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八歳編
プロローグ③ (響)
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痛みを最大限に引き出すために、ゆっくりと針を刺し込んでいくと、爪がパックリと割れた。血が大量に溢れだし、腕が痙攣を起していた。響は襲い掛かる激痛を耐えるために歯を食い縛った。それでも誠一は奥深くにまで針を突き刺した。
「うぅ……ぐぅ……はぁ……はぁ……」
「ふふっ」
針を使った拷問は尋問の際に有効な手段の一つである。誠一は響を簡単には殺さない。じわじわと嬲るように響の精神を追い詰め、玩具で遊ぶように甚振っていた。ここまで残虐な拷問を十歳前後の少年、少女達が容易く行えるものなのだろうか。
響には理解できないことだった。響の人権は踏みにじられ、奴隷と変わらない苦痛を味わっていた。時代の変化とでも言うべきか、魔術を使えない者の扱いはどこの家でも同じ境遇なのだろう。響は自身の生まれや境遇を恨んだ。
だが、憎しみや怒りでは問題を解決できないことを、身を持って痛感していた。普通の暮らしに憧れを抱いた時期もあった。平凡な暮らしで良い。贅沢は言わない。ほんの少しの幸せを噛み締めるような生活で良い。何度も何度も願い、焦がれた。
しかし、響の願いと現実との差異はあまりにも大きかった。ただ、普通に生きていくことさえも許されない。現実はあまりにも厳しく、劣悪な環境だった。響にとって魔術を扱えないという現実は、生きる権利を奪われたに等しい。
普通の暮らしどころか、人として最低限の生活さえもさせて貰えない。自身の置かれた環境が常軌を逸していることは考えるまでもなく理解できた。それでも不思議と憎しみや復讐心は湧かなかった。拷問による痛みと恐怖心が脳裏を過ぎり、抗う感情を抱かせなかった。少しでも反抗する素振りを見せたら、拷問は更に過激になる。
今は耐える以外の選択肢がない。どんなに辛くても、どんなに悲しくても耐えるしかない。響の考えなど気にする素振りも見せない誠一は、次々と針を突き刺していった。中指、薬指、小指と順に突き刺し、気付けば辺りが血だらけになっていた。
全ての指の爪と皮膚の間に針が深々と突き刺さり、響は苦悶に満ちた表情を覗かせる。それでもできる限り、耐えることを意識した。痛がる素振りや悲しむ姿は三人の兄妹を喜ばせるだけだと無意識のうちに理解していた。
無反応。無反応が拷問を早く終わらせるための唯一の手段だった。しかし、僅か八歳の少年が拷問に耐え切れる訳がなかった。いくら耐えようと意識しても日に日に拷問は過激になり、気付けば傷だらけの身体になっていた。
何度も死を彷徨い、何のために生まれて来たのか疑問に思うこともあった。このまま殺してしまえば良いのに、死にそうになると強制的に蘇生させられる。響の考えなど、お見通しだと言わんばかりに拷問は執拗に繰り返された。
針を使った拷問が終わると、姉の紅葉が注射器を取り出した。紅葉は躊躇うことなく注射器を響の腕に突き刺した。血管を伝って透明の液体が体内に入り込むと、響は声を震わせながら絶叫した。どのような薬品を注入されたのか理解できなかったが、身体中が焼けるような痛みが襲った。あまりの激痛に耐えることができなかった。
「あぁっぁぁぁっぁっぁあああー……」
響は椅子に座りながら苦しみ始める。薬品の影響で瞳孔が完全に開き、口からは涎が零れていた。徐々に意識が遠のいていくのが分かった。痛みに耐えることができなくなってきた響は、痙攣しながら声を荒げる。もはや、理性は残っていなかった。
「ああああぁぁぁぁぁっぁっぁあああぁー……」
痛い、痛い。身体が焼けるように痛い。苦しい、苦しい。響は心の中で何度も叫んだ。鼻水が垂れ、涎が零れ落ちる。思考している余裕はなかった。呼吸することでさえも困難だった。それでも三人の兄妹は笑みを浮かべ、拷問は終わらなかった。
「早く次の実験に移行しましょう」
「ああ、分かっている」
香澄の意見に従い、誠一が響の下顎に拳を叩き込んだ。脳を激しく揺らすような衝撃を受けた。今の響には素手でさえも凶器に感じた。急所を的確に突いた攻撃に僅かの間だが、視点が定まらなかった。誠一の姿が二重、三重に重なって見え、強烈な吐き気に襲われた。必死になって耐えてきた響だったが、緊張の糸がプツリと切れた。
「おぇ……おぇ……はぁはぁ……うッ……おぇ……」
「本当に汚いわね」
むせ返るような吐き気に堪らず、胃の中の物を吐き出した。吐き出された透明の胃液には血が混ざっていた。許可もなく、室内を汚したことに不快感を感じたのであろう。三人の兄妹の冷たい視線が響を射抜いた。
あまりにも理不尽で無慈悲な行いにも拘らず、響は反応を示さない。拷問が繰り返される度に響は心を閉ざしていった。兄妹が問い掛けても返事をせず、反応すらも示さない。拷問による悲鳴と絶叫だけが地下室に響き渡った。
不思議と痛み以外のことを感じることはなかった。拷問が始まると、痛みが不安や恐怖を打ち消してくれた。強烈な痛みだけが繰り返され、思考が働かない状況が続いていた。今の響は感覚が麻痺しているという自覚さえもなかった。
昼も夜も分からず、まともな食事も取れない。睡眠すらも取れない。そんな状況が何日、何ヶ月、何年も続いているのだ。まさに地獄。響にとっては生き地獄だ。このまま楽になりたい。早く殺して欲しい。切実な思いだった。
そんな響の唯一の願いが叶う筈もなく、三人の兄妹は拷問を繰り返した。誠一は響の身体を強引に引き摺るように持ち上げると、ステンレス製のテーブルの上に寝かせた。響はテーブルの上で大の字に寝かされ、手足を鎖で拘束された。
もはや、自分の意思で身体を動かすことはできなかった。手足の指先でさえも動かない。まるで脳の指令を身体が無意識に拒否しているかのようだった。だが、それも慣れてしまえば怖くはなかった。このような状況になることは一度や二度ではない。
「今、響に使っている針は特別でね。魔術と組み合わせることで本領を発揮する」
「はぁ……はぁ……」
「まぁ、響には理解できないだろうけど」
「はぁはぁ……」
「じきに僕が何を言いたいのか理解できるさ」
「……」
誠一は再び針を取り出すと、響の身体に次々と針を突き刺していった。響は痛みを通り越して声を上げる余裕さえもなかった。気付けば響の身体には数え切れない程の針が突き刺さっていた。針は深々と突き刺さり、大量に出血していた。
「響、知っているかい?神経には様々な役割が存在する。もし、針を通じて電流を流したらどうなると思う?そんなこと問うまでもないか。とりあえず、人間がどれだけの電圧に耐えることができるのか観察させて貰うよ。悪く思うなよ」
「……」
誠一の問いに答える余裕はなかった。だが、何をやろうとしているのかは幼いながらにも理解できた。電流を神経に流したら生きていられる訳がない。それでも不思議と恐怖心は湧かなかった。やっとだ。やっと楽になることができる。
安堵の息が漏れた。響にとって死は恐れるものではない。ただ、安らかに眠りたい。それだけなのだ。贅沢を言うならば痛みすらも感じないまま眠りたかった。だが、贅沢を言うつもりはない。どんな形であれ、眠ることさえできれば良かった。
「……チッ」
「……」
響の予想外の反応に苛立ちを見せる誠一は思わず舌打ちをした。恐怖心で埋め尽くされる姿でも想像していたのであろう。後ろで控えていた二人の姉妹もつまらなそうな反応を見せていた。まるで汚物を見下ろすような冷たい視線で響を見詰めていた。
「誠一兄様、もう良いじゃないですか。早く終わらせましょう」
「……ああ」
誠一は瞼を閉じながら集中すると、魔術を発動させる。針の根本に幾何学模様が浮かび上がり、禍々しいほどの光が漏れ始めた。バチバチと雷鳴が轟ぎ、響の全身に電流が迸った。あまりの衝撃に身体が強制的に仰け反った。
「ああああああぁああぁぁっぁぁ……」
獣の雄叫びのような叫び声が響き渡る。針の根元に浮かび上がる幾何学模様が人工的な電気を作り出し、針を通じて響の体内に電流を流し込んだ。電流が迸る度に響の身体は激しい痙攣を起した。
あまりにも激しい痙攣に、身体が強制的に揺られる。ガクガクと身体が揺れる度に、響の手足を拘束している鎖が手足に食い込み、血が滲んだ。
今まで体験したことのない激しい痛みに、焦点が合わなくなり始める。神経に針を刺すだけでも激しい痛みが襲う。その上、魔術による高圧電流だ。通常の拷問器具の何倍もの効果を発揮し、響は絶叫する。子供の悪ふざけで済むような問題ではない。彼らの拷問は生死を問わない本気の拷問だった。
「誠一兄様、少し電流が弱いのではなくて?まだ悲鳴を上げる元気があるみたいですわ。叫び声が煩わしいです。少し大人しくさせて下さい」
「ならば電圧を上げるまでだ」
紅葉は好奇心旺盛で、響の様子を観察しながら悦に浸っていた。若干、十歳で弱者を虐げる喜びを覚えてしまっていた。その姿は狂気と言っても過言ではない。家庭内の環境が彼女達をそのように変えてしまったのだろうか。
それとも元々の彼女達に具わった性質なのだろうか。今、現状で理解できることは響が家族ではないということだ。そして、いつ死んでも構わないということである。玩具で遊ぶように拷問を繰り広げる三人の兄妹はいびつに歪んでいた。
響の絶叫が響き渡っても拷問の手を緩めなかった。響の苦しむ姿を見ても、まだ不満なのか誠一はさらに電圧を上げた。幾何学模様が紫色に発光すると、さらに強力な電流が迸った。もはや、人間が耐え得る電圧ではなかった。
雷に直撃したと錯覚するような衝撃を受けた。響は声にならない悲鳴を上げながら痙攣する。次第に白目を剥き、口から涎が溢れていた。もはや、何も考えることができなくなっていた。頭の中が徐々に真っ白になっていく感覚を覚える。
「ぐぅ……あああぁぁぁっぁぁ-……」
どんなに耐えようと意識しても、耐えることのできない痛みに涙が頬を伝う。まだ成熟し切れていない未発達な身体を傷つけている彼らは笑みを浮かべていた。響には三人の兄妹が人の子とは思えなかった。本当に血を分けた兄妹なのか。
何度も何度も思い返した。徐々に視界が暗くなっていった。痛みを通り越して、声を上げる余裕すらなかった。薄れゆく意識の中で、響は過去を思い返していた。まるで走馬燈のように昔の思い出が脳裏に浮かんできた。それはまだ両親が優しく、兄妹の仲が良かった時の思い出である。
「うぅ……ぐぅ……はぁ……はぁ……」
「ふふっ」
針を使った拷問は尋問の際に有効な手段の一つである。誠一は響を簡単には殺さない。じわじわと嬲るように響の精神を追い詰め、玩具で遊ぶように甚振っていた。ここまで残虐な拷問を十歳前後の少年、少女達が容易く行えるものなのだろうか。
響には理解できないことだった。響の人権は踏みにじられ、奴隷と変わらない苦痛を味わっていた。時代の変化とでも言うべきか、魔術を使えない者の扱いはどこの家でも同じ境遇なのだろう。響は自身の生まれや境遇を恨んだ。
だが、憎しみや怒りでは問題を解決できないことを、身を持って痛感していた。普通の暮らしに憧れを抱いた時期もあった。平凡な暮らしで良い。贅沢は言わない。ほんの少しの幸せを噛み締めるような生活で良い。何度も何度も願い、焦がれた。
しかし、響の願いと現実との差異はあまりにも大きかった。ただ、普通に生きていくことさえも許されない。現実はあまりにも厳しく、劣悪な環境だった。響にとって魔術を扱えないという現実は、生きる権利を奪われたに等しい。
普通の暮らしどころか、人として最低限の生活さえもさせて貰えない。自身の置かれた環境が常軌を逸していることは考えるまでもなく理解できた。それでも不思議と憎しみや復讐心は湧かなかった。拷問による痛みと恐怖心が脳裏を過ぎり、抗う感情を抱かせなかった。少しでも反抗する素振りを見せたら、拷問は更に過激になる。
今は耐える以外の選択肢がない。どんなに辛くても、どんなに悲しくても耐えるしかない。響の考えなど気にする素振りも見せない誠一は、次々と針を突き刺していった。中指、薬指、小指と順に突き刺し、気付けば辺りが血だらけになっていた。
全ての指の爪と皮膚の間に針が深々と突き刺さり、響は苦悶に満ちた表情を覗かせる。それでもできる限り、耐えることを意識した。痛がる素振りや悲しむ姿は三人の兄妹を喜ばせるだけだと無意識のうちに理解していた。
無反応。無反応が拷問を早く終わらせるための唯一の手段だった。しかし、僅か八歳の少年が拷問に耐え切れる訳がなかった。いくら耐えようと意識しても日に日に拷問は過激になり、気付けば傷だらけの身体になっていた。
何度も死を彷徨い、何のために生まれて来たのか疑問に思うこともあった。このまま殺してしまえば良いのに、死にそうになると強制的に蘇生させられる。響の考えなど、お見通しだと言わんばかりに拷問は執拗に繰り返された。
針を使った拷問が終わると、姉の紅葉が注射器を取り出した。紅葉は躊躇うことなく注射器を響の腕に突き刺した。血管を伝って透明の液体が体内に入り込むと、響は声を震わせながら絶叫した。どのような薬品を注入されたのか理解できなかったが、身体中が焼けるような痛みが襲った。あまりの激痛に耐えることができなかった。
「あぁっぁぁぁっぁっぁあああー……」
響は椅子に座りながら苦しみ始める。薬品の影響で瞳孔が完全に開き、口からは涎が零れていた。徐々に意識が遠のいていくのが分かった。痛みに耐えることができなくなってきた響は、痙攣しながら声を荒げる。もはや、理性は残っていなかった。
「ああああぁぁぁぁぁっぁっぁあああぁー……」
痛い、痛い。身体が焼けるように痛い。苦しい、苦しい。響は心の中で何度も叫んだ。鼻水が垂れ、涎が零れ落ちる。思考している余裕はなかった。呼吸することでさえも困難だった。それでも三人の兄妹は笑みを浮かべ、拷問は終わらなかった。
「早く次の実験に移行しましょう」
「ああ、分かっている」
香澄の意見に従い、誠一が響の下顎に拳を叩き込んだ。脳を激しく揺らすような衝撃を受けた。今の響には素手でさえも凶器に感じた。急所を的確に突いた攻撃に僅かの間だが、視点が定まらなかった。誠一の姿が二重、三重に重なって見え、強烈な吐き気に襲われた。必死になって耐えてきた響だったが、緊張の糸がプツリと切れた。
「おぇ……おぇ……はぁはぁ……うッ……おぇ……」
「本当に汚いわね」
むせ返るような吐き気に堪らず、胃の中の物を吐き出した。吐き出された透明の胃液には血が混ざっていた。許可もなく、室内を汚したことに不快感を感じたのであろう。三人の兄妹の冷たい視線が響を射抜いた。
あまりにも理不尽で無慈悲な行いにも拘らず、響は反応を示さない。拷問が繰り返される度に響は心を閉ざしていった。兄妹が問い掛けても返事をせず、反応すらも示さない。拷問による悲鳴と絶叫だけが地下室に響き渡った。
不思議と痛み以外のことを感じることはなかった。拷問が始まると、痛みが不安や恐怖を打ち消してくれた。強烈な痛みだけが繰り返され、思考が働かない状況が続いていた。今の響は感覚が麻痺しているという自覚さえもなかった。
昼も夜も分からず、まともな食事も取れない。睡眠すらも取れない。そんな状況が何日、何ヶ月、何年も続いているのだ。まさに地獄。響にとっては生き地獄だ。このまま楽になりたい。早く殺して欲しい。切実な思いだった。
そんな響の唯一の願いが叶う筈もなく、三人の兄妹は拷問を繰り返した。誠一は響の身体を強引に引き摺るように持ち上げると、ステンレス製のテーブルの上に寝かせた。響はテーブルの上で大の字に寝かされ、手足を鎖で拘束された。
もはや、自分の意思で身体を動かすことはできなかった。手足の指先でさえも動かない。まるで脳の指令を身体が無意識に拒否しているかのようだった。だが、それも慣れてしまえば怖くはなかった。このような状況になることは一度や二度ではない。
「今、響に使っている針は特別でね。魔術と組み合わせることで本領を発揮する」
「はぁ……はぁ……」
「まぁ、響には理解できないだろうけど」
「はぁはぁ……」
「じきに僕が何を言いたいのか理解できるさ」
「……」
誠一は再び針を取り出すと、響の身体に次々と針を突き刺していった。響は痛みを通り越して声を上げる余裕さえもなかった。気付けば響の身体には数え切れない程の針が突き刺さっていた。針は深々と突き刺さり、大量に出血していた。
「響、知っているかい?神経には様々な役割が存在する。もし、針を通じて電流を流したらどうなると思う?そんなこと問うまでもないか。とりあえず、人間がどれだけの電圧に耐えることができるのか観察させて貰うよ。悪く思うなよ」
「……」
誠一の問いに答える余裕はなかった。だが、何をやろうとしているのかは幼いながらにも理解できた。電流を神経に流したら生きていられる訳がない。それでも不思議と恐怖心は湧かなかった。やっとだ。やっと楽になることができる。
安堵の息が漏れた。響にとって死は恐れるものではない。ただ、安らかに眠りたい。それだけなのだ。贅沢を言うならば痛みすらも感じないまま眠りたかった。だが、贅沢を言うつもりはない。どんな形であれ、眠ることさえできれば良かった。
「……チッ」
「……」
響の予想外の反応に苛立ちを見せる誠一は思わず舌打ちをした。恐怖心で埋め尽くされる姿でも想像していたのであろう。後ろで控えていた二人の姉妹もつまらなそうな反応を見せていた。まるで汚物を見下ろすような冷たい視線で響を見詰めていた。
「誠一兄様、もう良いじゃないですか。早く終わらせましょう」
「……ああ」
誠一は瞼を閉じながら集中すると、魔術を発動させる。針の根本に幾何学模様が浮かび上がり、禍々しいほどの光が漏れ始めた。バチバチと雷鳴が轟ぎ、響の全身に電流が迸った。あまりの衝撃に身体が強制的に仰け反った。
「ああああああぁああぁぁっぁぁ……」
獣の雄叫びのような叫び声が響き渡る。針の根元に浮かび上がる幾何学模様が人工的な電気を作り出し、針を通じて響の体内に電流を流し込んだ。電流が迸る度に響の身体は激しい痙攣を起した。
あまりにも激しい痙攣に、身体が強制的に揺られる。ガクガクと身体が揺れる度に、響の手足を拘束している鎖が手足に食い込み、血が滲んだ。
今まで体験したことのない激しい痛みに、焦点が合わなくなり始める。神経に針を刺すだけでも激しい痛みが襲う。その上、魔術による高圧電流だ。通常の拷問器具の何倍もの効果を発揮し、響は絶叫する。子供の悪ふざけで済むような問題ではない。彼らの拷問は生死を問わない本気の拷問だった。
「誠一兄様、少し電流が弱いのではなくて?まだ悲鳴を上げる元気があるみたいですわ。叫び声が煩わしいです。少し大人しくさせて下さい」
「ならば電圧を上げるまでだ」
紅葉は好奇心旺盛で、響の様子を観察しながら悦に浸っていた。若干、十歳で弱者を虐げる喜びを覚えてしまっていた。その姿は狂気と言っても過言ではない。家庭内の環境が彼女達をそのように変えてしまったのだろうか。
それとも元々の彼女達に具わった性質なのだろうか。今、現状で理解できることは響が家族ではないということだ。そして、いつ死んでも構わないということである。玩具で遊ぶように拷問を繰り広げる三人の兄妹はいびつに歪んでいた。
響の絶叫が響き渡っても拷問の手を緩めなかった。響の苦しむ姿を見ても、まだ不満なのか誠一はさらに電圧を上げた。幾何学模様が紫色に発光すると、さらに強力な電流が迸った。もはや、人間が耐え得る電圧ではなかった。
雷に直撃したと錯覚するような衝撃を受けた。響は声にならない悲鳴を上げながら痙攣する。次第に白目を剥き、口から涎が溢れていた。もはや、何も考えることができなくなっていた。頭の中が徐々に真っ白になっていく感覚を覚える。
「ぐぅ……あああぁぁぁっぁぁ-……」
どんなに耐えようと意識しても、耐えることのできない痛みに涙が頬を伝う。まだ成熟し切れていない未発達な身体を傷つけている彼らは笑みを浮かべていた。響には三人の兄妹が人の子とは思えなかった。本当に血を分けた兄妹なのか。
何度も何度も思い返した。徐々に視界が暗くなっていった。痛みを通り越して、声を上げる余裕すらなかった。薄れゆく意識の中で、響は過去を思い返していた。まるで走馬燈のように昔の思い出が脳裏に浮かんできた。それはまだ両親が優しく、兄妹の仲が良かった時の思い出である。
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