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68.懸念すべきこと
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「ミア達は、恋をしていると言えるのかしら」
私はあれ以来、恋というものが、ずっと気にかかっている。
ミアとオーウェンは、とても幸せそうに見える。私は幼い頃からふたりを知っているから、彼らがお互いを好ましく思っているのもわかる。けれど、ふたりの間に、セドリックが私に向けたような、ベイルがアレクシアに向けたような、熱烈な恋慕の情はないと思う。
貴族として生きてきた私にとって、恋よりも、結婚する、ということの方が想像しやすい。
私がベイルから婚約破棄されていなければ、彼と私は結婚していた。ベイルも王族の一員であるから、ミアとオーウェンと同様に、それなりに盛大な結婚式を挙げたはずだ。
「ミア達の結婚式って、どんな感じになるのかしら」
私とベイルはさておき、幼馴染のふたりの幸せな結婚式が、どんな風に催されるのか気になる。
「お父様は、今の陛下達の結婚式には、参加したの?」
「当然だろう。僕と陛下は、学園時代からの友人だからね。立場もあるし」
夕食の席で尋ねると、父は頷く。
「ミア達の結婚式も、もうすぐでしょう。どんな結婚式になるのか、気になって」
「ああ……パレードの様子を絵師に描かせたものなら、記念に飾ってあるよ」
「そうなのね。見てみたいわ」
「僕の部屋にあるから、あとでおいで」
父の部屋は何度も訪れているけれど、壁にかかっている絵を、そうまじまじとみたことはなかった。食後に父の部屋へ向かおうとすると、腰回りに柔らかい衝撃が走る。
「お父様の部屋、ぼくもいきたい」
「リアンも?」
「うん。シャルロットは王女様だから」
そう言うリアンは、耳が少し赤い。照れているのだ。シャルロットに求婚され続けていることを、子供ながらに意識しているのだろうか。微笑ましくて頭を撫でると、頬を膨らませて顔を擦り付けてきた。
ふたりで父の部屋に着くと、ライネルが紅茶を淹れてくれる。リサの紅茶も美味しいが、ライネルの淹れるお茶も香りが高くて美味しい。
「リアンも来たんだね」
「シャルロット様との結婚式に向けて、予習しておくんですって」
「違うよ! 気になっただけだって!」
むきになって言うリアンは、可愛らしい。こんな風に否定されると、からかいたくなってしまう。
「あれが、陛下達のパレードの様子を描いたものだよ」
「かっこいい馬車!」
カップを片手に持ち、父は壁を示す。いくつか飾られている絵のうち、ひとつは、馬車に乗ってパレードに臨む国王夫妻の絵であった。
ミアは、町中をパレードで巡ると言っていた。その言葉通り、町中を、群衆に囲まれて進む馬車の絵。馬車はそれ専用の、覆いがなく、装飾が多いもの。珍しい馬車の姿に、リアンが目を輝かせる。
何か、引っかかるものがある。
「パレードの馬車って、すごく無防備なのね」
「でないと、皆へのお披露目としてはふさわしくないからね」
何気なく父は言う。馬車に乗った国王夫妻は、全身が外からはっきりと見えている。
「危なくないのかしら」
「結婚式なんて盛大なお祝いの時に、悪巧みをする人なんていないよ」
「でも……」
「もちろん、騎士団の警護は付いているからね」
たしかに、国を挙げてのお祝いの場で、何か企む者は少ないだろう。騎士団は優秀だから、警備にも抜かりがないはずだ。だけど。
続編では、ベイルが即位する。そのためには、国王だけでなく、オーウェンも命を落とさなくてはならない。タマロ王国はわが国とは関係ないから、祝いの席だといって、配慮はしないかもしれない。
「本当に大丈夫なのかしら」
「君の未来の夫がいる騎士団が、信用ならないのかい?」
「そういうわけじゃなくて……未来の夫って、お父様!」
父にからかわれ、リアンにまとわりつかれて、話はそこでなあなあに終わってしまった。
本当に、本当に、ミア達の結婚式は、心配ないのだろうか。いつもなら慎重な父が、あまりにも楽観的な発言を繰り返すので、かえって私の不安は増すばかりだった。
私はあれ以来、恋というものが、ずっと気にかかっている。
ミアとオーウェンは、とても幸せそうに見える。私は幼い頃からふたりを知っているから、彼らがお互いを好ましく思っているのもわかる。けれど、ふたりの間に、セドリックが私に向けたような、ベイルがアレクシアに向けたような、熱烈な恋慕の情はないと思う。
貴族として生きてきた私にとって、恋よりも、結婚する、ということの方が想像しやすい。
私がベイルから婚約破棄されていなければ、彼と私は結婚していた。ベイルも王族の一員であるから、ミアとオーウェンと同様に、それなりに盛大な結婚式を挙げたはずだ。
「ミア達の結婚式って、どんな感じになるのかしら」
私とベイルはさておき、幼馴染のふたりの幸せな結婚式が、どんな風に催されるのか気になる。
「お父様は、今の陛下達の結婚式には、参加したの?」
「当然だろう。僕と陛下は、学園時代からの友人だからね。立場もあるし」
夕食の席で尋ねると、父は頷く。
「ミア達の結婚式も、もうすぐでしょう。どんな結婚式になるのか、気になって」
「ああ……パレードの様子を絵師に描かせたものなら、記念に飾ってあるよ」
「そうなのね。見てみたいわ」
「僕の部屋にあるから、あとでおいで」
父の部屋は何度も訪れているけれど、壁にかかっている絵を、そうまじまじとみたことはなかった。食後に父の部屋へ向かおうとすると、腰回りに柔らかい衝撃が走る。
「お父様の部屋、ぼくもいきたい」
「リアンも?」
「うん。シャルロットは王女様だから」
そう言うリアンは、耳が少し赤い。照れているのだ。シャルロットに求婚され続けていることを、子供ながらに意識しているのだろうか。微笑ましくて頭を撫でると、頬を膨らませて顔を擦り付けてきた。
ふたりで父の部屋に着くと、ライネルが紅茶を淹れてくれる。リサの紅茶も美味しいが、ライネルの淹れるお茶も香りが高くて美味しい。
「リアンも来たんだね」
「シャルロット様との結婚式に向けて、予習しておくんですって」
「違うよ! 気になっただけだって!」
むきになって言うリアンは、可愛らしい。こんな風に否定されると、からかいたくなってしまう。
「あれが、陛下達のパレードの様子を描いたものだよ」
「かっこいい馬車!」
カップを片手に持ち、父は壁を示す。いくつか飾られている絵のうち、ひとつは、馬車に乗ってパレードに臨む国王夫妻の絵であった。
ミアは、町中をパレードで巡ると言っていた。その言葉通り、町中を、群衆に囲まれて進む馬車の絵。馬車はそれ専用の、覆いがなく、装飾が多いもの。珍しい馬車の姿に、リアンが目を輝かせる。
何か、引っかかるものがある。
「パレードの馬車って、すごく無防備なのね」
「でないと、皆へのお披露目としてはふさわしくないからね」
何気なく父は言う。馬車に乗った国王夫妻は、全身が外からはっきりと見えている。
「危なくないのかしら」
「結婚式なんて盛大なお祝いの時に、悪巧みをする人なんていないよ」
「でも……」
「もちろん、騎士団の警護は付いているからね」
たしかに、国を挙げてのお祝いの場で、何か企む者は少ないだろう。騎士団は優秀だから、警備にも抜かりがないはずだ。だけど。
続編では、ベイルが即位する。そのためには、国王だけでなく、オーウェンも命を落とさなくてはならない。タマロ王国はわが国とは関係ないから、祝いの席だといって、配慮はしないかもしれない。
「本当に大丈夫なのかしら」
「君の未来の夫がいる騎士団が、信用ならないのかい?」
「そういうわけじゃなくて……未来の夫って、お父様!」
父にからかわれ、リアンにまとわりつかれて、話はそこでなあなあに終わってしまった。
本当に、本当に、ミア達の結婚式は、心配ないのだろうか。いつもなら慎重な父が、あまりにも楽観的な発言を繰り返すので、かえって私の不安は増すばかりだった。
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