ケモホモ短編

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吊橋効果ってヤツ?

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「あの、掲示板の……」
 恐る恐るそう声をかけた僕の顔を一瞥すると、オオカミの青年は小さく頷いた。
 休日の繁華街の喧騒の中、僕たちだけが時間の流れに置いてけぼりをくらう。気まずい。えっと、これからどうしよう。まずはその辺をぶらぶらと歩こうか、それともどこか喫茶店にでも入って落ち着こうか。って。そんなことして何になるっていうんだ……自己紹介でもしてお互いの趣味についてでも語り合うってか? そんなことのために来た訳じゃないだろうに。
「えっ、あ、ちょっと!」
 いつまで経っても微動だにしない僕に業を煮やしたのだろうか、オオカミは僕のことなんてまるで見えていないかのようにどこかに向かって歩き出した。
 コレ、このまま付いていって大丈夫なんだろうか。オッケーってことなんだろうか。いざ顔を合わせてみたらやっぱりゴメンなさいってことなのか? でもそれなら一言くらい何か言ってくれてもいいじゃないか。
「ど、どこかいい場所知ってる?」
 ようやく絞り出した言葉に返って来たのは、黙ってついて来いという視線だけ。ま、まあ、とりあえず彼のお眼鏡にはかなったらしい。
 それにしても。キャラ違いすぎないか? メールでのやりとりではいたって真面目という印象だった。敬語だってきちんと使いこなしていたし、饒舌とまではいかないまでも会話だってそれなりに弾んでいたのに。
 頭の中で想像していたものと180度異なる後ろ姿を追いかけながら、地下へと向かうエスカレーターに乗る。192/81/24 オオカミ。その暗号じみた羅列だけであれば読み流してしまっていただろう。だけど、その後に綴られた文章には、己の秘めたる欲望を吐き出すに飽き足らず、どこかこう知的で思慮深い印象を僕に与えた。
 だからこうして勇気を振り絞って会うことに決めたのだ。歩くにつけて通路の幅は狭くなり、人影もまばらになっていく。きっと眼鏡の奥には優しげな瞳が佇んでいて、大きな身体を遠慮気味に丸めて歩いて、そういう知識も皆無で……それがどうだ、目の前の後ろ姿は。腰まで下されたダボダボのズボンに、きっとそれなりに良い値段をするであろうチャラチャラとした服。首元にはそういうファッションなのか猛犬注意の看板の犬が着けていそうなトゲトゲの首輪。そして極め付けにはピンと張り出した大きな三角の耳に開けられたいくつものピアス。なんというか、ホストのような、不良のような……若者にしてみれば普通のファッションなのかもしれないけれど。
 そのオオカミは手慣れた様子で従業員専用と書かれた通路を進んでいく。頭上10メートルでは人々がひしめき合っていたというのに、ここは水を打ったような静寂に包まれている。
 家を出る前にははち切れそうに膨らんでいた邪な期待はとうの昔に萎んでしまっていた。これ騙されてないよな? 人気のない場所に誘い出して恐喝し金品を要求する。カツアゲだけならまだしも、暴力をふるわれたり最悪ポケットから出したバタフライナイフでグサリなんてことになったらどうしよう。逃げるならいまのうちかもしれない。思い切り走って人気のあるところまで行けば、何かされたとしても助けを呼べるだろう。
 そう頭の中でシミュレーションを繰り返しながら決断を渋っているうちに、もう何十年も使われていないような古びたトイレへと到着した。その扉にはタイムカードのような小さな紙が貼られており、昨日の日付のところに印鑑が押してある。毎日定期的に清掃が行われているということはそれなりに使われているということだ。
 オオカミは一番奥の個室の扉を開けると顎をしゃくって僕の入室を促す。どうする、これが本当に最後のチャンスだぞ。

 施錠の金属音。狭い個室の中で立ち尽くすふたり。幸いなことにまだ恫喝の声は聞こえてこない。どうしようどうしようどうしよう。これはつまり、その、当初の目的通りそういうことをするってことでいいのかな。昨晩さんざん妄想してオカズにしたというのに、いざとなるとどうしていいのかわからない。
 そんなパニックの最中、オオカミは銀細工の施された大きなバックルを鳴らしてベルトを緩めズボンを下ろし、それからゆっくりとパンツをずり下ろした。小便でもするような格好。一挙手一投足を見守りながら、鼓動が高まっていくのを感じる。
「ちっさ……」
 小さな蕾がピクリと動いた。あらかじめ小さいのは知っていた。だけど、改めて見ると想像以上の小ささだ。このチャラついていかにも遊び慣れているヤリチンですといった風貌なのに、股間にあるのは赤ちゃんは言い過ぎにしろ小学生くらいの一物。先端まですっぽりと皮に覆われていて、ちんぽと言うよりは幼児漫画で描かれるおちんちんと現した方が適切だろう。
 こうして他人のモノをまじまじと眺める機会なんてそうそう無い。トイレや銭湯でもチラリと覗き見るのが関の山だ。ともすれば触れられそうな距離で見ているのだと思うと、股間に芯が入りだすのを感じた。
 オオカミはちんぽ、いやおちんちんを突き出した間抜けな格好のまま、半ば僕を睨みつけるようにして無言の催促をする。図体は僕よりも二回りは大きくて、顔もいかついヤンキーみたいな相手だというのに股間にぶら下がっているのが短小でおまけに包茎ときたもんだ。それだけで恐ろしさは吹き飛んで、あまりの滑稽さに吹き出してしまいそうなほどだ。
 固唾をのむオオカミ。股座の間から覗く尻尾が、僕に対して畏れを抱いていることを如実に示していた。これは良い気分だ。僕は巨根って訳じゃない。剥けてはいるものの至って平凡なサイズだし、むしろどちらかというと小さい部類に入るかもしれない。それでもまだ完全に勃起していない状態にもかかわらず、オオカミのそれとは2倍近くの差が開いていた。
 オオカミの鼻息が荒くしながらかがみこんで僕のちんぽと己のものを並べる。その小さな陰茎はピクピクと動きながら血を通わせていき、亀頭の先端が顔を出した。それでもまだ小さい。僕は圧倒的な強者の余裕をもって手でゆっくりとちんぽをしごき、完全に勃起する様をこれでもかと見せつけた。二つの瞳がちんぽに釘付けになっている。むず痒さと誇らしさが渦巻いて亀頭が腫れ上がり、くっきりとエラの形を浮き出させた。
「っあ……」
 もはや恐るものなど何も無くなり調子づいた僕は、精一杯背伸びして勃起を誇示するオオカミの短小の上に自分のちんぽを乗せる。僕の三分の一程のそれから焼けそうな熱が伝わってきた。オオカミは弁解のしようのない背比べに苦悶の喘ぎを漏らす。
「ゾウさんみたいなおちんちん、すっかり隠れちゃったね?」
 頭上に向かってそう耳打ちすると、僕のちんぽが下からググっと持ち上げられた。腰を小さく動かしてお互いのモノを擦り合わせると、初めは乾いた音だったものが水音へと変わっていき、それに伴ってふたり分の雄の匂いが立ち込めてくる。オオカミはされるがままに身を任せ、歯を食いしばりながら鼻をスンスンと鳴らして快楽に耐えていた。
 ぴちゃ……ちゅく
「んんっ! あっ……」
 外に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどの甲高い声。ゆるゆるとした快楽に飽きたらなくなった僕が、二つのちんぽをつまんでキスをするように我慢汁に溢れた尿道口を擦り合わせたのだ。ちんぽの先端から伝わる快楽の痺れ。ぶっくりと膨れた亀頭が小さなそれに襲いかかり、お互いの粘液でてらてらと光っている。ちんぽ同士が抱き合って口付けをかわす倒錯的な光景に頭がおかしくなってしまいそうだ。
 それにしても、これだけガチガチに勃起しているのにオオカミの先端はたるんだ皮からほんの少し真っ赤な顔を見せているだけ。手で引っ張ってやれば皮が剥けなくはないのだろうが……悪戯心で先端に向かって皮を伸ばしてやると、亀頭を隠すどころかゾウの鼻はさらに伸びてキャンディの包み紙を彷彿とさせる。
 オオカミが身を縮こまらせたまま抵抗しないのをいいことに、僕は更なるちんちん遊びを思いついた。できるだけ皮を伸ばしてやってから袋のように口を広げて、自分の亀頭に被せる。さすがに全部とはいかないかったが半分ほどがオオカミの包皮に包まれて、なんだか未知の軟体生物にちんぽを捕食されているようだ。
「ほら見て、食べられちゃった」
 オオカミは野獣じみた唸り声を上げながら、小さなそれを何度も震わせて先走りを吐き出した。密閉された皮の中でふたり分の我慢汁が圧力を高めていき水風船のようにふくらむ。繋ぎ目から漏れたそれは銀色の糸を引きながら床へと垂れていった。

 連結を開放した後、床は唾を吐いたように泡立った粘液が残された。
 ふいにオオカミがしゃがみ込む。気分でも悪くなったのか、それとももうおしまいにしようということだろうか?
 すん……すんすんっ……
 いや、そうではなかった。オオカミは僕のちんぽに跪いて、そそり立つそれを崇めるように見上げながら立ち込める雄の匂いを肺いっぱいに取り込んで堪能している。
「大人の雄……大人のちんぽ……」
 うっとりとした表情でそう呟いた。嫉妬と羨望と畏怖が目の奥でぐるぐると回っている。そりゃあ無理もないだろう。これだけ大きな図体で威圧的な顔。こんな相手が目の前から歩いてきたら絶対に避けて通る。きっと今まで誰にもナメられたことなんて無いだろうし、ましてや虐められたことなんてないだろう。むしろどう見ても虐める側。男女問わず憧れの目で見られて、屈強な雄としての人生を歩んできたにちがいない。
 なのに、なのに、短小包茎のお子様おちんちん。そりゃあコンプレックスこじらせてこんな風になってしまうのも頷ける。ザマアミロ、どんなに頑張っても雄としては負けだな! という嗜虐的な気持ちと、こんな僕みたいな、見下して鼻で笑うような相手のちんぽに媚びる姿に一抹の同情を感じる。
「大きい大人ちんぽ羨ましい?」
 自らの小さなモノをしごきながら尻尾を振ってみせた。自分が巨根になったかのような優越感。たっぷり匂いを覚えて、目に焼き付けられるようにちんぽを持ち上げてタマの裏まで丁寧に見せてやる。きっと汗で蒸れてひどい匂いだろう。
「ふごっ、あっ、ああ……すごいぃ……」
 だらしなくはみ出した舌からヨダレが垂れ落ちるのも厭わず、間抜け面を晒して嗅ぎまわる。
 やがて半開きになった口が熱い吐息を亀頭に吹きかけながら距離を詰め、ちんぽに近づいてくる。このままされるがまま、僕も欲望に身を任せてオオカミの口内を堪能してしまいたい。でもなんだか少し癪だったのだ。いま僕はここでは絶対的な支配者なのだから、このオオカミにも力関係をしっかりと示してやらないといけない。
「まてっ!」
 耳につけられているピアスを引っ張ると悲鳴じみた鳴き声。あまりに痛そうな声に、出血していないか心配になる。うん、大丈夫そうだ。
「ちゃんといただきますのチューしようね?」
 園児に言い聞かせるように。このオオカミもきっとそういうのを望んでいるはずだ。
「ちっ、ちんぽ……大人の雄ちんぽ、いただきます……ちゅっ、ちゅちゅっ」
 王に忠誠を誓う騎士を彷彿とさせる。そんな綺麗なものじゃないけど。
 もう少し焦らして遊びたい気持ちもあったが、僕自身もうこれ以上は我慢できない。このまま二、三度手で扱けばあっさりと絶頂してしまう程に自体は切羽詰まっているのだ。
 この精悍なオオカミの顔を、マズルを、ちんぽで蹂躙して滅茶苦茶に汚してしまいたい。許可を与えるべく頭を撫でてやると、即座に呼応して侵攻が開始される。
 じゅぶっ……ぶぶっ、っぷ
 キンタマから突き上げてくる快楽が背中を通り抜けて、全身に鳥肌を立たせる。なんだこれ、ヤバい! すごく気持ちいい! オナホなんかとは比べ物にならないヌルついた口内。オオカミの体温がぐるりと一周ちんぽを包み込んで、低温やけどすら引き起こしてしまいそうだ。
 れるっ、ちゅぼ、ぐちゅ
 散々に表面にコーティングされた先走りをこそぎ落とすように舌があちこち這いまわる。右手でぎゅっと握り込むいつもとは違い、ゆるい肉壁の中で無重力に近い浮遊感。それなのに物足りないかと言われると、こそばゆさのあまり痛みと錯覚するほどの刺激がちんぽにもたらされる。
「ああっ、すごっ、気持ちいいっ」
 ちゅぽ、じゅっぷぐぽっ……
 オオカミはきっと口内で、僕のちんぽがどれくらいに切羽詰まっているかを感じていることだろう。そんなちんぽを夢中で頬張り、鼻息で陰毛を揺らしながら悦びにグルグルと喉を鳴らしている。
「ちんぽおいしい?」
 射精が近づいてくるなか、少しでもマウントを取ろうと問いかけた。
 彼はちんぽから口を離すことなく、もごもごと喋ろうとしたのだが……それが破局噴火への決定打となった。単なるピストン運動ではない複雑な口内の動きと声帯からくる振動が、指数関数的に快楽を増大させていく。だめだ、気持ちいい! いく、いくいくっ! オオカミの中で、口内射精しちゃうっ!
 ぴゅっ
 一射目が放たれたのを合図にオオカミの動きがこれまでよりも更に激しくなった。
 ぬこっ、びゅ! ぬぽっぬっこ……びゅっ! ぴゅっ!
 制止しようと伸ばした手が空をきり、うめき声に似た嬌声だけが断続的に口から出ていく。いつだってオナニーの時は射精の時は気持ちよさのあまり手を止めてしまうというのに、いまは僕の意思とは無関係に、無遠慮に、乱暴にちんぽを搾り上げるのだ。
 びゅーっ! ごくっ、にゅこっ、びゅっびゅるっ……ごく
 3つの現象がてんでばらばらにリズムを奏でた。
 オオカミにフェラされてイっちゃった上に、飲精までされてしまうとは。昨日妄想していたオカズよりも、現実はもっとすごかった。息も絶え絶えに、肩を上下させながら尿道に残った精液までもを啜っているオオカミを見ていると、僕の中で一つの感情が
 ――ガチャッ
 息を押し殺したふたつの石膏像。マズい、誰か来た!
 目線だけを手首に落としてデジタル表示を確認する。それから記憶を辿り、このトイレの扉に貼ってあったアレを……そう、掃除の時間だ。どうする、このまま個室からぞろぞろとふたり出ていけば警備員か、最悪は警察に突き出されるだろう。ならば黙ってやりすごすか? でもそれにしたってあんまり長い時間だと不審に思われてしまうだろうか。オオカミと目が合った。緊張と困惑。落ち着け。こういう時こそ大人の余裕を持って対処するんだ。
 まずは、牽制とばかりに大きな咳払い。よし気付いたようだな。それから今度は咳払いの中に唸りを混ぜる。そう、難産なんだ! お腹が痛くて苦しんでます、だからちょっと時間がかかりますよ。決して怪しいものじゃないですよ。そんな思いを込めて迫真の演技を続けていると、すっかり萎えたちんぽを咥えたままのオオカミが小さくくつくつと笑った。それにつられて笑ってしまいそうになるのを顔じゅうの筋肉を動員してこらえる。
 そんなこんなで、スパイ映画ばりの脱出劇はなんとか成功をおさめたのだった。

 僕はまた大きな背中を眺めながらその後ろを歩いていた。来る時のように恐怖はなかったが、どこか気分は晴れない。
 出会い系で一発ヤってハイサヨナラ。別段おかしなことじゃない。だいたいがこんなものなのだから、感傷的になる方が間違いなのだ。家に帰り着くころにはきっと捨てアドは使われなくなっていて、メールを送っても無機質な英文しか返ってこないことだろう。
 声を掛けられるだけの勇気がもしあれば。いや、でも「はあ?」なんて冷たい言葉が返ってきたら。ちんぽを見せ合っていた時にはあれほど膨れ上がっていた自信も、今は身体の大きさに相応しくなってしまったようだ。
 陽の光のもとにでて、また賑やかなざわめきに包まれる。ふいにオオカミが歩みを止めてゆっくりと振り返る。ああ、死刑宣告の時が来たのだ。
「あ、あの」
 てっきり、もっとぶっきらぼうに別れを告げられると思っていたのだが。
「こっ、今度はいつ……会えますか?」
 僕の目線に身体をかがめ、上目遣いに問いかけるオオカミの目は優しかった。
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