりとはまったオオカミは言われるがままに、一層濃い雄のフェロモンを頼りにグライドスロープを降りていく。
「すんっ……すご、い、匂い……」
酔いしれたオオカミの吐息が陰毛を湿らせ、エアコンの風によって即座に蒸発し気化熱が体温を奪う。あまりにも上手くことが運びすぎて白昼夢なのではないかとすら思えてくるが、鼻先にまで昇ってきた獣の匂いがこれは現実なのだと知らしめた。
画面の中に居た、あのちんぽに媚を売るオオカミと、目の前の彼とがオーバーラップして僕の情欲の炎は一層燃え盛りそれは嗜虐心という結晶となって声帯の中で具現化をする。
「どこがどうすごいんですか?」
芝居がかった口調。それまでちんぽの虜となっていたオオカミが上目遣いに僕を見上げた。
「え……っと、その、アソコが……」
はあ。5点だな。
「うん? アソコじゃよくわかんないですよ?」
ほらほら、コレのことでしょう? 押し付けるように強調する。
「ちっ、ちん……」
これ以上言わせるなと恨みがましい目。けれど、そんな嬉しそうな顔をされてしまったらもっと虐めたくなってしまうじゃないか。じいっと目を見つめてテレパシーを送り続けていると、とうとう観念したようだった。
「ちんぽの……匂いが……」
あの日、商品名を読み上げた時のように羞恥で全身の毛を膨らませながら淫語を口に出していく。自ら言葉に出したことで一層の興奮が押し寄せたのか、シュウ兄のズボンに張られたテントの先端はびしょびしょに濡れていた。
「雄の匂いが、くんっ……鼻がバカになりそう……」
そういえばここにくる前にもオナニーしようと思っていたし、ここに来てからも先ほどから止めどなく先走りが垂れている。乾燥して固まった我慢汁が新たな水分を得てふやけ、はっきりと性を意識させるほどの臭気を放つ。
「そんなに匂いが好きならっ」
思う存分に、一番新鮮な匂いが嗅げるように。いつだったか、イヌ科の動物には互いの鼻先をくっ付ける所謂マズルキスという愛情表現があると聞いたことがある。緊張からかすっかり乾燥してしまったオオカミの鼻を亀頭でなぞって潤してやると、嗅細胞からもたらされる許容値を振り切った電気信号が頭の中をショートさせてしまったようだ。
「ふごっ!? んんっ、あっ……ちんぽ、お゛っ!」
半ば白目をむいて、小便を漏らしたかと見まごう程にズボンが濡れた。鼻水を啜りあげると鼻の穴に亀頭が密着し、尿道に滞留した先走りが吸い上げられる。このまま思い切りちんぽを扱き上げて、その広い鼻腔内を精液でいっぱいに満たしてしまいたい。そうしたらきっとこのオオカミの脳みその中に僕の匂いが、僕という存在がこびりついて一生取れないくらいに深く刻まれることだろう。
べろっ
邪な切望が僕の右手を半自動的に動かしかけたその時、突拍子もない刺激が亀頭を撫であげる。
それは当のオオカミすら無意識からの行動だったようで、しとどに濡れた鼻先を舐めとろうとした舌先が当初の思惑から外れて亀頭を舐めあげることとなったのだ。
「ちょっとしょっぱいね」
初めて味わうちんぽに対する率直な感想。どうせならあの役者のように「おいしい」だとか盛り上がるようなことを言って欲しかったのだが……現実はこんなもんだろうし、それにこれはこれで生々しい。
「シュウ兄っ、も、もう」
未だに口内に広がる余韻を分析しているオオカミに向かって懇願するように呼びかけた。先ほどまでマウントをとってことを優位に運ばせられていたものの、なかなか訪れない次の手にやきもきして、だからといってここで無理矢理頭を押さえつけて一方的な処理をするのは流石に憚られた。
「じゃあ……ちんぽ、その、た、食べるね?」
律儀にもロールプレイを続ける彼は、小さくいただきますと呟いてから舌を伸ばして顔を近づける。長い舌が、半開きの口が、明確な意思を持ちながらちんぽへと。
ぺろ……れろ……
「ああっ! きもちいいっ」
遠慮がちな舌づかいで裏筋を舐められただけで電撃が走る。身体中の全ての神経という神経がちんぽの先端へと集中して、僅かな刺激と音を何万倍も増幅させた。もっと、もっとと強請るように腰を動かしてみても、ぎこちなく動く舌が口内への侵入を阻み甘い拷問の中へと突き落とされる。
「食べて、ちんぽもぐもぐしてっ!」
初めての口淫に目を白黒させるシュウ兄に対して気遣いができるはずもなく、更なる刺激を、こんな甘痒い疼きではなく射精に至らしめる交尾の悦びを。
同じ男としてその辛さを十二分に理解しているのだろう。彼はかぷりと亀頭を咥えてから目を閉じ、大きく深呼吸をしてから覚悟を決めた。
ぐぶ……ぶぶっ
ゆっくりと確実にマズルの中へとちんぽが格納されていく。
口内の粘膜が腫れ上がったちんぽを溶かしてしまいそうな熱量をもって包み込む。
「はっ、あっ、あああ……」
視線を下に落とすと、僕のちんぽは跡形もなく捕食されてしまい、腹の肉に押し付けられた鼻から噴き出される荒い息遣いが二つの肉体の境界を曖昧にかき混ぜている。
オオカミの肉に抱きしめられたちんぽが脈打ち跳ねるとその微細な動きで粘膜同士が擦れ、断続的に染み出した我慢汁は溜まった唾液と共に胃の中へと押し込められる。捕らえられた僕は射精をするまで、いや射精をしてもこの監獄の中から脱出することは叶わないだろう。
「ぶはっ……ジンくんのちんぽ、おいしいよ?」
慣れないフェラチオに息継ぎをしながら、技量の及ばない部分を別のもので埋め合わせしようと懸命だった。
じゅっぷ、じゅぷ、じゅぼぼっ
まるでちんぽを納めるために設計されたかのような長い口吻が幸いしてか、ペースを掴んだオオカミは徐々に大胆に大きくストロークをはじめ、それに比例して与えられる快楽が爆発的な増加をしていく。
「ちんぽっ、ちんぽ食べられて……はあっ……っ! ちんぽもぐもぐすごいい……」
ぬぼっ、ぬりゅっ! にゅぶるっ!
「おいひいよ……ジンくんのちんぽ、どんどんエッチになってる……じゅるっ」
パンパンに腫れ上がりエラの張った亀頭が上顎の洗濯板の上を滑るたびに細やかなリズムを奏で、それは雄の子種を根こそぎ搾り取る呪いじみた調べとなっていく。
じゅぼぼっ、じゅぷるっ! ぬぼっ、ぬっこ!
「あ……あっ! ああっ、いく、いくいくっ! 射精しちゃうう」
抗いようのない暴力的な刺激がちんぽを吸い上げて、それに呼応した脳が射精の指令を下すと瞬く間に精管からそして尿道を通り外界へと精液が飛び出した。
びゅるっ! びゅーっ、びゅー!
縁日の射的のように銃口から打ち出されたそれは口蓋垂へと直撃し、オオカミを咳き込ませる。
「ゲホッ! うえ……ゴホッ、ゲフ!」
びゅっ、ぴゅ……びゅ
引き抜かれたちんぽの照準はまだオオカミの口内に定められていて、そこを目指して飛び出した精液が顔じゅうに降り注ぎ毛皮に白い軌跡を残していく。
ゼエゼエと息を吐いていたオオカミは自慢の毛皮をこれ以上汚されてはかなわないと思ったのか、もう一発打ち出そうとしていたちんぽを咥え、尿道に残る精液を音を立ててすすり上げた。
身を焼いていた興奮が醒めやりびゅうっと吹いたエアコンの風に身体を震わせると、次に沸き上がってきたのは後悔と絶望。それもそのはず、目の前にはツンとした精液の匂いを漂わせてふんわりとしていた顔の毛皮なんかはぐっしょり濡れて貼り付いている。このまま乾いてしまったらさぞかし悲惨な結果が待っているだろう。
いや、そんなことよりも。
「シュウ兄……」
放心状態であらぬところを見ていた金色が僕の方へと向けられた。
「ごめん、その」
元はと言えばこの行為は彼から誘ってきたようなものだし、まあ一応は双方合意の上ではあるのだが。裁判であれば全面的に僕が敗訴するということはないはずだ。だからと言ってこの惨状を「気持ちよかったですよ」なんて言葉で締めくくれる訳もない。彼に付け込んで、騙くらかして性の捌け口にしてしまったのは他ならぬ僕自身。
「ジンくんってさ」
それまでの様子とは打って変わって真剣な表情。精液まみれで、ズボンには大きな染みが広がっているけれど。
この次にくる言葉はわかりきっていた。そしてそれを受けて僕は彼に謝罪をして、もう二度と姿を現さないことを約束して……非難と軽蔑の視線に見送られながら立ち去るのだ。
「バイトとかしてるの?」
「はい、すみませ……え?」
え、ごめん今なんて? 聞き間違いか? この短時間であまりにも色んな出来事が起こりすぎて、ウェルニッケ中枢がおかしくなったのか?
「だから。バイト、してるの?」
「いえ、してないですけど……」
もしやシュウ兄は余りのショックで記憶が混濁しているのか?
「ちょうどさ、パソコン使える若い子が欲しいと思ってたんだ。」
「え? は? あの、それってどういう」
なんだなんだ、もう訳がわからないよ。何か冗談を言っている雰囲気でもないし。
未だに理解が追いつかずクエスチョンマークを多量に浮かべていると、突然鼻先に軽い衝撃を受けて思わず尻餅をついた。
「バカ。鈍いんだからもう。」
それから二回目の衝撃。今度は指先でなくて、鼻先から与えられるムニっとした感触。
呆気にとられている中で、僕が発した言葉は。
「とりあえず交代、しましょっか?」
そして来る三度目の衝撃。
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