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五歳編
十話 発勁と纏衣① (響)
しおりを挟む「ふむ、宜しい。礼儀がしっかりとしておるの。美玲の許嫁なだけはあって弁えとる。響よ、お主を気に入ったぞ。我が手解きをしてみせよう。必ずや魔術の基礎を扱えるようにしてみせると約束しよう」
「あ……ありがとうございます」
「では、さっそく始めるとするかの。そのままの体勢でも構わん。体内に意識を傾けるのだ」
「はい、分かりました」
美玲に抱かれていた卯月が響の眼前に移動し、綺麗に発光した。思わず視界を覆いたくなるような眩い光は虹色に発光していると錯覚しそうなほどに鮮やかで見惚れてしまった。初めて触れ合う精霊。その姿や立ち振る舞いに響は感極まった。
卯月の身体を覆っている輝きが徐々に響の身体を包み込むように広がっていった。不思議な感覚が響の全身を駆け巡ったが、違和感をすんなりと受け入れることができた。とても暖かいぬくもりに包まれているような気分だった。
「どれ、氣を纏った感想はどうだ?」
「身体が……自分の身体ではないみたいに軽いです」
「今のお主の状態が発勁と纏衣を同時に行った状態だ。その状態を維持することを心掛けなさい」
「はい。あのっ……凄いです。一つ伺いたいのですが、僕にも魔術が扱えるということですか?」
「何を言っているのだ?魔術を扱えているではないか!おかしなことを言う」
「実は……昨日の晩に系統検査を行ったのです」
「……それで?」
「陰性反応を示す特異体質だったのです……」
「なるほどな。陰性反応を示す特異体質が無能者だと思い込んでおるのだな?人間は大きな勘違いをしておる。陰性反応を示す特異体質は四大系統を扱えないだけであって、魔術が扱えない訳ではないのだ」
強化系、操作系、具現化系、放出系の四つの系統の総称を四大系統という。魔術を扱えるかもしれないと希望を持ったのは一瞬のことだった。すぐに卯月の言っていることに矛盾が生じていることに気付いた。
四大系統の魔術が扱えないということは、どの魔術も扱うことができないことを意味する。無能者と判断することは自然な流れである。それとも陰性反応を示す特異体質の場合は四大系統以外の魔術を扱えるという意味なのだろうか。
だとしたらどのような魔術なのだろうか。毎日、死に物狂いで勉強をしてきた響でさえも見当がつかなかった。魔術が扱えると期待しても良いのか分からない状態だが、魔術の基礎でもある発勁と纏衣を行えたことは朗報であった。
「四大系統以外の魔術が存在するという意味ですか?どのように解釈すれば良いのですか?」
「なに、難しく考える必要はない。そのままの意味だ。陰性反応を示す特異体質は四大系統の魔術は扱えないが、希少性の高い能力を持つ場合が多い。だが、四大系統を持って生まれた人間とは異なり、魔術を扱えるようになるまで並々ならぬ努力が求められる。殆どの人間が魔術を扱えようになる段階に達する前に諦めてしまう」
「卯月さんの話しを聞く限りだと、諦めなければ良いだけなのに……何故、諦めてしまうのですか?」
「陰性の特異体質を持って生まれた者は、他の四大系統を持って生まれた人間のように手本となる教科書が存在しないのだ。自身に見合った能力を考え、設定することが非常に難しいのだ。大抵の人間は能力を身に付ける前に諦めてしまうのだ」
「……では、僕も前例がない状態で能力を身に付けなければならないのですね?自身に見合った能力とは、どのように判断するのですか?質問ばかりで申し訳ありません。でも、どうしても知りたいです」
「そうだ。陰性の特異体質の者は皆、そこで頭を悩ませるのだ。前例がない状態で自身に見合った能力を身に付けることが思っているよりも大変な作業となる。能力の設定は即興で決めてはいかん。じっくりと時間を掛けて模索していくのだ」
「つまり卯月さんでも僕に見合った能力は判断できないということですか?って、あれ?」
響は会話に集中し過ぎたのか、発勁と纏衣の状態を維持できなくなっていた。気付いたら響の身体を覆う輝きが消えていた。思っていたよりも発勁と纏衣の状態を維持することは難しい作業だと痛感せざるを得なかった。
「言った筈だ。その状態を維持することを心掛けなさいと。会話に気を取られて集中力が乱れた結果だな。慣れるまでは仕方あるまい。逆にお主に尋ねよう。どのような能力を望んでいるのだ?」
「僕は強化系を望んでいました。武術を活かした能力が欲しいです」
「なるほどな……さすがに強化系の能力を身に付けることは不可能だ。だが、武術を活かした能力を身に付けることは可能な筈だ。強化系の系統が武術と相性が良いのは事実だが、武術を活かした能力は他の系統でも身に付けることは可能である」
「本当ですか!?では、どのような能力にすれば良いのでしょうか?」
「ふむ、響よ。能力は自身で考え、模索するのだ。工夫し、改善し、成長していくものだ。それに……今のお主に能力の設定は時期尚早。今は発勁と纏衣を使い熟せるまで鍛錬を繰り返した方が良い。何ごとも基礎が重要なのだ」
「……はい。分かりました」
「響よ、そう落ち込むでない。また時期が来たら能力の設定まで教えると約束しよう。少しばかりお主に興味が湧いた。今、ここでお主が得意とする武術を見せて貰えんかのう?」
「分かりました」
響は部屋の中心に移動すると、頬を叩いて気合を入れ直した。瞼を閉じて集中すると、大きな掛け声と共に武の型を披露していった。右正拳中段突きからの左正拳中段突き。右正拳上段突きからの左正拳上段突き。順に突きの型を繰り広げていく。
響が腕を振るう度に空気が歪んだように振動した。何よりも響が繰り出す突きの型は美しかった。綺麗な構えで何度も繰り返しながら型を忠実に再現していた。どれだけの鍛錬を積み重ねているのであろうか。美玲は静かに黙考する。
本当に同い年なのか疑いたくなるほどに端麗された動きであった。響が努力家であることは既に知っていたが、努力だけでなく、響の苦しみや葛藤までも垣間見た気がした。型に集中していた響は、そんな美玲の視線に気付くことはなかった。
突きの型を順番に繰り広げると、次は蹴武の型を繰り出した。飛び前蹴りの型、飛び廻し蹴りの型、飛び横蹴りの型。順番に型を披露する。響が源十郎から教わっている武術とは空手やテコンドーとは異なる性質を持つ。
自分の身を守るためだけではなく、人を殺すための暗殺術でもある。なによりも由緒ある風祭家に代々から伝わる伝統の武芸でもあった。一つ一つの動きが丁寧で、それでいて流麗であった。美玲は目を奪われ、固まっていた。
流れるように繰り広げる突きの型と蹴武の型は厳しい修練を連想させた。僅か五歳の少年が極意に辿り着くのにどれだけの葛藤や歳月を積み重ねて来たのか、美玲には分からなかった。ただ、何度も繰り返し、血の滲むような努力をしてきたことが伝わって来た。美玲は純粋に感動した。歳が同じだとは思えなかった。
「響さん、凄いですッッ!」
「……え?」
武の型を繰り出すことに集中していた響は突然の称賛に手を止めた。後方を振り向くと、美玲は瞳を輝かせていた。その純粋無垢な美玲の姿に思わず照れ隠しすることすらも忘れてしまった。それほどまでに美玲は興奮していた。
「響さんがどれだけ努力しているのか、理解できました」
「ありがとうございます……」
「響よ、良いものを見せて貰った。どれだけ努力をしているのか、理解できたわ。先程の発勁と纏衣を同時に行った状態で武の型を再現してみてくれないかのう?きっとお主も直ぐに発勁と纏衣の効果を実感できる筈だ」
「発勁と纏衣を同時に行った状態で武の型を再現すれば良いのですね?」
「そうだ」
「分かりました」
響は足腰を踏ん張るような体勢になり、身体を力ませた。先程の氣を纏った時の感覚を脳裏で思い出すようにイメージし、集中する。しかし、変化は何も起こらなかった。いくら時間を掛けても発勁と纏衣ができない。それどころか、氣を感じることすらもできなかった。
「まだ一人では発勁と纏衣をできないか……最初のうちは仕方がない。我が再び手を加えよう」
「すみません……」
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