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五歳編
三十五話 尋問 (響)
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源十郎は自身の系統と能力が知られても平然としていた。経験の差なのか、能力の差なのかは分からないが、女性と源十郎の間には確実に埋めようのない隔たりがあった。普段は見せることのない源十郎の冷たい表情に、響は呆然としていた。
「これくらいの攻撃……クッ……答える訳ねぇーだろ」
「ならば重力を更に大きく致しましょう」
次の瞬間、飛竜と女性の周りの空間が揺らいだ。衝撃で地面が陥没し、巨大なクレーターが生じた。飛竜の下半身が強制的に大地に埋まり、地割れが起こった。飛竜は雄叫びを上げながら抵抗している。女性も苦しそうに地面で蹲っていた。
重力操作の魔術が、これほどまでに凄まじい威力を発揮するとは思わなかった。重力の系統が希少性の高い魔術なのは理解していた。だが、重力の系統が重宝されている理由は知らなかった。その計り知れない威力に響は驚愕した。
普段は優しい笑顔を見せてくれる源十郎が、鍛錬の時でさえも見せない冷酷な表情をしていた。これが命を賭けた戦い。響は目の前で繰り広げられる戦闘に呆然と佇んだ。いつか自分も源十郎のようになれるのであろうか。
ふと湧き上がった疑問に答えることはできなかった。そもそも響は源十郎の能力を見誤っていた。響は源十郎を結界に特化した魔術師だと思い込んでいた。攻撃の手段は武術を駆使し、防御に結界を用いる戦闘スタイルだと思っていた。
だが、目の前で繰り広げられる戦闘は、遠距離から魔術を繰り広げる攻防戦だった。今までの鍛錬では見せることがなかった戦闘スタイルに、響は目が離せなかった。それとは同時に劣等感のような負の感情が響の心の中を渦巻いていた。
鍛え上げられた肉体に、響を圧巻する武術の腕前、飛竜の火炎さえも防ぎきる結界、そして敵を簡単に押し潰してしまう重力の魔術。源十郎が多才だと痛感せざるを得なかった。源十郎が雲の上の人のように感じずにはいられなかった。
源十郎に武術や魔術を指南して貰っているのに、成果を出せない自分は落ちこぼれなんだと再認識せざるを得なかった。やはり生まれ持っての才能が、ものを言うのかもしれない。努力で解決できる問題ではない。卑屈にならざるを得なかった。
「さて、単刀直入にお聞きします。あなた方の目的は?」
「……さぁね……クッ……」
「強情ですね……仕方がありません」
身体に掛かる重力を更に大きくしたのか、女性の身体が地面に押し潰される。空間にひずみが生まれ、大地が悲鳴を上げるような地響きが起った。
「グッ……ああぁぁあああああー……」
女性は悲鳴を上げながらも、源十郎を睨み付けていた。まだ心が折れていない証拠だ。敵も覚悟を決めているのか、簡単には口を割らなかった。源十郎は女性の強情な姿勢に溜息を漏らす。女性から情報を引き出すことが困難だと理解した。
それでも尋問を続けざるを得なかった。敵の詳細、敵の目的、知らないことが多過ぎる。何が起こっているのか、源十郎でさえも把握できていないのだ。風祭家に仇を成す者は、どんな者だろうと容赦はしない。源十郎の決意もまた固かった。
「では、質問を変えましょう。貴方のお名前は?」
「……クッ……糞食らえ」
「貴方と啓二様はどのようなご関係であられるのですか?」
「……さぁな……」
「仕方がありません。更に負荷を掛けてみましょう。どこまで耐えることができるのか……」
「グッ……ああぁあぁああぁぁぁあああああっぁあっぁー……」
女性の身体から筋肉が裂けるような嫌な音が聞こえた。見えない力によって強制的に、地面に押し潰されていた。あまりにも多大な負荷が身体に掛かり過ぎたのか、女性は喉が張り裂けそうな絶叫を繰り返した。
女性は激しく吐血しながらも源十郎を睨み付け、意思が折れていないと言わんばかりの態度だった。響が想像していた尋問と現実には差異があった。普段は優しい源十郎からは想像できない尋問だった。もはや、拷問と言っても良い。
それでも彼女は吐血しながらも耐えていた。何故、そこまで耐えることができるのか、不思議で仕方がなかった。正直に全てを話してしまえば苦しむ必要もない。源十郎とて命までは奪う気はない筈だ。響には女性の考えが理解できなかった。
いくら身体に掛かる負荷を大きくしても彼女は口を割らない。頑固なところは紅葉に似ていると思った。未だに彼女の瞳は死んでいない。睨み付けることが源十郎に対するせめてもの抵抗なのであろう。このまま尋問を続けても彼女は何も話さない。
情報を漏らさないようにするための訓練でも受けているのだろうか。いや、拷問に慣れているようには見えない。話せない事情があるのか、それとも負けを認めることができないだけなのか、響は理解に苦しんだ。どちらにせよ女性の忍耐力には驚きを禁じ得なかった。
「……そうですか……女性に手荒な真似はしたくなかったのですが…致し方ありません」
「はぁ……はぁ……」
源十郎は右腕を天に捧げ、右腕の周りを覆っている結界を刀のような形に変形させた。透き通るような輝きを纏った結界は鋭利な刃となり、存在感を露わにする。源十郎が右腕を一閃させると、暴風が吹き荒れた。響には斬撃が飛んだように見えた。
飛竜の身体から首が切断され、頭から地面に崩れ落ちた。飛竜の身体からは血が噴き出し、辺りが朱に染まった。ここまでくると響は驚くことに慣れてしまった。感情が擦り切れたのか、ただ目の前の出来事を現実として受け入れるだけだった。
「次は貴方の番です。最後にもう一度だけ問わせて頂きます。あなた方の目的は?」
「……殺せ。お前らに答える気はない。殺せ」
「……そうですか……残念です」
源十郎は彼女の意思が変わらないことを理解した。手強い相手だと痛感せざるを得なかった。このまま女性を放置することはできない。放って置くと風祭家の障碍になりかねないからだ。ならば殺すしか選択の余地はない。源十郎もまた意思を固めた。
右腕を一閃させ、彼女の首を刎ねた。彼女の首が転がり、頭部を失った身体は地に崩れ落ちた。辺りには静寂が訪れ、誰も言葉を発しなかった。何故、彼女は源十郎の質問に答えなかったのであろうか。彼女が命を賭けてまで守ろうとしたものは何なのであろうか。ひとまずは終わったかに思えたが、謎は深まるばかりだった。
「響様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「……いえ……お疲れ様です……」
「お気遣いありがとうございます。それよりも早くこの場所を離れましょう」
「はい」
辺りを見渡すと、既に炎の海に囲まれていた。木々は薙ぎ倒され、森は焼かれ、大惨事だった。そんな状況下に置かれても響は、紅葉と誠一の安否が気になって仕方がなかった。何処を見渡しても炎と煙に包まれている。視界が悪く、二人がどこにいるのか全く分からなかった。
「響様、私の背中に掴まって下さい」
「……待ってください」
源十郎はしゃがみ込んで、響をおんぶできるような体勢を取る。だが、紅葉と誠一の安否が気になっている響は、それどころではなかった。このままでは源十郎に屋敷へと連れ戻されるのは目に見えていた。なんとかして源十郎を説得する気だった。
「申し訳ありませんが、今は響様の安全が優先です。紅葉様と誠一様の元には他の者が向かっております故、ご心配される必要はありません」
「しかしっ……」
「響様。これ以上、ご心配をお掛けしてはいけません」
「源十郎さん。お願いです。兄上と姉上が心配なのです」
「……響様……お許し下さい」
予想以上に源十郎の意思は固く、響の思いは伝わらなかった。源十郎は例え響に恨まれたとしても響の安全を最優先とし、屋敷へと連れ戻すことが無難と判断を下した。これ以上、響を危険なことに巻き込みたくなかったのだ。源十郎は響に悟られないように首筋に手刀を入れる。
「なッ……げん……じゅうろう……さん……何で?」
「申し訳ありません」
突然の攻撃に対処しきれなかった響は呆気なく意識を失った。倒れそうになる響の身体を源十郎が支え、背中に背負う。源十郎は眠っている響に心から申し訳なさそうに謝罪すると、屋敷へと大急ぎで向かった。一体、何が起きているのか、源十郎にさえも把握できていなかった。
「これくらいの攻撃……クッ……答える訳ねぇーだろ」
「ならば重力を更に大きく致しましょう」
次の瞬間、飛竜と女性の周りの空間が揺らいだ。衝撃で地面が陥没し、巨大なクレーターが生じた。飛竜の下半身が強制的に大地に埋まり、地割れが起こった。飛竜は雄叫びを上げながら抵抗している。女性も苦しそうに地面で蹲っていた。
重力操作の魔術が、これほどまでに凄まじい威力を発揮するとは思わなかった。重力の系統が希少性の高い魔術なのは理解していた。だが、重力の系統が重宝されている理由は知らなかった。その計り知れない威力に響は驚愕した。
普段は優しい笑顔を見せてくれる源十郎が、鍛錬の時でさえも見せない冷酷な表情をしていた。これが命を賭けた戦い。響は目の前で繰り広げられる戦闘に呆然と佇んだ。いつか自分も源十郎のようになれるのであろうか。
ふと湧き上がった疑問に答えることはできなかった。そもそも響は源十郎の能力を見誤っていた。響は源十郎を結界に特化した魔術師だと思い込んでいた。攻撃の手段は武術を駆使し、防御に結界を用いる戦闘スタイルだと思っていた。
だが、目の前で繰り広げられる戦闘は、遠距離から魔術を繰り広げる攻防戦だった。今までの鍛錬では見せることがなかった戦闘スタイルに、響は目が離せなかった。それとは同時に劣等感のような負の感情が響の心の中を渦巻いていた。
鍛え上げられた肉体に、響を圧巻する武術の腕前、飛竜の火炎さえも防ぎきる結界、そして敵を簡単に押し潰してしまう重力の魔術。源十郎が多才だと痛感せざるを得なかった。源十郎が雲の上の人のように感じずにはいられなかった。
源十郎に武術や魔術を指南して貰っているのに、成果を出せない自分は落ちこぼれなんだと再認識せざるを得なかった。やはり生まれ持っての才能が、ものを言うのかもしれない。努力で解決できる問題ではない。卑屈にならざるを得なかった。
「さて、単刀直入にお聞きします。あなた方の目的は?」
「……さぁね……クッ……」
「強情ですね……仕方がありません」
身体に掛かる重力を更に大きくしたのか、女性の身体が地面に押し潰される。空間にひずみが生まれ、大地が悲鳴を上げるような地響きが起った。
「グッ……ああぁぁあああああー……」
女性は悲鳴を上げながらも、源十郎を睨み付けていた。まだ心が折れていない証拠だ。敵も覚悟を決めているのか、簡単には口を割らなかった。源十郎は女性の強情な姿勢に溜息を漏らす。女性から情報を引き出すことが困難だと理解した。
それでも尋問を続けざるを得なかった。敵の詳細、敵の目的、知らないことが多過ぎる。何が起こっているのか、源十郎でさえも把握できていないのだ。風祭家に仇を成す者は、どんな者だろうと容赦はしない。源十郎の決意もまた固かった。
「では、質問を変えましょう。貴方のお名前は?」
「……クッ……糞食らえ」
「貴方と啓二様はどのようなご関係であられるのですか?」
「……さぁな……」
「仕方がありません。更に負荷を掛けてみましょう。どこまで耐えることができるのか……」
「グッ……ああぁあぁああぁぁぁあああああっぁあっぁー……」
女性の身体から筋肉が裂けるような嫌な音が聞こえた。見えない力によって強制的に、地面に押し潰されていた。あまりにも多大な負荷が身体に掛かり過ぎたのか、女性は喉が張り裂けそうな絶叫を繰り返した。
女性は激しく吐血しながらも源十郎を睨み付け、意思が折れていないと言わんばかりの態度だった。響が想像していた尋問と現実には差異があった。普段は優しい源十郎からは想像できない尋問だった。もはや、拷問と言っても良い。
それでも彼女は吐血しながらも耐えていた。何故、そこまで耐えることができるのか、不思議で仕方がなかった。正直に全てを話してしまえば苦しむ必要もない。源十郎とて命までは奪う気はない筈だ。響には女性の考えが理解できなかった。
いくら身体に掛かる負荷を大きくしても彼女は口を割らない。頑固なところは紅葉に似ていると思った。未だに彼女の瞳は死んでいない。睨み付けることが源十郎に対するせめてもの抵抗なのであろう。このまま尋問を続けても彼女は何も話さない。
情報を漏らさないようにするための訓練でも受けているのだろうか。いや、拷問に慣れているようには見えない。話せない事情があるのか、それとも負けを認めることができないだけなのか、響は理解に苦しんだ。どちらにせよ女性の忍耐力には驚きを禁じ得なかった。
「……そうですか……女性に手荒な真似はしたくなかったのですが…致し方ありません」
「はぁ……はぁ……」
源十郎は右腕を天に捧げ、右腕の周りを覆っている結界を刀のような形に変形させた。透き通るような輝きを纏った結界は鋭利な刃となり、存在感を露わにする。源十郎が右腕を一閃させると、暴風が吹き荒れた。響には斬撃が飛んだように見えた。
飛竜の身体から首が切断され、頭から地面に崩れ落ちた。飛竜の身体からは血が噴き出し、辺りが朱に染まった。ここまでくると響は驚くことに慣れてしまった。感情が擦り切れたのか、ただ目の前の出来事を現実として受け入れるだけだった。
「次は貴方の番です。最後にもう一度だけ問わせて頂きます。あなた方の目的は?」
「……殺せ。お前らに答える気はない。殺せ」
「……そうですか……残念です」
源十郎は彼女の意思が変わらないことを理解した。手強い相手だと痛感せざるを得なかった。このまま女性を放置することはできない。放って置くと風祭家の障碍になりかねないからだ。ならば殺すしか選択の余地はない。源十郎もまた意思を固めた。
右腕を一閃させ、彼女の首を刎ねた。彼女の首が転がり、頭部を失った身体は地に崩れ落ちた。辺りには静寂が訪れ、誰も言葉を発しなかった。何故、彼女は源十郎の質問に答えなかったのであろうか。彼女が命を賭けてまで守ろうとしたものは何なのであろうか。ひとまずは終わったかに思えたが、謎は深まるばかりだった。
「響様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「……いえ……お疲れ様です……」
「お気遣いありがとうございます。それよりも早くこの場所を離れましょう」
「はい」
辺りを見渡すと、既に炎の海に囲まれていた。木々は薙ぎ倒され、森は焼かれ、大惨事だった。そんな状況下に置かれても響は、紅葉と誠一の安否が気になって仕方がなかった。何処を見渡しても炎と煙に包まれている。視界が悪く、二人がどこにいるのか全く分からなかった。
「響様、私の背中に掴まって下さい」
「……待ってください」
源十郎はしゃがみ込んで、響をおんぶできるような体勢を取る。だが、紅葉と誠一の安否が気になっている響は、それどころではなかった。このままでは源十郎に屋敷へと連れ戻されるのは目に見えていた。なんとかして源十郎を説得する気だった。
「申し訳ありませんが、今は響様の安全が優先です。紅葉様と誠一様の元には他の者が向かっております故、ご心配される必要はありません」
「しかしっ……」
「響様。これ以上、ご心配をお掛けしてはいけません」
「源十郎さん。お願いです。兄上と姉上が心配なのです」
「……響様……お許し下さい」
予想以上に源十郎の意思は固く、響の思いは伝わらなかった。源十郎は例え響に恨まれたとしても響の安全を最優先とし、屋敷へと連れ戻すことが無難と判断を下した。これ以上、響を危険なことに巻き込みたくなかったのだ。源十郎は響に悟られないように首筋に手刀を入れる。
「なッ……げん……じゅうろう……さん……何で?」
「申し訳ありません」
突然の攻撃に対処しきれなかった響は呆気なく意識を失った。倒れそうになる響の身体を源十郎が支え、背中に背負う。源十郎は眠っている響に心から申し訳なさそうに謝罪すると、屋敷へと大急ぎで向かった。一体、何が起きているのか、源十郎にさえも把握できていなかった。
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